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第1章 剣の磨き布
34 エピローグ 3
しおりを挟むするとグラディスはポッとを染めてへらっと笑った。
「いやー。まさかそこまで愛されてるとは思わなかったよねー」
マジか……。
パメラは男嫌いだって言うし、じゃあやっぱりグラディスのことを……。
なんてことを考えていたら。
「前にも言ったけど、私とパメラ、小さい頃からの幼馴染なの。で、パメラの家は家庭事情がちょっと、色々あってね。この間パメラに言われたんだ。辛かった時にグラディスがそばにいてくれて、それだけで助けられた、って。だから今度は私が助ける番だと思った……って」
「そうだったんだ……」
なんだよ、すごくいい話じゃないか。女の子同士の恋愛かも、だなんて考えた数分前の自分を殴りたい。
「やだ、エドガー。泣いてんの?」
「ちょっと、涙腺にきた」
俺、こういう話に弱いんだよな。イーデンからいつも呆れられるくらいだ。
「でも、一時的にでもレオン先生と付き合ってたんだろ? なにか嫌な目にあったんじゃないの」
「私もそれが一番気になっていたんだ。そうしたらパメラ、キスもさせなかって。さすがパメラだよね」
「そっか。良かったなあ」
俺も、磨き布の泣き声が止まったことを伝えると、グラディスは「良かった」と言って笑った。
「そういえば私、ノエルちゃんに会ったことないや。謝りたいんだけど、今いる?」
「いや、エミルと一緒に出掛けてるよ」
「そう。じゃあ、エドガーから伝えておいてよ。後で改めて謝りに来るけどさ。あ、そうだ、これ」
そう言ってグラディスが俺に差し出したのは、良いにおいのする紙袋だった。
「ジンジャークッキー。パメラが皆さんにって。ちょっと食べてみてよ」
「うわ、ありがとう。さっきから良いにおいしてたけど、これだったんだ」
俺は早速紙袋を開けてみた。クッキーを一枚取り出して口に入れると、ジンジャーの良い香りが口の中に広がった。
「美味い。さすが女中の仕事をやってるだけあるね」
「だよね。私が男だったら絶対お嫁さんにするのにぃー」
はいはい。のろけはもういいよ。しかもなんで女同士の友情に嫉妬してるんだよ俺は。
クッキーをもう一枚取り出してから紙袋の口を閉じているとき、パメラが少し遠い目をしてつぶやいた。
「エドガーから磨き布を見せられた時には不安しかなかったんだけど、こうしてパメラと仲直りできたし、本当に良かったよ。それに、エドガーたちのお陰で新しい恋も始められそう」
えっ、それってもしかして……。
俺があらぬ期待に心臓をどきどきさせていると、グラディスはポケットから何かを取り出して、テーブルの上に広げて見せた。
「見てこれ!」
「なに、これ……?」
「来月、有名な旅の一座がこの街に来るの。すっごく有名な一座なんだって。で、見て、この歌手の人! すっごくイケメンって評判なんだよ!」
俺はがっくりと肩を落とした。
そうだった、グラディスはミーハーなんだった。
しっかし、レオン先生のことがあったばかりなのに、懲りない奴だなあ。
でもとにかく、グラディスに笑顔が戻って本当に、本当に良かった。
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