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雲の行き先 62 おまけのオススメ 上
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「真面目だと言ったでしょう」
リュゼーの肩に手を置きながら、ウィーリーはヘヒュニに笑顔を向ける。それから、「この場は上手くいくけど、後々足を引っ張る。僕も同じことをするかなぁ」と、顔を向ける。
「ディレク様を庇ったインテリジ様が、この後どうなっちゃうのかも気になっちゃうし」
ウィーリーは茶目っ気たっぷりで笑う。
貴族同士で何やら話し声が聞こえるが、酒をすすめる声は上がらない。しばらくの間、ウィーリーは口を閉じて耳を傾ける。
「——相手が武で訴えてきたら、あっさりお酒、飲んじゃっていいよ」
口を閉じているのに声が聞こえてくるのは、どういった仕組みなのだ?
そんなことよりも、この声を使うのにまだ慣れていない身に、この距離はありがたい。顔をウィーリーに向ければ、口元も隠しやすい。
「——よろしいのですか?」
「——考えてもみてよ。それの方が取れる手が増える」
「——そうなのですね」
「——まあ、君の気持ちしだいだけどね」
ぴくりと眉毛を動かしたウィーリーに、リュゼーは肯く。
「規則だというのだから、しょうがないことだ」
会話と人の雰囲気から、ヘヒュニは場をまとめる。
貴族たちは、流れを乱す面白くないやつだと顔を顰めてはいるが、否定的な気は生まれてこない。ところが、何かが引っ掛かる。
ウィーリーに目を向けたまま、リュゼーは辺りを探る。
「ヘヒュニ様から酒をいただくということは、ヘヒュニ様に、認められたということだからね。今いるこの中でさえ、酒をいただいたことのある人の方が少ないぐらいだもん。そりゃあ良い気はしないだろうね」
ウィーリーは歯に衣着せぬ物言いをする。むっ、とした顔を作る貴族が、ちらほら生まれる。感じた違和感は嫉妬の心だった。
「それを他国の若者が断るんだもん。しかも見習いの身分だって言うじゃん。僕は仲良くしておこっと。だって怒らせたら、何も言えなくなっちゃうよ」
これは、多分だけど脅しだ。
帝国よりエルドレに付いた方が良いというものだろう。
「そうとは知らず、失礼なことを致しました。申し訳ございません」
リュゼーは直ぐに謝意を述べる。
「よいよい」
リュゼーに手のひらを見せながら、ヘヒュニは小さく手を振る。
「皆様の気を悪くさせてしまい、合わせてお詫びいたします」
リュゼーは貴族の顔を見回す。
「——まあ……、うーん。合格かな」
そう言い残すと、ウィーリーはリュゼーから離れる。その言葉の意味を確認する間もなく、ラギリがウィーリーに話し掛ける。
「面白い若者だ」
「おや? すっかり、リュゼーをお気に入りになったみたいですね」
「そう言われると難しいのですが。気に入るというよりは、気になると表現した方が適していると思います」
「私も、がむしゃらな若者は好きです」
リュゼーは、背中越しに二人の会話を耳にする。
助けをくれるとのことだが、これを使ってどうすればいい。リュゼーは杯を見詰める。
「無理をしなくてよい」
その姿を見て、ヘヒュニが声を掛ける。
「お心遣い、ありがとうございます」
リュゼーは杯を隠すように両手で抱える。
ヘヒュニが勘違いをしてくれて助かった。でもこのままでは、誰も動かせない。杯は隠さない方がいいのか?
リュゼーの手元は、杯を中心にして動きが定まらない。ウィーリーが突然、吹き出すようにして笑う。
「リュゼーもこれ程までに悩んでいます。このまま終わらせるのは、少々、勿体無いと思います。どうでしょう、お茶というのは?」
ウィーリーはヘヒュニと目を合わせる。
「いかがです?」
ウィーリーはそう言い終わると、デゴジへと視線を移す。
その視線を追うように、ヘヒュニは斜め後ろに控えているデゴジへと目を動かす。その視界に入るように、デゴジが体を前に倒す。その視線をウィーリーに戻してから、ゆったりと美しく、手首を振ってデゴジに茶の用意をさせる。
「好きな茶の話でもすれば、仲も良くなるかもしれん」
「お心遣い、感謝いたします」
「粗暴なやつらと一緒にいるのに、大人になってからは今のまま変わらんな。いつ昔の荒くれ坊主に戻るのだ?」
ヘヒュニは笑う。
「何を申されます」
ウィーリーは照れた顔で笑い返す。
ウタニュがリュゼーをじっと見ている。リュゼーはそれに気が付き、ウタニュと目を合わせる。
「酒に慣れていない者でも、その歳なら舐める程度には杯に口を付ける。普段ならあってはならないものだ。ヘヒュニ様がお優しいから許されていることだと、しっかりと覚えておけよ」
ウタニュがリュゼーに言い渡す。
ウィーリーは笑いながらリュゼーの肩を叩き、「お互い言われちゃったね」と語り掛けた後、「——デゴジを引き摺り出したよ」と、笑う。
「あとはよろしくね」
会話から逃げるようにして、ウィーリーは口を閉じる。
ヘヒュニの後ろでは、デゴジが丁寧に茶を淹れている。これまでのことを考えれば、茶の話になったのは偶然ではないことに気が付く。
さっきの『正解』も、茶の話に繋げやすい動きだったからだろう。ウィーリーはつかみどころのない立ち振る舞いをするが、本当に、何を考えているのか分からない。
ただ、作られた流れに乗れば話が進むので楽ではある。与えられた仕事をこなせば良いだけだ。気を引き締めろ。
使用人が茶の淹れられた瓶を持ってくる。
「難しい顔してるのは、もしかしたらこういうこと? 注がれたら何かひとこと言って、飲めばいいだけだよ」
「ありがとうございます」
またひとつ、リュゼーから不安が消える。本当の感情を表に出すな、ウィーリーの指摘にリュゼーは笑顔を作る。
リュゼーの肩に手を置きながら、ウィーリーはヘヒュニに笑顔を向ける。それから、「この場は上手くいくけど、後々足を引っ張る。僕も同じことをするかなぁ」と、顔を向ける。
「ディレク様を庇ったインテリジ様が、この後どうなっちゃうのかも気になっちゃうし」
ウィーリーは茶目っ気たっぷりで笑う。
貴族同士で何やら話し声が聞こえるが、酒をすすめる声は上がらない。しばらくの間、ウィーリーは口を閉じて耳を傾ける。
「——相手が武で訴えてきたら、あっさりお酒、飲んじゃっていいよ」
口を閉じているのに声が聞こえてくるのは、どういった仕組みなのだ?
そんなことよりも、この声を使うのにまだ慣れていない身に、この距離はありがたい。顔をウィーリーに向ければ、口元も隠しやすい。
「——よろしいのですか?」
「——考えてもみてよ。それの方が取れる手が増える」
「——そうなのですね」
「——まあ、君の気持ちしだいだけどね」
ぴくりと眉毛を動かしたウィーリーに、リュゼーは肯く。
「規則だというのだから、しょうがないことだ」
会話と人の雰囲気から、ヘヒュニは場をまとめる。
貴族たちは、流れを乱す面白くないやつだと顔を顰めてはいるが、否定的な気は生まれてこない。ところが、何かが引っ掛かる。
ウィーリーに目を向けたまま、リュゼーは辺りを探る。
「ヘヒュニ様から酒をいただくということは、ヘヒュニ様に、認められたということだからね。今いるこの中でさえ、酒をいただいたことのある人の方が少ないぐらいだもん。そりゃあ良い気はしないだろうね」
ウィーリーは歯に衣着せぬ物言いをする。むっ、とした顔を作る貴族が、ちらほら生まれる。感じた違和感は嫉妬の心だった。
「それを他国の若者が断るんだもん。しかも見習いの身分だって言うじゃん。僕は仲良くしておこっと。だって怒らせたら、何も言えなくなっちゃうよ」
これは、多分だけど脅しだ。
帝国よりエルドレに付いた方が良いというものだろう。
「そうとは知らず、失礼なことを致しました。申し訳ございません」
リュゼーは直ぐに謝意を述べる。
「よいよい」
リュゼーに手のひらを見せながら、ヘヒュニは小さく手を振る。
「皆様の気を悪くさせてしまい、合わせてお詫びいたします」
リュゼーは貴族の顔を見回す。
「——まあ……、うーん。合格かな」
そう言い残すと、ウィーリーはリュゼーから離れる。その言葉の意味を確認する間もなく、ラギリがウィーリーに話し掛ける。
「面白い若者だ」
「おや? すっかり、リュゼーをお気に入りになったみたいですね」
「そう言われると難しいのですが。気に入るというよりは、気になると表現した方が適していると思います」
「私も、がむしゃらな若者は好きです」
リュゼーは、背中越しに二人の会話を耳にする。
助けをくれるとのことだが、これを使ってどうすればいい。リュゼーは杯を見詰める。
「無理をしなくてよい」
その姿を見て、ヘヒュニが声を掛ける。
「お心遣い、ありがとうございます」
リュゼーは杯を隠すように両手で抱える。
ヘヒュニが勘違いをしてくれて助かった。でもこのままでは、誰も動かせない。杯は隠さない方がいいのか?
リュゼーの手元は、杯を中心にして動きが定まらない。ウィーリーが突然、吹き出すようにして笑う。
「リュゼーもこれ程までに悩んでいます。このまま終わらせるのは、少々、勿体無いと思います。どうでしょう、お茶というのは?」
ウィーリーはヘヒュニと目を合わせる。
「いかがです?」
ウィーリーはそう言い終わると、デゴジへと視線を移す。
その視線を追うように、ヘヒュニは斜め後ろに控えているデゴジへと目を動かす。その視界に入るように、デゴジが体を前に倒す。その視線をウィーリーに戻してから、ゆったりと美しく、手首を振ってデゴジに茶の用意をさせる。
「好きな茶の話でもすれば、仲も良くなるかもしれん」
「お心遣い、感謝いたします」
「粗暴なやつらと一緒にいるのに、大人になってからは今のまま変わらんな。いつ昔の荒くれ坊主に戻るのだ?」
ヘヒュニは笑う。
「何を申されます」
ウィーリーは照れた顔で笑い返す。
ウタニュがリュゼーをじっと見ている。リュゼーはそれに気が付き、ウタニュと目を合わせる。
「酒に慣れていない者でも、その歳なら舐める程度には杯に口を付ける。普段ならあってはならないものだ。ヘヒュニ様がお優しいから許されていることだと、しっかりと覚えておけよ」
ウタニュがリュゼーに言い渡す。
ウィーリーは笑いながらリュゼーの肩を叩き、「お互い言われちゃったね」と語り掛けた後、「——デゴジを引き摺り出したよ」と、笑う。
「あとはよろしくね」
会話から逃げるようにして、ウィーリーは口を閉じる。
ヘヒュニの後ろでは、デゴジが丁寧に茶を淹れている。これまでのことを考えれば、茶の話になったのは偶然ではないことに気が付く。
さっきの『正解』も、茶の話に繋げやすい動きだったからだろう。ウィーリーはつかみどころのない立ち振る舞いをするが、本当に、何を考えているのか分からない。
ただ、作られた流れに乗れば話が進むので楽ではある。与えられた仕事をこなせば良いだけだ。気を引き締めろ。
使用人が茶の淹れられた瓶を持ってくる。
「難しい顔してるのは、もしかしたらこういうこと? 注がれたら何かひとこと言って、飲めばいいだけだよ」
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