67 / 83
本編 19.04 - 20.03
夢か現か/1544/ファンタジー
しおりを挟む
ㅤ名を呼ぶ声で目が覚める。見ると、エプロンをつけた子供が立っていた。彼は朝食ができたことを伝えると、扉を閉めた。物心がつく前から、ずっと同じ夢を見ている。ここより文明の進んだ世界だが、魔法はない世界だ。
ㅤ用意された朝食を摂り、一階へ降りた。既に店内は掃除され尽くしている。あとは、今日もスレスレで飛び込んで来るだろう従業員、ソフィアを待つだけになった。
ㅤ遅いですね、とルイスが吐いた。彼女は5分前になっても姿を見せない。どうやら落ち着かないようで、店の中を歩き回り、商品を手にとってみたり、遂には私の髪で遊び始めた。既に二人ほど、店の前に客が待っている。
「探してきます」
と切り出した。私は彼にソフィアの捜索を任せると、1分だけ早く鍵を開けた。外にいたのは、常連の一人と子供だった。
「よう、エド」
「なんだ、ウィンストンさんですか。そちらは」
「なんだってなんだよ。俺の息子だ。ジョシュア、ほら」
「あ、ジョシュアです。よろしくお願いします」
「エドワード・ロックウェルです。よろしく」
「この秋に市民儀式は済ませちゃってさ。冬の前に一式揃えておこうと思って」
「ウィンストンさんにしては朝が早いと思ったんですよ。どうぞ」
親子を招き入れる。まだ日は出たばかりだが、通りには人が集まり始めていた。しかし見知った顔は見当たらない。今日は普段の休日より少し暇かもしれない。
ㅤクラスは、とジョシュアに聞いた。重戦士、魔術剣士、魔術士を筆頭にした、「探索者」の下位ジャンルのことだ。すかさず重戦士が「重戦士だろ」と言ったが、それは「グレンさんには聞いてない」と突き放しておく。
「弓で……」
親を気にしながらそう言った。グレンは少し驚いたようだが、すぐに頷いた。弓、つまり弓士は、他の職業より装備が高くつく。武器の精度も重要だが、技術も必要だ。憧れる子供は多いが、諦める子供も多い。
ㅤ必要なものを一通り説明し、二週間後に来るよう伝えた。入れ替わるように三人組が入ってくる。先頭で入ってきた客は半年近く前に魔術具の修理を依頼してきた人だろう。
「お久しぶりです。コニックさん、でしたよね」
覚えてるんですか、と彼女は驚いた。物覚えはいいんです、と笑って返した。
「リーヴズとハンプソンです。ギルドの新人なんですけど」
「じゃあ、あれですか、装備をセットで贈るっていう。予算は?」
「それぞれ1500シルヴまで。なんで知ってるんですか?」
「これでもB+まで駆け上がったんですよ、俺」
ㅤ希望クラスはリーヴズが軽戦士、ハンプソンが魔術士だ。軽戦士の方は、既製品でよほどの上物を望まない限り足りてしまう。対して魔術士は、既製品を使うことは少ない上に高価なものも多く、2000シルヴ近くかかることがある。
ちょうど前金を受け取ったとき、ルイスが戸を開けた。その後ろにソフィアは居らず、訊くと、風邪を引いたらしかった。
工房へ回る。作りかけの魔術具が2つ残っていた。それと他にやらなきゃならない仕事を手早く済ませ、暮れには別な業者へ発注書を書くだけになった。ちょうど最後の客が帰ったようで、ルイスは戸と窓に鍵をかけていた。
ㅤㅤ名を呼ぶ声で目が覚める。見ると、エプロンをつけた女が立っていた。彼女は朝食ができたことを伝えると、扉を閉めた。物心がつく前から、ずっと同じ夢を見ている。ここより文明の遅れた世界だが、魔法のある世界だ。
ㅤ私は桐谷七瀬として、この学校に在籍している。彼女、辰巳陽奈は去年から同室の寮生で、同級でもある。料理を皿に盛り付ける後ろ姿がどこかの子供によく似ている気がして、気がつけば、その名前を呼んでいた。
「ねえ、ルイス」
「なんですか、師匠?」
間髪入れずに陽奈は答えた。振り向く視線が私のものと重なる。何かが繋がり、噛み合った。
ㅤ用意された朝食を摂り、一階へ降りた。既に店内は掃除され尽くしている。あとは、今日もスレスレで飛び込んで来るだろう従業員、ソフィアを待つだけになった。
ㅤ遅いですね、とルイスが吐いた。彼女は5分前になっても姿を見せない。どうやら落ち着かないようで、店の中を歩き回り、商品を手にとってみたり、遂には私の髪で遊び始めた。既に二人ほど、店の前に客が待っている。
「探してきます」
と切り出した。私は彼にソフィアの捜索を任せると、1分だけ早く鍵を開けた。外にいたのは、常連の一人と子供だった。
「よう、エド」
「なんだ、ウィンストンさんですか。そちらは」
「なんだってなんだよ。俺の息子だ。ジョシュア、ほら」
「あ、ジョシュアです。よろしくお願いします」
「エドワード・ロックウェルです。よろしく」
「この秋に市民儀式は済ませちゃってさ。冬の前に一式揃えておこうと思って」
「ウィンストンさんにしては朝が早いと思ったんですよ。どうぞ」
親子を招き入れる。まだ日は出たばかりだが、通りには人が集まり始めていた。しかし見知った顔は見当たらない。今日は普段の休日より少し暇かもしれない。
ㅤクラスは、とジョシュアに聞いた。重戦士、魔術剣士、魔術士を筆頭にした、「探索者」の下位ジャンルのことだ。すかさず重戦士が「重戦士だろ」と言ったが、それは「グレンさんには聞いてない」と突き放しておく。
「弓で……」
親を気にしながらそう言った。グレンは少し驚いたようだが、すぐに頷いた。弓、つまり弓士は、他の職業より装備が高くつく。武器の精度も重要だが、技術も必要だ。憧れる子供は多いが、諦める子供も多い。
ㅤ必要なものを一通り説明し、二週間後に来るよう伝えた。入れ替わるように三人組が入ってくる。先頭で入ってきた客は半年近く前に魔術具の修理を依頼してきた人だろう。
「お久しぶりです。コニックさん、でしたよね」
覚えてるんですか、と彼女は驚いた。物覚えはいいんです、と笑って返した。
「リーヴズとハンプソンです。ギルドの新人なんですけど」
「じゃあ、あれですか、装備をセットで贈るっていう。予算は?」
「それぞれ1500シルヴまで。なんで知ってるんですか?」
「これでもB+まで駆け上がったんですよ、俺」
ㅤ希望クラスはリーヴズが軽戦士、ハンプソンが魔術士だ。軽戦士の方は、既製品でよほどの上物を望まない限り足りてしまう。対して魔術士は、既製品を使うことは少ない上に高価なものも多く、2000シルヴ近くかかることがある。
ちょうど前金を受け取ったとき、ルイスが戸を開けた。その後ろにソフィアは居らず、訊くと、風邪を引いたらしかった。
工房へ回る。作りかけの魔術具が2つ残っていた。それと他にやらなきゃならない仕事を手早く済ませ、暮れには別な業者へ発注書を書くだけになった。ちょうど最後の客が帰ったようで、ルイスは戸と窓に鍵をかけていた。
ㅤㅤ名を呼ぶ声で目が覚める。見ると、エプロンをつけた女が立っていた。彼女は朝食ができたことを伝えると、扉を閉めた。物心がつく前から、ずっと同じ夢を見ている。ここより文明の遅れた世界だが、魔法のある世界だ。
ㅤ私は桐谷七瀬として、この学校に在籍している。彼女、辰巳陽奈は去年から同室の寮生で、同級でもある。料理を皿に盛り付ける後ろ姿がどこかの子供によく似ている気がして、気がつけば、その名前を呼んでいた。
「ねえ、ルイス」
「なんですか、師匠?」
間髪入れずに陽奈は答えた。振り向く視線が私のものと重なる。何かが繋がり、噛み合った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる