天空の蒼鷲 ーされど地に伏す竜 ー

すだちかをる

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デトゥック村

囚われの身-Ⅶ-

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 そう言うと、老婆が俺らの前で小箱を開けて見せた。
 中には、飾り気のない銀色の指輪シルバーリングが入っていた。
 俺が聞くより先に、ナルシャが尋ねる。

「これを嵌めると、どうなるのですか?」

 老婆は首を振り「分からん」と応えた。
 続けて「試しに何度か自分自身で嵌めて見たものの、何も起こらなかった」と言う。
 そこに当然、一つの手が伸びて指輪をさらった。
 見ると大剣の少女が自分の左手中指にそれを嵌め、空にかざし眺めている。
 
「なんだ、やっぱり何も起きねぇな」

 少女は暢気な声を発したが、ナルシャは直に少女の手を掴み強引に指輪を外すと困惑気味に叱責する。

「エリシア、あっあなた、何を考えているのですか!?」

「大丈夫だって、ナルシャ姉。婆さんが嵌めても何も起こらねぇんだから」
 
 けれど少女は悪びれた表情一つ見せず、それよりも指輪を慎重に扱うナルシャを横目に、
「まぁ、こいつはどうか分からねぇけどな」と俺を鼻で笑った。
 老婆が、ナルシャを見据えた。
 
「さあ、そやつにそれを嵌めておやり。それまでこの部屋からは出さないよ」

 その言葉と共に、大男が静かに部屋の入口に身を寄せ仁王立ちした。
 ナルシャが俺と指輪を交互に見ながら、どうすべきか迷っている。
 意を決して「嵌めますよ」の声に、俺は思わず生唾を飲んだ。
 するりと左手薬指に指輪が嵌められる。
 しかし何も起きず、俺が安堵の息を吐いた時、それは起こった。
 不意に激痛が指に走ると、指輪を嵌めている薬指から血が垂れてきた。
 直後に指輪が眩い光を帯び、表面に数字や記号やらがおびただしく流れ出す。
 数泊置いてそれが止むと、今度は女性の声を模した機械的な警告音アナウンスが鳴り響いた。
 
『血液認証エラー。
 アクセスコード不可により、仮登録実行・・・・・・
 新規ユーザー、長谷川ショウスケ、十七歳、男性。
 出身地は日本。
 仮登録者は能力スキルの使用が大幅に制限されますので、ご注意ください』
 
 そう言い残し、警告音はピタリと止んだ。
 一瞬の静寂、それを老婆のしわがれた声が引き裂く。
 
「やはり、お主は只者ではなかったようじゃな」

 俺は言葉に詰まった。
 そもそも、俺自身、この状況を理解していないのだから。
 老婆の手が俺の指輪へと伸ばされる。
 しかしナルシャの手がそれを阻み、老婆は訝しげな目で尋ねた。

「ナルシャよ、何じゃこの手は」
 
「ヤントゥム様こそ、この方をどうなさるおつもりですか?」
 
 再びナルシャと老婆が対峙した。
 互いに厳しい表情で見据え、老婆が困ったように息を吐く。
 
「お前も聞いたじゃろう? 
 こやつは日本から来た者だと。
 しかも魔方陣無しで指輪あれを起動させるのは、あたしの経験上、普通の者であるはずがない。
 故に、今のうちに処分せねばなるまいて」
 
 処分という言葉に俺の顔は強張ったが、ナルシャは違った。
 俺と老婆の前に入り、庇う様に両手を広げてみせる。
 
「そんな事、絶対に許しません」
 
 ナルシャの強気な声に、とうとう老婆が声を荒げた。
 
「まさか、ナルシャよ。おまえ、この者にたぶらかされたのではあるまいな!」

  真意が分からないナルシャが片眉を吊上げ異を唱える。
 
「誑かすとは、どういう意味ですか」
 
「男女の契を結んだのか、ということじゃ」
 
 老婆が煩わしげに即答すると、意図を理解したナルシャの顔がみるみると赤くなった。
 言葉がたどたどしくなるも、伏せ目がちに「そ、そのような事はしてません!」と応える。
 老婆が尚も問う。

「なら何故、先ほど会うたばかりの男を庇うのじゃ」

 「それは・・・」と言いかけて、ナルシャの目が急にぐるりと回り白目になった。
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