ルゥと欲深なドラゴンの解放物語

重弘 茉莉

文字の大きさ
2 / 12

出会い-2

しおりを挟む
 暗い、暗い森の奥。遠くからは、動物の遠吠え、近くからは夜鳥の鳴き声。ここは”禁足地。”そんな人が分け入らない森の中を歩く2人。 
ルゥは手にランプを持ち、暗い森を歩く。その後ろを同じく小ぶりのランプを持ったメイが続く。

「ねぇ、ルゥ! 待ちなさいってば!」

 メイは前を歩く少年、ルゥに声を掛ける。ルゥは倒木を跨いだところで、動きを止める。

「だーかーらー! 俺に着いてくるなって! おれは龍に会いに行くんだから!」

 ルゥは傍目から分かるぐらいに、イライラしていた。その様子に、メイは一瞬だけ口をつぐみかけるが、ルゥを止めようと必死に止める。

「ここ、もう”禁足地”よ! 危ない動物や植物がいっぱいあるって、父さんが言ってたんだから!」

「それが、どうしたんだよ!」

 ルゥは今まで龍に会えるという高揚感に包まれていたが、この言葉を聞いて少しだけ冷静になる。
周りを見渡すと、そこは闇。その闇の中から、何かが草をかき分ける音が聞こえていた。

「そ、それが、ど、どうしたんだよ……」

 先ほどまで威勢はどこに行ったのか、ルゥはやや小声になりながらも、同じ言葉を繰り返した。

「早く帰りましょうよ!」

 メイは足を止めたルゥに歩み寄ると、ルゥの腕を掴む。そしてそのまま村に向けて帰ろうとした。
そのとき。
 近くから動物のうなり声。それは彼らから少しだけ離れた草むらから聞こえていた。

 その音を聞いたルゥとメイはピタリと動きを止める。2人は同時にランプを掲げて、うなり声が聞こえる方へと明かりで照らす。
2人はゴクリと生唾を飲み込むと、ゆっくりと後ずさる。

「ね、ねぇ、ルゥ?」

「な、なに、メイ?」

 2人は身を寄せ合い、小声で話す。肩と肩を寄せて、顔を近づけるが、2人の震えは止まない。

「な、何が出てくると思う?」

「そ、そんなの、お、おれが知るかよ」

 2人がこそこそと話し合っている間に、草むらからの物音が大きくなる。
そして、物音が一際大きく鳴った瞬間、その正体が姿を現した。

「か、かわいいー……」

 メイが見たものは、1匹の小さな子供の狼。その仔狼の毛はまだ毛玉のように柔らかそうで、鼻先ですんすんと辺りを嗅いでいた。
メイは余りの可愛さに、仔狼に近づくが、今度はルゥがメイの腕を掴んだ。
一瞬だけメイはルゥを振り返るが、再び仔狼を見たとき、ルゥが自分を止めた理由を理解した。

「ひっ」

 仔狼の後ろにのそりと大人の狼が現れる。その狼はルゥよりも体が大きく、その口は、人間の子供の頭よりも大きかった。
そしてゆっくりと、よだれを垂らしながら2人へと近寄ってくる。

「逃げろ!」
ルゥがメイの腕を掴んで逃げ出す。その背を弾かれたように狼が追う。
2人は必死になり逃げ出した先は、森の奥深く。そこは”禁足地”の最深部。






 小さな2人は暗い森を駆ける。手に持っていたランプはとっくに落として無くしていた。彼らは真っ暗の闇の中を、転ばないように、しかも最高速で走っていた。
 2人の吐く息は荒い息を通り越していた。肺の酸素は絞られ、心臓は悲鳴を上げ、足は軋む。

「ねぇ、ルゥ! まだあの狼、追ってきてる!」

「分かっているよ!」

 振り返ったメイに息も絶え絶えになって答える、ルゥ。2人の限界は、もうすぐであることは明白であった。

「きゃっ!」

 体力も限界であったメイは、木の根に足を取られて転んでしまった。その転んだルゥの背に、襲いかかる狼。

「メイ!?」

メイの背に狼が乗りかかろうとした瞬間、ルゥは狼に向けて咄嗟に体当たりをする。 
狼はメイの背から引きはがされるが、その代わりにルゥは狼ともみ合いになる。

「メイ! 逃げろ!」
ルゥはメイに向かって叫ぶ。しかし、メイは恐怖からか足を振るわせて立てなかった。

「ルゥ……無理。た、立てない……」

 ルゥはメイを逃がそうと、一瞬だけ狼から視線を外してしまった。それが彼の大きな、そして致命的なミスであった。

「ああああっ!」

 狼がルゥの右手にかぶりついた。
そして右腕から鮮血がほとばしり、地面に血が滴る。

「ああっ、ルゥ!?」

 メイが大声を上げたその瞬間、大地震が大地を揺らす。異変に気がついた動物たちは眠るのを止めて、一斉に逃げ出し始める。
木は揺れ、川は決壊し、そして大地にヒビが入る。そのヒビは大きくなり、大地は2つに割れる。

「うおぉぉ!?」

「きゃぁぁぁ!?」

その裂け目に2人と1匹は飲み込まれる。真っ暗闇の大口に飲みこれていったルゥとメイは意識を手放した。







 次にルゥが目を覚ましたのは、ほのかに暖かく、柔らかな地面の上。

「ん……?ここは……?」

辺りを見渡すが、辺りは真っ暗闇で何も見えない。否、暗闇の中に浮かぶ2つの赤き光。

「おやおや、アタシの住処に、人間が来るなんて、いつ以来かしらねェ?」
ルゥが寝ていたのは地面では無かった。それはちょうど巨大な背の上。

「り、龍……?」

 ルゥは、目が慣れてきたことで、ようやく目の前にいる生物の姿を見ることができた。

目の前に居たのは小高い山ほどはある赤き龍。鱗は鉄を火にくべたような赤、羽は家の大きさほどあり、その口は子供2人どころか、大人数人をまとめて飲み込めるほどの大きさであった。
そして、その四肢は大木よりも太く、その爪は銀のように鈍く光輝いていた。

「アタシの家へようこそ。”おチビさんたち”」

伝承の中にしか存在しないはずの龍がルゥの前に現れたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

処理中です...