王国戦国物語

遠野 時松

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雲の行き先 46 承認 中

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 これはどういうことだ。
 隠語や掛詞といったものは聞いたことがあるが、これはそのどれとも違う。公然の場で堂々と国防について話をしている。
 ヘヒュニと話している者たちの様子を見る限り裏の会話は聞こえていないと思うが、それもどうかは分からない。あのペターという使用人は何者なのだろうか。ヘヒュニに雇われているみたいだが、ロシリオの専属としての役割を担っている様に思える。
 色々と聞きたいことがあるが、今は目の前で繰り広げられている事柄に集中しなければならない。
「やはり酒が飲めるというのは良いものですな。お互いの気持ちが通じやすくなる」
 イルミルズは心底楽しそうに手に持つ杯を眺める。
「そうですね。酒を飲み交わすことによりお互いのことが分かり、絆が深まるということに繋がります」
 ドロフも同意して深く頷く。
「そうだな。国と国との繋がりはあったが、こうして人と人との繋がりが広がったのは大変良いことだ。これを教訓として、今後はエルメウス家としても酒を解禁した方がいいのではないか? その方が色々な種類の酒についても話をすることができ、クセのある酒や飲みやすい酒などが分かり、便利だと思うがの」
 ロシリオはドロフに笑いかけ、話をしてみたらどうだ? と、ディレクの方に向かって顎をしゃくる。
 イルミルズは「確かに」と笑い、声を変えて『クセといえば、近くで聞き耳を立てていたクセのある輩に、ドロフ殿は悪戯を仕掛けていましたぞ』と付け加える。
「そうおっしゃらずに」
 ドロフは笑い、「酒を飲んで任務中に粗相をしてしまっては、大変なことになってしまいます」と、肩を竦めて首を横にふる。
 ロシリオは、それを聞いて鼻で笑う。
「現に、おぬしは飲んでいるではないか。粗相をしない自信があるというのか?」
「私はたまたま飲まざる状況であったため、仕方なく飲んだのでございます」
「近くで見ていたが、俺には自ら進んで飲んだようにしか見えなかったがな」
「イルミルズ殿、勘違いされては困ります。私は、後進の未来を閉ざさぬように仕方なくしたことです」
「物は言いようだな。まあ、そのおかげでこうして楽しい酒が飲めたのだ。こちらからも、チャントール殿によろしく伝えてくれ」
「かしこまりました。その様にいたします」
 リュゼーは三人の会話に耳を澄ます。
「——今日はここまで。これ以上は聞いてほしくないな」
 ところが、ウィーリーの声により、特殊な声で為されている裏の会話が妨げられる。
「——なぜです?」
「——こちらの恥を晒すみたいで嫌なんだ」
 ウィーリーは笑う。いつもの優しい笑顔だが、漂う雰囲気にリュゼーは諦めるしかなかったら。
 気が付かなかったが、奥のテーブルに通されるために待機をしていた時に、聞き耳を立てていた者がいたらしい。仕掛けた悪戯とは、ロシリオが帝国と繋がっていると噂が立ったならば、その地域は帝国と繋がっているのではないかというもので、情報源の特定をお願いするというものだった。確かにそんなことを話をしていたかもしれない。しかし、それすらも計算していたということなのか。どういうことなのだ、頭を使いすぎて痛くなる。
 悪戯と表現されていた通りその話はそこまで重要視されてはいなかったが、その後に行われた、テーブルを回っている時に感じた疑わしい者の情報をお互いに共有し始めた際に、ウィーリーに遮られてしまった。
「——お詫びにもうひとつだけ教えるね。侍るということはお世話をするだけじゃない。主人に害をなすものを近付けないということも大切だよ。こうやって会話を聴かれないようにするのもその内のひとつだね」
 引き続き三人は楽しそうに酒の話をしているが、裏の会話を知る術はウィーリーによって閉ざされてしまう。
 リュゼーはもどかしさを感じていると、ヘヒュニと話をしている者たちが別れの挨拶をしだす。それぞれ、挨拶が終わり次第にその場を離れるが、ディレクと話を続ける者が数名いる。流石、人たらしと言われるだけはある。
 あの者たちが全て離れれば、ヘヒュニと話すことになるのかもしれない。
「そうだ、良い酒がある」
 オシリオはそう言うと、ペターに合図を送る。ペターは後ろに下がり新たな酒を用意する。
「これはとっておきだ」
 ロシリオはそう言うとニンマリと笑い、イルミルズとドロフの顔を見る。ウィーリーは徐にテーブルの奥に回り込み、ウィーリーから酒瓶を受け取る。
 リュゼーはその隙に耳を澄ますが、隠された話は既に終えられているのかあの話し声は聞こえてこない。隣の者たちが動き出したので会話を控えたのか、はたまた、必要な会話はし終えたので本格的に酒を飲み始めようとしているのかもしれない。
「長い年月を経て熟成されたものになります」
 ウィーリーはイルミルズとドロフにそう告げると、熟成を経て黄褐色に変わった酒をイルミルズに注ぐ。
「ほお。これは、これは」
 イルミルズは、己の杯を満たしていく酒に目が輝く。
「ここまで大切に育てられた酒は、暫くお目にかかっていませんでした。何年ものですか?」
 その様子を眺めながらドロフは訊ねる。
「十二年ほど寝かせました。数に限りがあるのですが……」ウィーリーは瓶に書かれている数字を目にする。「この場に持ち込まれたのは十三番目のものですね」
 ウィーリーはそう答えると、ドロフへと酌をする。
「ほおー」
 注がれた酒の香りを嗅いだドロフは感嘆の声を上げる。
 そこに、ディレクと話をしている内のひとりがこちらに近付いてくる。
 赤い襟の男。ラギリだ。
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