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コメディじゃない真実への序章
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「あの……再度の確認で大変恐縮なのですか、どんな事実に関しても、全て包み隠さず話して下さい」
「もちろんです。それでは早速、報告させて頂きます」
なんの躊躇もなく即答か。
太宰探偵は相変わらず、甲高い声なのに淡々としているな。
一回目の調査経過報告日、既に俺と太宰探偵は、前回と同じ個室で対峙している。
机の上には、俺が飲めないブラックコーヒーが置かれている。
「あ、申し訳ありません。幸田様はコーヒーが摂取不可でしたね。今、グレープフルーツジュースをお持ちします」
「あ、ありがとうございます」
なんだと?
俺がブラックを飲めない事を知ってるだと?しかも、その代替え品としてグレープフルーツジュースだと?
確かに俺は妻が作る生グレープフルーツジュースを好んで飲んでいる――――が、その事を知っての上での対応か?
さすが探偵――――いや、これはもう超能力のレベルではないか。
コーヒーと差し替えられた、グラス。
そして、太宰探偵は説明を始めた。
「この度は当探偵事務所にご依頼頂き、誠にありがとうございます。まず、先日から今日までのご報告をさせて頂きます」
「お願いします」
「今週は尾行調査、及び生育歴の調査をさせて頂きました。尾行に関しては、私も含めた、幸田様専属担当スタッフ3名により、幸田様がお勤めの間、延べ32時間、念の為、夜間張り込み3日に渡り計12時間……」
「え?私が家にいる夜間もですか?」
「はい。以前、夫婦別の寝室である事を利用し、夜間1時から5時までを不貞行為の時間としているケースがありました。若い奥様方ですと、そう言った事も想定し対応致しました」
「…………」
「結果ですが、奥様がその間に外出されたのは、火曜日に近所のスーパーロヂャース、木曜日に駅前の喫茶店内の一角で行われている川柳俳句教室、以上2回のみでした」
「川柳俳句教室?」
いや、そう言えば思い当たる節がある。
最近の会話で「ねぇ大ちゃん・お風呂と私・いい湯加減?」など、不自然に575のリズムで返された事が、少なくとも5.6回はあったな。
季語はなかったから、川柳か。
「お預りした事前の資料にも記載がなかったので、確認させて頂いた所、月会費2000円、別途短冊代毎回500円で週一回、元高校で国語教師をされていた40歳くらいの男性の指導を受け、各自が川柳俳句を発表し批評をし合うと言う物です。なお、毎回参加者は8人程度と思われ、年齢層は40代とおぼしき方々です。若い方は奥様のみで男性、女性半々くらいです」
「なるほど。それは私が知らない事でした」
「そして、調査期間において幸田様を訪問された方は、生協の宅配が二回、宅急便が一回、小荷物を届けに来訪された様です」
「…………わかりました」
ミニバーベルか。
「そして、生育歴に関してですが、奥様は5歳の時両親が離婚、母親に引き取られ――――」
その後は俺が把握している状況に相違はなかった。
「高校では文学部に所属――――」
「え?それは初耳です」
「現在奥様が俳句教室に通っているのは、その流れからだと推察します」
文学部に俳句?
文学のぶの字も、俳句のはの字もない妻が?
本を読んでいるのは見た事もないし、家にあるのは漫画だけだぞ?
俺は、そんなに自問自答するほどの事もない、プチ情報に若干困惑。しかし、その次の太宰探偵の言葉に驚愕する事になる。
「なお、奥様は高校時代に墮胎されています」
「ああ、資料にも記載させて頂きました、流産の件ですね」
「いいえ。墮胎、つまり自分の意思で子供を流産されています」
「…………」
その事は聞いている。
しかし、意志と不可抗力では若干、意味合いが違うと思う。
いや、正確には高校三年生の時に、交際していた同級生の子供を流産したと聞いていた。産みたかったけど、交通事故に合い流産したと。更にその事が原因で子供が出来にくいと、医師に言われていた事も。
結婚を決めたのは、その話を聞いたからと言っても過言じゃない。
その時に気付いたのだから。
妻を愛しいと感じ、ずっと守りたいと震えた自分の感情を――――
だが、過去の事はどうでもいい。
夫婦だからって全てを知ってる……いや、知らなくてはいけないと言う事はない。
大事なのはこれからだ。
細かい事には拘らない男だからな。
更に太宰探偵は、動揺する俺を余所に無慈悲にも淡々と言葉を続ける。
「今後の調査はSNS関係にも枠を広げていきます。更に、幸田様がご存知ないと言う川柳俳句教室にも照準を絞ります。奥様が秘密にしていると言う事は、そこに重要な真実が隠されている……と言う事だからです」
「…………」
おかしい。これはコメディだったはず。
「もちろんです。それでは早速、報告させて頂きます」
なんの躊躇もなく即答か。
太宰探偵は相変わらず、甲高い声なのに淡々としているな。
一回目の調査経過報告日、既に俺と太宰探偵は、前回と同じ個室で対峙している。
机の上には、俺が飲めないブラックコーヒーが置かれている。
「あ、申し訳ありません。幸田様はコーヒーが摂取不可でしたね。今、グレープフルーツジュースをお持ちします」
「あ、ありがとうございます」
なんだと?
俺がブラックを飲めない事を知ってるだと?しかも、その代替え品としてグレープフルーツジュースだと?
確かに俺は妻が作る生グレープフルーツジュースを好んで飲んでいる――――が、その事を知っての上での対応か?
さすが探偵――――いや、これはもう超能力のレベルではないか。
コーヒーと差し替えられた、グラス。
そして、太宰探偵は説明を始めた。
「この度は当探偵事務所にご依頼頂き、誠にありがとうございます。まず、先日から今日までのご報告をさせて頂きます」
「お願いします」
「今週は尾行調査、及び生育歴の調査をさせて頂きました。尾行に関しては、私も含めた、幸田様専属担当スタッフ3名により、幸田様がお勤めの間、延べ32時間、念の為、夜間張り込み3日に渡り計12時間……」
「え?私が家にいる夜間もですか?」
「はい。以前、夫婦別の寝室である事を利用し、夜間1時から5時までを不貞行為の時間としているケースがありました。若い奥様方ですと、そう言った事も想定し対応致しました」
「…………」
「結果ですが、奥様がその間に外出されたのは、火曜日に近所のスーパーロヂャース、木曜日に駅前の喫茶店内の一角で行われている川柳俳句教室、以上2回のみでした」
「川柳俳句教室?」
いや、そう言えば思い当たる節がある。
最近の会話で「ねぇ大ちゃん・お風呂と私・いい湯加減?」など、不自然に575のリズムで返された事が、少なくとも5.6回はあったな。
季語はなかったから、川柳か。
「お預りした事前の資料にも記載がなかったので、確認させて頂いた所、月会費2000円、別途短冊代毎回500円で週一回、元高校で国語教師をされていた40歳くらいの男性の指導を受け、各自が川柳俳句を発表し批評をし合うと言う物です。なお、毎回参加者は8人程度と思われ、年齢層は40代とおぼしき方々です。若い方は奥様のみで男性、女性半々くらいです」
「なるほど。それは私が知らない事でした」
「そして、調査期間において幸田様を訪問された方は、生協の宅配が二回、宅急便が一回、小荷物を届けに来訪された様です」
「…………わかりました」
ミニバーベルか。
「そして、生育歴に関してですが、奥様は5歳の時両親が離婚、母親に引き取られ――――」
その後は俺が把握している状況に相違はなかった。
「高校では文学部に所属――――」
「え?それは初耳です」
「現在奥様が俳句教室に通っているのは、その流れからだと推察します」
文学部に俳句?
文学のぶの字も、俳句のはの字もない妻が?
本を読んでいるのは見た事もないし、家にあるのは漫画だけだぞ?
俺は、そんなに自問自答するほどの事もない、プチ情報に若干困惑。しかし、その次の太宰探偵の言葉に驚愕する事になる。
「なお、奥様は高校時代に墮胎されています」
「ああ、資料にも記載させて頂きました、流産の件ですね」
「いいえ。墮胎、つまり自分の意思で子供を流産されています」
「…………」
その事は聞いている。
しかし、意志と不可抗力では若干、意味合いが違うと思う。
いや、正確には高校三年生の時に、交際していた同級生の子供を流産したと聞いていた。産みたかったけど、交通事故に合い流産したと。更にその事が原因で子供が出来にくいと、医師に言われていた事も。
結婚を決めたのは、その話を聞いたからと言っても過言じゃない。
その時に気付いたのだから。
妻を愛しいと感じ、ずっと守りたいと震えた自分の感情を――――
だが、過去の事はどうでもいい。
夫婦だからって全てを知ってる……いや、知らなくてはいけないと言う事はない。
大事なのはこれからだ。
細かい事には拘らない男だからな。
更に太宰探偵は、動揺する俺を余所に無慈悲にも淡々と言葉を続ける。
「今後の調査はSNS関係にも枠を広げていきます。更に、幸田様がご存知ないと言う川柳俳句教室にも照準を絞ります。奥様が秘密にしていると言う事は、そこに重要な真実が隠されている……と言う事だからです」
「…………」
おかしい。これはコメディだったはず。
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