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デトゥック村
エリシアの決断-Ⅲ-
しおりを挟む広間に戻ると、大勢の村人が集まっていた。
足を踏み入れた婆さんとアルドフのおっさんを見て、村人たちが道をつくる。
先を歩く婆さんが部屋の中央に座し、その横にアルドフのおっさんが立つ。
後に続いたオレは、少し離れた所で部屋の柱に背を預けた。
やがて二人を取り囲むように村人達が人の輪を作り、座りだした。
村人は、男だけだった。
彼らの青ざめた表情をみるに、どうやら事の成り行きを少しは聞いているようだ。
女や子が居ないのは時間的に寝ているか、或いは連れて来なかったのだろう。
来た所で不安を煽るだけだから、この場に居ないのは正解かもしれない。
もちろん今から話し合うのは、SAWがこの村の近くまで来ている事実。
誰もが婆さんの第一声を固唾して待っていると、ようやくその重い口が開かれた。
「時間がないから、要点だけ言うよ。やつらが今、この村に向かっている」
村人達から、ざわめきの声が生まれた。
不安が確信に変わり、焦りと恐怖が弾けたのだ。
混乱が渦巻く中、一つの怒号が響く。
「静かにしろ、長の話はまだ終わってないぞ!」
見ると、アルドフのおっさんが険しい表情で皆を見回していた。
静寂を取り戻した村人達に、婆さんが咳払いを一つ挟み、再び口を開いた。
「詳しくは分からないけどね。
やつらを目撃した行商の話によれば、数にしておよそ八十。
数刻でデブン川を渡り、明け方頃にこちらへ着くそうだよ。
・・・奴らの足が遅くて幸いしたね。
これから皆の者は、家に帰って必要な物だけ荷造りをしておくれ。
それからバルドルの街へ向か」
「ヤナンの村は、どうなるんだ?」
婆さんの言葉を、とある少年の声が遮った。
村人の視線が一斉に彼に集まる。
そこには、灰色の短髪をした歳にして十五程度の少年が座していた。
この村の住人、カッシムだ。
カッシムは深緑の瞳で婆さんを見据え、尚も問う。
「ヤナンはデブン川を渡ったすぐ近くにある。
数刻で奴らが渡れるんなら、村の人達に逃げる時間はほとんど無いはず。
彼らを見捨てろと言うのかよ」
「ヤナンも既にこの事は知っておろう」
上手く逃げているはずじゃと婆さんが力強く応えるも、「無理だ」と叫び、カッシムは立ち上がった。
輪の中央に歩み出て、村人たちを見回し言い放つ。
「助けに行こうぜ!
ヤナンの村人は、長い付き合いのある俺達の同士だろ?」
けれどその声は、静寂を引き裂かなかった。
皆俯いたまま、誰一人として目を合わさず無言を貫く。
カッシムは舌打ちし、「臆病者どもめ!」と吐き捨てる。
「やめんか、カッシム!」
婆さんの声にカッシムが振り向いた。
座した婆さんが厳しい表情で彼を見つめ、さらに警告する。
「お前は奴らの恐ろしさを知らないからそう言えるんじゃ。
・・・大丈夫じゃ、ヤナンの村長も無理な事はすまい。
早急に村の者を避難させておろう」
そして婆さんの声は、村人達の静寂を切り裂いた。
頷く者や同意する者たちの声が次々と湧き上がる。
カッシムの手が、震えているのが見えた。
怒りを押し殺すかのように握られた拳。
唇は強く噛み締められ、睨みつける様に婆さんを一瞥すると、
そのまま踵を返し足早に部屋を出ていこうとする。
途中、オレの肩にぶつかり目と目が合った。
その瞳の奥は怒りで燃え滾り、何かを覚悟したように見えた。
呼び止めようとしたオレの手を払いのけ、カッシムは部屋を出ていく。
視線を戻すと、婆さんが首を振った。
「放っておけ、あやつもメイアの事が気になって苛立っておるのじゃ」
メイアは、確かカッシムの恋人でヤナンの娘だったはず。
・・・なるほど、気が気じゃないはずだ。
しかしカッシムには悪いが、婆さんの言う事は正しい。
戦いに慣れていないこの村の男だけで、奴らに挑むなんて無謀すぎる。
ここはやはり、速やかに避難した方がいいだろう。
「それじゃあ、すまないけど皆準備を急いでおくれ」
婆さんの掛け声とともに、村人が一斉に立ち上がり足早に部屋を後にする。
皆が居なくなり、オレと婆さん、そしてアルドフのおっさんが残った。
オレもナルシャ姉の様子を見に部屋に戻ろうして、急に婆さんに呼び止められた。
「エリシア、あんたはちょっとお待ち」
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