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ファウルダース侯爵家結婚編
婚約者をお迎え
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アンリはそわそわしていた。
来ない。
ユカが来ない。
予定では昨日到着する予定だった。
それなのに深夜になってもオージェ伯爵家の馬車はやって来ず、とうとう日を跨いで朝日が上ってしまった。
二度あることは三度ある。
朝あることは晩にある。
歴史は繰り返す。
ユカの不運、不遇さを思えばまた何かあったのかと思ってしまうのは、当然の帰結で。
我慢できなくなったアンリは、昨日の豪雨で泥だらけになった道を愛馬で駆け抜ける事にした。
「え、アンリ?」
早朝、家を飛び出したアンリを一人の女性が目を丸くして見送った。朝の日課である庭先の散歩を悠々自適に満喫していた女性は、今日は何かあるのかしらと頬に手をあてて、そういえば昨日あたりに遠方から客人が来る予定だったことを思い出した。そしてその客人は、アンリの客人であることも思い出して、ふふふ、と笑う。
行動力だけは人一倍ある息子に心配ないかと囁いて、女性は屋敷の中へと入っていった。
気が逸るあまりに家人に挨拶も忘れて飛び出したアンリは、泥を跳ねてファウルダース家へと通じる道を駆け抜ける。貴族の邸宅街を抜けて、関所も越えた。
馬を走らせて二時間程経った頃、見覚えのある馬車が森の街道を小気味良く走っているのを見つけた。
アンリが馬車へと近づくと、御者がアンリの顔に気がついて慌てて馬車を止めた。
「これはアンリ様、いかがいたしましたか」
「うん、ユカが遅いから迎えに。彼女は中?」
「は、はい」
御者が慌てて馬車の箱の中へ通じる窓を叩く。それから小声で何かやり取りをした後に、御者が地面へと降りたって馬車の扉を開けた。
「久方ぶりだな、ファウルダースの三男」
「お久しぶりです、オージェ伯爵」
オージェ伯爵が馬車の中から出てくる。
アンリは馬から降りると、騎士の礼を取った。
「あまりにも遅いのでお迎えに上がりました」
「昨夜の雨では早馬も飛ばせなかったのだ。一日、二日は誤差の範囲だろう」
「こと、僕の婚約者に関しては心配しすぎて悪いわけではありませんから」
にっこりと笑って見せれば、オージェ伯爵は渋い顔をして肩をすくめた。アンリは表情を変えない事で有名なオージェ伯爵の呆れの色を見てとり、少しだけ驚く。
オージェ伯爵はアンリに背を向けると、そっと馬車の中へと手を差しのべた。小さく中へ声をかけると、奥から恐る恐るといった様子で着飾った女の子が現れる。
艶々とした濡れ羽色の髪に、日光に晒されていない白い肌。子供のような大きな瞳に、ほんのり淡いピンクに色づいた唇。
華奢でありながらも、女性らしい丸みを帯びている体には、シンプルな詰め襟のブラウンとクリーム色のドレスが身に付けられている。
若葉の頃の少女のように可憐な女の子が、アンリと目が合った瞬間、花が綻ぶように笑った。
スカートが翻るのも構わずに、とんっと跳ぶように馬車を降りる。
エスコートのために差し出されたオージェ伯爵の手が行き場をなくして下ろされた。
「アンリ!」
「ユカ」
アンリの方もユカが無事だったことに安堵して、その華奢な体をそっと抱き寄せた。すっぽりと腕の中に収まる女の子が恥ずかしそうに身をよじらせる。
「どうしたのアンリ。どこかお出掛けする途中だったの?」
「いいや、君がなかなか来ないから心配で迎えに来ただけさ」
「ごめんなさい。遅れたのは昨日の土砂降りのせいだから、文句はお天道様に言ってね」
どこか嬉しそうに囁いたユカがそっとアンリの腰に腕を回して、ぎゅっと抱き合う。アンリはユカもまた自分に会いたいと思ってくれていた事を実感して嬉しくなった。
そっとユカのオニキスのように艶めいた登頂にキスをすれば、彼女はくすぐったさを誤魔化すように抱き締める腕に力を込めた。
再会を喜び会う婚約者達に向けて、オージェ伯爵が咳払いをする。
「……ファウルダースの三男、そろそろ先に進みたいのだが」
「伯爵、ユカは僕が預かりますので是非そのまま王都の別邸にお進みください」
「……そうか。ではまた後日、ファウルダース侯爵へ挨拶に向かうと伝えたまえ」
「しかとお伝えいたしましょう」
短いやり取りを交わすと、さっさとオージェ伯爵は馬車へと乗り込んだ。
扉を閉める前、伯爵婦人が顔を覗かせる。
「荷物はまた後で届けさせます。ユカ、また近い内に会いましょう」
「はい」
御者が扉を閉めて、ペコリとアンリとユカに一礼すると、早々に御者台へと乗り込んで馬車を走らせて始めた。
抱き合っていたアンリとユカはどちらからともなく離れる。
アンリはユカのドレスに泥を付けないようにそっと抱き上げると、馬へと乗せた。
「この子、前に乗せて貰った子ね」
「あたり。センリって言うんだ」
「ふふ、セキトバみたいにセンリ走るから?」
「ん?」
ユカの不思議な言葉にアンリは首を傾げた。
センリの上で、ユカが面白そうに目を細めて微笑んでいる。
「私の故郷のお話。といっても、海を挟んだ隣の国に伝わる有名なお馬なんだけどね。セキトバっていう馬が一日にセンリ……とてもとても遠くまで走ったていう伝説があるの」
「へぇ。それはすごい。センリってどれくらいの距離なの?」
「うーん……そうだね、ルドランス国なら一日で横断できちゃうんじゃない?」
「それは……すごいな」
伝説とはいえ、そんな馬がいたら騎士団は大騒ぎだ。素晴らし過ぎる駿馬に値もつけられなくなってしまうことだろう。
愛馬の名前はアンリが付けた。アンリとセンリ。音が似ているだけでつけた愚直なネーミングセンスに先輩騎士から散々からかわれたものだけど、ユカのもたらした伝説の馬の話を聞いて自分のネーミングセンスも捨てたものじゃなかったと少しだけ誇らしくなった。
ご機嫌で馬へと乗ったアンリは、手綱を握ると、センリのペースに合わせて走らせた。行きに無茶をさせたので、帰りはゆっくりと戻るつもりだ。
「そのセキトバっていう馬って誰が乗ってたんだろう」
「やっぱりそこが気になるの? セキトバはね、英雄を乗せた馬なのよ。人を選ぶ馬として有名で、乗りこなせた人間は限られた英雄達だけなの」
「賢い馬だね。センリもそういった馬を目指しなよ」
アンリの言葉に返事をするようにセンリが嘶いた。
アンリもユカも面食らったように目を丸くする。
それから二人でくすくすと笑い合った。
「すごい、すごいよセンリ! あなた本当は頭良いんでしょ!」
「これはセンリの前で余計なことは言えないや」
センリはまたもや「当たり前だろ」とでも言うように嘶いたので、二人は余計に笑えてしまって、森の街道を抜けるまでずっと笑い声をあげながら道を進んで行く。
雑談を交えて行く道は、行きのような焦燥なんて消え去っていて、腕の中にユカがいるという安心感が胸一杯に広がる。
上機嫌でいつもよりお喋りになっているアンリにユカも楽しそうに笑う。
「アンリ、楽しそうだね」
「ん? そう見えるかい?」
「うん。何がそんなに楽しいの?」
下から覗きこむように見上げてくるユカに視線を向けると、アンリの中に幸福感が押し寄せてくる。これから彼女が自分の実家に挨拶して暫く滞在することを考えるだけで、それはもう舞い上がってしまいそうなくらいに楽しみなのだ。でもそれを年上のユカに気づかれるのは何だかかっこ悪い気がして、キリリと表情を引き締める。
「僕もあれこれ忙しかったからね。それに家に行けば必ず誰かしらいるし、ユカと二人きりで過ごせる時間は貴重なんだ」
神妙な顔でそう言えば、ユカの頬がゆるんだ。若干、耳が赤いような?
「そういうとこだよ……アンリちゃんさらっと恥ずかしいこと言う……」
「何が?」
「アンリちゃんは美人なのそろそろ自覚した方がいい。口説かれてる気分になってドキドキするから」
拗ねたように唇を尖らせたユカに、アンリは悪戯心がむくりとわいた。
身を屈めて、ユカの耳元に唇を寄せる。
「自分の恋人を口説いて何が悪いのさ」
「~~っ!!」
今度こそ真っ赤になってユカが撃沈する。
その反応にアンリは、満面の笑みで声をあげて笑った。
嫌悪感なく、アンリの「好き」を受け入れてくれているのがたまらなく嬉しい。
異性を意識させるような事は極力避けていたアンリだけど、でもやっぱり自分だけの女の子を独占したかった。遠慮していたけれど、この分ならもう少しくらい距離を詰めてもいいかもしれない。
王都には色んな人間がいる。
それこそ、アンリの婚約者として社交界に一度でも出席すれば、僅かなりとも注目は受ける。その上、オージェ伯爵の養子という価値につられて寄ってくる虫もいるだろう。どこぞのエロ猫のように、ユカをねつらってくる馬鹿もいるかもしれない。アンリは社交界では気を引き締めないといけないなと一人頷く。
行きと違って速度を落としたとはいえ、二人で会話を楽しみながら移動していれば、ファウルダース家への道のりはあっという間。
街道を抜けて、王都への関所を通過し、貴族の邸宅街を通りすぎていく。
「なんだか、一件一件がとてつもなく広いね……塀がすごく遠い」
「この辺りは伯爵以上の位の高い貴族の別邸が多いからね。さぁユカ、もう少しで僕の家だ」
説明をする間にもセンリはぱかぱかと蹄を鳴らして道を行く。
そしてとうとう、ファウルダース邸の塀が見えてきた。
クラッシックな黒い門を前にアンリが馬を降りる。
そして馬上のユカへと腕を差し出した。
「───ようこそ、ファウルダース侯爵家へ」
末永くよろしく、僕の婚約者殿。
来ない。
ユカが来ない。
予定では昨日到着する予定だった。
それなのに深夜になってもオージェ伯爵家の馬車はやって来ず、とうとう日を跨いで朝日が上ってしまった。
二度あることは三度ある。
朝あることは晩にある。
歴史は繰り返す。
ユカの不運、不遇さを思えばまた何かあったのかと思ってしまうのは、当然の帰結で。
我慢できなくなったアンリは、昨日の豪雨で泥だらけになった道を愛馬で駆け抜ける事にした。
「え、アンリ?」
早朝、家を飛び出したアンリを一人の女性が目を丸くして見送った。朝の日課である庭先の散歩を悠々自適に満喫していた女性は、今日は何かあるのかしらと頬に手をあてて、そういえば昨日あたりに遠方から客人が来る予定だったことを思い出した。そしてその客人は、アンリの客人であることも思い出して、ふふふ、と笑う。
行動力だけは人一倍ある息子に心配ないかと囁いて、女性は屋敷の中へと入っていった。
気が逸るあまりに家人に挨拶も忘れて飛び出したアンリは、泥を跳ねてファウルダース家へと通じる道を駆け抜ける。貴族の邸宅街を抜けて、関所も越えた。
馬を走らせて二時間程経った頃、見覚えのある馬車が森の街道を小気味良く走っているのを見つけた。
アンリが馬車へと近づくと、御者がアンリの顔に気がついて慌てて馬車を止めた。
「これはアンリ様、いかがいたしましたか」
「うん、ユカが遅いから迎えに。彼女は中?」
「は、はい」
御者が慌てて馬車の箱の中へ通じる窓を叩く。それから小声で何かやり取りをした後に、御者が地面へと降りたって馬車の扉を開けた。
「久方ぶりだな、ファウルダースの三男」
「お久しぶりです、オージェ伯爵」
オージェ伯爵が馬車の中から出てくる。
アンリは馬から降りると、騎士の礼を取った。
「あまりにも遅いのでお迎えに上がりました」
「昨夜の雨では早馬も飛ばせなかったのだ。一日、二日は誤差の範囲だろう」
「こと、僕の婚約者に関しては心配しすぎて悪いわけではありませんから」
にっこりと笑って見せれば、オージェ伯爵は渋い顔をして肩をすくめた。アンリは表情を変えない事で有名なオージェ伯爵の呆れの色を見てとり、少しだけ驚く。
オージェ伯爵はアンリに背を向けると、そっと馬車の中へと手を差しのべた。小さく中へ声をかけると、奥から恐る恐るといった様子で着飾った女の子が現れる。
艶々とした濡れ羽色の髪に、日光に晒されていない白い肌。子供のような大きな瞳に、ほんのり淡いピンクに色づいた唇。
華奢でありながらも、女性らしい丸みを帯びている体には、シンプルな詰め襟のブラウンとクリーム色のドレスが身に付けられている。
若葉の頃の少女のように可憐な女の子が、アンリと目が合った瞬間、花が綻ぶように笑った。
スカートが翻るのも構わずに、とんっと跳ぶように馬車を降りる。
エスコートのために差し出されたオージェ伯爵の手が行き場をなくして下ろされた。
「アンリ!」
「ユカ」
アンリの方もユカが無事だったことに安堵して、その華奢な体をそっと抱き寄せた。すっぽりと腕の中に収まる女の子が恥ずかしそうに身をよじらせる。
「どうしたのアンリ。どこかお出掛けする途中だったの?」
「いいや、君がなかなか来ないから心配で迎えに来ただけさ」
「ごめんなさい。遅れたのは昨日の土砂降りのせいだから、文句はお天道様に言ってね」
どこか嬉しそうに囁いたユカがそっとアンリの腰に腕を回して、ぎゅっと抱き合う。アンリはユカもまた自分に会いたいと思ってくれていた事を実感して嬉しくなった。
そっとユカのオニキスのように艶めいた登頂にキスをすれば、彼女はくすぐったさを誤魔化すように抱き締める腕に力を込めた。
再会を喜び会う婚約者達に向けて、オージェ伯爵が咳払いをする。
「……ファウルダースの三男、そろそろ先に進みたいのだが」
「伯爵、ユカは僕が預かりますので是非そのまま王都の別邸にお進みください」
「……そうか。ではまた後日、ファウルダース侯爵へ挨拶に向かうと伝えたまえ」
「しかとお伝えいたしましょう」
短いやり取りを交わすと、さっさとオージェ伯爵は馬車へと乗り込んだ。
扉を閉める前、伯爵婦人が顔を覗かせる。
「荷物はまた後で届けさせます。ユカ、また近い内に会いましょう」
「はい」
御者が扉を閉めて、ペコリとアンリとユカに一礼すると、早々に御者台へと乗り込んで馬車を走らせて始めた。
抱き合っていたアンリとユカはどちらからともなく離れる。
アンリはユカのドレスに泥を付けないようにそっと抱き上げると、馬へと乗せた。
「この子、前に乗せて貰った子ね」
「あたり。センリって言うんだ」
「ふふ、セキトバみたいにセンリ走るから?」
「ん?」
ユカの不思議な言葉にアンリは首を傾げた。
センリの上で、ユカが面白そうに目を細めて微笑んでいる。
「私の故郷のお話。といっても、海を挟んだ隣の国に伝わる有名なお馬なんだけどね。セキトバっていう馬が一日にセンリ……とてもとても遠くまで走ったていう伝説があるの」
「へぇ。それはすごい。センリってどれくらいの距離なの?」
「うーん……そうだね、ルドランス国なら一日で横断できちゃうんじゃない?」
「それは……すごいな」
伝説とはいえ、そんな馬がいたら騎士団は大騒ぎだ。素晴らし過ぎる駿馬に値もつけられなくなってしまうことだろう。
愛馬の名前はアンリが付けた。アンリとセンリ。音が似ているだけでつけた愚直なネーミングセンスに先輩騎士から散々からかわれたものだけど、ユカのもたらした伝説の馬の話を聞いて自分のネーミングセンスも捨てたものじゃなかったと少しだけ誇らしくなった。
ご機嫌で馬へと乗ったアンリは、手綱を握ると、センリのペースに合わせて走らせた。行きに無茶をさせたので、帰りはゆっくりと戻るつもりだ。
「そのセキトバっていう馬って誰が乗ってたんだろう」
「やっぱりそこが気になるの? セキトバはね、英雄を乗せた馬なのよ。人を選ぶ馬として有名で、乗りこなせた人間は限られた英雄達だけなの」
「賢い馬だね。センリもそういった馬を目指しなよ」
アンリの言葉に返事をするようにセンリが嘶いた。
アンリもユカも面食らったように目を丸くする。
それから二人でくすくすと笑い合った。
「すごい、すごいよセンリ! あなた本当は頭良いんでしょ!」
「これはセンリの前で余計なことは言えないや」
センリはまたもや「当たり前だろ」とでも言うように嘶いたので、二人は余計に笑えてしまって、森の街道を抜けるまでずっと笑い声をあげながら道を進んで行く。
雑談を交えて行く道は、行きのような焦燥なんて消え去っていて、腕の中にユカがいるという安心感が胸一杯に広がる。
上機嫌でいつもよりお喋りになっているアンリにユカも楽しそうに笑う。
「アンリ、楽しそうだね」
「ん? そう見えるかい?」
「うん。何がそんなに楽しいの?」
下から覗きこむように見上げてくるユカに視線を向けると、アンリの中に幸福感が押し寄せてくる。これから彼女が自分の実家に挨拶して暫く滞在することを考えるだけで、それはもう舞い上がってしまいそうなくらいに楽しみなのだ。でもそれを年上のユカに気づかれるのは何だかかっこ悪い気がして、キリリと表情を引き締める。
「僕もあれこれ忙しかったからね。それに家に行けば必ず誰かしらいるし、ユカと二人きりで過ごせる時間は貴重なんだ」
神妙な顔でそう言えば、ユカの頬がゆるんだ。若干、耳が赤いような?
「そういうとこだよ……アンリちゃんさらっと恥ずかしいこと言う……」
「何が?」
「アンリちゃんは美人なのそろそろ自覚した方がいい。口説かれてる気分になってドキドキするから」
拗ねたように唇を尖らせたユカに、アンリは悪戯心がむくりとわいた。
身を屈めて、ユカの耳元に唇を寄せる。
「自分の恋人を口説いて何が悪いのさ」
「~~っ!!」
今度こそ真っ赤になってユカが撃沈する。
その反応にアンリは、満面の笑みで声をあげて笑った。
嫌悪感なく、アンリの「好き」を受け入れてくれているのがたまらなく嬉しい。
異性を意識させるような事は極力避けていたアンリだけど、でもやっぱり自分だけの女の子を独占したかった。遠慮していたけれど、この分ならもう少しくらい距離を詰めてもいいかもしれない。
王都には色んな人間がいる。
それこそ、アンリの婚約者として社交界に一度でも出席すれば、僅かなりとも注目は受ける。その上、オージェ伯爵の養子という価値につられて寄ってくる虫もいるだろう。どこぞのエロ猫のように、ユカをねつらってくる馬鹿もいるかもしれない。アンリは社交界では気を引き締めないといけないなと一人頷く。
行きと違って速度を落としたとはいえ、二人で会話を楽しみながら移動していれば、ファウルダース家への道のりはあっという間。
街道を抜けて、王都への関所を通過し、貴族の邸宅街を通りすぎていく。
「なんだか、一件一件がとてつもなく広いね……塀がすごく遠い」
「この辺りは伯爵以上の位の高い貴族の別邸が多いからね。さぁユカ、もう少しで僕の家だ」
説明をする間にもセンリはぱかぱかと蹄を鳴らして道を行く。
そしてとうとう、ファウルダース邸の塀が見えてきた。
クラッシックな黒い門を前にアンリが馬を降りる。
そして馬上のユカへと腕を差し出した。
「───ようこそ、ファウルダース侯爵家へ」
末永くよろしく、僕の婚約者殿。
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