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出会い-2
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暗い、暗い森の奥。遠くからは、動物の遠吠え、近くからは夜鳥の鳴き声。ここは”禁足地。”そんな人が分け入らない森の中を歩く2人。
ルゥは手にランプを持ち、暗い森を歩く。その後ろを同じく小ぶりのランプを持ったメイが続く。
「ねぇ、ルゥ! 待ちなさいってば!」
メイは前を歩く少年、ルゥに声を掛ける。ルゥは倒木を跨いだところで、動きを止める。
「だーかーらー! 俺に着いてくるなって! おれは龍に会いに行くんだから!」
ルゥは傍目から分かるぐらいに、イライラしていた。その様子に、メイは一瞬だけ口をつぐみかけるが、ルゥを止めようと必死に止める。
「ここ、もう”禁足地”よ! 危ない動物や植物がいっぱいあるって、父さんが言ってたんだから!」
「それが、どうしたんだよ!」
ルゥは今まで龍に会えるという高揚感に包まれていたが、この言葉を聞いて少しだけ冷静になる。
周りを見渡すと、そこは闇。その闇の中から、何かが草をかき分ける音が聞こえていた。
「そ、それが、ど、どうしたんだよ……」
先ほどまで威勢はどこに行ったのか、ルゥはやや小声になりながらも、同じ言葉を繰り返した。
「早く帰りましょうよ!」
メイは足を止めたルゥに歩み寄ると、ルゥの腕を掴む。そしてそのまま村に向けて帰ろうとした。
そのとき。
近くから動物のうなり声。それは彼らから少しだけ離れた草むらから聞こえていた。
その音を聞いたルゥとメイはピタリと動きを止める。2人は同時にランプを掲げて、うなり声が聞こえる方へと明かりで照らす。
2人はゴクリと生唾を飲み込むと、ゆっくりと後ずさる。
「ね、ねぇ、ルゥ?」
「な、なに、メイ?」
2人は身を寄せ合い、小声で話す。肩と肩を寄せて、顔を近づけるが、2人の震えは止まない。
「な、何が出てくると思う?」
「そ、そんなの、お、おれが知るかよ」
2人がこそこそと話し合っている間に、草むらからの物音が大きくなる。
そして、物音が一際大きく鳴った瞬間、その正体が姿を現した。
「か、かわいいー……」
メイが見たものは、1匹の小さな子供の狼。その仔狼の毛はまだ毛玉のように柔らかそうで、鼻先ですんすんと辺りを嗅いでいた。
メイは余りの可愛さに、仔狼に近づくが、今度はルゥがメイの腕を掴んだ。
一瞬だけメイはルゥを振り返るが、再び仔狼を見たとき、ルゥが自分を止めた理由を理解した。
「ひっ」
仔狼の後ろにのそりと大人の狼が現れる。その狼はルゥよりも体が大きく、その口は、人間の子供の頭よりも大きかった。
そしてゆっくりと、よだれを垂らしながら2人へと近寄ってくる。
「逃げろ!」
ルゥがメイの腕を掴んで逃げ出す。その背を弾かれたように狼が追う。
2人は必死になり逃げ出した先は、森の奥深く。そこは”禁足地”の最深部。
*
小さな2人は暗い森を駆ける。手に持っていたランプはとっくに落として無くしていた。彼らは真っ暗の闇の中を、転ばないように、しかも最高速で走っていた。
2人の吐く息は荒い息を通り越していた。肺の酸素は絞られ、心臓は悲鳴を上げ、足は軋む。
「ねぇ、ルゥ! まだあの狼、追ってきてる!」
「分かっているよ!」
振り返ったメイに息も絶え絶えになって答える、ルゥ。2人の限界は、もうすぐであることは明白であった。
「きゃっ!」
体力も限界であったメイは、木の根に足を取られて転んでしまった。その転んだルゥの背に、襲いかかる狼。
「メイ!?」
メイの背に狼が乗りかかろうとした瞬間、ルゥは狼に向けて咄嗟に体当たりをする。
狼はメイの背から引きはがされるが、その代わりにルゥは狼ともみ合いになる。
「メイ! 逃げろ!」
ルゥはメイに向かって叫ぶ。しかし、メイは恐怖からか足を振るわせて立てなかった。
「ルゥ……無理。た、立てない……」
ルゥはメイを逃がそうと、一瞬だけ狼から視線を外してしまった。それが彼の大きな、そして致命的なミスであった。
「ああああっ!」
狼がルゥの右手にかぶりついた。
そして右腕から鮮血がほとばしり、地面に血が滴る。
「ああっ、ルゥ!?」
メイが大声を上げたその瞬間、大地震が大地を揺らす。異変に気がついた動物たちは眠るのを止めて、一斉に逃げ出し始める。
木は揺れ、川は決壊し、そして大地にヒビが入る。そのヒビは大きくなり、大地は2つに割れる。
「うおぉぉ!?」
「きゃぁぁぁ!?」
その裂け目に2人と1匹は飲み込まれる。真っ暗闇の大口に飲みこれていったルゥとメイは意識を手放した。
*
次にルゥが目を覚ましたのは、ほのかに暖かく、柔らかな地面の上。
「ん……?ここは……?」
辺りを見渡すが、辺りは真っ暗闇で何も見えない。否、暗闇の中に浮かぶ2つの赤き光。
「おやおや、アタシの住処に、人間が来るなんて、いつ以来かしらねェ?」
ルゥが寝ていたのは地面では無かった。それはちょうど巨大な背の上。
「り、龍……?」
ルゥは、目が慣れてきたことで、ようやく目の前にいる生物の姿を見ることができた。
目の前に居たのは小高い山ほどはある赤き龍。鱗は鉄を火にくべたような赤、羽は家の大きさほどあり、その口は子供2人どころか、大人数人をまとめて飲み込めるほどの大きさであった。
そして、その四肢は大木よりも太く、その爪は銀のように鈍く光輝いていた。
「アタシの家へようこそ。”おチビさんたち”」
伝承の中にしか存在しないはずの龍がルゥの前に現れたのだった。
ルゥは手にランプを持ち、暗い森を歩く。その後ろを同じく小ぶりのランプを持ったメイが続く。
「ねぇ、ルゥ! 待ちなさいってば!」
メイは前を歩く少年、ルゥに声を掛ける。ルゥは倒木を跨いだところで、動きを止める。
「だーかーらー! 俺に着いてくるなって! おれは龍に会いに行くんだから!」
ルゥは傍目から分かるぐらいに、イライラしていた。その様子に、メイは一瞬だけ口をつぐみかけるが、ルゥを止めようと必死に止める。
「ここ、もう”禁足地”よ! 危ない動物や植物がいっぱいあるって、父さんが言ってたんだから!」
「それが、どうしたんだよ!」
ルゥは今まで龍に会えるという高揚感に包まれていたが、この言葉を聞いて少しだけ冷静になる。
周りを見渡すと、そこは闇。その闇の中から、何かが草をかき分ける音が聞こえていた。
「そ、それが、ど、どうしたんだよ……」
先ほどまで威勢はどこに行ったのか、ルゥはやや小声になりながらも、同じ言葉を繰り返した。
「早く帰りましょうよ!」
メイは足を止めたルゥに歩み寄ると、ルゥの腕を掴む。そしてそのまま村に向けて帰ろうとした。
そのとき。
近くから動物のうなり声。それは彼らから少しだけ離れた草むらから聞こえていた。
その音を聞いたルゥとメイはピタリと動きを止める。2人は同時にランプを掲げて、うなり声が聞こえる方へと明かりで照らす。
2人はゴクリと生唾を飲み込むと、ゆっくりと後ずさる。
「ね、ねぇ、ルゥ?」
「な、なに、メイ?」
2人は身を寄せ合い、小声で話す。肩と肩を寄せて、顔を近づけるが、2人の震えは止まない。
「な、何が出てくると思う?」
「そ、そんなの、お、おれが知るかよ」
2人がこそこそと話し合っている間に、草むらからの物音が大きくなる。
そして、物音が一際大きく鳴った瞬間、その正体が姿を現した。
「か、かわいいー……」
メイが見たものは、1匹の小さな子供の狼。その仔狼の毛はまだ毛玉のように柔らかそうで、鼻先ですんすんと辺りを嗅いでいた。
メイは余りの可愛さに、仔狼に近づくが、今度はルゥがメイの腕を掴んだ。
一瞬だけメイはルゥを振り返るが、再び仔狼を見たとき、ルゥが自分を止めた理由を理解した。
「ひっ」
仔狼の後ろにのそりと大人の狼が現れる。その狼はルゥよりも体が大きく、その口は、人間の子供の頭よりも大きかった。
そしてゆっくりと、よだれを垂らしながら2人へと近寄ってくる。
「逃げろ!」
ルゥがメイの腕を掴んで逃げ出す。その背を弾かれたように狼が追う。
2人は必死になり逃げ出した先は、森の奥深く。そこは”禁足地”の最深部。
*
小さな2人は暗い森を駆ける。手に持っていたランプはとっくに落として無くしていた。彼らは真っ暗の闇の中を、転ばないように、しかも最高速で走っていた。
2人の吐く息は荒い息を通り越していた。肺の酸素は絞られ、心臓は悲鳴を上げ、足は軋む。
「ねぇ、ルゥ! まだあの狼、追ってきてる!」
「分かっているよ!」
振り返ったメイに息も絶え絶えになって答える、ルゥ。2人の限界は、もうすぐであることは明白であった。
「きゃっ!」
体力も限界であったメイは、木の根に足を取られて転んでしまった。その転んだルゥの背に、襲いかかる狼。
「メイ!?」
メイの背に狼が乗りかかろうとした瞬間、ルゥは狼に向けて咄嗟に体当たりをする。
狼はメイの背から引きはがされるが、その代わりにルゥは狼ともみ合いになる。
「メイ! 逃げろ!」
ルゥはメイに向かって叫ぶ。しかし、メイは恐怖からか足を振るわせて立てなかった。
「ルゥ……無理。た、立てない……」
ルゥはメイを逃がそうと、一瞬だけ狼から視線を外してしまった。それが彼の大きな、そして致命的なミスであった。
「ああああっ!」
狼がルゥの右手にかぶりついた。
そして右腕から鮮血がほとばしり、地面に血が滴る。
「ああっ、ルゥ!?」
メイが大声を上げたその瞬間、大地震が大地を揺らす。異変に気がついた動物たちは眠るのを止めて、一斉に逃げ出し始める。
木は揺れ、川は決壊し、そして大地にヒビが入る。そのヒビは大きくなり、大地は2つに割れる。
「うおぉぉ!?」
「きゃぁぁぁ!?」
その裂け目に2人と1匹は飲み込まれる。真っ暗闇の大口に飲みこれていったルゥとメイは意識を手放した。
*
次にルゥが目を覚ましたのは、ほのかに暖かく、柔らかな地面の上。
「ん……?ここは……?」
辺りを見渡すが、辺りは真っ暗闇で何も見えない。否、暗闇の中に浮かぶ2つの赤き光。
「おやおや、アタシの住処に、人間が来るなんて、いつ以来かしらねェ?」
ルゥが寝ていたのは地面では無かった。それはちょうど巨大な背の上。
「り、龍……?」
ルゥは、目が慣れてきたことで、ようやく目の前にいる生物の姿を見ることができた。
目の前に居たのは小高い山ほどはある赤き龍。鱗は鉄を火にくべたような赤、羽は家の大きさほどあり、その口は子供2人どころか、大人数人をまとめて飲み込めるほどの大きさであった。
そして、その四肢は大木よりも太く、その爪は銀のように鈍く光輝いていた。
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