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援軍
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紀元前二〇二年、春が訪れ、いよいよスキピオとハンニバルの戦いが始まる。ハンニバルがシファチェの息子に援軍を求めたのに対して、スキピオもマシニッサに援軍を求めた。ただ、マシニッサにしてもシファチェの息子にしても現在はヌミディア領内におり、どちらの援軍が先に合流できるかが勝負の焦点になるとスキピオは睨んでいた。
スキピオは冬営地であるウティカの陣営地を出発した。率いる軍の全容は歩兵が二万八千、騎兵が二千だった。マシニッサが援軍に約束したのは歩兵が六千、騎兵が四千であり、ローマ軍はヌミディアからの援軍を合わせてもカルタゴ軍よりも少なかった。しかし、スキピオはイタリアでのハンニバルとの戦いで、嫌と言う程戦いを決めるのは騎兵戦力であることを学んだ。総兵力では劣っていても、騎兵戦力で有利に立てれば、勝機は十分にあると考えていた。実際、斥候の報告ではカルタゴ軍の騎兵は四千であり、それに対してローマ軍は二千であったが、ヌミディアの援軍を加えればその数は六千になる。ハンニバルが頼みにしているシファチェの息子は、カルタゴ軍との合流が難しいはずである。ヌミディア国内はマシニッサが目を光らせており、思うように移動ができないし、たとえヌミディア領を抜けたとしても、今度はローマ軍を出し抜かなくてはならない。ヌミディア領とカルタゴ軍の間には、スキピオが率いるローマ軍がいるからだ。
スキピオはハンニバル率いるカルタゴ軍のいる南東には向かわなかった。ローマ軍は南西に進路をとり、マシニッサとの合流を急いだ。
ヌミディアとの国境付近にあるナッラガラに到着したスキピオは、ここでマシニッサと合流することにした。カルタゴ軍はここから行軍距離で五日程度の場所にあるザマに到着するところだった。スキピオはマシニッサが到着次第、ハンニバルに戦いを挑むつもりである。
ここでスキピオの元に三人のカルタゴ兵士が連れてこられた。付近を警戒していたところ、ハンニバルが放った斥候を捕らえたと言う。スキピオは捕らえた三人のカルタゴ兵に向かって、与えられた任務は何かと詰問した。三人の内の一人が悪びれる様子もなく、堂々とした物言いで敵情視察であると答えた。その様子から、この兵士が古くからハンニバルに付き従っている者だろうと、スキピオは推測した。
「あなたはハンニバルと共にアルプスを越えたのですか」
その質問には三人が口を閉ざした。余計なことを答えるつもりはないのだろう。
スキピオは部下に、この三人が望むものを隠さず全て見せるように命令した。捕まった時点で死を覚悟していたであろう三人はお互いを見合い、不思議そうな顔でスキピオを見て、連れていかれた。
翌日、マシニッサが約束通り歩兵六千と騎兵四千を率いて到着する。いつの間にかヌミディア人とのわだかまりが消えたようで、ローマ陣営は歓声に包まれた。マシニッサは出迎えたスキピオの前で片膝をついて、
「ヒスパニアであなたは、敵であった私の元に部下を寄越し、同盟を持ち掛けた。その後、私は国を失い、ヒスパニアでの件を頼りにアフリカに渡ってきたあなたに会いに行った。そして、あなたは全てを失った私を迎え入れ、私のために兵を動かし、ヌミディアを私に与えてくれた。これでやっとあなたの期待に応えることができただろうか」
と、マシニッサはスキピオの目を見ながら言った。スキピオは人懐っこい笑みを浮かべ、
「まだです。私はあなたがハンニバルを倒すことを期待している。だから、これから私の期待に応えて下さい」
と言い、彼もマシニッサの前で片膝をついて手を取った。そして、爽やかな笑顔を見せた。マシニッサも笑みをこぼした。二人の間には確かな友情が芽生えていた。その様子を見ていたローマ兵がまた歓声を上げ、拍手がおこった。
その翌日、再び三人のカルタゴ兵士がスキピオの元に連れてこられた。スキピオは三人に敵情視察の任務を全うできたかと訊き、三人が満足である旨を告げると、ハンニバルの元に戻ってありのままを報告するがよいと言って解放した。ラエリウスの、
「よろしいのでしょうか」
との問いに、
「かまわない」
と、短く答えた。スキピオは何となくだが、これでハンニバルとの心理戦で優位に立てたように思えた。ハンニバルの予想を裏切ることが、動揺を誘えるのではないかと。無論、捕らえた敵を無慈悲に殺すことなどできなかったし、そうかと言って捕虜のまま戦場に連れて行くのもそれはそれで負担になる。それに、見られて困るものなどなかった。戦いは戦場で決する。勝つための訓練は十分積んでいるとの自信があった。
スキピオは冬営地であるウティカの陣営地を出発した。率いる軍の全容は歩兵が二万八千、騎兵が二千だった。マシニッサが援軍に約束したのは歩兵が六千、騎兵が四千であり、ローマ軍はヌミディアからの援軍を合わせてもカルタゴ軍よりも少なかった。しかし、スキピオはイタリアでのハンニバルとの戦いで、嫌と言う程戦いを決めるのは騎兵戦力であることを学んだ。総兵力では劣っていても、騎兵戦力で有利に立てれば、勝機は十分にあると考えていた。実際、斥候の報告ではカルタゴ軍の騎兵は四千であり、それに対してローマ軍は二千であったが、ヌミディアの援軍を加えればその数は六千になる。ハンニバルが頼みにしているシファチェの息子は、カルタゴ軍との合流が難しいはずである。ヌミディア国内はマシニッサが目を光らせており、思うように移動ができないし、たとえヌミディア領を抜けたとしても、今度はローマ軍を出し抜かなくてはならない。ヌミディア領とカルタゴ軍の間には、スキピオが率いるローマ軍がいるからだ。
スキピオはハンニバル率いるカルタゴ軍のいる南東には向かわなかった。ローマ軍は南西に進路をとり、マシニッサとの合流を急いだ。
ヌミディアとの国境付近にあるナッラガラに到着したスキピオは、ここでマシニッサと合流することにした。カルタゴ軍はここから行軍距離で五日程度の場所にあるザマに到着するところだった。スキピオはマシニッサが到着次第、ハンニバルに戦いを挑むつもりである。
ここでスキピオの元に三人のカルタゴ兵士が連れてこられた。付近を警戒していたところ、ハンニバルが放った斥候を捕らえたと言う。スキピオは捕らえた三人のカルタゴ兵に向かって、与えられた任務は何かと詰問した。三人の内の一人が悪びれる様子もなく、堂々とした物言いで敵情視察であると答えた。その様子から、この兵士が古くからハンニバルに付き従っている者だろうと、スキピオは推測した。
「あなたはハンニバルと共にアルプスを越えたのですか」
その質問には三人が口を閉ざした。余計なことを答えるつもりはないのだろう。
スキピオは部下に、この三人が望むものを隠さず全て見せるように命令した。捕まった時点で死を覚悟していたであろう三人はお互いを見合い、不思議そうな顔でスキピオを見て、連れていかれた。
翌日、マシニッサが約束通り歩兵六千と騎兵四千を率いて到着する。いつの間にかヌミディア人とのわだかまりが消えたようで、ローマ陣営は歓声に包まれた。マシニッサは出迎えたスキピオの前で片膝をついて、
「ヒスパニアであなたは、敵であった私の元に部下を寄越し、同盟を持ち掛けた。その後、私は国を失い、ヒスパニアでの件を頼りにアフリカに渡ってきたあなたに会いに行った。そして、あなたは全てを失った私を迎え入れ、私のために兵を動かし、ヌミディアを私に与えてくれた。これでやっとあなたの期待に応えることができただろうか」
と、マシニッサはスキピオの目を見ながら言った。スキピオは人懐っこい笑みを浮かべ、
「まだです。私はあなたがハンニバルを倒すことを期待している。だから、これから私の期待に応えて下さい」
と言い、彼もマシニッサの前で片膝をついて手を取った。そして、爽やかな笑顔を見せた。マシニッサも笑みをこぼした。二人の間には確かな友情が芽生えていた。その様子を見ていたローマ兵がまた歓声を上げ、拍手がおこった。
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「かまわない」
と、短く答えた。スキピオは何となくだが、これでハンニバルとの心理戦で優位に立てたように思えた。ハンニバルの予想を裏切ることが、動揺を誘えるのではないかと。無論、捕らえた敵を無慈悲に殺すことなどできなかったし、そうかと言って捕虜のまま戦場に連れて行くのもそれはそれで負担になる。それに、見られて困るものなどなかった。戦いは戦場で決する。勝つための訓練は十分積んでいるとの自信があった。
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