隘路

橘華 玲慧

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鑑みる

新たな人生

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家に着いた後、俺はすぐに準備を始めた。
制服と体操着を脱ぎ、私服に着替えて、前に買ったシューズを履き、一旦家を出た。そして、監視カメラの死角からこっそりとまた家に入った。

その後、土足で家中に仕掛けられていた監視カメラを全て壊した。

これで、この家には普通の監視カメラしかない。
塀の隙間や幹の中に仕込まれた小型カメラも、人形の中や部屋の角に隠された盗聴器も破壊して、もう機能しない。

次に、家にある全てのカーペットを剥がして、地下室があるかないかを確認した。一階と二階にある全てのカーペットを剥がしたけど、それらしき入り口のようなものはなかった。

他にも、壁に貼ってある大きいポスターや鏡を外して、隠された部屋を探してみた。まあ、流石になかった。

最後の可能性である、屋根裏部屋を探すことにした。
最も入り口がある可能性が高いのは、二階にある俺が入ったことのない部屋だと思う。

俺はその部屋へ恐る恐る入った。外が暗いから、部屋に入ってくる光もなく、辺りは何も見えない。手探りで電気のスイッチを探し、電気を付ける。

そして、この部屋の全貌が明らかとなって、この目にその光景が入り込んできた。

ここは、母親の部屋だ。

一般的な家具は全て揃っていて、中々に荒れてる。
ベッドのシーツはぐちゃぐちゃ、椅子は仕舞われていないし、机の上も無茶苦茶だ。床には最近のゴミが散らばっていて、今日の外出前に脱ぎ捨てられたらしい衣服がベッドに横たわっていた。

整頓されてないクローゼットの中をくまなく探してみたけど、屋根裏部屋への入り口やらの怪しいものは特になかった。

これで、準備していた家の中の探索はおしまい。
土足で探索したお陰で、いい感じに床が汚れて、荒れている。

そうしたら、最後の準備をするだけだ。
俺は家の電気を全て消して、買ってきた道具を持ち、浴室に向かった。

浴室の電気だけを付けて、浴室の中折れドアを開けた時に死角となる場所で待機した。

少し待っていると、外から砂利を踏んで歩く音が聞こえてきた。その足音はどんどん家に近付いてくる。

一気に心拍が上がった。そして呼吸も乱れてきた。
今から為すことに対しての、とてつもない緊張が心身を猛烈に襲う。

深呼吸をして、呼吸を整える。俺の心が慌てている。なんとか落ち着こうと必死になってるんだ。テイク2はない。これが失敗したら、俺はもうおしまいだ。

ドアを開ける音が聞こえ、今、母親は玄関で靴を脱いでいるんだろうと想像できた。

その時はもう近い。身体が震え始め、緊張が極度に強まる。呼吸も乱れ始めて、さっきよりも強い心拍が身体を叩く。頭の中で「落ち着け」という言葉がひたすら反復している。でも、それがかえって緊張を呼び起こし、強くさせている。

「実玲ー?」

母親の声がする。どうやら、リビングの様子を見て違和感を感じたんだ。土足で荒らされ、カーペットが剥がされている異様な光景を見て、強盗の可能性を連想するはず。

そう思って、俺は浴室のシャワーを最大出力で出した。それは、母親をこっちに誘き寄せるため。

「実玲ー?お風呂に入ってるのー?」

俺は返事をしない。
呼吸を細くして、身体の震えを無理やり抑え込み、心を揺らし身体を叩き続ける心拍を、意識の外へ追いやろうと必死に"無"を考えた。

もう後戻りは出来ない。
ここまで来てしまった。やるしかないんだ。
今まで、何のために入念な準備をしたんだ?
今までの努力を無駄にするわけにはいかない。
絶対に。今、最高の状況を作ったんだから、ここで終わらせる。

そして、脱衣場の電気が付き、ドアがゆっくりと開かれた。忍び足で足音を殺して、ゆっくりと、確実に、こっちに来ている。

土足で荒らされた家の不安を解消するため。
返事をしない息子の居場所を探すため。
急になったシャワーの音を確認するため。

数多の理由、不安や恐怖などの負の感情、それらを全て解決する情報を欲する衝動、あらゆる違和感を抱えて向かってくる。

俺は呼吸を殺して、神経を最大限に尖らせ、全ての情報を冷静に分析することを試みる。身体に強く力を入れて震えを止めて、自分の存在がここにないように想像し、その時を待った。

心拍の音を鼓膜で感じ、酷く長い時間を緊張の中で過ごした。でも、もう終わりだ。

気配はすぐそこに。中折れドアが勢いよく開かれた。
そして、同時に母親が飛び込んできた。母親には死角にいる俺は見えていない。

俺は一瞬で反応して、実行した。

握っていた包丁を、全身全霊の力を込めて首元へ振り下ろした。
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