明るい浮気問題

pusuga

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俺の葛藤

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 太宰探偵事務所でのプチ修羅場の後、俺と妻は、ナマズ料理店で舌鼓を派手に打ち鳴らし帰宅した。

 帰宅道中、一切事務所での話には触れなかった。
 妻が朝起きたら、知らない部屋にいたと言う浮気疑惑問題が解決したから来る安堵――いや、無論違うな。むしろ、記憶がない一夜の過ちだったら、妻の特性上、水に流すつもりだったのかも知れない。
 無慈悲に復讐なんて息巻いたが、きっちり事実を確認したかっただけかもしれん。
 そして、これが記憶がある状態で、快楽に舌鼓を打っていたとしたら違う…………。
 
 スマン。
 復讐なんてしないと言っておきながら、矛盾してるな。
 よくわからん男になっているな。
 
 以前にも語ったが、俺は受けた恩も返すが、請けた借りも返す……きっちりした男だと自負している。
 俺のとっておきエピソードを聞くか?
 いや、聞かないと言っても大歓迎。
 不快ではない方の、生活音として聞く耳持って欲しい。
 俺は身長185、体重100キロ。
 だが誤解するな。大柄と言うだけでデブと言われた事はない、微妙なボーダーライン体型だ。
 妻は152、48キロらしい。
 妻は余計だったな。

 この100キロジャストと言うのが、俺のきっちりした快感なんだ。
 無論、人間の体重には日々変動があるが、下一桁が同じ体重……つまり43、53、83と言う3が同じが一週間続く、これはよくある事だが、三ヶ月ならどうだろうか?
 休みの日も朝7時に体重を測る。
 そしてきっちり100のデジタルを見て、心で微笑のドヤ顔。これを俺は半年続けた。
 くだらん男と思ってくれて構わん。
 だが、世の女性達聞いてくれ。
 男は、こう言うつまらんこだわりを誰しも持っている。旦那を見て、そう思う事あるだろ?
 
 本当にスマン。許してくれ。
 俺は今、決意と混乱と葛藤の真最中なんだ。

 あと一つだけ聞いてくれ。
 俺と妻との出会い。
 
 妻が偶然自宅を出た時に、バッタリすれ違った。因みに妻の実家は一戸建てだ。要は公衆の面前ですれ違った。
 こんなご時世だ。
 俺は普段から、歩いてる時は人と目を合わせない、姿も極力見ない。障害物と認識している。特に女性はな。視姦してると思われたら、かなわんからな。
 しかし、すれ違った妻の後ろ姿の明らかな違和感に、思わず即声をかけた。

 「後ろ、スカート捲れてますよ。急いで戻って修正した方がいいですよ!」

 「え?私、またやっちゃってた?」

 「…………」
 (また…………だと?)

 「ありがとうございます!親切なおじさん」

 「ちょっと待って欲しい」

 「え?なに?」

 「今の君の発言には二つの間違い、及び一つのミスがある」

 「……………」

 そう言えば妻を絶句させたのは、この時が最初で最後だったな。

 「まず間違いの一つ目、おじさん親切だね!の方が馬鹿にされていない感じで好きな事、二つ目、お兄ちゃん親切だね!の方がいい。お兄は、さんじゃなくて、ちゃんと言うのがポイントだ」

 「うん。わかった」

 思えば俺はこの時、お兄ちゃんと呼ばれる事に萌えを感じていたのか?

 「そしてミス。それは君が同じミスを過去にも犯したと言う、言い回しだ。わざわざ、恥を他人に晒す事はないだろう」

 「え?これって恥なの?恥ずかしいじゃないの?」

 「なるほど。日本語は世界で三本指に入る難しい言語と言われているからな。そう言う捉え方も出来るな」

 「指って五本じゃないの?」

 「…………」

 重ね重ね済まなかった。

 色々語ったが、例の男、勅使なんとかと接触する前の怒りを押し殺す為の心の整理回だと思ってくれ。

 その日、妻から改めて勅使なんとかの話を聞いた後だったからな。
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