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本編 18.12 - 19.03
メモと松明/1547/ホラー
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始まりは、私立図書館だった。建てられてから少なくとも10年は経っているだろうか。ところどころ塗装が剥げ、色もくすんでいる二階建ての白い図書館。
p
初夏、疎らに蝉の声が聞こえる夏休みの4日前。僕と稀(のぞみ)は二人で図書館に潜り込んだ。
出入りする人を見たのは数回。夜、電気が付いているのは1度見たが、その周辺で催しはなく、賑わったりもしなかった。「汚い」「不気味」と敬遠している友達や両親の反対を押し切ってその図書館に入った。
受付カウンターで本を読んでいる青年がいた。隠れるように入り込んだ僕らを気にすることもなく、ただ本を読んでいた。人形との違いを挙げれば、瞬きをする、ページをめくるくらいだ。ロボットにでもできる動作。もしかしたら、精密なヒューマノイドだったのかもしれない。
汚いのは外観だけだった。床や本棚は掃除され、本も整理されている。僕らは揃えられた背表紙の間を歩いた。行き止まりは、文学の棚だった。そこで親友であり悪友の彼が、1枚のメモを見つけた。題名のない本に挟まっていた、小学生の掌から少しはみ出る程の大きさの紙だ。 少し古い、左開きの本。「p'36」「p'39」の間にあった。付け根から破れているページがいくつかあった。
次の日、ノートと筆箱を持って同じ場所を訪れた。受付カウンターには、昨日の青年がほとんど同じ姿で、昨日よりも分厚い本を読んでいる姿があった。邪魔をしたらどうなるか。追い出されたりして、せっかく見つけた謎を取り上げられてはつまらない。彼の前では、音を立てないように動いた。
メモにあった手がかりと本から、2週間余りで解読できた。幸いにも、その図書館にある本の範疇だった。その中の一つは『秋原 霞(あきはらかすみ/あきばらかすみ)』だった。その他は他の情報を解くための手がかりのようで、それ自体に意味があるようには見えなかった。
5年後、僕と稀はその図書館が閉鎖されている事を知った。市外の高校に進学したため、あの時から1度も図書館を訪れていなかった。割れて枠だけになっている窓から中に入ると、整理されていた本はなく、カウンターにいる青年の姿も消えていた。
校内の『ミステリー同好会』にメモを渡してから数日後、とある場所に関係があるらしい、との返答があった。台風が雲を連れてさり、快晴を迎えた日、僕と彼は電車を乗り継いで、北関東と南東北の境を示す『西岳』の北の麓にある廃坑を訪ねた。
e
少年二人が生き埋めになり死亡。そんなニュースが街頭テレビに現れたのは東京区部で日中の気温が過去最高を更新した日だった。半分が土に埋もれ、野生動物に荒らされた形跡が残る荷物が手がかりだった。16才の二人の死体は腐りきっていて、その所持品から、片方が『木沢稀(きざわ・のぞみ)』であり、同時期に行方不明となり深い交流があったことから、もう一人は『片品友(かたしな・ゆう)』と推測された。一人の手の中の紙には『青年』の祖母、秋原霞の名があったという。
p
今回ばかりは、彼らの牽制に従うべきだった。秋原霞の謎も解けず、懐中電灯も使えなくなった。廃坑に潜り込んで知った事は多くなかった。雨上がりは、地盤が緩んでいる。そんな時に地下深くへと潜った。瞼が開いているのかさえ分からないほど暗くても、二人で潜った廃坑には僕一人の気配しかないことは分かる。まだ暖かい稀のそばでうずくまり、僕の意識は消えた。
ここに来て僕らが知ったのは一つ。自らの死期だ。
ø
パタン、と本を閉じる。『メモと松明』と書かれた表紙に目を落とすと、彼は数時間前から背を向けている本棚にその本を戻した。
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初夏、疎らに蝉の声が聞こえる夏休みの4日前。僕と稀(のぞみ)は二人で図書館に潜り込んだ。
出入りする人を見たのは数回。夜、電気が付いているのは1度見たが、その周辺で催しはなく、賑わったりもしなかった。「汚い」「不気味」と敬遠している友達や両親の反対を押し切ってその図書館に入った。
受付カウンターで本を読んでいる青年がいた。隠れるように入り込んだ僕らを気にすることもなく、ただ本を読んでいた。人形との違いを挙げれば、瞬きをする、ページをめくるくらいだ。ロボットにでもできる動作。もしかしたら、精密なヒューマノイドだったのかもしれない。
汚いのは外観だけだった。床や本棚は掃除され、本も整理されている。僕らは揃えられた背表紙の間を歩いた。行き止まりは、文学の棚だった。そこで親友であり悪友の彼が、1枚のメモを見つけた。題名のない本に挟まっていた、小学生の掌から少しはみ出る程の大きさの紙だ。 少し古い、左開きの本。「p'36」「p'39」の間にあった。付け根から破れているページがいくつかあった。
次の日、ノートと筆箱を持って同じ場所を訪れた。受付カウンターには、昨日の青年がほとんど同じ姿で、昨日よりも分厚い本を読んでいる姿があった。邪魔をしたらどうなるか。追い出されたりして、せっかく見つけた謎を取り上げられてはつまらない。彼の前では、音を立てないように動いた。
メモにあった手がかりと本から、2週間余りで解読できた。幸いにも、その図書館にある本の範疇だった。その中の一つは『秋原 霞(あきはらかすみ/あきばらかすみ)』だった。その他は他の情報を解くための手がかりのようで、それ自体に意味があるようには見えなかった。
5年後、僕と稀はその図書館が閉鎖されている事を知った。市外の高校に進学したため、あの時から1度も図書館を訪れていなかった。割れて枠だけになっている窓から中に入ると、整理されていた本はなく、カウンターにいる青年の姿も消えていた。
校内の『ミステリー同好会』にメモを渡してから数日後、とある場所に関係があるらしい、との返答があった。台風が雲を連れてさり、快晴を迎えた日、僕と彼は電車を乗り継いで、北関東と南東北の境を示す『西岳』の北の麓にある廃坑を訪ねた。
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少年二人が生き埋めになり死亡。そんなニュースが街頭テレビに現れたのは東京区部で日中の気温が過去最高を更新した日だった。半分が土に埋もれ、野生動物に荒らされた形跡が残る荷物が手がかりだった。16才の二人の死体は腐りきっていて、その所持品から、片方が『木沢稀(きざわ・のぞみ)』であり、同時期に行方不明となり深い交流があったことから、もう一人は『片品友(かたしな・ゆう)』と推測された。一人の手の中の紙には『青年』の祖母、秋原霞の名があったという。
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今回ばかりは、彼らの牽制に従うべきだった。秋原霞の謎も解けず、懐中電灯も使えなくなった。廃坑に潜り込んで知った事は多くなかった。雨上がりは、地盤が緩んでいる。そんな時に地下深くへと潜った。瞼が開いているのかさえ分からないほど暗くても、二人で潜った廃坑には僕一人の気配しかないことは分かる。まだ暖かい稀のそばでうずくまり、僕の意識は消えた。
ここに来て僕らが知ったのは一つ。自らの死期だ。
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パタン、と本を閉じる。『メモと松明』と書かれた表紙に目を落とすと、彼は数時間前から背を向けている本棚にその本を戻した。
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