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太宰探偵の声
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太宰探偵事務所
とある街の繁華街の裏通りの雑居ビル5階に事務所を構えている。
俺が何故この事務所を選んだか?
話す必要はないだろう。他人が聞いたって理解出来ないと思うからだ。
だが、ご都合主義と言われない為に敢えて説明したいと思う。
俺が勤務する会社の同僚の奥さんの友人の旦那さんの友人からの紹介だ。
よくわからんだろ?しかもどうでもいい情報だろ?要は、俺が優秀な探偵に依頼出来ればいいのだから。
探偵事務所なんてまさか自分が利用するとは思わなかったな。だが、ここは堂々としていなければ。
妻にはもちろん内緒と言う、若干の罪悪感はある。せめてもの罪滅ぼしのつもりで、俺はエレベーターを使わず、息を切らしながら階段を踏みしめて登った。
さあ、入るぞ。
時計は約束の時間五分前。
我ながら完璧な時間配分だ。
おっと、携帯の電源は切らなくては。
今日も朝、妻は柱に足の小指をぶつけて悶絶していた。そして『柱なんかどっかいっちゃえ!』とガチ泣き。もちろん俺は『ミュウちゃんは足を痛めたが、柱は心を傷めている。柱は家にとって必要な物。お前は俺にとってかけがえのない人。どちらも大切だ』と冷静に対応。その後、『そっか。わかった。もう泣かない』との言葉を妻から獲得した。
だが今朝のこの出来事をSNSのメッセージ、最悪は電話でむし返される可能性もある。探偵事務所内でそんな事があったら最悪だ。だから、電源を切り万全を期した。
ドアの前に置かれた内線電話で事務所内に連絡。そして、畳二枚分くらいの広さのいかにもな個室へ通された。
ガチャ
「幸田大吉様ですね?当探偵事務所の太宰です」
フルネームは勘弁して欲しい。
しかも、かなりのアニメ声の20代女性だ。
大丈夫か?
声で判断するのは失礼だが、俺は一抹の不安を覚えた。
「あ、はい。よろしくお願い致します」
「早速ですが、幸田様から事前にメールで頂いた奥様の生育歴の資料、関係者リスト、先日の同窓会での出来事、全て確認させて頂きました」
「不備はなかったでしょうか?」
「問題ありません。むしろかなり細かく記載してあり、私共も奥様がどの様な方か、しっかりと認識する事が出来ました」
「恐縮です」
当然だ。
事前に資料をメールで送って欲しいと言われ、特に妻の事は学歴や性格、属性も含め、日常会話のやりとりまでも、会話文形式で作成して送付したのだからな。
俺はやる時はやる男だと自負している。人から受けた恩はきっちり返すが、人から受けた借りもきっちり返す男だからな。
「まず、今回の調査の方針と進め方ですが、尾行とSNS関係の調査を最優先して進めます。先日の同窓会の際に宿泊した可能性が極めて高いと言う、住人の部屋に関しての調査は一旦保留と言う形を取ります」
「はい」
「奥様が仮に浮気をしているのであれば、本拠地を幸田さまに教えるのは不自然です。と言う事は本命は他にいると推察したからです」
「なるほど。確かに、マンションを見に行った時の妻の様子は、嘘偽りはないように思えました」
「ご理解ありがとうございます。私どもは、先日の事は聞いてないつもりで、ご依頼通り一から調査を致します。まずは頂いた生育歴の照合から行います」
「え?そこからですか?」
「はい。結婚前身辺調査をイメージして頂ければと思います。幸田様に限りなく100%納得して頂ける様、当方も努力致します」
「ありがとうございます――どんな事実も受け入れます。結果に関しては全てお知らせ下さい」
駄目だ。
アニメ声が気になる。
だが、とても理路整然とした方だ。
ある意味、妻とは真逆だな。
その後、提出した資料の付け合わせを行い、事務所を後にした。
最初の報告は、1週間後との事だ。
携帯の電源を入れると、案の定『痛いの痛いの飛んでけ~って本当に飛んで行くんだね。都市伝説じゃなかったよ!』と自然治癒をないがしろにした、訳のわからない妻からのメッセージに、事務所内での緊張から解放された癒やしの感情を、俺は感じていた。
とある街の繁華街の裏通りの雑居ビル5階に事務所を構えている。
俺が何故この事務所を選んだか?
話す必要はないだろう。他人が聞いたって理解出来ないと思うからだ。
だが、ご都合主義と言われない為に敢えて説明したいと思う。
俺が勤務する会社の同僚の奥さんの友人の旦那さんの友人からの紹介だ。
よくわからんだろ?しかもどうでもいい情報だろ?要は、俺が優秀な探偵に依頼出来ればいいのだから。
探偵事務所なんてまさか自分が利用するとは思わなかったな。だが、ここは堂々としていなければ。
妻にはもちろん内緒と言う、若干の罪悪感はある。せめてもの罪滅ぼしのつもりで、俺はエレベーターを使わず、息を切らしながら階段を踏みしめて登った。
さあ、入るぞ。
時計は約束の時間五分前。
我ながら完璧な時間配分だ。
おっと、携帯の電源は切らなくては。
今日も朝、妻は柱に足の小指をぶつけて悶絶していた。そして『柱なんかどっかいっちゃえ!』とガチ泣き。もちろん俺は『ミュウちゃんは足を痛めたが、柱は心を傷めている。柱は家にとって必要な物。お前は俺にとってかけがえのない人。どちらも大切だ』と冷静に対応。その後、『そっか。わかった。もう泣かない』との言葉を妻から獲得した。
だが今朝のこの出来事をSNSのメッセージ、最悪は電話でむし返される可能性もある。探偵事務所内でそんな事があったら最悪だ。だから、電源を切り万全を期した。
ドアの前に置かれた内線電話で事務所内に連絡。そして、畳二枚分くらいの広さのいかにもな個室へ通された。
ガチャ
「幸田大吉様ですね?当探偵事務所の太宰です」
フルネームは勘弁して欲しい。
しかも、かなりのアニメ声の20代女性だ。
大丈夫か?
声で判断するのは失礼だが、俺は一抹の不安を覚えた。
「あ、はい。よろしくお願い致します」
「早速ですが、幸田様から事前にメールで頂いた奥様の生育歴の資料、関係者リスト、先日の同窓会での出来事、全て確認させて頂きました」
「不備はなかったでしょうか?」
「問題ありません。むしろかなり細かく記載してあり、私共も奥様がどの様な方か、しっかりと認識する事が出来ました」
「恐縮です」
当然だ。
事前に資料をメールで送って欲しいと言われ、特に妻の事は学歴や性格、属性も含め、日常会話のやりとりまでも、会話文形式で作成して送付したのだからな。
俺はやる時はやる男だと自負している。人から受けた恩はきっちり返すが、人から受けた借りもきっちり返す男だからな。
「まず、今回の調査の方針と進め方ですが、尾行とSNS関係の調査を最優先して進めます。先日の同窓会の際に宿泊した可能性が極めて高いと言う、住人の部屋に関しての調査は一旦保留と言う形を取ります」
「はい」
「奥様が仮に浮気をしているのであれば、本拠地を幸田さまに教えるのは不自然です。と言う事は本命は他にいると推察したからです」
「なるほど。確かに、マンションを見に行った時の妻の様子は、嘘偽りはないように思えました」
「ご理解ありがとうございます。私どもは、先日の事は聞いてないつもりで、ご依頼通り一から調査を致します。まずは頂いた生育歴の照合から行います」
「え?そこからですか?」
「はい。結婚前身辺調査をイメージして頂ければと思います。幸田様に限りなく100%納得して頂ける様、当方も努力致します」
「ありがとうございます――どんな事実も受け入れます。結果に関しては全てお知らせ下さい」
駄目だ。
アニメ声が気になる。
だが、とても理路整然とした方だ。
ある意味、妻とは真逆だな。
その後、提出した資料の付け合わせを行い、事務所を後にした。
最初の報告は、1週間後との事だ。
携帯の電源を入れると、案の定『痛いの痛いの飛んでけ~って本当に飛んで行くんだね。都市伝説じゃなかったよ!』と自然治癒をないがしろにした、訳のわからない妻からのメッセージに、事務所内での緊張から解放された癒やしの感情を、俺は感じていた。
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