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本編 20.04 - 21.03
Orion/920
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ㅤ休まず話し続ける数学教師の声が止まる。公式の一つを指しながら、他の生徒と一緒に固まっていた。一人の生徒が、腕時計の竜頭を押し込みながら席を立つ。彼女はそのまま、二階の窓から飛び出した。
ㅤグラウンドには、サッカーをする生徒たちがいた。彼らもまた、止まっていた。蹴り上げられたボールは、ゴール前で静止していた。生徒の間を縫って歩いてくる影がある。彼は〝リゲル〟と彼女を呼んだ。
「準備は?」
「できてる」
リゲルが左手を空に掲げると、世界から光が消えた。
ㅤ真っ直ぐに伸びる何本もの線と、それに絡みつくツタのようなものがあった。それは別の世界を繋ぎ止め、自由を阻害するもので、時間を止めてしまうことすらある。彼女らの仕事の一つは草刈りだ。闇の中を照らしながら、手作業でツタを切る。もう一つの仕事は――
「後ろ!」
リゲルのいた場所に、斧が振り下ろされる。後ろに現れたのは、数メートルはあろう怪物だった。
ㅤもう一つは、奴らの駆除だ。放っておいてはいけない。ツタもろとも、世界を引き千切ってしまうだろう。
◆◆◆
ㅤ強い照明の中で、怪物は霧になって消えた。
「そろそろ?」
腕時計を見て言う。活動限界は一時間。それ以上は生死に関わる。
ㅤあのさ、と少年が切り出した。
「何でもない君を巻き込んで、本当に悪いと思ってる。辞めたければ――」
「何で?」
と、彼女が遮った。
「これまで、頑張ってきたじゃん。一生つきあうよ」
振り向いた彼女の顔を見て微笑むと、
「そう……、なら良かった。君となら、良いコンビを組めそうだ」
と告げて姿を消した。
「え?」
現実が追い立てるように戻ってくる。授業は既に終盤で、黒板は数回消されたような汚れ方をしていた。いつもは寝ないのに、と心配され、変な夢だった、と曖昧に返した。いつの間にか夢の内容にはピントが合わなくなっていて、何一つ動かない、音のない、無味乾燥な景色だけが焼き付いていた。
ㅤ◆◆◆
警告音が2回鳴り、ヘッドギアのフロントがゆっくりと上がる。
「アルファダイヴ、終了しました。…どうでしたか?」
「耐性は足りてるけど、今以上の成長は見込めない」
「それで」
少年は椅子から下りて、大きく伸びをして答えた。
「すぐ行くよ。会わなきゃ何も始まらないからね」
ㅤグラウンドには、サッカーをする生徒たちがいた。彼らもまた、止まっていた。蹴り上げられたボールは、ゴール前で静止していた。生徒の間を縫って歩いてくる影がある。彼は〝リゲル〟と彼女を呼んだ。
「準備は?」
「できてる」
リゲルが左手を空に掲げると、世界から光が消えた。
ㅤ真っ直ぐに伸びる何本もの線と、それに絡みつくツタのようなものがあった。それは別の世界を繋ぎ止め、自由を阻害するもので、時間を止めてしまうことすらある。彼女らの仕事の一つは草刈りだ。闇の中を照らしながら、手作業でツタを切る。もう一つの仕事は――
「後ろ!」
リゲルのいた場所に、斧が振り下ろされる。後ろに現れたのは、数メートルはあろう怪物だった。
ㅤもう一つは、奴らの駆除だ。放っておいてはいけない。ツタもろとも、世界を引き千切ってしまうだろう。
◆◆◆
ㅤ強い照明の中で、怪物は霧になって消えた。
「そろそろ?」
腕時計を見て言う。活動限界は一時間。それ以上は生死に関わる。
ㅤあのさ、と少年が切り出した。
「何でもない君を巻き込んで、本当に悪いと思ってる。辞めたければ――」
「何で?」
と、彼女が遮った。
「これまで、頑張ってきたじゃん。一生つきあうよ」
振り向いた彼女の顔を見て微笑むと、
「そう……、なら良かった。君となら、良いコンビを組めそうだ」
と告げて姿を消した。
「え?」
現実が追い立てるように戻ってくる。授業は既に終盤で、黒板は数回消されたような汚れ方をしていた。いつもは寝ないのに、と心配され、変な夢だった、と曖昧に返した。いつの間にか夢の内容にはピントが合わなくなっていて、何一つ動かない、音のない、無味乾燥な景色だけが焼き付いていた。
ㅤ◆◆◆
警告音が2回鳴り、ヘッドギアのフロントがゆっくりと上がる。
「アルファダイヴ、終了しました。…どうでしたか?」
「耐性は足りてるけど、今以上の成長は見込めない」
「それで」
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「すぐ行くよ。会わなきゃ何も始まらないからね」
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