57 / 59
第57話 四天王襲来(2/3)
しおりを挟む「セリシア、昨日帰ってこなかったね」
一晩待っても、聖女セリシアが勇者たちに合流することはなかった。それを心配した賢者のレイラが不安そうな表情をしている。彼女は勇者ルークスや戦士アドルフと一緒に、高級宿の二階に造られた広いバルコニーで朝食を済ませたところ。
「彼女を連れて行ったのはあのフリーダだから、変なことはされていないと思う。それにセリシアだって俺たちと旅してきたんだ。戦闘向きの職じゃないって言っても、その辺の兵士に勝てるくらいの力はある」
「そうそう。彼女の聖杖の一撃はゴブリンを倒すくらいの威力になった。だから大丈夫だ」
ルークスとアドルフはほとんど心配していなかった。
セリシアは様々な状態異常に耐性を持ち、自らを継続回復させながら敵を攻撃することもできる。勇者パーティー内では攻撃力が低いので基本的に攻撃に参加することはないが、中位以上の魔物や魔人クラスでなければ単独で勝てるくらいの力を有していたのだ。
「そうかな? でも……」
レイラはまだ安心できない。彼女が不安なのは、フリーダのことを信頼できていなかったから。ルークスとアドルフ、セリシアは商人としてフリーダを信用していた。貴重なアイテムを『勇者一行だから』という理由で格安で販売してくれるので、感謝の気持ちがいつの間にか信頼へと変わったのかもしれない。
一方でレイラがフリーダを信頼できなかったのは、ケイトと親しそうにしていたからだ。秘かに恋心を抱いていた幼馴染をとられてしまうのではないかと危惧し、彼女はフリーダを敵対視していた。
「そんなに心配なら今から見に行こうぜ。まだ作業中だったとしても、心配だからって言えば少し顔を見せるくらいはしてくれるだろ」
「さすがに休憩くらいは取るだろうし、会わせてくれないってことはないだろ」
「う、うん。そうだね、様子を見に行こう!」
レイラが勢いよく椅子から立ち上がり、部屋に荷物を取りに行こうとした。
「少々お待ちください」
「えっ?」
「……誰だ」
「あんた、いつからそこにいた?」
給仕が朝食を運んできてくれた後、ここにはルークスたちしかいなかったはず。しかしいつの間にか、血のように赤い目をした黒髪の男がバルコニーの手すりにもたれかかっていた。
「私は魔王軍四天王がひとり、ガビルと申します」
彼は吸血鬼であり、人よりも長く鋭利な犬歯が口から少し見える。
「ま、魔王軍四天王!?」
「それって、あの鋼の魔人と同じ」
「えぇ。貴方たちがヴァラクザード様を倒してしまったので、私が彼の席を引き継いだのです。そういう意味では、私は貴方たちに感謝しています」
ガビルが紳士的なお辞儀をする。頭を下げたことにより彼の視線がルークスたちから外れるが、隙は一切ない。その頭がゆっくりと上がるまで、勇者たちは全く動けなかった。
「……お前は、何をしに来たんだ?」
「私が四天王に昇格するきっかけを作ってくださったお礼に来た──と言いたいところですが、少々事情が変わりましてね」
もし四天王による『勇者討伐レース』が開催されていなければ、ガビルは本当に礼を言うためだけにルークスたちの前に現れるつもりだった。だが四天王にとどまらず、更に上を目指せる可能性が出てきてしまった。
「貴方たちを殺すだけで私は八大魔将になることができます。こんなチャンス、逃すわけにはいかない」
ガビルが右手を胸の前に持ってくる。手刀を形作って力を込めると、血のようなものがその右手を覆っていった。
「申し訳ありませんが、死んでください」
強烈な殺気が放たれる。
恐怖への耐性が付与された装備がないせいで、レイラは身体が震えて動けなくなってしまった。彼女を護るようにアドルフがレイラの前に出てくる。しかし彼も満足に動ける感じではなさそうだった。
「くっ!」
殺気に気圧されながらも、ルークスは所持していた収納袋に手を入れた。装備のほとんどは部屋に置いてある。ここは高級宿で防犯などもしっかりしていたため、彼らは安心して一切の装備を身に着けず朝食を食べに来てしまった。
アドルフの巨盾や剣、レイラの杖もここには無い。唯一手元に出せるのは、大きすぎて普段から収納袋にしまっていたルークスの大剣だけ。
「あぁっ。さすがに一切の装備を纏っていない勇者を倒してしまうのは、気高き吸血鬼の一族として恥ずべき事。その出そうとしている武器、使っていいですよ」
ガビルは両手を広げ、攻撃を受ける意志を示した。
「本来であれば全ての装備を纏うまで待って差し上げたいのですが、いつ他の四天王がやってくるかわかりませんからね。代わりに一撃だけ、無抵抗で受けますよ。それで許してください」
ガビルは自身や他人の血を操る『血操術』を使う。液体状態の血を自在に操るだけでなく、それを固めて防御や攻撃にも使用する。集中力を要するのでその場から動けなくなるのが欠点だが、最大まで守りに力を注げば、彼の防御力は鋼の魔人ヴァラクザードを超えるのだ。
「……魔人とはいえ、無抵抗の者を攻撃できない」
「え? ほ、本気で言っているのですか?」
「俺はいつだって本気だ」
圧倒的に不利な立場であるにも関わらず、己の信念を曲げようとしないルークスをガビルは面白いと感じた。
「ふはははは! 良い。良いですよ、勇者。私はそんなに長く生きてはいないので、勇者という存在をあまり知りません。しかし、貴方のように愚直な者がいると分かって良かった」
血で固めた右手を掲げ、頭を防御する体勢をとったガビル。
「私は全力でガードします。ガードしている間は一切動けないという問題がありますが、これをやっている私の防御力は貴方が倒した鋼の魔人以上です」
ガビルは勇者の一撃を受け止め、絶望した顔を堪能した後に殺すつもりでいた。
「さぁ、全力でかかって来なさい。私を一撃で仕留められなければ、次の瞬間には貴方の首が飛びますよ」
「わかった。では俺も、全身全霊を込めた一撃でお前を倒す!」
ルークスが収納袋から手を抜いた。
大人の身の丈ほどある大剣が姿を現す。
「…………え?」
白く巨大な剣。それからありえないほどの力を感じ、ガビルの思考が停止する。かつて十六天魔神に謁見した時のように、心が畏怖で満ちていく。
「レイラの支援魔法が無いから、本当の全力というわけではないが……」
勇者ルークスが大剣を天高く掲げる。
「これが! 俺の!!」
「えっ、ちょっ!?」
ルークスの力が膨れ上がるのを感じ、ヤバいと思ったガビルが左手も上げて全力以上での防御を試みる。既に防御のために身体を固めてしまっていたので、この場から逃げることはできなかった。
「待っ──」
「全力だぁぁぁぁあ!!」
聖剣に認められず、ルークスはそれをただの重い鈍器として使用していた。そんな筋肉馬鹿勇者が振り下ろした大剣は剣先の速度が音速を超えた。
加えて彼が持つ大剣は十六天魔神ドラムの牙からできたもの。たかが四天王の肉体で、そんなものを受け止めきれるわけがない。
「ば、ばか…な……」
頭上で手をクロスするように構えていたガビルは、ガードしていた両手ごと身体を左右真っ二つにされた。核も完全に破壊され、存在を保てなくなった魔人の身体が黒い塵になって消えていった。
34
あなたにおすすめの小説
パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!
こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」
主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。
しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。
「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」
さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。
そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)
かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!
【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい
冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。
何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。
「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。
その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。
追放コンビは不運な運命を逆転できるのか?
(完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
26番目の王子に転生しました。今生こそは健康に大地を駆け回れる身体に成りたいです。
克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー。男はずっと我慢の人生を歩んできた。先天的なファロー四徴症という心疾患によって、物心つく前に大手術をしなければいけなかった。手術は成功したものの、術後の遺残症や続発症により厳しい運動制限や生活習慣制限を課せられる人生だった。激しい運動どころか、体育の授業すら見学するしかなかった。大好きな犬や猫を飼いたくても、「人獣共通感染症」や怪我が怖くてペットが飼えなかった。その分勉強に打ち込み、色々な資格を散り、知識も蓄えることはできた。それでも、自分が本当に欲しいものは全て諦めなければいいけない人生だった。だが、気が付けば異世界に転生していた。代償のような異世界の人生を思いっきり楽しもうと考えながら7年の月日が過ぎて……
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる