王国戦国物語

遠野 時松

文字の大きさ
61 / 148
本編前のエピソード

兵の道 12 打ち合い

しおりを挟む
 街の片隅が静かに騒つく。
「街の人も楽しんでもらえているようで何よりだ。こちらで一緒に観たかったが、それはソルダ殿に止められてしまったのだ。勘弁してくれ」
 興奮しながら、シャルルイは独りごちる。
 確かに心躍る殴り合いだった。細身のボンシャが大男に殴り勝つ様は、見ていて衝撃的だった。
 この一戦で、風への信頼は一気に回復しただろう。それほどまでに、圧倒的で完璧な勝利だった。
「お前はどうする?」
 先ほどの余韻を残さず声を掛けたウルクの両手には、木剣が握られている。
「その手を見れば分かる。拳で語らうよりも、これの方が得意なのだろ?」 
 強面の男は、肉刺を何度も潰して硬くなった右手を差し出す。にやりと笑ってから、ウルクはその手に向かって木剣を投げる。
 カンと甲高い音が鳴る。
 両者とも顔に似合わず綺麗な太刀筋をしている。特にウルクの剣技は綺麗だった。
 無駄な力が込められていないため、木剣が鞭のようにしなって見える。
 足の運びも実に見事で、相手の動きを見極め、必要最低限しか動かずに紙一重で攻撃を躱わす。まるで演舞を観ているようだった。本気で打ち込んでくる相手に対してここまで魅せれるのは、余程の差がないと出来ない芸当だ。
 次第に木剣どうしが当たる音が増える。そこからは、決闘というには程遠いただの稽古であった。
 強面からのどんな攻撃も的確に払い除けてから、全く同じ太刀筋にて仕掛け、最適解を見せつけるかのように何度となく体を軽く打ちつける。
 真剣勝負の場でこの扱いをされたら、誰であろうと悔しくてしょうがない。敵ながら心中を察する。
「それで終いか?体力がないのう」
 ウルクは、呼吸が荒くなった強面に向かって冷たく言い放つ。
 次の瞬間、意を決して踏み出した強面の体がくの字になる。強面は腹を押さえて、嗚咽混じりに激しく咳き込む。
「その心意気や良し」
 満身創痍ながらも闘志剥き出しに構える強面を心から称え、ウルクは木剣を振りかぶる。
 木と木が激しくぶつかる音がする。それを打ち消すかのようなバチン、という音と共に何かが折れる音がする。強面は苦悶の表情を浮かべ、首元を気にしながら直ぐに落とした木剣を拾う。
 さっきので左手は使えなくなったのだろう。右手のみで木剣を構える。
「おい」
 その声に強面は悔しそうに一度だけ地面を踏み締めると、自分を落ち着かせるために呼吸を整える。顔を激しく歪めたまま、声を掛けてきた頭に木剣を投げ渡す。
 木剣を受け取った賊の頭はウルクに体を向けるが、ウルクは一向に構えようとしない。
「なぜ構えない?」
 頭の問いかけにウルクは反応しない。
「なんだ、一体何を考えている?」
「お前たちに好かれて大変光栄だが、先ほどから、一対一だったであろう」
 言葉の途中で何かに気が付いた賊の頭は、ゆっくりとビークに向かって首を振る。
 突き刺す様な殺気を身に纏ったビークは、無言のまま歩き出し頭の目の前に立つ。その気に押されてしまい、始まりの合図も無く振られてきた木剣を下に叩きつけると、そのまま地面に押さえ付ける。
 賊の頭は木剣に力を込めるが、ぴくりとも動かない。
 その様をしばらく眺めてから不意に力を緩め、ビークは無言でその場から離れる。
「まあ、そういうことだ。お前じゃ絶対に勝てない」
 ボンシャが軽く木剣を振りながら、賊の頭に近付く。
「俺は、お前たちに襲われた風を率いていた人に、大きな恩があるんだよ。その方も、あの方と同じくらい強い」
「俺の方が強いがな」
 ビークから要らぬ横槍が入る。
 ボンシャはやれやれと苦笑いを浮かべてから、スッと目つきを変える。
「どちらにしろ、商人を含めて三人を子守した状態でなければ、お前如きに負けはしないということだ」
 賊の頭は、悪びれる様子もなく睨み返す。
「用意された三人ではなくて、格が落ちる俺に負けたりしたら、二度と立ち直れないな」
 ボンシャは、かかってこい。と言わんばかりに両手を広げる。
「そう急ぐでない」
 ボンシャは声のした方を見る。
 シャルルイはリュートの奥襟を捕まえると「期待しているぞ」と舞台に向かって放り込んだ。
 それを見たボンシャの肩の力が抜ける。「確かにこいつに負けたら恥ずかしくて生きていけないが、俺は無理だと思いますよ」とシャルルイに苦言を呈し、焦らされたのを我慢するように木剣で自分の肩を何度か叩く。
「いやいや分からぬぞ、やる気に漲るあの顔を見てみろ」
 ウルクは懐から包んだ葉を取り出し、口に入れる。
 リュートは木剣を構え、慎重に距離を詰める。
「いい加減にしろよ、お前ら」
 自分の存在を捨て置かれている賊の頭が、吐き捨てる。
 怒りに満ちているが、構えはしっかりとしている。
 ビークに容易く捌かれたとはいえ、動きは鋭く早く、今までしっかりと剣を振ってきたのが分かる。が、避けられぬものではない。
 挨拶代わりに打ち合ってから、リュートは間を置かずに打ち込む。明らかな体格の差を埋めるために、先ずは速さで撹乱する。木剣を払いつつ、前腕や脚を狙い機動力を削ぐ。
 こちらの狙いが分かった賊の頭は、戦い方を変えてくる。
 上にくるか下にくるのか、判断に迷う位置から振ってくる。これが非常に読み難い。結果として、後手後手に回ってしまった。
 打ち込み方も初手とは違い、切るというものから殴りつけるというものに変わった。そして、これだ。
 髭面から腹蹴りを受け、リュートは後ろに飛ばされる。
 接近すると肉弾戦が始まる、これをどうにかしたい。これでは、斬り合いというより木剣を使った喧嘩だ。相手に分がありすぎる。
 賊の頭は生じた距離を活かして突きを放つ。
 リュートは避けながら、体をコマのように回す。狙いに気が付いた頭が足を引く前に、剣先で太腿を抉る。髭面の顔が歪むのを見て手応えを感じる。
 この叩かれ方が一番痛い。そっちが喧嘩で培ってきたものを使うなら、こちらも今までの成果を試させてもらう。
 武というのは、力無き者が強者に勝つために、そして、力ある者はさらなる高みを目指すためにあるのだ。お前たちの考えには賛同できない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

処理中です...