聖なる日の物語

遠野 時松

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サンタのクリスマス

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 今日は聖なる日。
 クリスマスツリーに飾られたイルミネーションが、夜空の星のように瞬きながら赤・白・緑の淡い光でリビングを照らしている。
 私はパジャマから着替えると、まだ新しい小さな仏壇に真っ白い大福を供えてから、イルミネーションのスイッチを切る。近くにあるコルクボードには、色々な写真が飾られている。
 あの時撮った集合写真や、お付き合いしている時に行った東北旅行。夫の泣き腫らした目が印象的な披露宴の横には、生まれたばかりの香織の写真。どれも笑顔に溢れている。
 和洋折衷に生と死、喜びと悲しみが混在する空間に日本らしさを感じながら、眠気覚ましのコーヒーを飲もうとキッチンに向かう。お湯が沸いたタイミングでドアがガチャリと開く。
 いつもなら娘に起こされるまで寝ているはずの夫が、目を擦りながら起きてきた。
「楓、おはよう」
 のそのそとリビングへ入って来たが、ドアは開けられたままだ。起きたばかりで暖房も効いてないし、開けたままにしておきましょう。
「あら、おはよう。一緒にコーヒー飲む?」
「うん、ありがとう」
 夫は私からコーヒーを受け取ると、ダイニングテーブルにコーヒーを置いて椅子に座った。
「昨日は遅かったからまだ大丈夫じゃない?ソファーに座ってテレビでも観ていれば良いのに」
「ん?…うん」
 私の声は言葉の意味と共にしっかりと届いているはずなのに、寝起きで頭が働いていないのか反応が鈍い。
 福音を聞き逃さないためにドアは開けっぱなしだし、雑音はできるだけ排除して寝室に近い所に座って居たいのだろう。その証拠に、その場から動こうとはせずに、大きな欠伸の後にコーヒーをゆっくりと啜っている。
「とうとう本番ね」
「うん」
 夫の反応はまだ鈍く、話し相手として機能しそういない。
 やりたい事はあるが、娘が自発的に起きるまでそっとしておきたいと、夫のたっての願いから物音が出るようなことは出来ない。
 それについては構わないし、最大限の協力も惜しまない。言わば、その瞬間のためにこれまで色々と努力してきた訳だしね。
 娘がいつ起きてくるか分からないので、ここにきて手持ち無沙汰になってしまった。落ち着きのない私は、コーヒー片手にリビングを彷徨く。
「新しいコルクボード買っちゃう?」
 独り言みたいになってしまったが、プリントアウトして飾りたい写真は思い出と共に増えていく。
 それにしても、何なの私のこの顔は。集合写真の真ん中に写っている不器用に笑う自分を見る度にそう思う。そして、端の方にはサンタクロースの被り物をした夫が、越中さんにがっしりと肩を組まれて満遍の笑みでウィンクをしている。
 夫が昨日見せてくれたあのウィンクと一緒。私の大好きな思い出の顔。お調子者はそれを知っているので、あの時見せてくれたのだと思っている。当時、忘れかけていた笑顔は夫のお陰で今ではちゃんと取り戻せている。
 それから、生まれたばかりの香織を幸せそうに抱いている姉の写真を見ながら、コーヒーを口に含む。ゆっくりと飲み込み、深く息を吐く。
 そして、そっと披露宴の写真を取り外して手に取る。写真の裏には隠すように重ねられた両家の集合写真。その写真には私以上に幸せそうに笑う、私とそっくりの女性。その写真に、私はいい母親でいられているか問いかける。姉は決まって笑顔で返してくれる。
 髪の長さはやっと同じになった。私の勝手な願望だけれど、娘が母親の若い頃を思い出す際には、この姿を思い出してほしい。
 そう、私が髪を伸ばす理由は写真に写る姉の姿に近付けたいから。

 良い人が短命な理由って知ってる?
 神様が自分の側に早く置きたくて、その人の寿命まで待てずに連れてっちゃうんだって。
 それってせっかちなだけかと思ったら、気が付いちゃったの。
 美人も短命って言うじゃない?
 神様ってきっと欲張りなのよ。そうじゃなきゃいっぺんに二人も連れていかないでしょ?

「わー!ママー、パパー」
 何やら慌ただしい音が寝室から聞こえてくる。
 私はそっと目頭を拭く。
 夫は笑っているのを隠すようにコーヒーカップに口をつけた。

 今日は12月25日。
 神様お墨付きの夫婦の子が、私達の娘になった日。
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