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第5話:運命が動いた日
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「私は、もう逃げない……必ずあいつをぶっ飛ばすッ!!!!」
体の向きを180度変え、みずきはその場で翼を止めた。拳を強く手のひらに叩きつけ、気を引き締め直す。
「よし、いっちょやってやるか!……って、あれ?」
俄然やる気を出した直後、みずきはある違和感に気がつき、辺りを見渡した。
……消えていた。
みずきが気付いた時には、もうドボルザークの姿はどこにも見当たらなかった。
「いない……あいつ、一体何処へ……?」
「どうやら、ご丁寧に僕らの話を待っていてくれたわけではなさそうだね……」
「えっ!?魔法少女とか特撮の敵キャラって、普通変身とか重要な会話シーンでは攻撃せずに待ってくれるもんじゃないのか!?」
嫌な予感がする。みずきは全神経を集中させ、静かに構えをとった。
張り詰めた空気と緊張感に、冷たい汗が額にじわじわと浮かび上がる。
「……ッ!!みずき、上だ!!」
「へっ?」
ニューンの言葉に反応し、みずきは咄嗟に空を見上げた。
刹那、頭上から伸びた不気味な手に、みずきの首は強く締め付けられた。
「ド、ドボルザーク……」
みずきの首を締め付ける腕の先には、黒い翼を携え宙を舞うドボルザークの姿があった。
間近で見るその姿は殺意で満ちており、その存在は、最初に出会った時よりも遥かに大きいものに感じられた。
奴の鋭い目つきに、みずきの体は再び恐怖で震え出した。
「気にいらねえな……ほんの少しでも俺に勝てるとでも思ったか、このクズがッ!!」
「う、ぐっ……!」
首を締め付ける力がだんだん強くなっていく。ドボルザークの怒りが直接体へと伝わっていくような感覚に、みずきはもがき苦しんだ。
「あのまま尻尾を巻いて逃げていれば、今頃テメェは頭上から迫る俺の姿に気付くことすらなく楽に死ねたってのによぉ……簡単には殺さねぇ。じわじわと襲いくる苦痛の中で、俺にナメてかかったことを後悔しながらくたばりやがれッ!!」
次の瞬間、ドボルザークはみずきの首を掴んだまま一気に急降下を始めた。
目が回り吐き気がする……息ももう持たない。耐えきれなくなり、みずきが気を失いかけたその時、突如、ドボルザークは再び天へと上昇した。
「こんなもんじゃ終わらせねぇぜ、魔法少女……本番はここからだッ!」
そう言うと、ドボルザークは黒い翼を羽ばたかせ、そのまま大きく迂回した。
霞む意識の中、みずきはドボルザークの向かう先、横長のビルを視界に捉えた。
建物は既に半壊しており、壁面にはガラスの破片や瓦礫が混ざり合い、ゴツゴツと歪な形をしていた。
「"人間おろし"ってとこか……悪くねえな」
既に意識が遠くなっているみずきに追い討ちをかけるような一言。
ドボルザークは半壊した建物に急接近し、有ろう事かみずきの顔面を建物の壁面に叩きつける。そしてそのまま、みずきの頭を削るように猛スピードで飛び出した。
ガリガリと惨い音を立てて、顔から血しぶきを噴き出しながら壁を削り進む。
ドボルザークがビルの壁面を通過し終わった頃には、みずきはまるでボロ雑巾のようにうなだれ、顔を真っ赤に染めていた。
「もうおしまいか魔法少女!!まだまだくたばるには早すぎなんだよッ!!」
ドボルザークは地上に停車していた車に目をつけると、今度はその車のボンネット目掛けて瀕死状態のみずきを容赦なく投げつけた。
空を裂く勢いで落下したみずきの衝撃で、車は爆発を起こして大破、その衝撃により地面はえぐられ、巨大なクレーターを作った。
(ダメだ、意識が霞む……)
これが留めの一撃になったか、みずきはとうとう壊れたボンネットの上でピクリとも動かなくなってしまった。
大破した車体から漏れるガソリンが、血と混ざり合いみずきの体を伝っていく。粉々になったフロントガラスが、ぱらぱらと雪のように辺りに舞い散った。
「みずきっ!!!」
激しく展開される戦いの中、遅れてニューンがみずきの側に駆け寄った。大きな声で彼女の名前を叫ぶも、返事は一切なかった。
「魔道生物キメラ、お前の抵抗もここまでのようだな。魔力を得たところで所詮はこの程度……人間如きが俺らに喧嘩売ろうなんざ100億万年はえーんだよッ!」
荒々しくそう口にしながら地上に降り立つと、ドボルザークはゆっくりとみずきの元へ近く。
「言い残すことはないか?この俺が特別に聞いてやってもいいぜ?」
ドボルザークはみずきの胸ぐらを掴み上げると瀕死状態である彼女の体を強く揺らす。
すると、僅かだがみずきが意識を取り戻し、口元がを少しだけ動かした。
「……い」
「……い?」
「……いっっってぇんだよこの金属ジャラジャラクソダサオールバック野郎がああああああああッ!!!!」
耳が割れるほどの叫び声とともに、みずきはドボルザークのみぞおちに思い切り肘を打ち込んだ。
不意の出来事に、ドボルザークの反応も僅かに遅れ、攻撃をまともに食らった。
「ガハッ……?!や、野郎……ッ!!」
痛みを忘れてしまうほどの怒りをそのまま力へと変えたみずきの一撃は、身体中に浴びた自身の血液とともに、ドボルザークを天高くへ突き飛ばした。
「私こう見えても美少女だしぃ……喧嘩とか全然しない人だからよくわかんないけどさぁ……これが頭に血が昇るって感覚かぁ……体の内側からアドレナリンがバンバン溢れ出てる気がするぞ、おいッ!!!!」
「やはり僕の感じたものは本物だったようだ……この強さ……紅咲みずきは戦いの中で成長し、強くなる……!さあ、ここからが反撃だ!魔法少女……いや、ヒーローの力を見せてくれ!!」
「おう!美少女の顔に傷を付けた罪は重いってことをあいつに思い知らせてやんよ!」
みずきは手足を地面に張り付けカッと目を開くと、翼を全開に広げ、全身のバネを使いドボルザークのもとへと大きく羽ばたいた。
「馬鹿な……何処にまだそんな力が!!」
体を一回転させ、ドボルザークはふっ飛ばされた勢いを止めると、そのまま接近するみずきを迎え撃つ。
互いの拳がぶつかり合い、閃光が走った。相手の攻撃を受け止め反撃、相手もまたこちらの攻撃に瞬時に対応して反撃、と、両者一歩も譲らぬ攻防戦が続いた。
一度距離を置こうとするドボルザークに対し、みずきは果敢にも攻めの姿勢をとった。小技を使われては勝てないと判断し、得意の打撃戦での決着を試みる。
空という広いフィールド利用し、立体的な動きでドボルザークを翻弄していく。
「何だこの力は!?まさか押されているのか、この俺が……!?」
途切れもない攻防の中、いつの間にかドボルザークの体にも負傷が見られるようになっていた。
「こちとら格闘技なんざこれっぽっちもやったことないけどさ……バトルアニメは腐るほど見てきてるから、動きだけは頭ん中にバッチリ入ってんだよ!!アニオタ舐めんなよ!!」
「ぐっ……人間でありながらこれだけの動きを実現出来るほど、こいつの魔力は強大だってのか……認めねえ!!俺は認めねえぞッ!!!」
先ほどまでの余裕とは一転、ドボルザークは恐ろしいほど憎悪に満ちた表情を浮かべ、怒涛の猛攻を仕掛た。
一つ一つの攻撃がとてつもなく重い。畳み掛けるような打撃の嵐に、とうとうみずきの防御は崩されてしまった。
「うっ……しまった……っ!」
構えが解け、隙だらけとなったみずき。その僅かな隙を、ドボルザークが見逃すはずはなかった。
「これで……テメェの負けだぁ!!死ねえええええッ!!!!」
ドボルザークの闘気全てが集約された一撃が、みずき目掛けて振り下ろされた。
ここまでか……諦めかけたその時、みずきの目の前をフワフワとした何かが横切った。
”メメタァーーーーッ!!!!”
鈍い音が辺りに響き渡った。
思わず目を瞑ってしまったみずきだったが、そのどこか聞き覚えのある衝撃音に、恐る恐る目を開いた。
「にゅ、ニューン!?」
「なっ……て、テメェ……っ!!」
そこには、ドボルザークの拳に自ら瞬間移動で飛び込んだニューンの姿があった。小さな体全身で攻撃を食らい止め、みずきの盾となったのだ。
「みずき!今だッ――――――――!!」
口元から黒い体液を滴らせながら、ニューンは必死に声を張り上げた。その思いに答えるように、みずきは拳に力を込める。
手甲がどんどんと大きく膨れ上がる。自身の闘気が拳へと流れていくのを感じた。
溜まった力を一気に解放する。
「アルティメット・ブロオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――――ッ!!!!」
みずきの”最強の一撃”が、ドボルザーク目掛け繰り出された。
ドボルザークは咄嗟に右手を前に出し、みずきの攻撃を防ごうとする。が、無常にもそのあまりの威力に、ドボルザークは右肩の大部分を、右翼と右腕ごとエグり取られた。
「ぐわあああぁぁぁぁぁぁあッ!!!!」
黒い液体を噴出させながら、ドボルザークはあまりの激痛に声を荒げた。
片方の翼と腕を失ったドボルザークは、もはや真っ直ぐ宙に浮くことすらままならなかった。
「こんな、こんな奴らに……この俺が……」
険悪な表情を浮かべ、ドボルザークは無理やりにでも戦闘を続けようともがいた。が、その体の方は全く言うことを聞こうとしなかった。
「もはや体が限界だってのか……この俺が人間如きに背を向けることになるなんて……"みずき"……とかいったな。テメェは俺が殺す!必ず殺す!覚えてやがれッ!!」
怒りの形相で捨て台詞を吐くと、ドボルザークは闇の中へと姿を消した。
「……えっ、私、勝ったのか……?!」
無我夢中で戦っていた為か、勝利に実感が湧かないみずきはしばらく唖然とした。
一度深く目を閉じて呼吸を整える。そして、再び大きく息を吸い込んで口を開く。
「……っしゃあああああーーーーッ!!やってやったぞこんチクショウ!!ざまーみろ!!これが私の力だ!!わかったら二度とちょっかい出すんじゃねーぞクソダサオールバック野郎ッ!!!!」
興奮のあまりみずきは我を忘れ、空に向かってひたすら罵声を叫びまくった。
「その台詞は完全にヒーローでも魔法少女でもないんじゃ……さっき僕の感じたものは本物だったと言ったが、正直不安になってきたよ……」
呆れて物も言えない様子のニューンに対し、みずきは大笑いした。
先ほどまでのあの激しい戦いが、まるで嘘だったかのように辺りには穏やかな風が流れた。
>>
「……あれが魔法少女か……なるほど。あの強力な潜在能力を持ってすれば、今回は劣勢に終わったドボルザークの力などあっという間に超えてしまうかもしれないな」
遥か離れたオフィスの屋上、黒いパーカーを着た一人の青年が、遠くからみずき達を観察していた。
両手をポケットに突っ込み、まるで誰かと会話をするかのように独り言を呟く。
「今日、運命が動いた……さて、果たして勝利の女神は光と闇、どちらに微笑むことやら……君にはこれから頑張ってもらわないとね、紅咲みずき……!」
不適な笑みを浮かべると、謎の青年は闇の中へと消えていった。
>>
「地上は酷い有様になったもんだな……」
「確かに、この町の崩壊はほとんどが闇の勢力によるものだ……。でも、あの地面をエグり取った跡は君の必殺が原因だよ」
「……一々言わんでよろしいっての。しかし、ただの美少女JKがこんなことできるとか冷静に考えてほんとわけわかんねーな……まあ、魔法なんてファンタジーなモノを冷静に考えようとすること自体がおかしな話なわけだけど」
地上に降りたみずき達は、辺りを散歩するように歩いて回った。ニューンとたわいもない会話しながら、戦いの余韻に浸る。
しかし、のんびりとしていたのもつかの間、背後に気配を感じ、みずきは咄嗟に後ろを振り返った。
「……誰だ?」
みずきの声が崩壊した瓦礫に反響して辺りに響き渡った。その声に反応し、瓦礫の影から一人の女性が姿を現した。
メガネに黒の女性用スーツ、後ろで束ねられた美しい金髪が風に靡いていた。
はじめて会う人のはずだが、何故か相手の方はみずき達を強く睨みつけている様子だった。
「この街にまだ人がいたのか?!あの、お姉さん大丈夫ですか……?」
「動くな!!警察だ!!」
「……えっ、警察!?」
目の前に立ち塞がった女性警察の声を合図に、隠れていた警察官達が一斉にみずきの周りを包囲した。
「お、おいニューン、これって……」
「いや、まだ君が魔法少女だということは感づかれていないはずだ。仮に彼女達が君の戦いを見ていたとしたら、ここまで安易に近づこうとはしないはずだからね」
「おい、聞こえないのか!大人しくしなさい!さもないと……!」
荒々しく声を上げながら、女性警察はスカートの下から拳銃を取り出し、みずきの元へと歩み寄った。
そして真面目そうな容姿とは裏腹に、拳銃を額に容赦なく押し付けるなど過激な行動をとって見せた。
「あ、あれれ~おかしいぞ~……日本の警察ってこんなあっさり拳銃取り出すか普通……?」
みずきが動揺していると、その乱暴な女性警察に待ったをかけるように、一人の男が彼女に近づいた。
「こ、"小坂警部補"、流石にそれは余りに強引な気が……」
その警察官の言葉に、小坂と呼ばれる女性警察は渋々銃をしまい込んだ。
「ま、まあまあ、とりあえず話を聞いてくださいよ。私は……えっと…そう、通りすがりのスーパーヒーローです!で、この騒ぎの犯人はもうここには……」
”カシャンッ”
「え……」
みずきが話をしている最中、何やら手元から嫌な金属音が聞こえた。両手首には冷たい感覚が伝わった。
「容疑者確保、現場のど真ん中でそんな格好をしている奴を信用できると思うか…?続きは署でゆっくり聞かせて貰うわ」
「え、え、え?」
初変身からの初戦闘、さらに初逮捕まで経験してしまったみずきは、度重なる怒涛の展開に、ただただ困惑した。
>>
”カシャッカシャッ”
警察官の群れから少し離れた高い瓦礫の上、一人の少女が大きなカメラ構え、その様子を真剣に撮影していた。
「今日はこっそり授業を抜け出して、横浜市営地下鉄3000A形の撮影にでも行こうと思っておったのじゃが……まさかこんな事に巻き込まれるとは、アッシも不幸じゃのう。しかし、3000A形に関しては不運であったが、まさかこんなところで本物の"スーパーヒーロー"とやらをお目にかかれるとは夢にも思っておらんかったぞ!なんか逮捕されそうになっとるが……これは良いネタになりそうじゃ!」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、彼女は再びシャッターを切る。少女のカメラデータには、変身から戦闘まで、みずきのあらゆる姿がばっちりと写し出されていた。
>>
「魔法少女に変身して世界を救って、これから華々しい私の物語が始まると思っていたのに……なのになんでこうなるんだよーーーーッ!!!!」
いよいよ気持ちの整理がつかなくなったみずきは、空に向かってとりあえず大声で叫んでみた。
―運命改変による世界終了まであと108日-
体の向きを180度変え、みずきはその場で翼を止めた。拳を強く手のひらに叩きつけ、気を引き締め直す。
「よし、いっちょやってやるか!……って、あれ?」
俄然やる気を出した直後、みずきはある違和感に気がつき、辺りを見渡した。
……消えていた。
みずきが気付いた時には、もうドボルザークの姿はどこにも見当たらなかった。
「いない……あいつ、一体何処へ……?」
「どうやら、ご丁寧に僕らの話を待っていてくれたわけではなさそうだね……」
「えっ!?魔法少女とか特撮の敵キャラって、普通変身とか重要な会話シーンでは攻撃せずに待ってくれるもんじゃないのか!?」
嫌な予感がする。みずきは全神経を集中させ、静かに構えをとった。
張り詰めた空気と緊張感に、冷たい汗が額にじわじわと浮かび上がる。
「……ッ!!みずき、上だ!!」
「へっ?」
ニューンの言葉に反応し、みずきは咄嗟に空を見上げた。
刹那、頭上から伸びた不気味な手に、みずきの首は強く締め付けられた。
「ド、ドボルザーク……」
みずきの首を締め付ける腕の先には、黒い翼を携え宙を舞うドボルザークの姿があった。
間近で見るその姿は殺意で満ちており、その存在は、最初に出会った時よりも遥かに大きいものに感じられた。
奴の鋭い目つきに、みずきの体は再び恐怖で震え出した。
「気にいらねえな……ほんの少しでも俺に勝てるとでも思ったか、このクズがッ!!」
「う、ぐっ……!」
首を締め付ける力がだんだん強くなっていく。ドボルザークの怒りが直接体へと伝わっていくような感覚に、みずきはもがき苦しんだ。
「あのまま尻尾を巻いて逃げていれば、今頃テメェは頭上から迫る俺の姿に気付くことすらなく楽に死ねたってのによぉ……簡単には殺さねぇ。じわじわと襲いくる苦痛の中で、俺にナメてかかったことを後悔しながらくたばりやがれッ!!」
次の瞬間、ドボルザークはみずきの首を掴んだまま一気に急降下を始めた。
目が回り吐き気がする……息ももう持たない。耐えきれなくなり、みずきが気を失いかけたその時、突如、ドボルザークは再び天へと上昇した。
「こんなもんじゃ終わらせねぇぜ、魔法少女……本番はここからだッ!」
そう言うと、ドボルザークは黒い翼を羽ばたかせ、そのまま大きく迂回した。
霞む意識の中、みずきはドボルザークの向かう先、横長のビルを視界に捉えた。
建物は既に半壊しており、壁面にはガラスの破片や瓦礫が混ざり合い、ゴツゴツと歪な形をしていた。
「"人間おろし"ってとこか……悪くねえな」
既に意識が遠くなっているみずきに追い討ちをかけるような一言。
ドボルザークは半壊した建物に急接近し、有ろう事かみずきの顔面を建物の壁面に叩きつける。そしてそのまま、みずきの頭を削るように猛スピードで飛び出した。
ガリガリと惨い音を立てて、顔から血しぶきを噴き出しながら壁を削り進む。
ドボルザークがビルの壁面を通過し終わった頃には、みずきはまるでボロ雑巾のようにうなだれ、顔を真っ赤に染めていた。
「もうおしまいか魔法少女!!まだまだくたばるには早すぎなんだよッ!!」
ドボルザークは地上に停車していた車に目をつけると、今度はその車のボンネット目掛けて瀕死状態のみずきを容赦なく投げつけた。
空を裂く勢いで落下したみずきの衝撃で、車は爆発を起こして大破、その衝撃により地面はえぐられ、巨大なクレーターを作った。
(ダメだ、意識が霞む……)
これが留めの一撃になったか、みずきはとうとう壊れたボンネットの上でピクリとも動かなくなってしまった。
大破した車体から漏れるガソリンが、血と混ざり合いみずきの体を伝っていく。粉々になったフロントガラスが、ぱらぱらと雪のように辺りに舞い散った。
「みずきっ!!!」
激しく展開される戦いの中、遅れてニューンがみずきの側に駆け寄った。大きな声で彼女の名前を叫ぶも、返事は一切なかった。
「魔道生物キメラ、お前の抵抗もここまでのようだな。魔力を得たところで所詮はこの程度……人間如きが俺らに喧嘩売ろうなんざ100億万年はえーんだよッ!」
荒々しくそう口にしながら地上に降り立つと、ドボルザークはゆっくりとみずきの元へ近く。
「言い残すことはないか?この俺が特別に聞いてやってもいいぜ?」
ドボルザークはみずきの胸ぐらを掴み上げると瀕死状態である彼女の体を強く揺らす。
すると、僅かだがみずきが意識を取り戻し、口元がを少しだけ動かした。
「……い」
「……い?」
「……いっっってぇんだよこの金属ジャラジャラクソダサオールバック野郎がああああああああッ!!!!」
耳が割れるほどの叫び声とともに、みずきはドボルザークのみぞおちに思い切り肘を打ち込んだ。
不意の出来事に、ドボルザークの反応も僅かに遅れ、攻撃をまともに食らった。
「ガハッ……?!や、野郎……ッ!!」
痛みを忘れてしまうほどの怒りをそのまま力へと変えたみずきの一撃は、身体中に浴びた自身の血液とともに、ドボルザークを天高くへ突き飛ばした。
「私こう見えても美少女だしぃ……喧嘩とか全然しない人だからよくわかんないけどさぁ……これが頭に血が昇るって感覚かぁ……体の内側からアドレナリンがバンバン溢れ出てる気がするぞ、おいッ!!!!」
「やはり僕の感じたものは本物だったようだ……この強さ……紅咲みずきは戦いの中で成長し、強くなる……!さあ、ここからが反撃だ!魔法少女……いや、ヒーローの力を見せてくれ!!」
「おう!美少女の顔に傷を付けた罪は重いってことをあいつに思い知らせてやんよ!」
みずきは手足を地面に張り付けカッと目を開くと、翼を全開に広げ、全身のバネを使いドボルザークのもとへと大きく羽ばたいた。
「馬鹿な……何処にまだそんな力が!!」
体を一回転させ、ドボルザークはふっ飛ばされた勢いを止めると、そのまま接近するみずきを迎え撃つ。
互いの拳がぶつかり合い、閃光が走った。相手の攻撃を受け止め反撃、相手もまたこちらの攻撃に瞬時に対応して反撃、と、両者一歩も譲らぬ攻防戦が続いた。
一度距離を置こうとするドボルザークに対し、みずきは果敢にも攻めの姿勢をとった。小技を使われては勝てないと判断し、得意の打撃戦での決着を試みる。
空という広いフィールド利用し、立体的な動きでドボルザークを翻弄していく。
「何だこの力は!?まさか押されているのか、この俺が……!?」
途切れもない攻防の中、いつの間にかドボルザークの体にも負傷が見られるようになっていた。
「こちとら格闘技なんざこれっぽっちもやったことないけどさ……バトルアニメは腐るほど見てきてるから、動きだけは頭ん中にバッチリ入ってんだよ!!アニオタ舐めんなよ!!」
「ぐっ……人間でありながらこれだけの動きを実現出来るほど、こいつの魔力は強大だってのか……認めねえ!!俺は認めねえぞッ!!!」
先ほどまでの余裕とは一転、ドボルザークは恐ろしいほど憎悪に満ちた表情を浮かべ、怒涛の猛攻を仕掛た。
一つ一つの攻撃がとてつもなく重い。畳み掛けるような打撃の嵐に、とうとうみずきの防御は崩されてしまった。
「うっ……しまった……っ!」
構えが解け、隙だらけとなったみずき。その僅かな隙を、ドボルザークが見逃すはずはなかった。
「これで……テメェの負けだぁ!!死ねえええええッ!!!!」
ドボルザークの闘気全てが集約された一撃が、みずき目掛けて振り下ろされた。
ここまでか……諦めかけたその時、みずきの目の前をフワフワとした何かが横切った。
”メメタァーーーーッ!!!!”
鈍い音が辺りに響き渡った。
思わず目を瞑ってしまったみずきだったが、そのどこか聞き覚えのある衝撃音に、恐る恐る目を開いた。
「にゅ、ニューン!?」
「なっ……て、テメェ……っ!!」
そこには、ドボルザークの拳に自ら瞬間移動で飛び込んだニューンの姿があった。小さな体全身で攻撃を食らい止め、みずきの盾となったのだ。
「みずき!今だッ――――――――!!」
口元から黒い体液を滴らせながら、ニューンは必死に声を張り上げた。その思いに答えるように、みずきは拳に力を込める。
手甲がどんどんと大きく膨れ上がる。自身の闘気が拳へと流れていくのを感じた。
溜まった力を一気に解放する。
「アルティメット・ブロオオオオオオオオオオオオオオオオ―――――――ッ!!!!」
みずきの”最強の一撃”が、ドボルザーク目掛け繰り出された。
ドボルザークは咄嗟に右手を前に出し、みずきの攻撃を防ごうとする。が、無常にもそのあまりの威力に、ドボルザークは右肩の大部分を、右翼と右腕ごとエグり取られた。
「ぐわあああぁぁぁぁぁぁあッ!!!!」
黒い液体を噴出させながら、ドボルザークはあまりの激痛に声を荒げた。
片方の翼と腕を失ったドボルザークは、もはや真っ直ぐ宙に浮くことすらままならなかった。
「こんな、こんな奴らに……この俺が……」
険悪な表情を浮かべ、ドボルザークは無理やりにでも戦闘を続けようともがいた。が、その体の方は全く言うことを聞こうとしなかった。
「もはや体が限界だってのか……この俺が人間如きに背を向けることになるなんて……"みずき"……とかいったな。テメェは俺が殺す!必ず殺す!覚えてやがれッ!!」
怒りの形相で捨て台詞を吐くと、ドボルザークは闇の中へと姿を消した。
「……えっ、私、勝ったのか……?!」
無我夢中で戦っていた為か、勝利に実感が湧かないみずきはしばらく唖然とした。
一度深く目を閉じて呼吸を整える。そして、再び大きく息を吸い込んで口を開く。
「……っしゃあああああーーーーッ!!やってやったぞこんチクショウ!!ざまーみろ!!これが私の力だ!!わかったら二度とちょっかい出すんじゃねーぞクソダサオールバック野郎ッ!!!!」
興奮のあまりみずきは我を忘れ、空に向かってひたすら罵声を叫びまくった。
「その台詞は完全にヒーローでも魔法少女でもないんじゃ……さっき僕の感じたものは本物だったと言ったが、正直不安になってきたよ……」
呆れて物も言えない様子のニューンに対し、みずきは大笑いした。
先ほどまでのあの激しい戦いが、まるで嘘だったかのように辺りには穏やかな風が流れた。
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「……あれが魔法少女か……なるほど。あの強力な潜在能力を持ってすれば、今回は劣勢に終わったドボルザークの力などあっという間に超えてしまうかもしれないな」
遥か離れたオフィスの屋上、黒いパーカーを着た一人の青年が、遠くからみずき達を観察していた。
両手をポケットに突っ込み、まるで誰かと会話をするかのように独り言を呟く。
「今日、運命が動いた……さて、果たして勝利の女神は光と闇、どちらに微笑むことやら……君にはこれから頑張ってもらわないとね、紅咲みずき……!」
不適な笑みを浮かべると、謎の青年は闇の中へと消えていった。
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「地上は酷い有様になったもんだな……」
「確かに、この町の崩壊はほとんどが闇の勢力によるものだ……。でも、あの地面をエグり取った跡は君の必殺が原因だよ」
「……一々言わんでよろしいっての。しかし、ただの美少女JKがこんなことできるとか冷静に考えてほんとわけわかんねーな……まあ、魔法なんてファンタジーなモノを冷静に考えようとすること自体がおかしな話なわけだけど」
地上に降りたみずき達は、辺りを散歩するように歩いて回った。ニューンとたわいもない会話しながら、戦いの余韻に浸る。
しかし、のんびりとしていたのもつかの間、背後に気配を感じ、みずきは咄嗟に後ろを振り返った。
「……誰だ?」
みずきの声が崩壊した瓦礫に反響して辺りに響き渡った。その声に反応し、瓦礫の影から一人の女性が姿を現した。
メガネに黒の女性用スーツ、後ろで束ねられた美しい金髪が風に靡いていた。
はじめて会う人のはずだが、何故か相手の方はみずき達を強く睨みつけている様子だった。
「この街にまだ人がいたのか?!あの、お姉さん大丈夫ですか……?」
「動くな!!警察だ!!」
「……えっ、警察!?」
目の前に立ち塞がった女性警察の声を合図に、隠れていた警察官達が一斉にみずきの周りを包囲した。
「お、おいニューン、これって……」
「いや、まだ君が魔法少女だということは感づかれていないはずだ。仮に彼女達が君の戦いを見ていたとしたら、ここまで安易に近づこうとはしないはずだからね」
「おい、聞こえないのか!大人しくしなさい!さもないと……!」
荒々しく声を上げながら、女性警察はスカートの下から拳銃を取り出し、みずきの元へと歩み寄った。
そして真面目そうな容姿とは裏腹に、拳銃を額に容赦なく押し付けるなど過激な行動をとって見せた。
「あ、あれれ~おかしいぞ~……日本の警察ってこんなあっさり拳銃取り出すか普通……?」
みずきが動揺していると、その乱暴な女性警察に待ったをかけるように、一人の男が彼女に近づいた。
「こ、"小坂警部補"、流石にそれは余りに強引な気が……」
その警察官の言葉に、小坂と呼ばれる女性警察は渋々銃をしまい込んだ。
「ま、まあまあ、とりあえず話を聞いてくださいよ。私は……えっと…そう、通りすがりのスーパーヒーローです!で、この騒ぎの犯人はもうここには……」
”カシャンッ”
「え……」
みずきが話をしている最中、何やら手元から嫌な金属音が聞こえた。両手首には冷たい感覚が伝わった。
「容疑者確保、現場のど真ん中でそんな格好をしている奴を信用できると思うか…?続きは署でゆっくり聞かせて貰うわ」
「え、え、え?」
初変身からの初戦闘、さらに初逮捕まで経験してしまったみずきは、度重なる怒涛の展開に、ただただ困惑した。
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”カシャッカシャッ”
警察官の群れから少し離れた高い瓦礫の上、一人の少女が大きなカメラ構え、その様子を真剣に撮影していた。
「今日はこっそり授業を抜け出して、横浜市営地下鉄3000A形の撮影にでも行こうと思っておったのじゃが……まさかこんな事に巻き込まれるとは、アッシも不幸じゃのう。しかし、3000A形に関しては不運であったが、まさかこんなところで本物の"スーパーヒーロー"とやらをお目にかかれるとは夢にも思っておらんかったぞ!なんか逮捕されそうになっとるが……これは良いネタになりそうじゃ!」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、彼女は再びシャッターを切る。少女のカメラデータには、変身から戦闘まで、みずきのあらゆる姿がばっちりと写し出されていた。
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「魔法少女に変身して世界を救って、これから華々しい私の物語が始まると思っていたのに……なのになんでこうなるんだよーーーーッ!!!!」
いよいよ気持ちの整理がつかなくなったみずきは、空に向かってとりあえず大声で叫んでみた。
―運命改変による世界終了まであと108日-
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