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白昼夢を見るサラリーマン 編
デイドリーム その⑤
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カウントはもうすぐ0になる。ゲツはその瞬間を、待つことしか出来なかった。
「……?」
しかし、カウントは進まなかった。
「何だ……急に止まったぞ……?」
ゲツはやや警戒しながら、男の顔を覗き込んだ。
さっきまで動いていた口は、半開きになって動かなくなっていた。
「よ、よくわからないけど……とりあえず、起きてるなら何か反応してくださいよ!」
ゲツは男に言った。返事はない。
「……そういえば……」
ゲツはふと、ある事を思い出した。
「リランさんが、何かいたら慎重にって言ってたような……」
ゲツは額に手を当て言った。ゲツはリランの言葉を忘れてしまっていたのだ。
「……もしかしたら、この人を起こすべきじゃなかった……かも……」
「どうしましたか?」
ふと、背後から誰かの声が聞こえた。
「……え?」
ゲツはその声に聞き覚えがあった。それも、かなり最近聞いた声だ、とゲツは思った。
ゲツは声がした方に振り向いた。
そこにいたのは——
「……!!」
「その方……目を覚まされないのですか?」
——この世界で最初に出会った、猫耳の少女だった。
ゲツは困惑した。彼女はなぜ、こんな所にいるのだろうと思った。
「あの……急にぼーっとして、どうされたんです?」
「いや……何でリリーがここに居るのかな、って思って……」
「……? 何で私の名前を知ってるんですか?」
少女は首を傾げた。
「私たち、どこかで会いましたっけ?」
「う、うぅ……」
二人が話が途切れた間に、男が呻き声を上げ始めた。
「あ……! お、起きたぞ!」
ゲツは男の方を見た。なんだか苦い顔をしている。
「本当ですか! 良かったです! この方は、あなたの連れの方なのですか?」
少女は男に駆け寄りながら言った。
「いや……違うよ」
(何でこの子は、俺の事を忘れてるんだ?)
少女はゲツの前——男を挟んで反対側に座った。
(もしかしたら、そうじゃないのかもしれないけど……でも、じゃあ何で忘れたフリなんてするんだろう)
「う……ぅ……」
男が少しずつ目を開け始めた。
「……? 何だ、ここは……?」
男は首を動かし、辺りを少し見渡した。
「大丈夫ですか!?」
少女が話しかけた。
男が少し当惑気味に、
「あ……あぁ」
と言い、「うっ」としかめ面をして、
「あ、頭が……痛い……」
と右手を額に押さえつけながら言った。
「……とりあえず、この近くに私の家がありますから……そこに連れて行きましょうか」
少女はそう言って、ゲツに「手伝ってもらえますか?」と聞いた。
「もちろん手伝うよ」
ゲツの声はあまり大きくは無かった。
(……リリーの記憶がないのは、もしかして『リセット』されたとか……なのかな)
ゲツは少女に「あ、俺が運ぶよ」と言った。
(ここはゲームの世界っぽいし……)
少女は男に「今から休めるところに運びますから、ちょっと待っててくださいね」と言った。
(俺たちがその影響を受けていないのは、外にいたから……?)
「ふ……く」
「え?」
それは男の声だった。
瞬間、ゲツの思考がピシャと遮られた。
「お前だけ」
男がこちらを向いた。
「違う」
----------
「違ったわ……」
女が呟いた。
「私の予想が、まったくもって……」
スーツ姿のその女は、駅周辺で最も高いビルの屋上に立っていた。片手には、春菊の花が握られている。
「あのちっぽけな男が、こんな魔法を使えるなんて……思ってもみなかった」
女は腰辺りの高さの柵から身を乗り出し、下界を見下ろした。
右手から、光る『境界線』が、ゆっくりと進んでいる。
「あの少年よりも、有用で素晴らしい能力ね……」
女は体をスッと引っ込めた。
「なんとしてでも、届けなければ……この力があれば、私たちは……」
女は空を見上げた。大きなアホ毛が、風に吹かれて大きく揺れた。
「解き放たれる……」
その表情は、恍惚としていた。
----------
「はぁ……はぁ……あ、危ねぇ……」
大きく息を荒げていたのは、ゲツだった。
ゲツは、崖に落ちかけていた。
「何が起こったんだ……? どうして急に……」
ゲツは下を見た。全く底が見えない。
と、その時、ゲツの自重を支えていた片方の岩肌が、パキリと崩れた。
「うわっ!!」
すかさずゲツは、やや下方の出っ張りにてを掛ける。
ゲツは安堵して、深呼吸をした。
「……あれ飲んでなきゃ、俺絶対落ちてたな……」
——あの男が謎の言葉を発した直後、ゲツは浮遊感に襲われた。
床が抜けたような感覚だった。そしてそれは間違っていなかった。
ゲツの足元に、大きな亀裂が入っていたのだ。
「ともかく、ここから出ないと……」
ゲツは上を見た。地上から10mほどの位置に、ゲツは掴まっていた。
幸い、なんとかよじ登ることはできそうだった。
ゲツは岩肌の出っ張りを伝い、崖から這い出た。
狭かった一気に視界が開ける。
その瞬間、彼は目撃した。
「なっ……!?」
「何だこれ……どうなってんだよ!?」
彼が目撃したもの——それは、
「け、景色が……まるで違うぞ!!」
草が枯れ果てた赤色の大地、渦を巻く空……そして、
「なんだよこれ……!!?」
そこに直立する男の姿だった。
「何で僕の世界にいるんだ……何で……」
男がゲツを指差した。
「ここは僕の楽園なんだ……お前は邪魔なんだよ!!」
裏返った声で男は叫んだ。その瞬間、男を中心にして、放射状に亀裂が走った。
(もしかして、あいつが……この世界を創った張本人か!?)
ゲツは男を凝視していた。男が小さく唸り歯ぎしりしながら、こちらを睨みつけているのがわかった。
(俺は部外者だから、あんなに怒ってんのかよ!)
「だったら、止めないと……なんとかして、あいつを止めないと!」
続く
「……?」
しかし、カウントは進まなかった。
「何だ……急に止まったぞ……?」
ゲツはやや警戒しながら、男の顔を覗き込んだ。
さっきまで動いていた口は、半開きになって動かなくなっていた。
「よ、よくわからないけど……とりあえず、起きてるなら何か反応してくださいよ!」
ゲツは男に言った。返事はない。
「……そういえば……」
ゲツはふと、ある事を思い出した。
「リランさんが、何かいたら慎重にって言ってたような……」
ゲツは額に手を当て言った。ゲツはリランの言葉を忘れてしまっていたのだ。
「……もしかしたら、この人を起こすべきじゃなかった……かも……」
「どうしましたか?」
ふと、背後から誰かの声が聞こえた。
「……え?」
ゲツはその声に聞き覚えがあった。それも、かなり最近聞いた声だ、とゲツは思った。
ゲツは声がした方に振り向いた。
そこにいたのは——
「……!!」
「その方……目を覚まされないのですか?」
——この世界で最初に出会った、猫耳の少女だった。
ゲツは困惑した。彼女はなぜ、こんな所にいるのだろうと思った。
「あの……急にぼーっとして、どうされたんです?」
「いや……何でリリーがここに居るのかな、って思って……」
「……? 何で私の名前を知ってるんですか?」
少女は首を傾げた。
「私たち、どこかで会いましたっけ?」
「う、うぅ……」
二人が話が途切れた間に、男が呻き声を上げ始めた。
「あ……! お、起きたぞ!」
ゲツは男の方を見た。なんだか苦い顔をしている。
「本当ですか! 良かったです! この方は、あなたの連れの方なのですか?」
少女は男に駆け寄りながら言った。
「いや……違うよ」
(何でこの子は、俺の事を忘れてるんだ?)
少女はゲツの前——男を挟んで反対側に座った。
(もしかしたら、そうじゃないのかもしれないけど……でも、じゃあ何で忘れたフリなんてするんだろう)
「う……ぅ……」
男が少しずつ目を開け始めた。
「……? 何だ、ここは……?」
男は首を動かし、辺りを少し見渡した。
「大丈夫ですか!?」
少女が話しかけた。
男が少し当惑気味に、
「あ……あぁ」
と言い、「うっ」としかめ面をして、
「あ、頭が……痛い……」
と右手を額に押さえつけながら言った。
「……とりあえず、この近くに私の家がありますから……そこに連れて行きましょうか」
少女はそう言って、ゲツに「手伝ってもらえますか?」と聞いた。
「もちろん手伝うよ」
ゲツの声はあまり大きくは無かった。
(……リリーの記憶がないのは、もしかして『リセット』されたとか……なのかな)
ゲツは少女に「あ、俺が運ぶよ」と言った。
(ここはゲームの世界っぽいし……)
少女は男に「今から休めるところに運びますから、ちょっと待っててくださいね」と言った。
(俺たちがその影響を受けていないのは、外にいたから……?)
「ふ……く」
「え?」
それは男の声だった。
瞬間、ゲツの思考がピシャと遮られた。
「お前だけ」
男がこちらを向いた。
「違う」
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「違ったわ……」
女が呟いた。
「私の予想が、まったくもって……」
スーツ姿のその女は、駅周辺で最も高いビルの屋上に立っていた。片手には、春菊の花が握られている。
「あのちっぽけな男が、こんな魔法を使えるなんて……思ってもみなかった」
女は腰辺りの高さの柵から身を乗り出し、下界を見下ろした。
右手から、光る『境界線』が、ゆっくりと進んでいる。
「あの少年よりも、有用で素晴らしい能力ね……」
女は体をスッと引っ込めた。
「なんとしてでも、届けなければ……この力があれば、私たちは……」
女は空を見上げた。大きなアホ毛が、風に吹かれて大きく揺れた。
「解き放たれる……」
その表情は、恍惚としていた。
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「はぁ……はぁ……あ、危ねぇ……」
大きく息を荒げていたのは、ゲツだった。
ゲツは、崖に落ちかけていた。
「何が起こったんだ……? どうして急に……」
ゲツは下を見た。全く底が見えない。
と、その時、ゲツの自重を支えていた片方の岩肌が、パキリと崩れた。
「うわっ!!」
すかさずゲツは、やや下方の出っ張りにてを掛ける。
ゲツは安堵して、深呼吸をした。
「……あれ飲んでなきゃ、俺絶対落ちてたな……」
——あの男が謎の言葉を発した直後、ゲツは浮遊感に襲われた。
床が抜けたような感覚だった。そしてそれは間違っていなかった。
ゲツの足元に、大きな亀裂が入っていたのだ。
「ともかく、ここから出ないと……」
ゲツは上を見た。地上から10mほどの位置に、ゲツは掴まっていた。
幸い、なんとかよじ登ることはできそうだった。
ゲツは岩肌の出っ張りを伝い、崖から這い出た。
狭かった一気に視界が開ける。
その瞬間、彼は目撃した。
「なっ……!?」
「何だこれ……どうなってんだよ!?」
彼が目撃したもの——それは、
「け、景色が……まるで違うぞ!!」
草が枯れ果てた赤色の大地、渦を巻く空……そして、
「なんだよこれ……!!?」
そこに直立する男の姿だった。
「何で僕の世界にいるんだ……何で……」
男がゲツを指差した。
「ここは僕の楽園なんだ……お前は邪魔なんだよ!!」
裏返った声で男は叫んだ。その瞬間、男を中心にして、放射状に亀裂が走った。
(もしかして、あいつが……この世界を創った張本人か!?)
ゲツは男を凝視していた。男が小さく唸り歯ぎしりしながら、こちらを睨みつけているのがわかった。
(俺は部外者だから、あんなに怒ってんのかよ!)
「だったら、止めないと……なんとかして、あいつを止めないと!」
続く
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