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デトゥック村
囚われの身-Ⅷ-
しおりを挟むかと思うと力が抜けたように体が重心を失い、前のめりに倒れ込む。
驚いた俺がナルシャを屈み見ると、しばらくして小さな寝息が聞こえてきた。
気絶している、だけか・・・
「すまねぇ、ナルシャ姉」
背後から声がして振り向くと、大剣の少女が申し訳なさげに頭を垂れていた。
手には小さな筒があり、それを一瞥した老婆が急に腰を屈め、ナルシャの首にかかった髪を払いのける。
首筋が露となり、そこには小さな棘が刺さっていた。
「これは・・・モルスプルの麻酔針だね?」
尋ねられた大剣の少女が小さく頷いた。
そして徐に俺らの前まで歩み寄ると、ナルシャを抱き起こし肩に担いだ。
少女は俺を横目に「後は好きにしてくれ」とだけ老婆に告げ、そのまま出口に向かう。
そこには大男が仁王立ちしていたが、直ぐに老婆の目配せで横に逸れて道を開いた。
無言のまま少女は大男を横切り、そのまま部屋を出ると屋敷の中へと消えて行った。
「さぁ、あんたはこっちだよ。早く立ちな」
残された俺に老婆が煩わし気に声をかけた。
腰を上げると、さっきまで入口に居た大男が目の前に立っていた。
「裏の穴倉に連れて行きな」
老婆の命令に大男が俺の肩に手をかけるが。
「自分で歩けるから、触んな!」
俺は体を揺すり、頑なに拒絶した。
何故か自分でも不思議なほど膨れ上がった二人への嫌悪感。
あからさまな俺の態度の変化に、老婆が大きな溜息を吐く。
「・・・やれやれ。どうなってるんだい、まったく」
自分がこの先、どうなるかなんて分からない。
ただ今はナルシャの事が気になりつつも、この二人に連れられて部屋を後にする他なかった。
老婆とは家の中で別れ、俺は大男に連れられて屋敷を出た。
薄暗い空は何時の間にかその色を濃くしており、雲は無数の星に代わっていた。
門柱の松明が足元を照らして、俺の影が揺らめく。
大男の太い腕が松明を手に取り、無愛想に「こっちだ」と顎で指示を出した。
言われるまま、俺は先導する大男の後ろを歩く。
・・・このまま逃げ出そうか。
両手は後手に拘束されたままだが、辺りは幸いにもこれから更に暗くなる。
隙を見て逃げ出し、何処かに隠れてしまえば、どうにかなるかもしれない。
けれど仮にそれが巧くいって、その後はどうする?
それに・・・
ふとナルシャの顔が頭を過ぎる。
あんなに俺の事を庇ってくれた彼女を裏切るようで、罪悪感が滲み出した。
俺は迷いを振り払った。
彼女は俺に言った。
身の安全は保障する、と。
この世界で今、唯一信じられる人間がそう約束してくれたんだ。
信じないで、どうする。
意を決めた俺が知らずに俯いていた顔を上げると、その拍子で何かにぶつかった。
急に立ち止まった大男の背中だ。
歩みを止め、頭を擦る俺に大男は背中越しに告げる。
「此処に入れ」
見ると地に成人男性一人がようやく入れる程度の重厚な扉があった。
所々錆付いてはいるが頑丈な閂が掛けられている。
大男が片手で閂を外し、扉に手をかけた。
金属の擦れる音がして、分厚い扉が開いていく。
扉が完全に開き、俺は中を覗き込む。
中は真暗で何も見えず、カビ臭い異臭で思わず咽た。
大男が松明で中を照らすと、驚いた数匹の鼠が地を這って出てきた。
ぼんやりと中が見えた。
四方が土壁で、広さ六畳程の特に何もない空間。
不意に後ろで小さな音がした。
と同時に拘束が解け、俺の両手が自由になる。
振り返ると大男が手にした松明を俺に差し出していた。
「あとで食事を持ってくる」
松明を受け取った俺にそう言うと、大男は中に入るよう促した。
長時間拘束されていたせいか、両肩が痛い。
俺は肩を丸めるようにして中に入っていく。
奥まで入ると大男は扉を閉め、次いで閂を挿す音が聞こえた。
外の足音が遠のいていく。
やがて完全に人の気配が消えると、外光が失われた部屋は俺と松明の僅かな光だけが残った。
俺は松明の火が消えぬよう、そっと床に置いた。
壁に背を預けるように座り込むと、生暖かい風がベタつく頬を撫でた。
・・・どうやら空気は通っているみたいだな。
窒息死する心配がなくなり、暫く朧げに松明の火を見つめていると・・・
「ナルシャは、大丈夫だろうか」
何故かそんな言葉が、俺の口から零れていた。
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