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黒猫と魔女
黒猫と魔女/1037/ファンタジー
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ㅤ目覚まし時計が鳴り始める。布団の中からもぞもぞと手が伸びるが、3回に1回の割で、何故か僕の頭を掴む。そして、そのまま布団に引き込む。
ㅤ『魔法使い』として王宮で保護されてから長い間、一人で過ごしたらしい。今日くらいはのんびり過ごしてもいいかもしれない。幸いなことに、今日は何も予定が……
ㅤある!
ㅤ人化する勢いのまま布団を退ける。「寒……」と身体を丸めるニーナを叩き起こした。
「起きろ!9時には出ないと間にあわないって!」
「今日だっけ?」
「今日!」
予備動作なしで飛び起きると、あっという間に準備を済ませた。
「略装でいいよね」
「むしろ、正装は避けたほうがいいかも」
姿を変えてバッグの中に潜った。
ㅤ杖は塔より高く舞い上がる。ゆっくりと向きを変えると、東の山頂に立つ神殿へ、真っ直ぐに飛んだ。
ㅤ街を見下ろせるだけの高さがある場所だ。本宮が中腹に移されてからは、奥の宮まで来る人間はほとんどいなくなった。覡と物好きと、それから野生動物くらいだろう。本殿の裏の窓のない部屋には、二百年以上残る魔法陣がある。隅々まで描かれたそれは、彼女が描いた、彼女にしか扱えない代物。その中央に僕と彼女は立ち、魔力の渦を空に向けた。
ㅤ蠟燭の火が消え、代わりに辺りが明るくなる。先月喚んだ土地神とは別の神が立っていた。
「久しぶりだね、スピカ」
「もう一年ですね」
夏はいられなかったから、とノート神が言う。
「それで、今日は?」
「今日は定例報告だけです。半年前の書類は」
「読んだよ。オージンの子の世話もしてるんでしょ。忙しいのに悪いね」
「あれは副業みたいなものですから。まず、8月からは……」
ひと通りの報告を聞き終わると、あくびをしながら上を向いた。
「あ」
「はい?」
「いや、なんでもない」
彼が話をはぐらかす時、何か重要なことを忘れていることが多い。
「何かあるようなら」
「塔の壁を修復しとかないと、土地神さんが降りられなくなるかもしれない」
「塔の……そういえば、もう80年くらい経ちますか」
「うん。繋がりが切れると問題がね。基底陣だけでも今年中に」
「やっておきます」
ㅤニーナが立ち上がるのにつられて、ノート神も立った。別れの挨拶もしないまま、テーブルと椅子と一緒にどこかに消えてしまった。次に光が、最後に床が消えて、僕らは底まで落ちた。
ㅤ窓のない部屋の真ん中に、座り込んでいた。手持ち燭台に弱々しい炎が灯っている。あれだけ渦巻いていた濃い魔力は、清々しいほど消し飛んでいた。
ㅤ今日の午後くらいはのんびり過ごそう。
ㅤ『魔法使い』として王宮で保護されてから長い間、一人で過ごしたらしい。今日くらいはのんびり過ごしてもいいかもしれない。幸いなことに、今日は何も予定が……
ㅤある!
ㅤ人化する勢いのまま布団を退ける。「寒……」と身体を丸めるニーナを叩き起こした。
「起きろ!9時には出ないと間にあわないって!」
「今日だっけ?」
「今日!」
予備動作なしで飛び起きると、あっという間に準備を済ませた。
「略装でいいよね」
「むしろ、正装は避けたほうがいいかも」
姿を変えてバッグの中に潜った。
ㅤ杖は塔より高く舞い上がる。ゆっくりと向きを変えると、東の山頂に立つ神殿へ、真っ直ぐに飛んだ。
ㅤ街を見下ろせるだけの高さがある場所だ。本宮が中腹に移されてからは、奥の宮まで来る人間はほとんどいなくなった。覡と物好きと、それから野生動物くらいだろう。本殿の裏の窓のない部屋には、二百年以上残る魔法陣がある。隅々まで描かれたそれは、彼女が描いた、彼女にしか扱えない代物。その中央に僕と彼女は立ち、魔力の渦を空に向けた。
ㅤ蠟燭の火が消え、代わりに辺りが明るくなる。先月喚んだ土地神とは別の神が立っていた。
「久しぶりだね、スピカ」
「もう一年ですね」
夏はいられなかったから、とノート神が言う。
「それで、今日は?」
「今日は定例報告だけです。半年前の書類は」
「読んだよ。オージンの子の世話もしてるんでしょ。忙しいのに悪いね」
「あれは副業みたいなものですから。まず、8月からは……」
ひと通りの報告を聞き終わると、あくびをしながら上を向いた。
「あ」
「はい?」
「いや、なんでもない」
彼が話をはぐらかす時、何か重要なことを忘れていることが多い。
「何かあるようなら」
「塔の壁を修復しとかないと、土地神さんが降りられなくなるかもしれない」
「塔の……そういえば、もう80年くらい経ちますか」
「うん。繋がりが切れると問題がね。基底陣だけでも今年中に」
「やっておきます」
ㅤニーナが立ち上がるのにつられて、ノート神も立った。別れの挨拶もしないまま、テーブルと椅子と一緒にどこかに消えてしまった。次に光が、最後に床が消えて、僕らは底まで落ちた。
ㅤ窓のない部屋の真ん中に、座り込んでいた。手持ち燭台に弱々しい炎が灯っている。あれだけ渦巻いていた濃い魔力は、清々しいほど消し飛んでいた。
ㅤ今日の午後くらいはのんびり過ごそう。
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