天空の蒼鷲 ーされど地に伏す竜 ー

すだちかをる

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名もない平原

馬車は揺れる-Ⅰ-

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 夜闇を照らす満天の星空を一台の馬車が走る。
 その御者台には、風に荒々しく髪を靡かせ手綱を操る大男。
 そして荷台には俺と、目の前で横たわるナルシャがいる。
 揺れる馬車。
 寝付けない俺は穏やかな顔で寝入るナルシャをただ見つめていた。
 ふと、窓から外を見る。
 何もない平原。
 夜風がふわりと頬を撫でた。
 生暖かい。

「眠れないのですか?」

 不意に声がして振り向くと、目覚めたナルシャが体を起こそうとしていた。

「寝てないと駄目だろ」

 俺が止めようとするも、それをか細い手で拒絶する。
 
「大丈夫です、もう随分と楽になりましたから」

 そう言い、ナルシャは被っていた毛布を羽織り馬車の壁に上体を預けた。
 暫しの、沈黙。
 そして静寂を切り裂こうとお互いの声が重なる。

「あの」
「あのさ」

 互いの目が合う。
 するとナルシャの口元が緩み、クスッと笑い声が漏れた。

「そちらから、どうぞ」

 促された俺は徐に口を開く。

「何て言うか、あの・・・さっきは、ありがとな」

「えっ」

 ナルシャが一瞬きょとんと目を丸くした。
 しかしすぐに意図を察して俺を気遣う。

「あなたが気になさる必要はありません。私がしたくて、したことですから」

 そう何事でもなかったように振舞い、ナルシャは垂れた前髪を耳にかけ微笑んだ。
 けれどその瞳の奥には、どことなく影が揺らいで見えた気がした。
 俺は、ナルシャに一番聞きたかった質問をぶつけた。

「何で、そんなに俺をかばうんだ?」

 ナルシャが明らかに戸惑った表情をした。
 そしてふっと視線を逸らし、はぐらかす。

「それよりも、何故私たちは馬車の中に?
 エリシアやヤントゥム様はどこにいらっしゃるのですか?」

 ・・・言えないのか、それとも言いたくないのか。
 黙って見つめたままの俺に、ナルシャは目を合わそうとはしない。
 仕方がない。
 俺は息を一つ吐き、ナルシャの質問に応えた。

「俺も詳しくは知らないけど、SAWってのが村まで来て」

「なんですって!」

 俺の言葉を遮り、ナルシャの荒ぶる声が飛んできた。
 表情がみるみると険しくなり、俺に問い詰めてくる。

「村は、・・・デトゥック村は大丈夫なのですか?」

 そう言われても・・・
 事情を知らない俺は、只々この馬車に乗せられてるだけ。
 何て応えていいのか分からず言葉をあぐねる俺に、今度は御者台の大男から言葉が飛んで来た。

「案ずるな。村の者は既に避難している」

 抑揚のない淡々とした口調。
 けれど、ナルシャを安心させるには充分だった。

「それは良かった・・・」

 ほっと胸を撫でおろすナルシャから安堵の声が零れる。
 ただ大剣の少女と婆さんがいないのだけが、まだ気にかかる様で・・・

「それで、ヤントゥム様とエリシアは?」

 ナルシャが俺と御者台の大男を交互に見る。
 もちろん事情を知らない俺は返す言葉もなく、その問いに応えたのは、当然の如く大男の方だった。

「エリシアは、ヤントゥム様の転送魔法で先にバルドルにいる。
 飛空隊スカイキーパーをヤナンに向かわせるためだ。
 長は・・・カッシム達を追ってヤナンに向かった」

 ヤナン。
 やはり別際あのとき、婆さんが最後に言った言葉はヤナンだったか。
 そして、大剣の少女は援軍要請。
 ・・・だから二人とも居ないわけだ。
 そう俺が一人納得している横で、何故かナルシャの顔がみるみると青ざめていく。
 困惑。
 不安。
 そう言った言葉を全て飲み込んだような表情。
 そしてそれを吐き出すかのように、震えた声でナルシャがアルドフに問いかけた。

「ヤントゥム様は、・・・どうやってヤナンに向かわれたのですか?」
 
 ・・・大男は何も応えない。
 静寂。
 ナルシャが再び、尋ねる。
 今度は緊迫した空気を裂くような叫び声で。
 
「アルドフ様、お答え下さい。
 ヤントゥム様は、どうやってヤナンに向かわれたのですか!」
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