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セイレーン
しおりを挟むおや、不思議な歌声が聴こえてきますね
遠い海の果て、人気の無い孤島
こんな場所で歌っているのは誰でしょう?
太陽を背に高く飛んでいるせいか、その姿を捉える事は叶いません
…おや、歌声に誘われて一隻の船が近寄って来ましたよ
ええ、ここまで話せばお察しの方も居るでしょう
あの怪異の名はセイレーン
船人を惑わし、船を沈める魔性の鳥です
この海域に迷い込んだのが運の尽き
あの船はもう駄目ですね、諦めましょう
…嗚呼、御心配なさらず
私達が沈められる事はありません、船人ではありませんから
ほら、耳を澄ませて聴いてみて下さい
なんて物悲しく美しい歌声でしょう
何か訴え掛けるよう、必死に歌っています
そうなのです
『歌』とは言いましたが、彼等セイレーンにとってあれはあくまで会話…言葉に過ぎません
沈める悪意など毛頭無く、ただ船を呼び止めようとしているだけなのです
あのセイレーン達も、嘗ては善良な人間でしたから
さぞ無念だったでしょう
ある者は、島民に襲われ、仲間達は彼を見捨てて出航し
ある者は、漂着した先で故郷を夢見ながら飢え死にし
またある者は、勝てもしない戦のためにこの海に沈み
どれ程高く飛べようとも、遠くへは飛べない
人間が当たり前に持つ郷愁が、新たな被害者を生む
嗚呼…なんて切なく虚しい歌声なのでしょう
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