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本編前のエピソード
未来の将達 4 策に乗って
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「オゥオゥオゥオゥ」
リュートは森の智慧者、マシマシの鳴き声を真似る。他の二人も同じように鳴き声を真似し、付近の草木を叩いて物音を立てる。
それを見たマクベは、少しだけだが三人の方へ体を傾ける。
「よし、食いついた」
ファトストの目つきが変わる。
マシマシは闖入者への威嚇と、仲間に危険を知らせるために鳴き声と共に木々を大きく揺らす。マクベはその習性を利用し木の実を地面へと落とさせ、それを食す。マクベにとって、三人がする行為は、そのまま食に直結するものなのだ。そのためマシマシを真似た警戒行動に、脳ではなく体が反応してしまったのだ。
あれだけ月日を経た個体であれば、それは体の隅々まで染み渡っているはずである。
ファトストは食に対する本能に揺さぶりをかけたのだ。
「ほらほら、口の中によだれが溜まり始めたんじゃないか?」
リュートは口調の変わったファトストを見つめる。
「おい、ファトスト。とうとう本気になったな。シップの皮を被ったロウのお出ましだ」
ハッと何かに気が付いた様子のファトストは、何度か首を振り下を向く。再び顔を上げた時には、先程までの生真面目そうな顔付きに戻っていた。
「ここには俺たちしかいないんだぜ。いいってそんな顔しなくても」
リュゼーは笑う。
「そうだぞファトスト、俺達の前でその顔は必要ない。お前はいつもこうやって回りくどいことをして、結果として自分のやりたいように事を進める。そんなやつなら、さっきの顔の方がお似合いだ」
リュートはペシペシと自分の顔を叩く。
「回りくどいってその言い方は失礼だろ。ただ単に万全を期しているって思えないのか?」
ファトストは眉根に皺が寄りそうなのを堪えているのか、おでこと眉がピクリと動く。
「リュートの言っている意味が分からないなら説明してやろうか?さっきお前は被害者面して俺がそそのかすなんて言ってたけれど、イノの話をし始めたのはお前だぜ。俺はお前のやりたいことを代わりに言ってやってるだけなんだよ」
「そうさ、自分の意思で動いているようで、実はお前に誘導されている。小さい頃から一緒にいるからこそ、みなが知らない本当のお前を俺達は知っている。虫も殺さぬ顔を貼り付けているのは、お前にとっての処世術なんだろうけどな」
「買い被りすぎだよ。俺はそれ程の玉じゃない」
ファトストは務めて冷静に返す。
「相手はイノじゃなくてマクベだ。慎重になるのも分かる。でも、あいつは俺らの大好きなオソ爺の仇だ。お前の腸が煮えくり返っているのなんてとっくにお見通しなんだぞ。周りを見てみろよ、ここには俺達しかいない。気持ちを滾らせたって変な目でお前を見るやつは誰一人としていないぞ」
「その通りだ、リュート。お前もたまにはいいこと言うじゃねえか」
ファトストはすぅっと息を吸うが、しばし間を置き鼻からゆっくりと息を吐く。
「だからそんなんじゃないって。本心を言うと今でも恐ろしくて逃げ出したいぐらいだ」
「どんな時でも感情的にならない。それはお前の良いところだ」
リュートはほくそ笑む。
「だからこそ、お前の策は面白い」
リュゼーは弓を手にする。「お前の思い描く通りになるように、そろそろあいつを揶揄いに行くとするよ」
リュゼーはさっきより大きな声でマシマシの鳴き真似をし、威嚇するように距離を詰める。あたかもマシマシの群れのボスがマクベにする、それと同じ様に。
「俺達はこのままでいいんだよな?」
「そうだ」
ファトストは頷く。「リュゼーがあいつをある程度引きつけたら森に逃げ込む。再び俺達に意識が向いた時にイノを移動させていれば、強欲なあいつは横取りしようとこっちにくるはずだ」
「それなら、しばらくはリュゼーのお手並みを拝見だな」
マクベは自分に近付いてくるリュゼーに向かって、独特の唸り声を上げる。リュゼーは臨界距離まで近づいたことを察するとその場に立ち止まり、威嚇の鳴き声を大きくする。
再びマクベが唸り声を上げると同時に、リュゼーは鳴き声を小さくし少し後退りをする。それによりマクベはリュゼーとの距離を詰めるためにゆっくりと動き出す。
「役者だねぇ。ああやって獣にすら通用するんだから、あいつにとって人間なんてちょろいもんなんだろうな」
リュートは感嘆する。
距離を保つようにリュゼーは後退し、マクベと己との間に弓を射る。
マクベは意に介さず、なおも距離を詰めてくる。
リュゼーが次の矢を番えようとすると、マクベは急に速度を上げる。慌てて射た矢はマクベの横を通り過ぎる。もう一度射かけるがマクベの硬い体に弾かれてしまう。
「演技なのか、それとも本気で外したのか、今のはどっちだ?」
緊迫した状況でも、リュートは冷やかすようにファトストに話しかける。
「うるさい、黙って見てろ」
「はいはい。そんなに怒るなよ」
お互いの距離からすると、これ以上の矢を射る時間は残されていない。
ここでファトストの指笛が鳴る。
十分にその役目を果たしたリュゼーは、身を翻し森の中へ逃げ込む。マクベは逃げ込んだ先を暫く見つめるが、音が森の奥へと消えていくとその身を二人の方に向ける。
「やっぱりあいつはすげえ。やつはすっかり騙されてやがる」
「でも、急に距離を詰めるなんて、狡賢いだけあって相手もなかなかやるな」
「確かにな」
リュートはイノを縛っている綱を握る。「次は俺の番だな」
マクベが二人に顔を向けたと同時に力任せにイノを引き摺り始めた。
リュートは森の智慧者、マシマシの鳴き声を真似る。他の二人も同じように鳴き声を真似し、付近の草木を叩いて物音を立てる。
それを見たマクベは、少しだけだが三人の方へ体を傾ける。
「よし、食いついた」
ファトストの目つきが変わる。
マシマシは闖入者への威嚇と、仲間に危険を知らせるために鳴き声と共に木々を大きく揺らす。マクベはその習性を利用し木の実を地面へと落とさせ、それを食す。マクベにとって、三人がする行為は、そのまま食に直結するものなのだ。そのためマシマシを真似た警戒行動に、脳ではなく体が反応してしまったのだ。
あれだけ月日を経た個体であれば、それは体の隅々まで染み渡っているはずである。
ファトストは食に対する本能に揺さぶりをかけたのだ。
「ほらほら、口の中によだれが溜まり始めたんじゃないか?」
リュートは口調の変わったファトストを見つめる。
「おい、ファトスト。とうとう本気になったな。シップの皮を被ったロウのお出ましだ」
ハッと何かに気が付いた様子のファトストは、何度か首を振り下を向く。再び顔を上げた時には、先程までの生真面目そうな顔付きに戻っていた。
「ここには俺たちしかいないんだぜ。いいってそんな顔しなくても」
リュゼーは笑う。
「そうだぞファトスト、俺達の前でその顔は必要ない。お前はいつもこうやって回りくどいことをして、結果として自分のやりたいように事を進める。そんなやつなら、さっきの顔の方がお似合いだ」
リュートはペシペシと自分の顔を叩く。
「回りくどいってその言い方は失礼だろ。ただ単に万全を期しているって思えないのか?」
ファトストは眉根に皺が寄りそうなのを堪えているのか、おでこと眉がピクリと動く。
「リュートの言っている意味が分からないなら説明してやろうか?さっきお前は被害者面して俺がそそのかすなんて言ってたけれど、イノの話をし始めたのはお前だぜ。俺はお前のやりたいことを代わりに言ってやってるだけなんだよ」
「そうさ、自分の意思で動いているようで、実はお前に誘導されている。小さい頃から一緒にいるからこそ、みなが知らない本当のお前を俺達は知っている。虫も殺さぬ顔を貼り付けているのは、お前にとっての処世術なんだろうけどな」
「買い被りすぎだよ。俺はそれ程の玉じゃない」
ファトストは務めて冷静に返す。
「相手はイノじゃなくてマクベだ。慎重になるのも分かる。でも、あいつは俺らの大好きなオソ爺の仇だ。お前の腸が煮えくり返っているのなんてとっくにお見通しなんだぞ。周りを見てみろよ、ここには俺達しかいない。気持ちを滾らせたって変な目でお前を見るやつは誰一人としていないぞ」
「その通りだ、リュート。お前もたまにはいいこと言うじゃねえか」
ファトストはすぅっと息を吸うが、しばし間を置き鼻からゆっくりと息を吐く。
「だからそんなんじゃないって。本心を言うと今でも恐ろしくて逃げ出したいぐらいだ」
「どんな時でも感情的にならない。それはお前の良いところだ」
リュートはほくそ笑む。
「だからこそ、お前の策は面白い」
リュゼーは弓を手にする。「お前の思い描く通りになるように、そろそろあいつを揶揄いに行くとするよ」
リュゼーはさっきより大きな声でマシマシの鳴き真似をし、威嚇するように距離を詰める。あたかもマシマシの群れのボスがマクベにする、それと同じ様に。
「俺達はこのままでいいんだよな?」
「そうだ」
ファトストは頷く。「リュゼーがあいつをある程度引きつけたら森に逃げ込む。再び俺達に意識が向いた時にイノを移動させていれば、強欲なあいつは横取りしようとこっちにくるはずだ」
「それなら、しばらくはリュゼーのお手並みを拝見だな」
マクベは自分に近付いてくるリュゼーに向かって、独特の唸り声を上げる。リュゼーは臨界距離まで近づいたことを察するとその場に立ち止まり、威嚇の鳴き声を大きくする。
再びマクベが唸り声を上げると同時に、リュゼーは鳴き声を小さくし少し後退りをする。それによりマクベはリュゼーとの距離を詰めるためにゆっくりと動き出す。
「役者だねぇ。ああやって獣にすら通用するんだから、あいつにとって人間なんてちょろいもんなんだろうな」
リュートは感嘆する。
距離を保つようにリュゼーは後退し、マクベと己との間に弓を射る。
マクベは意に介さず、なおも距離を詰めてくる。
リュゼーが次の矢を番えようとすると、マクベは急に速度を上げる。慌てて射た矢はマクベの横を通り過ぎる。もう一度射かけるがマクベの硬い体に弾かれてしまう。
「演技なのか、それとも本気で外したのか、今のはどっちだ?」
緊迫した状況でも、リュートは冷やかすようにファトストに話しかける。
「うるさい、黙って見てろ」
「はいはい。そんなに怒るなよ」
お互いの距離からすると、これ以上の矢を射る時間は残されていない。
ここでファトストの指笛が鳴る。
十分にその役目を果たしたリュゼーは、身を翻し森の中へ逃げ込む。マクベは逃げ込んだ先を暫く見つめるが、音が森の奥へと消えていくとその身を二人の方に向ける。
「やっぱりあいつはすげえ。やつはすっかり騙されてやがる」
「でも、急に距離を詰めるなんて、狡賢いだけあって相手もなかなかやるな」
「確かにな」
リュートはイノを縛っている綱を握る。「次は俺の番だな」
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