異世界酒造生活

悲劇を嫌う魔王

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第一章〜ファーストフィル〜

第六話「買い出しとちょい売り Part2」

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 俺は、レンタルビデオ屋のアダルトコーナーを後にするように、娼館から出て行った。少し遠ざかったところで振り返り、昨日の事を思い出しては、にやけてしまう自分が少し嫌だった。

「忘れろ。そして、前を向くんだ。」

 今日は、馬車をまず買おうと思っている。アイテムBOXを、おいそれと使えないのなら、この先街で酒を売る時、馬車でも無いと不便しそうだからだ。それと、食料を買い込もうと思う、そのほかには、家畜、スパイス、武器、斧、etc。金なら、沢山あるので買えるだけ買おうと思った。

 そしてまず俺がやってきたのは、馬車売り場だ。狙うは、カバードワゴン(幌馬車ほろばしゃ)だ。よく、ファンタジー世界でみるやつで、本来、人が乗る所に大きな荷車を取り付けて、それらを雨から凌げるように革が貼ってあるやつだ。

 馬車売場では、中古車市場みたいに多種多様な馬車が並んでいた。俺はその中でも、険しい山道を往来できそうな、小型のカバードワゴンを選んだ。

「それではショウゴ様、最後に馬車を引かせる馬をお選びください。」

 この辺りの住民に比べれば、上質な服を着ている店員に案内されて目にしたのは・・。

「え、馬って・・。これ全部馬ですか?」
「左様でございます、馬車を引く生物は多種多様な為、一括りで馬としているのであります。ベーシックな馬でしたら、やはり馬ですが。砂漠地帯を行く方でしたら、ラクダや、サラマンダー。険しい道なき道を行く方ですと、大山羊、スライム、飛竜。ショウゴ様は、主に山道を行き来するとお伺いしましたが。」

 そこは、ありとあらゆるファンタジー生物の見本市だった。店員が、鞭を持ち客がある程度離れた場所から、馬を選んでいた。

「は、はい。」
「それでしたら、馬よりも、大山羊がお勧めですが、ご予算に余裕がございましたら、地竜なんかもお薦めでございます。深い山奥ですと、猛獣やモンスターが襲ってくる事もございます。地竜でしたら、ある程度の猛獣やモンスターなら近寄りませんし、主従関係を築けますと追い払ってもくれますよ。それに何より、馬力が違います。どんな険しい山道でも、軽々と荷車を引いてくれます。」
「・・・なるほど。少し、考えさせてください。」
「かしこまりました。何かお気になさる点がございましたら、お声かけください。」

 うわぁ、ファンタジー舐めてたわぁ。街中の馬車、全部馬なんだもん。そんなんびっくりするじゃん?ふぅ、落ち着け。まず俺の家までの山道は、辛うじて山道があるから馬でも大丈夫だ。それに、街の近くまできたらアイテムBOXから馬車を出す予定だしな。つまり、家の行き来さえ出来ればいいから、ここは一番安い馬にしよう。

 その時だった、馬を選ぼうとした時、ある馬房の前を通った時だった。俺の目の前に、ヌルッと地竜の顔が出てきたのである。地竜の肌は岩肌のように、とてもゴツゴツしていて、赤い血がそのまま塗られたように赤かった。俺は、初めての竜に目が離せず、その金色の瞳をしばらく眺めていた。そして、気づけば俺はその鼻っ面を撫でていたのである。この地竜はまるで、前世でいう恐竜のヴェロキラプトルを一回り大きくした感じだった。

「・・すげぇ、綺麗だな。」

 するとそこへ、先程の店員が戻ってきた。

「これは珍しい。その暴れ馬が珍しく、大人しいですね。」
「えっ、それはどういう。」
「あぁ、こいつはですね。うちの調教係が殆《ほとほと》手を焼いていまして、既に三人病院送りにされているんですよ。」
「へ?」

 俺はすぐに、手を引っ込めた。玉がヒュンとなるのを久しぶりに感じた。

「でもご安心ください。主従の印を結べば、主人に危害を加えれば死ぬ事を理解しますから。」
「・・いやぁでも、やっぱり他の馬にします。」

 ふざけんな!!そんなよく分からん印を信じて、こんな危ないやつと居られるかよ!やっぱり馬だ、馬。慣れているのが一番だな。

”カプッ”

「え」

 俺の視界は突然暗闇に閉ざされた。しかも、すごい生臭い。俺は記憶を辿った。暴れ馬の前を通り過ぎようとした時、こいつが・・俺の頭を喰った!!そう分かった瞬間、足の爪先から頭の頂点まで震えがきた。

「おぉ、ショウゴ様すごいですね。地竜が印もない人間に、これほど好意を向けるのを初めて見ました。」
「そ、そんなこと、どうでもいいので、なんとか、してください。」

 呑気なこと言ってんじゃねぇ!!こいつの気が変わったら、俺の頭と胴体が離れちまうんだぞ!!

「いや~それが、こうなってしまうと地竜は、主従の関係を結ぶまで離しません。」
「そんな!何か方法は?」
「無理に引きがそうとすればそれこそ、ショウゴ様の首が飛びます。」
「買います。買いますから、はやくなんんんとかしてくれぇええ!!」

 俺は、この地竜の値段も聞かずに購入した。そりゃぁ、命がかかってますもん。俺は、この地竜と主従の印を結んだ。契約の魔導書スクロールにお互いの血液を流すと、それぞれの胸に魔法陣が展開し、印が心臓に刻まれた。そうしてようやく、地竜は俺の頭から口を退けた。

「はぁ、はぁ、はぁ。死ぬかと思った。」
「ショウゴ様、代金の方が金貨100枚となります。」
「・・あのですね!」
「あそこに、注意書きが書かれております。」

 店員は、俺のクレームを予期していたかのように、馬鹿でかい警告書を指さした。

「・・馬房からは十分に離れて、馬をお選びください。接近し過ぎて、お客様に何かございましても、当店は一切責任を取りませんので悪しからず。・・・金貨100枚これでよろしいでしょうか。」
「・・・確かに、ちょうど金貨100枚頂戴いたしました。こちら領収書と、主従の魔導書でございます。契約を破棄したい場合は、この魔導書を燃やしてください。それでは、早速馬と荷車の連結をして参ります。荷車の方でお待ちください。ご説明差し上げますので。」

 その後、地竜の飼育方法や扱い、馬車の取扱について説明されて、正式に馬車を譲渡された。そのあとは、色々と買い込んで、ひとまず家に帰ろうと城門に差し掛かった。城門では、出る時も検問があり違法薬物や、人間の人身売買を防ぐために荷改めがあった。

「おぉ、酒の兄ちゃんじゃねぇか!」
「あぁ、昨日はどうも。」
「いや、いや感謝したいのはこっちだよ!あんなに酒で酔えたのは、昨日が初めてだったよ。次はいつくるんだ?馬車も買って、それも地竜じゃねぇか?羽振りが良いんだなぁ!それよりここではよ、地竜クラスの馬には、主従の魔導書の検閲義務があるんだ。魔導書あるか?」
「はい、これがそうです。」
「おし、ちょっと見るぞ。・・おいおい!兄ちゃん、魔導書に地竜の名前がないぞ!!」
「え、名前ないとダメですか?」
「当たり前だろ!魔導書はお互いの名前が記載されないと、契約は完了してないんだよ。教えてもらえなかったのか?」
「あぁー確かにそんなことが言っていた気が・・。」

 命の危機直後で、放心していたから正直あまりよく覚えていないな。

「おいおい、頼むぜ。魔導書の不備は罰金、金貨1枚だ。」
「あぁ、はい。」
「と、言いたい所だが俺と他ならぬ酒の! 兄ちゃんの仲だから見逃してやるよ。その代わり・・。」
「わかりました。次来た時には、お兄さんのお酒は取り置きしておきますね。」
「頼むぜ兄ちゃん。俺はもう・・あの酒じゃないと酔えない体になっちまったんだ。」
「ははっそれは、お気の毒に。」

 そうして俺は、城門を後にした。ここに来るまでは、歩いて1日掛かったのに地竜に乗って帰ると、6時間で着いてしまった。さすが、金貨100枚の馬だ。馬車を玄関の隣に付けて、地竜を荷車から解放してやった。すると、こいつの方から俺の方にすり寄ってきて、頬を俺の懐に潜らせてきた。

「なんだよ、可愛いとこあるじゃないか。よし、名前をつけるか。っとその前に水をやろう。」

 アイテムBOXから、200Lサイズの酒樽と斧を取り出して、俺は樽の蓋を割った。中身の酒をアイテムBOXに入れて、水と交換をするために・・

「って、ちょいちょい!!これは水じゃない!飲むな!!くそ、びくともしない流石ドラゴンなだけあるな、はぁ、はぁ。」

 酒樽を割り、蓋が空いた側から待ってましたと言わんばかりのスピードで、地竜が顔を酒樽に突っ込み、”ゴキュ、ゴキュ”とすごい勢いで飲み始めてしまった。

「どうなったって知らないからな!!って、お前死なれたらこっちが困るんだっつうの!!俺はお前に、金貨100枚も払ってるんだぞ!!もうこっちは、すかんっぴんだよ!」

”ゲェェェェップッ”

 デケェゲップだなぁおい。そして驚くべきことに、盛大なゲップをした後に地竜の口から炎が吹き出した。

「おいおいやめろ!家が燃える!!」

 そう言うと、地竜は大人しく炎を沈めた。

「ったく、一体何なんだ。ドラゴンが酒を飲んで、火まで吹き始めるなんて。」

 もう疲れた。さっさと、名前決めて寝よう。

「えーと、お前の名前は・・お前って男?」

 そう問いかけると、俺に向かって殺気を放ちながら、火を吹こうとし始めた。

「わぁー!悪かった、女ね。」

 地竜は、機嫌をなおした。

「なら、ヴェロキラプトルに似てるから・・で、女、美しい赤い色・・」

 そんなことを考えていたら、<赤い唇>で抱いた若くて美しい、黒髪の彼女を思い出した。

「うん、今日からお前は<美女ベッラ>だ。意味は、美しい女。悪くないだろ。」

 ベッラのただでさえ紅い岩肌が、さらに赤くなったように見えた。どうやら気に入ったようだな。魔導書を確認すると、契約の欄にベッラと記載された。これで契約完了っと。

「あんまり遠くに行くなよ。明日も、街に行くからな。」

”ギュィィイ”

っとベッラは返事をした。狐みたいな声だな。
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