夜明けの冒険譚

葉月

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第1章 勇者の誕生

第八話

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 実技合同演習の日になり、魔法学校から迎えが来る。魔法で動く車らしい。
 俺とラルフは荷物を持って、車に乗る。
 魔法で動く車は、空を飛んで実技合同演習の会場に向かった。



 実技合同演習の会場に着くと、他にも冒険者の方々がいた。
 俺たちがそこに歩いて向かうと、知り合いでかつ冒険者として先輩のクリスもいた。

「よぉー、アルバ! 久しぶりだな。」
「お久しぶりです。」
「ラルフの方も元気そうじゃねぇか!」
「もちろん、元気ピンピンだよー。」

 クリスさんは、俺がまだ冒険者になりたての頃に剣の基本を教えてくれた人だ。

「最近、調子はどうですか。」
「ほんと、いつも通りさ。魔物狩って、依頼こなして、金を稼いでる。」
「そうですか。」

 俺は少し安堵した。
 冒険者という職業柄、怪我をすることが多い。場合によっては、死ぬこともある。
 最近、会えていなかったから心配していたが、杞憂だったようだ。
 そう思っていると、クリスさんが俺の肩に腕をかけてきた。

「それよりも、聞いたぜ。お前、勇者だったんだな。」
「本当に、俺もびっくりしました。」
「勇者ってなると、忙しくないか?」
「今のところは、いつもと変わりませんよ。」
「そうか。良かった良かった。」

 クリスさんは、そう言って背中をバンバン叩いてきた。
 俺とクリスさんで話していると、会場に生徒達がやってくる。もちろん、一緒にシエルもやって来た。

「アルバ様、ラルフ様、おはようございます。」
「シエルくん、おはよー。」
「おはよう。元気か?」
「はい、問題はありません。」

 俺たちが世間話をしていると、クリスさんがとても驚いていた。開いた口が塞がらないようだ。

「アルバ達と……えっと、シエルちゃんは知り合いか?」
「はい。アルバ様達と同じ家に住んでいます。」
「えっ!? アルバ、お前、まさか隠し子……」
「ちがいますよ! 俺がたまたま仕事先で拾っただけです。」

 クリスさんが変なことを言い出すので、俺が食いぎみに否定する。
 すると、クリスさんが笑いながら言う。

「冗談だよ、冗談。」

 クリスさんを見て、シエルは首を傾げている。

「アルバ様、この方は誰でしょうか?」
「この人はクリスさんと言って、俺の先輩だよ。」
「ああ、あなたが私たちの班の引率の方ですね。」
「そうなのか。」
「はい。昨日先生から聞きました。」

 クリスさんなら安心して任せられる。
 早速、シエルはクリスさんと話をしているようだった。シエルと同じ班なのだろう子達も集まってくる。
 俺もどんな子達を担当するのか知るために、先生を探そうと周りを見る。
 そのとき、木の側にある茂みへこそこそと隠れていく子達を見つけた。何をやっているのだろう。

「アルバ、どうしたの?」
「少し気になることがあったんだ。すまないが、ラルフ、先生に誰を担当するのか聞いておいてもらっても構わないか?」
「わかったー。」

 俺は茂みに隠れている子供達に近づく。

「何してるんだ?」
「うわーー!?」
「誰だ!?」

 俺の声に驚き、一斉にこちらを見る。
 隠れていた子供達の輪の中を見ると、小さなグリフォンの子供がいた。足に包帯が巻かれている。
 そのとき、子供の1人が俺を阻むように腕を広げた。

「この子を、殺さないで!」

 どうやら、冒険者である俺が、魔物としてグリフォンを倒すと考えたらしい。

「殺さないさ。そいつは魔物じゃないからな。」
「本当?」
「ああ。それより、一体何があったか、聞いても良いか?」

 子供達は少しこそこそと相談して、うなずきあっていた。

「僕たち生徒は、ここまで箒に乗ってきたんだ。」
「その途中で、あたしが森の中でこの子を見つけたの。」
「ひとりぼっちでお腹を空かせて、しかも怪我までしてたから、おれがここまで抱えて連れてきたんだ。」
「でも、先生が見たら怒ると思って……。」

 親のグリフォンが近くにいなかったということは、おそらく、はぐれてしまったのだろう。
 グリフォンは賢い生き物だ。居場所がわかっているなら、すぐに迎えにくるはず。しかし、お腹を空かせるまで来ていないのなら、元の場所に返したところで親に再会できない可能性が高いだろう。

「とりあえず、安全なところで保護しよう。誰にもこのことは言わないよ。一応聞くが、お前らの名前は?」

 彼らはそれぞれリチャード、リリー、マイクと名乗った。

「俺はアルバだ。よろしくな。」
「あっ、もしかして……。」
「先生のところに戻ろうか。」

 俺はそう言って、皆のところに向かった。
 すると、ラルフが俺に気付き、近づいてきた。

「誰のグループか、聞いてきたよー。」
「そうか、一体誰なんだ?」
「えっと、リチャードくんとリリーくんとマイクくんだってさ。」
「あれっ、それって。」

 後ろを見ると、3人が頭を下げてきた。

「今日はよろしくお願いします。」
「やっぱり、お前達だったか。」

 まさか、先ほどの子供達が俺の担当とは思いもしなかった。
 やっぱり、という言葉に不思議に思ったラルフが聞いてきた。

「アルバ、知り合い?」
「さっき、知り合ったんだよ。」
「何かあったの?」
「いいや、特に何もない。」

 ふーん、と少し気になっている様子だったが、これ以上は何も聞いて来なかった。
 そのとき、先生から集まるよう号令がかかった。

「これより、実技合同演習を始めます。早速、実戦を始める前に、それぞれのグループで自己紹介をお願いします。その後、説明がありますので、よく聞いてください。」

 この3人はラルフのことを知らないし、3人が何を得意とするかも聞いてなかったので、改めて自己紹介をする。
 そのとき、他の班の生徒の声が聞こえた。

「あの班、勇者様に見てもらえるなんていいなー。」
「俺も勇者と一緒がよかった。」
「仕方ないだろ。誰に見てもらえるかは、くじ引きなんだから。」

 勇者といっても、扱う剣が違うだけで、そこらの剣士と変わらないと思うのだが、周りはそう思わないらしい。

「アルバ、無視しときなよ。」
「大丈夫だ、気にしてない。」

 ラルフは少し心配しているようだったが、実際、俺は気にしていない。

「そろそろ、今回の演習についての説明を始めたいと思います。」




 説明が終わり、いよいよ始まる。
 まあ、説明と言っても、ほとんどが注意事項だった。簡潔に言うと、魔物以外を傷つけないこと、必要以上に森を破壊しないこと、森の奥には入りすぎないこと、とのことだった。
 森を進みながら、リチャード達と一緒に魔物を討伐していく。剣や体術の面では俺が、魔法や弓矢の面ではラルフが教えていた。
 3人ともとても優秀で、基礎はバッチリだったし、問題点を指摘すると、すぐに改善した。
 ときどき、魔物と動物の区別がつかなくなっているときもあったが、注意すれば大丈夫なようだった。
 順調に森の中を進んでいた、そのときだった。

 ピィィーーーーーー

 甲高い鳥のような声が響き渡る。
 近場だったようなので、音がしたほうに5人で急いで向かった。
 すると、少し開けたところに大きな大人のグリフォンがいた。怒っているらしく、風の刃を出して暴れている。
 リチャード達は、大人のグリフォンを見るのは初めてだったようで、呆然としていた。しかし、リリーがふと気付き、声を上げた。

「あっ、もしかして……あの子連れてくる!」

 リリーが魔法で出した箒に乗って、急いで飛んでいった。
 辺りを見ると、先ほどのグリフォンの鳴き声で、他の班も集まってきているようだった。
 その中でグリフォンを攻撃しようとしている者がいることに気付く。こいつは暴れてはいるが、魔物じゃない。

「攻撃するな!」

 俺は咄嗟に叫んだが、魔法や矢が放たれてしまった。そのとき、カードのような形をした魔法が、グリフォンに当たるのを防ぐ。
 シエルだ。別の方をみると、ちょうど、クリスさんに褒められ、撫でられているところだった。
 少し視線が逸れてしまったが、そんなことを気にしている場合ではない。
 俺は剣を構え、風の刃を受け流しながら、グリフォンのもとへと近づいていく。
 すると、グリフォンは俺に気づいたらしい。俺の方を向いた。

 ピィーー、グワッグワッ
『その気配、その剣から流れる力、もしや貴殿は勇者か。』
「えっ。」

 グリフォンが何を言っているのか、理解することができ、びっくりした。おそらく、魔法なのだろうか。

「あぁ、そうだ。ところで、お前はなんで怒っているんだ?」
『我の娘が、行方不明なのだ。もとから、迷子になりやすい子だったが、一人で森に遊びに行ってしまったようなのだ。』

 グリフォンは続けて言う。

『最近、仲間が人間に捕らえられそうになったと、話を聞いた。昔から悪い奴らはいたが、近頃は野蛮な者が増えている。娘に危害が加えられる前に、鉄槌を下すまでだ。』
「あの子達が、グリフォンの子を保護している。もしかしたら、お前の娘かも知れない。」
『保護しただと、人間は嘘つきだ!』

 風の刃が増えた気がする。どうしようか、そう思っていると、リリーが、保護したグリフォンを抱えて戻ってきた。

「連れてきたよー!」
『父ちゃん!』

 あのグリフォンも喋れたのか。少し驚いた。

『クレア、無事だったのか。人間に悪いことをされていないか。』
『うん、大丈夫だよ。あの子達が助けてくれたー。』
『そうなのか。』

 グリフォンは驚いたような声を出した。
 そして、俺たちに向かって礼を言う。

『疑ってすまなかった。我が娘を救っていただき、感謝する。』

 リリー達はとても喜んでいた。
 グリフォンが俺に向かって尋ねてきた。

『勇者よ。貴殿の名は何と申す。』
「俺の名前はアルバだ。」
『アルバ……か。覚えておこう。』

 グリフォンの親子が俺たちにお辞儀をする。

『それでは、世話になったな。失礼する。クレア、母さんが心配して待ってるぞ。』
『やったー! 母ちゃんのご飯ー!』

 グリフォンの親子は仲良く飛び去っていった。
 その後すぐに、実技合同演習の終了の合図が聞こえ、俺たちは最初の集合場所に帰ったのだった。



「本日はありがとうございました。」

 集合した後、人数確認を終えたため、解散する。
 帰る前に、リチャード達からたくさん感謝された。

「剣も体術も丁寧に教えていただき、とてもわかりやすかったです。」
「魔法も、思いもしなかった応用方法を知りました。弓矢を見るのは初めてだったので、いい経験になりました。」
「魔物と動物を瞬時に見分けられるように頑張ります!」

 リチャード達はとてもやる気に満ちていた。

「みんなの活躍、楽しみにしているぞ。」
「これからも頑張ってね~。」

 彼らは、はい、と元気よく返事をした。
 ここにいる生徒達は次の世代を担っていくことになるだろう。元気な彼らがどのように育つのか、とても楽しみだ。
 俺とラルフは、リチャード達に見送られながら、行くときに使った車に乗って、館へと帰るのだった。


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