幽霊さんと私

アン

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自由エンド

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「何処かに行こうと思う
この家にもう用は無いしな
犯人は…見付けたら見付けたで、その時の気分に任せるさ」

「…うん、分かった
えへ、寂しくなるねぇ
元気でね」

「寂しいなら、一緒に来れば良い」

「…ありがとう、でもごめんね
お留守番してなきゃ
良い子で待ってたら、また褒めて貰えるもん
悪い子になったら、もっと嫌われちゃう」

「こんな所に子供一人置いて行ったら、私が悪者だと思われて仕舞うね」

「あ、うぅ…でも…」

「はぁ…
君の両親は、隠れていろと言ったんだよな」

「うん」

「留守番しろ、とは言ってないじゃないか」

「でもっ!」

「君はどうしたいんだ」

「私、は…
待ってなきゃ
お母さん達が戻って来るまで、待ってなきゃ」

「どうしたいかを訊いたんだ
親どうこうじゃなく、君に訊いたつもりなんだが
そりゃ、いつかは思い出すかも知れない
だからと言って、あいつらが迎えに来る保証なんて何処にも無いだろう」

「そんな訳無いもん…良い子にしてるもん」

「…じゃあ其れで良い
…こうしよう

「え?」

「あいつらが戻るまで暇だろうから、少しだけ一緒に出掛けていよう」

「少しだけ…
うぅん、でも…」

「大丈夫だ、怒られやしない
いつか会えたら、僕から伝えておくよ
この子はずっとお利口さんでしたよ…って」

ええ、とてもお利口さんでしたよ
死んでもお前達の言い付けを守る程に、お利口さんでしたよ

「…怒られない?」

「嗚呼」

「絶対に怒られない?」

「絶対に、だ
…僕の言葉は信じられないかい?」

「う…
じゃあ信じるよ、信じるからね!」

一回りも二回りも歳下の相手を言いくるめるのは、少々卑怯なのかも知れないが…

未だ躊躇している子供を再度抱き上げ、外へ歩き出す

「…暗いね、怖いね」

「怖い?何故?
屋根裏の方が余程暗いだろう」

「だって、この道お化け出そう…
…ん?あれ
あっ、そっかぁ!
幽霊さん怖くないもんね、じゃあ大丈夫!」

「ふふっ
まあそのくらい正直な方が子供らしいさ」

頭を撫でる
乱れ切った髪は、余りに過酷な現実を物語っていて…
その中でこの子が壊れず笑顔を見せているのは、奇跡なのかも知れない

「ねえねえ、何処に向かってるの?」

「ここを突っ切った所に劇場があるんだ」

「劇?
…あっ!
もしかして、幽霊さんの…」

「仕事をしていた所さ
この時間は鍵が閉まっていて、誰も入れない筈だ
…君は、貸切の素晴らしさを知らないだろう?
誰にも邪魔されず、君だけのために創られる世界を」

「私だけ…?私だけ…ほぁ…すごぉい…」

「最高の演劇を見せると約束しよう」

「幽霊さんのお話が聞けるの?
やったぁ…!
私ずっと楽しみにしてたんだよ!」

「どんな話が良い?
お姫様に王子様、魔法使い、海賊だって、何でも出来る
何て言ったって、この街…いや
この世界で一番の役者だからね」

「わぁぁっ!
えぇと…えっとね、迷うなぁ…」

「じゃあ全部にしようか
どうせ時間は死ぬ程あるんだから」

娘、ではない
自分を殺した奴等の子供を、そういう風に見られない

かと言って…良き理解者を手放せる程、僕は聞き分けの良い大人でもない

やりたかった…やり残した事…
一番に見せるなら君が良いと思った

思えば、生前は仕事としてのやり方に疲れ…
何かに追われるよう、役を演じていた気がする

そう考えると、あいつらに感謝…
…は流石にしないが
まぁ、これも運命だったのだろうと思えてくる

「…地図によると、あの島に宝が眠っているらしい」

「…んふっ!
大変だ船長、毒蛇がいっぱい追い掛けて来たぞー!」

「急げ、走れ!」

「きゃー!きゃははっ」

さあ二人の物語を
僕達はもう自由だ
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