SCRAP

都槻郁稀

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黒猫と魔女

ウォルシーの魔女/1085/ファンタジー

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ㅤ右手に触れたのは目覚まし時計ではなく、猫の頭だった。香箱座りをしていた彼女を、半ば強引にベッドの中に引きずり込む。けれど私のお腹はお気に召さないようで、暖を取りながら三つ数えるより早く、ベッドの外に逃げてしまった。

「起きろ」

声とともに私の楽園と外界を隔てる隔壁は引き剥がされ、暖かい空気は冬のワンルームの中に溶けて消えた。

「そんな子に育てた覚えはないんだけどな」
「僕も君に育てられた覚えはないよ」

生意気な……

ㅤ二度寝を諦め、出かける準備を始める。動きにくい正装を着て、窓から飛び出した。

「港の向かいだよ」
とカバンの中から声がする。入江の岸に建つ建物に向かった。

ㅤ飛ぶのは好きじゃない。反重力だけじゃなく、推進力や舵に関わる魔法も必要で、複雑だ。

「おはようございます」

降りるが早いか、正装をした初老の男が挨拶をする。私は彼に挨拶を返し、左右に割れた人の群れの間を、二人で並んで歩いた。

「儀式の準備は、市ができることはしておきました」
「助かるよ、それと」
「贄は市民儀式前の男女でしたよね。一応、確認を」
「ありがとう、ハンプソン」
「いえ、お礼を申し上げるのはこちらです、魔女様」

神殿の前には二人の子供と、その両親らしい男女がいた。

「何か病はありますか?」
「風邪程度でしたら、幾度か」

母親が答える
ㅤ人払いを、とハンプソン市長に言う。前市長とは違い、すぐに動いてくれた。

「では、お子さん、お借りします。それから、一週間だけは、この子たちを子供として見ないように」

二人は無言のまま会釈をし、人の群れの中に消えた。

「新年の神降ろしの儀式を執り行います。くれぐれも、神域に立ち入らないようお願いします」

私が正面に向かって深く礼をすると、騒々しかった見物人たちは、ピタリと黙った。
ㅤロッドの一端を石畳に突き立てる。胸の高さにある、青い宝石に両手を乗せ、決り文句を口にした。

「神よ、我らが願いに応えよ。ここに用意した〝代〟の中に、その御霊を預けよーー」

凡そニ分。数百と唱えた言葉は体が覚えていて、一字一句も間違うことなく、スラスラと口を出る。その間に、椅子に座った二人と私と、高い空の間に、いくつもの魔法陣が現れ、消える。

「問おう。我らが神は、我らが願いを聞き届けるか」

言い終え、目を伏せて跪く。
ㅤ聞き届けよう、と、子供の声が言う。そこにいるのは子供たちではなく、二人を依代に降りた、二柱の神だった。私は感謝と別れを述べ、その場を離れた。
ㅤ次に、覡長に側近の天使を降ろし、今日の仕事は終わった。毎年恒例の、動けなくなるようなひどい疲れに襲われる。

ㅤ大きく息を吐く。杖に乗り、空高く舞った。
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