夜明けの冒険譚

葉月

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第2章 魔王軍四天王 リベルタ

第十話

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 館に帰った俺たちは、いつもどおりの荷物に旅行用のものを足す。
 シエルに会ってから、いや、俺が勇者になってから、今までよりも遠くの地へ行く機会が増えたなぁ、とふと思った。
 こんなことを考えながら、準備をして、馬に乗って出発した。



「ここが、採掘の町、エウトスか。」
「活気に溢れていますね。」

 道中では問題はなく、俺たちは予定どおりにエウトスへ着いた。
 祭りが近いからか、道や広場にはさまざまな出店が出ており、多くの観光客や冒険者で賑わっている。ちなみに、闘技場での祭りは明日だ。
 さて、これだけ人が多いのなら、まずは……。

「宿を探さないとな。」
「大丈夫? こんだけ人がいるんだったら、ほとんど埋まってそうだけど。」
「少し高くなるが、冒険者専用の宿ならまだ空いているだろう。」

 ほとんどの町には、ギルドが運営もしくは支援をしている宿があり、依頼で遠征中の冒険者が利用しやすいようにと建てられた。しかし、依頼に関係なく、旅行先の宿泊施設としても、ギルドの関係者ならば利用できるのだ。
 屋台に少し寄り道しながら町を歩いていると、先ほど述べた宿を見つけることができた。
 中に入ると、元気いっぱいのお姉さんが出迎える。

「いらっしゃいませ! 本日のご用件は何でしょうか?」
「3日間ほど泊まりたいのだが、3部屋空いているだろうか。」
「はい! 空いていますよ! 泊まる人数と代表者の名前を教えてください。」
「泊まるのは3人で、俺はアルバだ。」
「わかりました! アルバ様ですね……って、もしかして、あの!?」

 元気いっぱいのお姉さんは、突然大声をだし、宿の奥へと走っていってしまった。
 遠くから彼女の声が聞こえてくる。

「みんなーー! 勇者様がこの宿に泊まりにきたよ!」
「マジで!? どんなやつなんだ?」
「今年は盛り上がるぞー!」

 俺が来たことで、宿の奥は盛り上がり、賑やかになる。
 予約を取りに来たのに、完全に置いてけぼりだ。

「え、えっと……。」
「受付の方が戻ってくるまで待つしかなさそうですね。」
「アルバはあんまり名乗らないほうがいいんじゃない?」
「えぇ……。」

 勇者ということがわかるだけで、こうも困ってしまうとは。名乗らないほうがいいなんて、先が思いやられる。
 数分経って、ようやく元気いっぱいのお姉さんが戻ってきた。

「あっ! ご案内がまだでしたね。お部屋の準備は済んでますので、今すぐご利用できます!」
「ああ、ありがとう。」

 案内されるまま、宿の奥へと入っていくと、1階が酒場、2階が宿泊施設となっているようだった。通りで、あれほど賑やかになるわけである。
 2階の部屋は、清潔な一人部屋だった。それでも、1人で過ごすには十分すぎる広さだ。
 俺はお姉さんに3人分の代金を払う。その後、3人で話し合った結果、各自の部屋で荷物整理をし、1階の酒場に集合となった。
 もともと荷物の少なかった俺は、2人を酒場で待つことにした。
 俺は目立たないように、端っこのテーブル席に座り、店員に注文をする。

「勇者様、ご注文はお決まりでしょうか?」
「ジュースを頼む。あと、勇者じゃなくてアルバでいい。」

 店員は礼をしてカウンターに戻っていく。
 目立たないために端に座ったのに、勇者と呼ばれてしまったら意味がない。
 案の定、近くにいた人たちが話しかけてきた。

「へぇー、あんたが噂の勇者様か。」
「思っていたよりも、若いんだな。」
「なぁなぁ、どうしてここに来たんだ?」

 その内の、黒いもじゃもじゃの髭を生やした男が俺に問いかける。

「この町にある石を見に来たんだ。あと、もうすぐだという闘技場での祭りを見に。」
「なるほど! そりゃ、賢明な判断っていうやつだぜ。」
「あの祭りは毎年、大盛り上がりだからな。」
「そうかー、今年は勇者が来るのか。」

 彼らは感心したように何度も頷く。
 そして、その中にいた金髪の若そうな男が、机に身を乗り上げて提案をしてきた。

「なあ、あんた。闘技場の祭りに出場しないか?」
「えっ?」
「いいな! それ!」

 俺が驚きで開いた口が塞がらない中、彼らは話を進めている。絶対に、俺が参加すると思っているらしい。
 俺は慌てて止める。

「ちょっと待ってくれ。」
「どうしたんだ?」
「そもそも部外者の俺が参加しても良いのか?」

 こういう祭りには、参加するための条件がある場合がある。年齢だったり、身分だったりが聞かれることが多い。

「参加資格とかは…」
「ないない! 基本、参加は自由。腕に自信がある者なら、年齢、身分問わず誰でも大歓迎!」
「しかし、そんなに突然入ったら……」
「そんなの、開始直前まで受け付けやってるから、大丈夫大丈夫!」
「それに、観てるだけよりも参加したほうが何倍も楽しいぞ! オレも参加するんだ!」
「せっかく、この時期にこの町にきたんだからさぁ……。」

 そう言われて、それもそうかと思う。
 この先、平和なときにいつこの町を訪れられるか分からないのだ。もしかすると、二度と訪れることはないのかもしれない。
 だからこそ、俺は決めた。

「わかった。じゃあ、参加しようかな。」

 俺のその言葉を聞き、周りはより賑やかになる。

「オレ、参加の話してくるー!」

 1人が元気に外へと走っていってしまった。
 そのとき、後ろから俺の肩が叩かれる。振り返ると、そこにはラルフとシエルがいた。

「準備終わったよー。」
「早く買い物に行きましょう。アルバ様。」
「あぁ、そうだな。」

 俺は、賑やかな彼らに別れを告げ、シエルと一緒に外に出る。彼らは、もっと話したい、と名残惜しそうにしていた。
 町を歩いて、目当てのものを探しながら、シエルは聞いてきた。

「先ほどの方達と何を話していらっしゃたのですか?」
「明日の闘技場の話だよ。俺も参加することになった。」
「え、そうなのですか。一瞬たりとも活躍を見逃さないようにしなければなりませんね。」
「いや、そんな気張らず、気軽に観ていいんだぞ。そもそも活躍なんてするかわからないのに。」

 シエルが深刻そうな表情をしてそんなことを言うものだから、俺は苦笑いして答える。
 ちなみに、闘技場の祭りにラルフを誘ってみたが、屋台のほうにとても興味があるといって断られた。
 そうこうしているうちに、目当ての石が売っているお店を見つけたので、俺たちは中に入る。

「いらっしゃい。」

 落ち着いた雰囲気の店だ。壁や床には少し暗めの木材が使われている。自然を基調にしているのか、石だけでなく、多種多様な植物も販売していた。
 ルカハクリョマの値段を見ると、そこそこいいお値段がしている。高いが、買うことのできる値段であったため、ここでいくつか買うことにした。
 すると、俺の袖を掴み、シエルが別の石を指差して言った。

「アルバ様、あれは何ですか?」

 シエルが指差した先にあったのは、段階的に色が変化している石だった。左端の方は黄色であるのに右の方にだんだん赤色になったり、緑から青になったりと様々な色の石があった。
 店員に聞くと、丁寧に説明してくれた。

「その、ラデショグーンという石は、『グラデーション』という性質を持った石なのですよ。効果は見ての通りです。とてもきれいなので、よく装飾品に使われているのですよ。」

 店員の説明を聞き、シエルは何か考え込んでいた。
 すぐに俺の方を向いて、言う。

「アルバ様、この石も欲しいです。」
「ああ、いいけど、何に使うんだ?」
「もちろん、研究ですよ。」

 この石をどうやって研究に生かすつもりなのだろうか?
 気になるが、シエルなりに案があるのだろう。さっきの石に比べたら、こちらのほうが安かったので、シエルが欲しい分だけ買うことにする。

「お買い上げ、ありがとうございました。」

 欲しいものは買えたので、店を出る。そろそろ、日が暮れる時刻でもあるため、そのまま宿に帰ることにする。
 明日は、闘技場で祭りだ。今まで、祭りでどんな障害物があったのか、酒場の彼らに訊いてみようか、そう思いながら宿へと帰るのだった。



  ◇ ◇ ◇



 闘技場の祭りの運営室。そこでは、闘技場の中を一望することができる。
 他に誰もいない、その場所で、1人、赤い目をした人物が立っていた。

「クッフフ……お手並み拝見、かな。」

 何かを確認したあと、その人物はその場から去っていった。


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