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第三章〜サードフィル〜
第七十六話「樽造り Part4」
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俺とアントンさんの絆が深まった後、改めて友情に乾杯した。今度のは喜びに満ちていた。俺もアントンさんもキュッとウイスキーを飲み干した。
「「クゥゥゥ/カッァァァ」」
俺が今アントンさんと飲んでいるのは、時空魔法で熟成させて一月ほどしか経っていない四年ものウイスキーだ。それも樽を焦がしていない新樽に漬けていたもので、琥珀色は希薄で薄い黄色と言った具合だ。
それでもちゃんとウイスキーであり我が子同然の愛しさがあった。それをワンオンス程をキュッと口の中に流し込む贅沢。ウイスキーの良さは、ワンオンス程を一時間かけて舐める様に楽しむことも出来れば、こうやって勢いに任せて飲み干す事で荒々らしい飲み口を楽しむ事もできるのもまた魅力の一つだ。
「なんとも贅沢な喉越しと味わいかのぉ、若いウイスキーの荒っぽさでさえ好ましく思える。ウイスキーとはなんと魅力的なのだ」
「そうですねぇ。ですが、ウイスキー好きには色々と怒られそうです。ウイスキーをショットみたいに飲むなんてもったいないって」
「ワハハハッ、言わせたい奴には言わせておけぃ。酒など好きな様に飲まなければ不味くなるだけだからの」
「ふふっ、そうですね」
バーにやってくるお客さんの中には少なからず「このお酒ってどうやって飲むんですか?」「何か作法があるんですか?」と聞いてくる方々がいる。日本人にとってBarという場所はどこか鯱鉾ばったイメージがあるのだろう。特に日本のBarは実際格式を高めに設定している風潮が強い。
だがBarの本来の姿は誰もが気軽にお酒を飲めるお店、その程度のカジュアルな場だ。だから、酒の飲み方など好きな様に飲んで、リラックスして飲めばいい。それが一番飲む人にとって楽しめるものであればいいのだから。
もちろん格式高いBarはBarで楽しめるものだ。つまり、何が言いたいかというとお酒は美味しく、楽しく、飲めばいいって事だ。まぁとは言え、酒の味もわからん奴に俺のウイスキーを浴びるように飲まれるのは嫌だというのはまた別のお話。アントンさんは酒の味がわかる人だから、ガブガブ飲まれても大丈夫だ。寧ろ美味そうに飲むし、見てるこっちも気分がいい飲みっぷりだ。
大学のコンパや、馬鹿どもの乱痴気騒ぎとは訳が違うし、お店や道端で吐く訳でもないからな。楽しければ良いのではなく、家に帰るまで人様に迷惑をかけないで楽しむ。これが何より大事な、お酒を楽しむ大人の作法だろう。
というか、ドワーフと人間を同じ様に考える事自体間違っている気がするけどな。
「よし、ショウゴ! 仕事に取り掛かろうではないか!」
飲み干したグラスをテーブルに叩き付けると、アントンさんは服の袖をグッと捲って闘志剥き出しといった感じだった。
「大丈夫ですか? ウイスキーをそんなに飲んで……なんなら明日からでもいいですよ?」
アントンは既に一リットルほどのウイスキーを飲んでいた。とは言え、いつもいくら飲んでも二日酔いしないドワーフのことだ無駄な心配かもしれない。
「馬鹿を言うな! こんな気分の良い日に働かないなどあり得んだろう! それにいくらお主の時空神の加護があるとはいえ、ウイスキー造りには時がかかる! わしらがサボる訳にはいかんじゃろ!」
「はははっ、それはそうですね。早速、樽を造りましょうか! とは言っても、樽造りはアントンさんに丸投げするつもりなのですが……」
「任せい、ワシの祖国でも酒樽造りは青二才どもの最初の仕事の一つでもあったからの見本があれば簡単に造れるわい」
俺はそう聞いて一安心して胸を撫で下ろした。俺の前職はブレンダーでウイスキーの香味に特化していたから樽造りはできない。もちろん見たことはあるし、理論もわかるが修行していない俺が実際にやるのは不可能だ。
樽造りの工程で最も重要な事は樽材を天日干しにする事、そして樽材を焦がすチャーと呼ばれる工程だ。切り出した木材を雨風と太陽光に二年晒し、その後熱を加え樽として組み合わせ固定し、チャーを施すか施さないかを経て新樽は完成する。
「アントンさん」
「なんじゃ?」
「やっぱり当面はワイン樽ウイスキーをメインに酒造したいと思います」
「……ふむ、理由を聞いても良いか。もちろん、お主の考えに従おう。じゃが、その先のこともわしなりに考えたいのでな」
俺はアントンさんにワイン樽ウイスキーを造る事で、俺の信念を曲げているんでは無いかと聞かれ一度は考え直した。しかし、今では信念を曲げた訳では無いとはっきり言い切れる。
だって、俺はウイスキー全部大好きだもん。
とはいえ、俺も人間だウイスキーの好みはある。だけど、今となってはウイスキーを造れてる事に感謝だし、ワイン樽ウイスキーはブレンドする時になくてはならないウイスキーの一つだから、ここで造っておく事は全く無駄じゃ無いのだ。
「わかりました。主な理由は一つです。俺の時空魔法は天候まで操れないからです。例えば、切り出した木材には時空魔法が使えますが、肝心の太陽光と雨までには力及びませんから」
時空魔法によって切り出した木材を高速乾燥させたところで、肝心の天日干しの主役である太陽光の照射時間を加速させることは出来ないと思う。
「おぉ、そうじゃったな。お主の加護は触れた物にしか魔法はかけられないのだったな」
もちろん実験はしてみるつもりだ。ただ、この家には魔法のエキスパートがいない。ティナもハーフエルフだから、魔力や精気の可視性能が頭抜けてるだけで、魔法に関しては結構無知だった。
うまくやれば時空魔法によって、樽材の天日干しも成立させられるのだろうか……。ふぅ、魔法については後回しだ。希望的観測よりも、今目の前で出来る事からやらなければ。
「はい、普通ならこの二年の間に雨と太陽光が、木材の持つ酒に悪影響を及ぼす成分を洗い流してくれるんですけどね。その間はどうしても既存の樽でセカンドフィルとして再利用していく事になりますから。それを考えると今は慌てずにいろんな樽材で酒樽を造った方が後々の事を考えると良いんですよ」
「ほぉ、どうやらウイスキー造りには多種多様な酒樽で漬けたものが必要な様じゃな?」
俺の言葉を聞いた、アントンさんの瞳が一瞬鋭い光が走った様な気がした。それで持って問題の核心を突いた良い質問が返ってきた。
「さすが鋭いですね。その通りです。ウイスキーは酒瓶に詰められて出荷されるまでに、その酒蔵が持つ数十万樽に及ぶ樽の中から数種類の原酒を選び配合して味を整えるんです。ですから、いろんな味わいと香りを持ったウイスキがー必要不可欠なんです」
「す、数十万と来たか! 祖国でもそれ以上の数に及ぶ酒樽はあったが、その中から選ばれたものだけが配合され、飲み手の元へ届けられるとは……なんとロマンのある話じゃなぁ。しかし、その分気が遠くなるのぉ」
そう言いながらどこか遠くへ想いを馳せるようにアントンは、自身の編み込まれた長い白髪を扱いた。
「まさか怖気付きましたか?」
俺は少し意地悪な声色で聞いた。アントンさんが酒造りで怖気付く? 馬鹿を言いなさんな。俺だってそう思うさ……でもこう言う場面でこのセリフを言えた事実が今日の晩酌を美味くする、いわゆる自己満だ。
アントンさんは俺以上に楽しそうな笑みを浮かべた。それも奥歯が見えるほどの笑顔だ。そして髭を扱いていた手を腰にあて堂々とした態度で吠えた。
「馬鹿を言うな! 寧ろ逆じゃわい! 一樽一樽に丹精込めて仕込んだ虎の子が! 数十年の時を経てわしらの手によって目を覚ます……実に血が滾るっ、堪らんわい! ショウゴ、もっと樽について詳しく話さんかっ!!」
目が血走ってやがる……。
「わ、わかりましたから落ち着いて……」
おぉ、おぉすげぇ熱気だ。今にも誰かに噛みつきそうだぜ。
全く、この俺が他人の情熱に気圧される日が来るなんてな……。いや、寧ろこの状況は喜ばしい事だろう。同じ職場で、同じ情熱を持って、一方向を向いて仕事ができる。側から見ればブラックに見える時だってあるだろう、それも真っ黒にな。
だが、当の本人である俺は今断言できる。今の俺はすげぇ幸せもんだってな。
「「クゥゥゥ/カッァァァ」」
俺が今アントンさんと飲んでいるのは、時空魔法で熟成させて一月ほどしか経っていない四年ものウイスキーだ。それも樽を焦がしていない新樽に漬けていたもので、琥珀色は希薄で薄い黄色と言った具合だ。
それでもちゃんとウイスキーであり我が子同然の愛しさがあった。それをワンオンス程をキュッと口の中に流し込む贅沢。ウイスキーの良さは、ワンオンス程を一時間かけて舐める様に楽しむことも出来れば、こうやって勢いに任せて飲み干す事で荒々らしい飲み口を楽しむ事もできるのもまた魅力の一つだ。
「なんとも贅沢な喉越しと味わいかのぉ、若いウイスキーの荒っぽさでさえ好ましく思える。ウイスキーとはなんと魅力的なのだ」
「そうですねぇ。ですが、ウイスキー好きには色々と怒られそうです。ウイスキーをショットみたいに飲むなんてもったいないって」
「ワハハハッ、言わせたい奴には言わせておけぃ。酒など好きな様に飲まなければ不味くなるだけだからの」
「ふふっ、そうですね」
バーにやってくるお客さんの中には少なからず「このお酒ってどうやって飲むんですか?」「何か作法があるんですか?」と聞いてくる方々がいる。日本人にとってBarという場所はどこか鯱鉾ばったイメージがあるのだろう。特に日本のBarは実際格式を高めに設定している風潮が強い。
だがBarの本来の姿は誰もが気軽にお酒を飲めるお店、その程度のカジュアルな場だ。だから、酒の飲み方など好きな様に飲んで、リラックスして飲めばいい。それが一番飲む人にとって楽しめるものであればいいのだから。
もちろん格式高いBarはBarで楽しめるものだ。つまり、何が言いたいかというとお酒は美味しく、楽しく、飲めばいいって事だ。まぁとは言え、酒の味もわからん奴に俺のウイスキーを浴びるように飲まれるのは嫌だというのはまた別のお話。アントンさんは酒の味がわかる人だから、ガブガブ飲まれても大丈夫だ。寧ろ美味そうに飲むし、見てるこっちも気分がいい飲みっぷりだ。
大学のコンパや、馬鹿どもの乱痴気騒ぎとは訳が違うし、お店や道端で吐く訳でもないからな。楽しければ良いのではなく、家に帰るまで人様に迷惑をかけないで楽しむ。これが何より大事な、お酒を楽しむ大人の作法だろう。
というか、ドワーフと人間を同じ様に考える事自体間違っている気がするけどな。
「よし、ショウゴ! 仕事に取り掛かろうではないか!」
飲み干したグラスをテーブルに叩き付けると、アントンさんは服の袖をグッと捲って闘志剥き出しといった感じだった。
「大丈夫ですか? ウイスキーをそんなに飲んで……なんなら明日からでもいいですよ?」
アントンは既に一リットルほどのウイスキーを飲んでいた。とは言え、いつもいくら飲んでも二日酔いしないドワーフのことだ無駄な心配かもしれない。
「馬鹿を言うな! こんな気分の良い日に働かないなどあり得んだろう! それにいくらお主の時空神の加護があるとはいえ、ウイスキー造りには時がかかる! わしらがサボる訳にはいかんじゃろ!」
「はははっ、それはそうですね。早速、樽を造りましょうか! とは言っても、樽造りはアントンさんに丸投げするつもりなのですが……」
「任せい、ワシの祖国でも酒樽造りは青二才どもの最初の仕事の一つでもあったからの見本があれば簡単に造れるわい」
俺はそう聞いて一安心して胸を撫で下ろした。俺の前職はブレンダーでウイスキーの香味に特化していたから樽造りはできない。もちろん見たことはあるし、理論もわかるが修行していない俺が実際にやるのは不可能だ。
樽造りの工程で最も重要な事は樽材を天日干しにする事、そして樽材を焦がすチャーと呼ばれる工程だ。切り出した木材を雨風と太陽光に二年晒し、その後熱を加え樽として組み合わせ固定し、チャーを施すか施さないかを経て新樽は完成する。
「アントンさん」
「なんじゃ?」
「やっぱり当面はワイン樽ウイスキーをメインに酒造したいと思います」
「……ふむ、理由を聞いても良いか。もちろん、お主の考えに従おう。じゃが、その先のこともわしなりに考えたいのでな」
俺はアントンさんにワイン樽ウイスキーを造る事で、俺の信念を曲げているんでは無いかと聞かれ一度は考え直した。しかし、今では信念を曲げた訳では無いとはっきり言い切れる。
だって、俺はウイスキー全部大好きだもん。
とはいえ、俺も人間だウイスキーの好みはある。だけど、今となってはウイスキーを造れてる事に感謝だし、ワイン樽ウイスキーはブレンドする時になくてはならないウイスキーの一つだから、ここで造っておく事は全く無駄じゃ無いのだ。
「わかりました。主な理由は一つです。俺の時空魔法は天候まで操れないからです。例えば、切り出した木材には時空魔法が使えますが、肝心の太陽光と雨までには力及びませんから」
時空魔法によって切り出した木材を高速乾燥させたところで、肝心の天日干しの主役である太陽光の照射時間を加速させることは出来ないと思う。
「おぉ、そうじゃったな。お主の加護は触れた物にしか魔法はかけられないのだったな」
もちろん実験はしてみるつもりだ。ただ、この家には魔法のエキスパートがいない。ティナもハーフエルフだから、魔力や精気の可視性能が頭抜けてるだけで、魔法に関しては結構無知だった。
うまくやれば時空魔法によって、樽材の天日干しも成立させられるのだろうか……。ふぅ、魔法については後回しだ。希望的観測よりも、今目の前で出来る事からやらなければ。
「はい、普通ならこの二年の間に雨と太陽光が、木材の持つ酒に悪影響を及ぼす成分を洗い流してくれるんですけどね。その間はどうしても既存の樽でセカンドフィルとして再利用していく事になりますから。それを考えると今は慌てずにいろんな樽材で酒樽を造った方が後々の事を考えると良いんですよ」
「ほぉ、どうやらウイスキー造りには多種多様な酒樽で漬けたものが必要な様じゃな?」
俺の言葉を聞いた、アントンさんの瞳が一瞬鋭い光が走った様な気がした。それで持って問題の核心を突いた良い質問が返ってきた。
「さすが鋭いですね。その通りです。ウイスキーは酒瓶に詰められて出荷されるまでに、その酒蔵が持つ数十万樽に及ぶ樽の中から数種類の原酒を選び配合して味を整えるんです。ですから、いろんな味わいと香りを持ったウイスキがー必要不可欠なんです」
「す、数十万と来たか! 祖国でもそれ以上の数に及ぶ酒樽はあったが、その中から選ばれたものだけが配合され、飲み手の元へ届けられるとは……なんとロマンのある話じゃなぁ。しかし、その分気が遠くなるのぉ」
そう言いながらどこか遠くへ想いを馳せるようにアントンは、自身の編み込まれた長い白髪を扱いた。
「まさか怖気付きましたか?」
俺は少し意地悪な声色で聞いた。アントンさんが酒造りで怖気付く? 馬鹿を言いなさんな。俺だってそう思うさ……でもこう言う場面でこのセリフを言えた事実が今日の晩酌を美味くする、いわゆる自己満だ。
アントンさんは俺以上に楽しそうな笑みを浮かべた。それも奥歯が見えるほどの笑顔だ。そして髭を扱いていた手を腰にあて堂々とした態度で吠えた。
「馬鹿を言うな! 寧ろ逆じゃわい! 一樽一樽に丹精込めて仕込んだ虎の子が! 数十年の時を経てわしらの手によって目を覚ます……実に血が滾るっ、堪らんわい! ショウゴ、もっと樽について詳しく話さんかっ!!」
目が血走ってやがる……。
「わ、わかりましたから落ち着いて……」
おぉ、おぉすげぇ熱気だ。今にも誰かに噛みつきそうだぜ。
全く、この俺が他人の情熱に気圧される日が来るなんてな……。いや、寧ろこの状況は喜ばしい事だろう。同じ職場で、同じ情熱を持って、一方向を向いて仕事ができる。側から見ればブラックに見える時だってあるだろう、それも真っ黒にな。
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