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本編 18.12 - 19.03
最終(改稿済み)/2053/ファンタジー・ホラー
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最終列車が駅を出た。末端にある無人駅には在駐ではない駅員が見回りに来るが、戸締りもせず立ち去っていく。始発が来るまでの約三時間半、鉄道会社の職員は誰一人としてここを訪れることは無い。
改札と呼べるほどの改札ではない改札を、一人の男がICカードをかざして通過した。20代前半に見える男は誰かに操られているかのように跨線橋を渡り、島式ホームへと向った。数分後、寝静まった夜の街中──と言っても、駅は街の南端だが──に踏切の音が響いた。静かに2番線、下りホームに滑り込むと、列車は男の数メートル先で止まった。常識的に考えればこの各駅停車と示された列車は回送で、その先の車庫に向かうはずだ。たった2輌しかない普通電車の乗務員室から、少年が顔を出した。
「何してるんですか? こんな時間に。」
少年の問いかけに、男は無言で答える。目の焦点は合わず、無表情のまま真っ直ぐ前を向いていた。
「お客さぁん!聞いてますかぁ?!」
少年の声が耳に届き、彼は焦点を少年の顔に合わせた。
「……え?」
「『え?』っじゃなくて。こんな時間に、ここで何してるんですか?」
間を開けずにさらに少年が問う。
「あれ……?俺、何してたんだ……?」
何かを待つように、今度は少年が無言を貫く。十数秒後、記憶の底を探っている彼の前で、少年はさらに続けた。
「あなたは、もっと重要なことを2つ、忘れていますよ。ここに来る前に、どこで何をしていたのか。それと──」
声のトーンを低く変えた少年の残した余韻が消える前に、彼は記憶を取り戻し、何を見つめるでもなく目を見開いた。
「お久しぶりです。お迎えにあがりました。」
黒髪の少年はにこやかに笑うと、彼の目の前のドアだけを開けた。
「|12年前[あの時]のキップ、上着の内ポケットに入れておきました。」
彼は内ポケットに手を入れながら扉の向こうに踏み入った。12年前に破り捨てたはずの穴あきキップは新品に戻っていたが、日付は変わっていなかった。
1両目に入ると、彼に近い年齢の男と少年と同じ年頃の少女が賑やかにトランプで遊んでいた。
「仕事してください。」
少年の言葉に少女が反応し、抱えていたポーチから改札鋏を取り出し緑色のキップに穴を開けると、定型文を口にした。
「えーっと、『このキップはトンネルの直前まで有効です。引き返す場合はキップを破り捨てるなどすれば無効になりますが、少々面倒なことになりますのでご遠慮ください。』……っと。」
軽く礼をして彼の前を立ち去ると、再びジジ抜きを開始した。
安全確認をして、少年はゆっくりと車両を前に進めた。進む先にあるのは郊外にある車両基地と整備工場のみで、客を乗せて向かうような場所ではない。真っ暗な車両基地の転車台に止めると、少年は運転席を出た。スタスタと車両を横切り2両目の運転席に入った。それに気づきジジ抜きを継続したまま後部車両に移動する少女と先客の男を見て、彼も座る位置を変えた。
逆方向にゆっくりと、闇の中を進む。駅には戻らず、どこかでポイントを切り替えて農地の中を真っ直ぐに進んだ。ただひたすらに傾斜を登る列車に、近づきつつある星空に12年前の彼は恐怖を感じた。迫り来る恐怖から逃れるためにあの時、キップを破り捨てた。
ゴー……、と、低い音が車内に響く。列車が止まることはなかった。彼は現状を、運命を受け入れてしまった。もう、戻ることはできない。
トンネルを抜けると、彼の体は少し、軽くなっていた。澄み渡った川岸を、上流方向に真っ直ぐと進んでいく。急角度に曲がった川を列車が横切った。渡り終えた時には『彼』の姿は消えていて、代わりに座っていた場所に緑色のキップが落ちていた。
『彼』が消えたのを確認すると、少年は近くの停車場の待避線に列車を止めた。『彼ら』は大きく伸びをした。深呼吸をして外の空気を肺に収めると、二人は男の ── 僕の目を見つめた。
「うん。合格だ。」
僕の言葉で、弾けるように喜びを示した。僕は少年の代わりに運転席に座り、待避線を離れた。二代ほど古い車両を車両基地に停めて列車を降り、本部へ歩いた。昇級申請を済ませ証明書を受け取ると、そのまま我が家へと向かった。
──死神はいくつかの種類に分けられる。1つ、|現世[うつしよ]に執着した死者を引き剥がす者。2つ、死者を|幽世[かくりよ]へ導く者。
──そして、『悪魔』と呼ばれる、現世から生者を狩る物。
*
西暦2082年秋。当時小学一年生だった僕は、一人だけで下校し、警戒もせず青信号を進んだ。何かが襟に引っかかったような違和感を感じたが、身体はそのまま進んで行く。身体だけは。中身を抜かれた身体はそのまま進み、赤を無視した乗用車に突っ込まれた。その数メートル後ろで、その一部始終を見た。『僕』を殺した白いワンボックスのナンバープレートも、紅く染まった遺骸が運ばれる所も。
隣に、白い男が立っていた。白い手袋で僕を抱えると、青空へ向かって飛んだ。彼は『悪魔』だった。
転生局の記録では、白い悪魔は現世へ逝ったという。
僕は、悪魔を狩り続けている。
改札と呼べるほどの改札ではない改札を、一人の男がICカードをかざして通過した。20代前半に見える男は誰かに操られているかのように跨線橋を渡り、島式ホームへと向った。数分後、寝静まった夜の街中──と言っても、駅は街の南端だが──に踏切の音が響いた。静かに2番線、下りホームに滑り込むと、列車は男の数メートル先で止まった。常識的に考えればこの各駅停車と示された列車は回送で、その先の車庫に向かうはずだ。たった2輌しかない普通電車の乗務員室から、少年が顔を出した。
「何してるんですか? こんな時間に。」
少年の問いかけに、男は無言で答える。目の焦点は合わず、無表情のまま真っ直ぐ前を向いていた。
「お客さぁん!聞いてますかぁ?!」
少年の声が耳に届き、彼は焦点を少年の顔に合わせた。
「……え?」
「『え?』っじゃなくて。こんな時間に、ここで何してるんですか?」
間を開けずにさらに少年が問う。
「あれ……?俺、何してたんだ……?」
何かを待つように、今度は少年が無言を貫く。十数秒後、記憶の底を探っている彼の前で、少年はさらに続けた。
「あなたは、もっと重要なことを2つ、忘れていますよ。ここに来る前に、どこで何をしていたのか。それと──」
声のトーンを低く変えた少年の残した余韻が消える前に、彼は記憶を取り戻し、何を見つめるでもなく目を見開いた。
「お久しぶりです。お迎えにあがりました。」
黒髪の少年はにこやかに笑うと、彼の目の前のドアだけを開けた。
「|12年前[あの時]のキップ、上着の内ポケットに入れておきました。」
彼は内ポケットに手を入れながら扉の向こうに踏み入った。12年前に破り捨てたはずの穴あきキップは新品に戻っていたが、日付は変わっていなかった。
1両目に入ると、彼に近い年齢の男と少年と同じ年頃の少女が賑やかにトランプで遊んでいた。
「仕事してください。」
少年の言葉に少女が反応し、抱えていたポーチから改札鋏を取り出し緑色のキップに穴を開けると、定型文を口にした。
「えーっと、『このキップはトンネルの直前まで有効です。引き返す場合はキップを破り捨てるなどすれば無効になりますが、少々面倒なことになりますのでご遠慮ください。』……っと。」
軽く礼をして彼の前を立ち去ると、再びジジ抜きを開始した。
安全確認をして、少年はゆっくりと車両を前に進めた。進む先にあるのは郊外にある車両基地と整備工場のみで、客を乗せて向かうような場所ではない。真っ暗な車両基地の転車台に止めると、少年は運転席を出た。スタスタと車両を横切り2両目の運転席に入った。それに気づきジジ抜きを継続したまま後部車両に移動する少女と先客の男を見て、彼も座る位置を変えた。
逆方向にゆっくりと、闇の中を進む。駅には戻らず、どこかでポイントを切り替えて農地の中を真っ直ぐに進んだ。ただひたすらに傾斜を登る列車に、近づきつつある星空に12年前の彼は恐怖を感じた。迫り来る恐怖から逃れるためにあの時、キップを破り捨てた。
ゴー……、と、低い音が車内に響く。列車が止まることはなかった。彼は現状を、運命を受け入れてしまった。もう、戻ることはできない。
トンネルを抜けると、彼の体は少し、軽くなっていた。澄み渡った川岸を、上流方向に真っ直ぐと進んでいく。急角度に曲がった川を列車が横切った。渡り終えた時には『彼』の姿は消えていて、代わりに座っていた場所に緑色のキップが落ちていた。
『彼』が消えたのを確認すると、少年は近くの停車場の待避線に列車を止めた。『彼ら』は大きく伸びをした。深呼吸をして外の空気を肺に収めると、二人は男の ── 僕の目を見つめた。
「うん。合格だ。」
僕の言葉で、弾けるように喜びを示した。僕は少年の代わりに運転席に座り、待避線を離れた。二代ほど古い車両を車両基地に停めて列車を降り、本部へ歩いた。昇級申請を済ませ証明書を受け取ると、そのまま我が家へと向かった。
──死神はいくつかの種類に分けられる。1つ、|現世[うつしよ]に執着した死者を引き剥がす者。2つ、死者を|幽世[かくりよ]へ導く者。
──そして、『悪魔』と呼ばれる、現世から生者を狩る物。
*
西暦2082年秋。当時小学一年生だった僕は、一人だけで下校し、警戒もせず青信号を進んだ。何かが襟に引っかかったような違和感を感じたが、身体はそのまま進んで行く。身体だけは。中身を抜かれた身体はそのまま進み、赤を無視した乗用車に突っ込まれた。その数メートル後ろで、その一部始終を見た。『僕』を殺した白いワンボックスのナンバープレートも、紅く染まった遺骸が運ばれる所も。
隣に、白い男が立っていた。白い手袋で僕を抱えると、青空へ向かって飛んだ。彼は『悪魔』だった。
転生局の記録では、白い悪魔は現世へ逝ったという。
僕は、悪魔を狩り続けている。
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