古代ローマの英雄スキピオの物語〜歴史上最高の戦術家カルタゴの名将ハンニバル対ローマ史上最強の男〜本物の歴史ロマンを実感して下さい

秀策

文字の大きさ
13 / 100

初恋

しおりを挟む
「これはこれは、よくおいで下さいました」
 先日あったばかりだというのに、もう何年も会っていない古い友人でもあるかのように、満面の笑みで両手を広げ、交互に二人に抱き着いては、
「ようこそおいでくださいました」
と何度も言った。ピュテアスは二人を客人用の椅子に座らせ、家人に上等な飲み物を持ってこさせた。
「ニーケーは、あなたの娘でしょうか」
 飲み物を一口すすったプブリウスは、早速聞いてみた。ピュテアスは一瞬何のことかわからなったようだが、すぐに目じりに皺を寄せて何度も頷きながら、
「なるほど、なるほど、全くもってお目が高い。あの娘に目を付けられるとは、これはこれは、油断ならない方だ。ニーケーは私の実の娘ではありませんが、養女です。あれはよく気が利く娘で、才覚があり、意志の強さも持ち合わせています。容姿端麗と申しましょうか、貧しい生まれですがなかなかの娘なので、奴隷の身分から解放して養女にしました。私には実の娘が二人いますがね、それでも娘にしたい、奴隷として一生を終わらせるのはおしいと思ったのですよ。将来の執政官になられるお方に目をつけてもらえるとは、これは私にとってもニーケーにとっても、ありがたいお話ですね」
 ピュテアスはそう言って、大きな声で笑った。
「用件が済めば、ニーケーを紹介しましょう」
 プブリウスの胸は高鳴った。こんな気持ちは初めてだった。これがプブリウスの初恋であった。
「まあ、お楽しみはとっておきましょう。早速のご来訪です。何か困ったことでも。この私が力になれそうなことがありましたか」
 浮かれていることにはっとしたプブリウスは、真面目な顔になって軽く頭を下げ、任務が思うように進みそうにないことを打ち明けた。
「苦い経験をしたようですが、思い返せばよい経験だったと思える時がきっとくると思いますよ」
 昨日の出来事を一気に口から吐き出した青年らをじっと見守っていたピュテアスは、そう言ってにこりと笑った。プブリウスにとってそれは決して嫌味には感じられず、彼の言葉をそのまま素直に受け入れることができた。
 魅力的な人だ。プブリウスは知り合ってまだ間もないこのグラエキア商人に自分が強く惹かれているのを感じていた。誠実さと包容力、それに優れた頭脳を兼備している。まだ生まれてから十七年のことだが、こうした人物は少ないように感じた。ピュテアスと出会えたことは幸運であり、プブリウスは密かに神に感謝したのだった。もちろん、ニーケーと出会えたことも、ピュテアスとの出会いに起因している。
「どうかマッシリアを御嫌いにならないでください。新参者にはちと厳しいところはございますが、この町にも多分によいところがあるのは、ご存じでしょう。さあ、さあ、気分を上げていきましょう。それにお忘れでしょうか。この町にはあなたたちのすばらしい友達が一人いることを」
 そういってピュテアスはおどけて見せた。その友達とは、もちろんピュテアスである。そして、二人の青年がうっすらと笑みを浮かべたのを見て、その下がった目じりをいっそう下げながら、
「まだお伝えできるほどの量ではありませんがね、私も方々に耳を傾けましたよ。ハンニバルのこと、私が知ったことをお伝えしましょう。それで少しは元気がでるでしょう」
 と言って、カルタゴの将軍ハンニバルについて話し始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

処理中です...