21 / 148
とある王国の エピソード
とあるエピソード お灸 開戦 中
しおりを挟む
眼前に立ち並ぶ旗に炙り出された敵兵が、陣地より湧き出てくる。
出てくる敵兵の多さが、レンゼストを最大限に警戒していることを示している。
「塚を壊されては堪らんからな」
レンゼストは敵の反応を見て、素直に笑う。
「どうだ?」
「頃合いかと」
ファトストは、敵兵の数を読んで進言する。
「前ばかり気にすると、後ろから襲われてしまうぞ」
レンゼストがそう言いいながら手を上から下に振ると、近くで待機していた兵がケインとラークに知らせの矢を放つ。
甲高い音が空を駆けると、陣形をしっかりと組んだ中央のハオス軍が、敵陣地へ向けて押し進め始める。
「ライロス」
レンゼストは顔の横まで手を挙げる。
「弓兵!」
ライロスは兵に声を掛け、矢を番えさせる。
「狙いは敵の出入りとなっている、左側の壁に近い、あの、崩れた塀の辺りだ」
レンゼストが見つめる先に照準を定め、兵は引き絞る。
レンゼストの手が振り下ろされると、長弓の力強い矢が敵を貫いていく。その衝撃で敵に動揺が走り、足が止まる。
「報告!」兵が駆け寄る。「右翼、拠点確保のため敵陣地へ交戦開始」
「敵の出入り口付近に、こちらの拠点があると便利ですね」
レンゼストがファトストの顔を見る。ファトストは続けて、「クロスボウ兵が役に立ちます」と、小さく頷く。
「ライロス」
「はっ!」
「中央ハオス兵を使って敵の出入り口付近に拠点を築け、そこから矢だ。自ら巣に蓋をするなら儲け物だ」
ライロスは兵を呼び、詳細を説明してから伝令へと向かわせる。
そこに兜に羽を付けた別の兵が、レンゼストに近付いてくる。
「ロンビア様より伝令、右に押し出された敵兵へ攻撃を開始するとのこと」
レンゼストは空をぐるりと見る。
「中央は突撃の機会までこのまま待つ。陣形を組み直しておけ」
「はっ!」
ライロスが馬の腹を蹴って、隊へと駆け出す。
「さて、どうでると思う?」
レンゼストは訊ねる。
「右翼の攻撃は兵糧を狙ったものだと、敵も気付くはず。左翼はハオスの将が多くいますので、思惑通りになるのでは、と考えます」
「上手く餌に食いついてくれるかのお」
「仕掛けが上手いので、心配はいらないのではないですか」
レンゼストは不敵に笑う。
「海育ちの我にとっての狩りは、やはり釣りだ。仕掛けに獲物が食いつく瞬間が、一番心踊る瞬間だからな。この魚は見る限り、引きが強くて楽しめそうだ」
「ハオス兵も、自分が餌にされて将が釣りに興じているとは思いもしないでしょうね」
ファトストはつられて笑う。
「何を言うか、これぐらいは楽しませてもらう。何より、好き勝手に攻めて良いなら、直ぐにでも敵の本拠地を狙いに行く。ハオスの将校が戦で我を忘れ、武人たる心意気を失くしたから、渋々、灸を据えるのだ」
「その通りです。しっかりと、レンゼスト様を侮ったハオス兵には、きつい灸を据えてやりましょう」
レンゼストはそれを聞いて笑う。
「お主が怒るのを聞く度に、我は本当に灸を据えたかったのかと疑問に思ってしまうな」
「ファトスト様が言わなければ我々が」
騎兵の一人が声を上げる。
「分かった、分かった」
レンゼストは手首を振る。
「ハオスを守るのはハオスの兵であるのが当然だ、やつらの気持ちも分かる。しかし、戦は段取りが重要だ、焦ったところで勝利は手にできん。それを学んでもらおうではないか」
レンゼストの思惑通りに、裏の防衛が必要となったため中央から敵が出てくるのが止み、後方の敵遊軍の大半がこちらの目を掻い潜る様に静かに左翼に向かって進軍する。
その様子は、山から戦場に向けて放たれる偵察の矢が、逐一音で知らせる。
中央はハオス兵が良く守り、敵の動きを制した。
レンゼストは、その後で突撃の陣形を組んだまま時を重ねる。あくまで敵陣地への攻撃はハオス軍の仕事だと態度で示している。それでも中央の敵への牽制にはなっただろう。
右翼は、こちらの狙いが兵糧だと敵が気付くと、直ぐに対策を講じてきた。そこから無理強いはせず、いつでも退ける位置で色々と仕事に励む。投降兵は正しく扱い、憎たらしい妨害を仕掛けてくるこちらに、敵は手を焼いている。
左翼の状況はあまり良くない。敵の対応に追われて、陣地内の攻撃は鳴りを潜めてきた。
陣地を壊すことは出来たが、敵軍には有効な攻撃が出来ていない。戦果として誇れるものではない。それが分かっているため苛烈に攻めたが、上手く返されてしまった。
それどころか、敵遊軍により出口に蓋がされそうなのを、左翼は必死に堪えている。ここにきてやっと冷静になり、自分たちの仕掛けた無理な攻撃を悔やんでいるだろう。
出てくる敵兵の多さが、レンゼストを最大限に警戒していることを示している。
「塚を壊されては堪らんからな」
レンゼストは敵の反応を見て、素直に笑う。
「どうだ?」
「頃合いかと」
ファトストは、敵兵の数を読んで進言する。
「前ばかり気にすると、後ろから襲われてしまうぞ」
レンゼストがそう言いいながら手を上から下に振ると、近くで待機していた兵がケインとラークに知らせの矢を放つ。
甲高い音が空を駆けると、陣形をしっかりと組んだ中央のハオス軍が、敵陣地へ向けて押し進め始める。
「ライロス」
レンゼストは顔の横まで手を挙げる。
「弓兵!」
ライロスは兵に声を掛け、矢を番えさせる。
「狙いは敵の出入りとなっている、左側の壁に近い、あの、崩れた塀の辺りだ」
レンゼストが見つめる先に照準を定め、兵は引き絞る。
レンゼストの手が振り下ろされると、長弓の力強い矢が敵を貫いていく。その衝撃で敵に動揺が走り、足が止まる。
「報告!」兵が駆け寄る。「右翼、拠点確保のため敵陣地へ交戦開始」
「敵の出入り口付近に、こちらの拠点があると便利ですね」
レンゼストがファトストの顔を見る。ファトストは続けて、「クロスボウ兵が役に立ちます」と、小さく頷く。
「ライロス」
「はっ!」
「中央ハオス兵を使って敵の出入り口付近に拠点を築け、そこから矢だ。自ら巣に蓋をするなら儲け物だ」
ライロスは兵を呼び、詳細を説明してから伝令へと向かわせる。
そこに兜に羽を付けた別の兵が、レンゼストに近付いてくる。
「ロンビア様より伝令、右に押し出された敵兵へ攻撃を開始するとのこと」
レンゼストは空をぐるりと見る。
「中央は突撃の機会までこのまま待つ。陣形を組み直しておけ」
「はっ!」
ライロスが馬の腹を蹴って、隊へと駆け出す。
「さて、どうでると思う?」
レンゼストは訊ねる。
「右翼の攻撃は兵糧を狙ったものだと、敵も気付くはず。左翼はハオスの将が多くいますので、思惑通りになるのでは、と考えます」
「上手く餌に食いついてくれるかのお」
「仕掛けが上手いので、心配はいらないのではないですか」
レンゼストは不敵に笑う。
「海育ちの我にとっての狩りは、やはり釣りだ。仕掛けに獲物が食いつく瞬間が、一番心踊る瞬間だからな。この魚は見る限り、引きが強くて楽しめそうだ」
「ハオス兵も、自分が餌にされて将が釣りに興じているとは思いもしないでしょうね」
ファトストはつられて笑う。
「何を言うか、これぐらいは楽しませてもらう。何より、好き勝手に攻めて良いなら、直ぐにでも敵の本拠地を狙いに行く。ハオスの将校が戦で我を忘れ、武人たる心意気を失くしたから、渋々、灸を据えるのだ」
「その通りです。しっかりと、レンゼスト様を侮ったハオス兵には、きつい灸を据えてやりましょう」
レンゼストはそれを聞いて笑う。
「お主が怒るのを聞く度に、我は本当に灸を据えたかったのかと疑問に思ってしまうな」
「ファトスト様が言わなければ我々が」
騎兵の一人が声を上げる。
「分かった、分かった」
レンゼストは手首を振る。
「ハオスを守るのはハオスの兵であるのが当然だ、やつらの気持ちも分かる。しかし、戦は段取りが重要だ、焦ったところで勝利は手にできん。それを学んでもらおうではないか」
レンゼストの思惑通りに、裏の防衛が必要となったため中央から敵が出てくるのが止み、後方の敵遊軍の大半がこちらの目を掻い潜る様に静かに左翼に向かって進軍する。
その様子は、山から戦場に向けて放たれる偵察の矢が、逐一音で知らせる。
中央はハオス兵が良く守り、敵の動きを制した。
レンゼストは、その後で突撃の陣形を組んだまま時を重ねる。あくまで敵陣地への攻撃はハオス軍の仕事だと態度で示している。それでも中央の敵への牽制にはなっただろう。
右翼は、こちらの狙いが兵糧だと敵が気付くと、直ぐに対策を講じてきた。そこから無理強いはせず、いつでも退ける位置で色々と仕事に励む。投降兵は正しく扱い、憎たらしい妨害を仕掛けてくるこちらに、敵は手を焼いている。
左翼の状況はあまり良くない。敵の対応に追われて、陣地内の攻撃は鳴りを潜めてきた。
陣地を壊すことは出来たが、敵軍には有効な攻撃が出来ていない。戦果として誇れるものではない。それが分かっているため苛烈に攻めたが、上手く返されてしまった。
それどころか、敵遊軍により出口に蓋がされそうなのを、左翼は必死に堪えている。ここにきてやっと冷静になり、自分たちの仕掛けた無理な攻撃を悔やんでいるだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる