王国戦国物語

遠野 時松

文字の大きさ
108 / 148
本編前のエピソード

雲の行き先 46 承認 中

しおりを挟む
 これはどういうことだ。
 隠語や掛詞といったものは聞いたことがあるが、これはそのどれとも違う。公然の場で堂々と国防について話をしている。
 ヘヒュニと話している者たちの様子を見る限り裏の会話は聞こえていないと思うが、それもどうかは分からない。あのペターという使用人は何者なのだろうか。ヘヒュニに雇われているみたいだが、ロシリオの専属としての役割を担っている様に思える。
 色々と聞きたいことがあるが、今は目の前で繰り広げられている事柄に集中しなければならない。
「やはり酒が飲めるというのは良いものですな。お互いの気持ちが通じやすくなる」
 イルミルズは心底楽しそうに手に持つ杯を眺める。
「そうですね。酒を飲み交わすことによりお互いのことが分かり、絆が深まるということに繋がります」
 ドロフも同意して深く頷く。
「そうだな。国と国との繋がりはあったが、こうして人と人との繋がりが広がったのは大変良いことだ。これを教訓として、今後はエルメウス家としても酒を解禁した方がいいのではないか? その方が色々な種類の酒についても話をすることができ、クセのある酒や飲みやすい酒などが分かり、便利だと思うがの」
 ロシリオはドロフに笑いかけ、話をしてみたらどうだ? と、ディレクの方に向かって顎をしゃくる。
 イルミルズは「確かに」と笑い、声を変えて『クセといえば、近くで聞き耳を立てていたクセのある輩に、ドロフ殿は悪戯を仕掛けていましたぞ』と付け加える。
「そうおっしゃらずに」
 ドロフは笑い、「酒を飲んで任務中に粗相をしてしまっては、大変なことになってしまいます」と、肩を竦めて首を横にふる。
 ロシリオは、それを聞いて鼻で笑う。
「現に、おぬしは飲んでいるではないか。粗相をしない自信があるというのか?」
「私はたまたま飲まざる状況であったため、仕方なく飲んだのでございます」
「近くで見ていたが、俺には自ら進んで飲んだようにしか見えなかったがな」
「イルミルズ殿、勘違いされては困ります。私は、後進の未来を閉ざさぬように仕方なくしたことです」
「物は言いようだな。まあ、そのおかげでこうして楽しい酒が飲めたのだ。こちらからも、チャントール殿によろしく伝えてくれ」
「かしこまりました。その様にいたします」
 リュゼーは三人の会話に耳を澄ます。
「——今日はここまで。これ以上は聞いてほしくないな」
 ところが、ウィーリーの声により、特殊な声で為されている裏の会話が妨げられる。
「——なぜです?」
「——こちらの恥を晒すみたいで嫌なんだ」
 ウィーリーは笑う。いつもの優しい笑顔だが、漂う雰囲気にリュゼーは諦めるしかなかったら。
 気が付かなかったが、奥のテーブルに通されるために待機をしていた時に、聞き耳を立てていた者がいたらしい。仕掛けた悪戯とは、ロシリオが帝国と繋がっていると噂が立ったならば、その地域は帝国と繋がっているのではないかというもので、情報源の特定をお願いするというものだった。確かにそんなことを話をしていたかもしれない。しかし、それすらも計算していたということなのか。どういうことなのだ、頭を使いすぎて痛くなる。
 悪戯と表現されていた通りその話はそこまで重要視されてはいなかったが、その後に行われた、テーブルを回っている時に感じた疑わしい者の情報をお互いに共有し始めた際に、ウィーリーに遮られてしまった。
「——お詫びにもうひとつだけ教えるね。侍るということはお世話をするだけじゃない。主人に害をなすものを近付けないということも大切だよ。こうやって会話を聴かれないようにするのもその内のひとつだね」
 引き続き三人は楽しそうに酒の話をしているが、裏の会話を知る術はウィーリーによって閉ざされてしまう。
 リュゼーはもどかしさを感じていると、ヘヒュニと話をしている者たちが別れの挨拶をしだす。それぞれ、挨拶が終わり次第にその場を離れるが、ディレクと話を続ける者が数名いる。流石、人たらしと言われるだけはある。
 あの者たちが全て離れれば、ヘヒュニと話すことになるのかもしれない。
「そうだ、良い酒がある」
 オシリオはそう言うと、ペターに合図を送る。ペターは後ろに下がり新たな酒を用意する。
「これはとっておきだ」
 ロシリオはそう言うとニンマリと笑い、イルミルズとドロフの顔を見る。ウィーリーは徐にテーブルの奥に回り込み、ウィーリーから酒瓶を受け取る。
 リュゼーはその隙に耳を澄ますが、隠された話は既に終えられているのかあの話し声は聞こえてこない。隣の者たちが動き出したので会話を控えたのか、はたまた、必要な会話はし終えたので本格的に酒を飲み始めようとしているのかもしれない。
「長い年月を経て熟成されたものになります」
 ウィーリーはイルミルズとドロフにそう告げると、熟成を経て黄褐色に変わった酒をイルミルズに注ぐ。
「ほお。これは、これは」
 イルミルズは、己の杯を満たしていく酒に目が輝く。
「ここまで大切に育てられた酒は、暫くお目にかかっていませんでした。何年ものですか?」
 その様子を眺めながらドロフは訊ねる。
「十二年ほど寝かせました。数に限りがあるのですが……」ウィーリーは瓶に書かれている数字を目にする。「この場に持ち込まれたのは十三番目のものですね」
 ウィーリーはそう答えると、ドロフへと酌をする。
「ほおー」
 注がれた酒の香りを嗅いだドロフは感嘆の声を上げる。
 そこに、ディレクと話をしている内のひとりがこちらに近付いてくる。
 赤い襟の男。ラギリだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

処理中です...