異世界は都合よくまわらない!

采火

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オージェ伯爵邸襲撃事件編

犯されたメイド

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いつもは病的なまでに白いなと思うすべすべの肌を上気させ、くったりとしたユカをアンリは抱き上げた。体に付着したべとべとする液体に、ただでさえ部屋に突入してから険しい顔をさらに固くする。

熱に浮かされてとろんとした瞳、快楽に喘ぐ甘い声。
はしたない衣装に身を包み、誰かが入ってくるのも気づかないほど快楽に夢中になっていた。

ギリッと顎に力を入れすぎて歯が擦れる。

どうしてこんな事になっているのか。
ユカが自分から望んだのか。
どうして相手がロワイエなのか。

言いたいこと、聞きたいことが沢山ある。

「まったく。情事の最中におしかけるなど……無粋ですね」
「そう思うのでしたらきちんと戸締まりくらいはなさいませ。声が外に駄々漏れですよ」

アンリに蹴破られて蝶番の外れた扉の向こうから、ひょっこりとサリムが入ってきた。
いつものしれっとした顔で執務室を横断すると、きちんと換気をするために半分も開いていない窓を大きく開け放った。

「少しだけしか開いてないでしょうに」
「普通の人なら気がつきませんでしょうが、そういう訓練受けてる奴は余裕で聞き取りますよ」

ほぅと事後の色気たっぷりに嘆息して身なりを整えると、ロワイエはサリムの視線の先を見た。

怒気を孕んだアンリの視線とかち合う。
あまりにも怒りが突き抜けているのか、スミレの瞳の色が濃い。

アンリは子供を抱くようにくたりとしたユカを抱き上げて、いつの間にか扉の近くにまで移動していた。

「弁解は後程聞きます。事の次第によっては婦女子監禁暴行罪が適用されますのでご覚悟を」
「監禁とは人聞きの悪い。保護をしていただけです。それに、ちゃんとユカから求めてきたんですよ?」
「白々しい」

アンリは吐き捨てるように遮った。

「まぁ、私のことは潔白だとユカが証明してくれるでしょう。あれだけ気持ちいいと啼いてくれましたしね?」

余裕綽々でそんなことを言うロワイエに、アンリが軽蔑の目を向けた。あまりの怒りで目の前がくらくらする。

「この変態イカレ野郎」
「ふふ、騎士になって随分と口が悪くなりましたね」

アンリはロワイエの戯れ言を無視して、ユカをしっかり抱え直すと執務室から出ていった。

ロワイエとサリムは追ってこない。
それを確認し、早足で屋敷を出ると更に足を早めた。

ユカの服装がかなり際どいので、屋敷を出る際、自分の騎士服の上着を脱いでユカをくるんだ。小柄なユカには大きすぎるようで、メイド服と同じくらいの丈にはなった。
スカートの中身が机の上に出ていたことから、たぶん中には何もつけてないはずだ。アンリは急ぎながらも慎重に彼女を運ぶ。

ここ一週間、ユカが屋敷から出た気配がなかった。
体調でも崩したのだろうと心配していた矢先のコレだ。
やっぱりロワイエなんかの所で働かせるんじゃなかったと腸が煮えくり返る。

王都でのロワイエの噂はシュロルム支部に移動する前から聞いていた。聞きたくなくとも、社交界で浮き名を流すロワイエの名は貴族なら一度は耳に入る。

曰く、ロワイエがどこぞのご令嬢と親密だの。
曰く、ロワイエがさる夫人のお気に入りだの。
曰く、ロワイエが自邸のメイドを味見しただの。

一つ一つは「まぁそんな事もあるか」と聞き流すのだが、如何せん、その頻度が高い。次から次へと女を乗り換える。
後腐れのない遊びのつもりかもしれないが、相手の女が身持ちを崩すとあっさりと手のひらを返したようにまた次の女へと乗り換える。だからこそ質が悪い。

怒りで沸騰する頭で、アンリは診療所の玄関を蹴破った。客がいたのか、待合室には足を怪我したらしい男と、問診をしているイアンがいた。

アンリは一瞥して、さっさと勝手に奥に入る。

「え? え、待って、どうしたんだよアンリ?」
「部屋借りるよ。エリアどこ?」
「い、今なら調剤室……」

呆気にとられてるイアンを無視して、アンリは以前ユカが入院していた部屋へと入る。部屋は以前ユカが居た時のままで、ベッドには緑の天蓋がある。
アンリは緑のカーテンを開くと、ベッドにユカを横たえた。

「ぁん」
「……」

アンリは理性を総動員して今にも暴れだしたいのをこらえた。

道中も、行為で高ぶった体の熱がつらいのか、少しの振動でもユカが喘いでいた。それも、アンリの耳元で、だ。
横抱きにしたらまだアンリもユカもマシだったのだろうけど、横抱きではユカの大切な花園が見えてしまう。それだけは断固阻止せねばならなかった。

「ちくしょう……」

ロワイエに対する怒りやら、自分への不甲斐なさやら、こんな時でも煽られた劣情やら、それに対する自己嫌悪やらで、ない交ぜになった感情が渦巻く。

そっとその頬を撫でれば、またユカが甘い吐息をこぼす。
煽られてくる劣情に目を背けて、アンリは天蓋から出た。

今は自分のことよりユカのことだ。
ぶすっとした不機嫌な顔で、エリアを呼びにいく。

イアンの言うとおり、エリアは調剤室にいた。

「あら、アンリ? いつ来たの?」
「今。それよりもユカを診てほしい」

女性用の避妊薬を要求し、移動しながらユカの状態を説明する。

簡単に説明し終わる頃には、アンリと同じか……それ以上の憤怒の形相でエリアはユカの眠る病室へと入った。

「何よこの格好。綺麗な顔してとんだ変態じゃないの」

丈の短すぎる上、背中が大きく開いたメイド服にエリアが悪態をつく。
クローゼットから手早く患者用の寝間着を取り出して、アンリにも手伝わせてタオルやらぬるま湯やらを準備する。

「避妊薬ってね、副作用もあるから本人の同意がないと飲ませられないのよ。万が一、子供を望んで行為に及んだ可能性もあるしね」
「それはない」
「きっぱり言うわね」
「従者から聞いた。ここ一週間、ロワイエをユカが避けてたって。そんなんで合意なんて取り付けられるか」
「確かにそうね。でも一応こっちも正規の薬剤師だから…………まぁ、飲ませたところでユカは薬が効きにくい体質みたいだから効くかどうか五分五分でしょうけど。ユカはこっちで面倒見ておくから、あなたは自分の仕事に戻りなさい」

エリアがそう言ってアンリを追いたてるけれど、彼は未練がましくベッドのユカを見つめる。

ぬるま湯でタオルを濡らしたエリアがカーテンの中へと入っていく。

「……ん、はぁ」

エリアがユカの体を拭くたびに、ユカの体がピクリと震えて、甘い吐息がこぼれる。
アンリが食い入るようにカーテンの向こうの影を見つめていると、エリアがユカの体を清める手を止めずにカーテン越しに言葉を投げつけた。

「そこにいるのは勝手だけれど、発情しないでね」
「な、し、しないってっ」
「そうかしら」
「ん、ん……はぁん……」

エリアの影が移動して、ユカの下半身と重なった。くちゅくちゅと小さく水音がする。
無意識ながら、快感の混じるユカの吐息が響く。

「……」
「言ってる側から」

するりとカーテンから出てきたエリアが、タオルを洗いつつ、自分の指をぬるま湯で清めてる。生ぬるい視線がアンリの下腹部へ向けられた。アンリは気まずくなって部屋を出た。

「それにしても気をやるまでなんて……まだあの事件から二ヶ月しか経ってないっていうのに、後遺症が心配だわ」

部屋を出たところで、エリアの方を振り返った。
一人でぼやいているエリアに、とりあえず訂正だけ入れておこうと思ったからだ。

「いや、僕が強制的に落とした。だいぶ取り乱してたから」

狂ったように腰を振っていた姿を思い出す。自分からロワイエ相手に腰を振っているユカを見たくなくて手刀を落としたのは、誰でもないアンリだ。

エリアがじとりとアンリを睨む。

「薬飲ませたかったのなら、意識を残しておいて欲しかったわね。……気絶にしては中々目が覚めないのも気になるから、先生にも見せましょう。ただの疲労だとは思うけど」

最後の方は心配そうに言いながら、エリアはぬるま湯を張った桶とタオル、それから着替えさせたらしいメイド服を持って病室を出た。

「やっぱり伯爵家が何かしようとしているのかしら」
「分からない。それはこれから調べるよ。言い逃れなんかさせない」
「先生が忠告してたのに、貴方は何をしていたのよ」
「忠告してたからこそだろ。何かない限り、きちんとした警備のいる屋敷の中まで僕らは入れない」

診療所の廊下を歩きながら、二人は乱暴に言い合った。

イライラしながら診療所の待合室にまで来ると、ちょうどイアンが足を怪我した患者を玄関で見送ってるところだった。

「それじゃ、ユカが起きたら詰め所の方に連絡いれて。僕はリオネルに話を通しに砦に戻ってるけど、落ち着いたら会いに来る」
「分かったわ。いいからさっさとあの変態をとっちめて来なさい」
「え、どうしたんですか」

イアンが分からないままアンリを見送り、エリアの後ろをついていく。
アンリもまた、振り返らずに診療所を後にした。


◇◇◇


足早に町を歩き、一度詰め所に寄る。そこで診療所から連絡があったら自分の方に連絡をいれるようにと伝え、詰め所に預けていた馬を駆って砦へ戻る。

リオネルの執務室にノックもそこそこで入室した。

「うん? どうしたアンリか」

巨体を小さな机と椅子におさめて、めんどくさそうに書類を処理していたリオネルは、眉を跳ねてアンリを見た。

「ちょっと、話がある。ロワイエがユカに暴行した現場を押さえた」
「はぁ?」

リオネルが渋面をつくる。
アンリは淡々と報告を続けた。

「ユカが最近屋敷から出てなかったから、定期的に様子を見に行ってたんだ。そうしたら屋敷からユカの声が聞こえて。ロワイエの従者と鉢合わせたから詳しく話を聞いたら、何か企んでるようで屋敷を追い出されたって証言した」
「おーう……」

リオネルはなんとも言えないようで、困ったように頬杖をついた。書類にサインをいれていたペンはとっくにペン立てに戻してる。

「僕が動く許可をくれ」
「待て。伯爵相手なら自警団じゃなくて俺らが出る理由にはなるが……お前頭冷やしてからだ。頭に血が上ってんだろ」
「上ってない」
「嘘こけ。『ロワイエ様』じゃなくなってんぞ」

リオネルの指摘に、アンリは口をつぐんだ。

「いくらお前の家格が高かろうと、騎士になった以上、勤務中は公僕だ。分かってるな?」
「……分かってる」

悔しそうに噛み締めるアンリに、リオネルがにやついた。

「そうやってすぐ頭に血が上る辺り、まだ若いなあ。ま、そんくらい嬢ちゃんに惚れてんなら仕方ねぇけどよ」
「うるさい」

じろりとにらめば、さらに笑われる。
アンリの堪忍袋が切れる前に、リオネルは真面目な顔になった。

「暴行現場取り押さえねぇ。どの暴行かはあのロワイエ様だ。察するとして、嬢ちゃんはどうした?」
「……診療所だ」
「現場取り押さえといてロワイエ様の方は放っといてたのか?」
「本人は合意したから無実と主張した。仮にも貴族だし、逃げはしないだろう」

アンリの言葉にリオネルは厳しい顔になる。

「……合意のもとだったのか?」
「絶対に違うと思う。一週間前、ロワイエ様がユカにちょっかいかけたらしくて、それ以来ロワイエ様との接触が最低限だった」
「どこ情報だそれ」
「サリム殿。突入前に聞き出してるから嘘じゃないと思う」

リオネルはふむ、と顎に手をやり考え込む。
たっぷり三拍数えて、ようやく行動の指示を出した。

「何はともあれ事情聴取が先だ。ロワイエ様と、嬢ちゃん両方。後サリム殿にも。ロワイエ様と、嬢ちゃんは事情聴取が終わるまで接触はさせるな。それから伯爵にも連絡いれておけ。一応、嬢ちゃんの本当の意味での保護者は伯爵だ」

アンリがピクリと反応する。

「……もし、伯爵がロワイエ様に指示を出してたら?」
「はぁ?」
「伯爵が、ユカを囲おうとしていた。それで、ロワイエ様に手込めにするよう指示していたら」
「阿呆か。あの伯爵がするわけねぇだろ」
「……」
「もしそうであっても、形式上は連絡をいれる。その後の動きが怪しかったらこちらで嬢ちゃんを保護すれば良いだけだ」

リオネルに諭されて、アンリは深く息をついた。
感情のままに動いてみっともないなと自嘲する。

「余裕ねぇな」
「うるさい」

好きな女の子が犯されているのを見た。
それはアンリを動揺させるには十分な出来事だった。
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