プリズム―黒と白と七色の冒険譚―

Kyon*03

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―橙の章―

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―<アルクス大陸“橙”オーランゲ領>―

「……さて、オーランゲ領に着いたな。降りるぞ、2人とも」

「えー……もう着いちゃったのか~……。結局ぼんやりとしか“虹彩会議場”が見られなかったのは残念だったけど……カモちゃんたち、またね」

オペラは藤のカゴを降り、カモたちの頭を撫でている。カモたちは満更でもなさそうだ。その様子を見たセイジが一言、「僕なんかよりもよっぽどかオペラのほうが鳥使いの素質があると思うんだが」とぼやく。

「オペラは昔から動物たちに好かれてきたから……」

相変わらず動物たちに懐かれるオペラを見て、幼少の頃を思い出すタリム。

「オーランゲ領へようこそお越しくださいましタ」

相変わらず空港の到着地には色黒の逞しい身体の鳥使いのお兄さんが待機していた。ヒスイ領の人ともクルムズ領の人とも全く顔の区別がつかない。やはりワープでもしているのではなかろうか。

「!?」

セイジが驚いた顔をしている。すでに2回目のタリムとオペラはそれを見て笑いそうになる。

「ここはオーランゲ領の首都“ヴィブギョール”でス。オーランゲ領は豊かな土壌と気候によっテ、アルクス大陸全土の“食”を供給できるところでス。ですが最近はアズーロ領から水が流れてこないらしク、領内は少し混乱していまス。くれぐれもお気をつけくださいネ」

「ありがとう」

空港から街の方に向かう。オペラはしっかり色黒のお兄さんに一礼し手を振り返した。その横で会話するセイジとタリム。

「ヒスイ領にも同じ顔のやつがいなかったか……」

「あの人たちは空港を担当している六つ子の鳥使いらしい。セイジにも見分けがつかないようで安心したよ」

空港から真っ直ぐ、街の中に入る3人。お兄さんから説明があったとおり、首都の名はヴィブギョールというようで、あちらこちらに看板が立っている。一際大きい音楽堂がシンボルになっているようだ。

「ここで何かすることはあるのか?」

セイジがタリムに問いかける。

「そうだな……“ミラージュコア破壊作戦”にはヒスイ領だけじゃなくて、オーランゲ領、アズーロ領の兵士らも派遣されていたんだ。オーランゲ領の兵士たちのオーラが戻った例があるのか、聞き込みしたいところかな」

「そうか。……人に話しかけるのは苦手だから、領主館のほうに行ってもいいか。オーランゲ領全体の地図が見たい」

タリムとオペラは頷く。領全体の地図はセイジに任せて領主館周りで聞き込みを開始する。ヒスイ領の領主館でのやり取りとは違い、タリムらがクルムズ領から来たことを告げ、赤いリングを見せても、特に責め立てられることはなかった。むしろ楽観的な考え方が目立つ。

「兵士たちのオーラがなくなったことは聞いてるよ。まぁクルムズ領とは領が隣同士だし、色々助け合ってきたわけだ。派遣には前向きだったと思うけどね」
「兵士たちもオーラがなくなったからといって別に職がなくなるわけでもない。うちの領は農耕や牧畜、酪農なんかも盛んだ。ちょっと不便だとは思うが何とでもなるさ」
「そのうちオーラは戻るんだろ?え?いつか分からない?じゃあそれまでは畑でも耕せばいい!我々の役割は大陸中に食料を提供することだ!人はいくら居ても困らんからなぁ!」
「オーラより水だよ水……もしかしてアズーロ領のやつらが悪さしてるんじゃないだろうな……」

オーラが元に戻っているという情報は得られなかった。領主館から出てきたセイジと合流し、集めた情報を共有する。

「領主館の中には、領内の田畑の持ち主や酪農、牧畜を生業としている人たちで溢れていた。深刻なのはオーラよりも流れてこない水のようだ」

「水不足のことを言ってる人が多かったな~……。街の中を流れる川もほとんど干上がったらしいよ?……川も見に行かないと行けないし、一旦ヴィブギョールの街の中を見て回ろうよ!ね?」

オペラの露骨な誘導尋問により、3人は街の中を散策することになった。どちらにしても情報収集は必要だ。


【∞】


ヴィブギョールの街の中では、ヒスイ領とアズーロ領を経由した一際大きい川が流れていたようだ。領主館から商店などがあるエリアに移動するため、“ハーバー”という橋を渡る途中に川が見えたが、見事に干上がっていた。アイビスという黒い嘴に白い身体の鳥たちが羽を休ませている。

「これが川……?全然水がない……」

「思ったより深刻だな。領民が領主館に詰め寄るわけだ」

「飲み水が確保できてればいいんだけど」

雑談を交わしながら辿り着いたのは、石畳の道の商店エリアで“ロックス”と呼ばれる場所だ。水不足でありながら、そこには数々のオーランゲ領の名産品が置いてある。

特に目立っているのはじゃがいもをスライスして油で揚げた“ポテトチップス”というお菓子や、チョコレート、ナッツ類だ。クルムズ領産の茶葉とは少し違う、オーランゲ領産の茶葉も置いてあり、至るところにカフェがある。

他にはオーランゲ領を代表する動物たちのキーホルダーやアクセサリーが立ち並んでおり、見るものを魅了してくれる。

「可愛い動物たちの姿も素敵だけど、美味しそうなものもいっぱいあるなぁ~……」

よだれが垂れるのを必死に抑えるオペラ。ツッコむタリム。

「しっかり観光を楽しんでいるよな……」

3人はロックスの商店の中に菓子店を見つける。菓子店の名前は“スプリング”というようだ。扉を開け中に入ると、チョコレートやクッキーが揃えてあるが、お店の目玉だろう大きなショーケースには何も入っていなかった。

「お客さんか~!いらっしゃい!」

奥から男性が姿を現した。髪はオレンジ色で短髪、少し小柄で童顔のお兄さんだ。名前を”ミツキ”と名乗った。

「ごめんな~。今水不足で小麦粉とかの材料がほとんどなくてケーキを切らしててさ。残ってるのはチョコレートとか、日持ちするクッキーぐらいしか売ってなくて~」

ミツキの残念そうな声。心なしか被っているコック帽もしょげているような気がした。だが、ミツキは終始笑顔で対応してくれる。

「水不足はいつからなんですか?」

オペラがミツキに話しかけた。

「割と最近だよ。徐々に“ヒューム川”が干上がっていったんだ。こんなこと今までなかったから、みんな戸惑ってる。アズーロ領に弟がいて、あっちでも菓子店をやってるんだけど、あいつも大丈夫かな~」

「街の人たちは『アズーロ領の仕業じゃないか』って言ってる人もいましたけど……」

領主館前での聞き込みの内容を思い出すタリム。ミツキは力強く返事した。

「確かにその可能性もあるけどな。でも弟含めてアズーロ領のことを信じてるから、あとはなるようになるさ。さ、うちで良ければチョコかクッキー、買っていてくれよ」

ミツキの明るさもあり、お店で少量のチョコレートを買わせてもらった。オペラはその場でチョコを頬張る。

「ん~~!美味しい!!」

「ありがとな!次にケーキが作れるようになったら、また来てくれよな~!あと、お向かいの和菓子屋もよかったら寄ってみてな!」

お店を出た3人は向かいのお店を見つめた。ミツキの言葉通り菓子店のお向かいには、和菓子屋があり、お店の名前は“穂(ミノリ)”というようだ。どうやらヒスイ領で元々お店を構えていたのを、オーランゲ領にも出店したらしい。

お店に入ると、ヒスイ領でトクサさんのお屋敷で嗅いだ匂いを思い出した。建物の構造や家具はヒスイ領から受け継いでいるのだろう。畳が敷いてある。

「いらっしゃーい!」

和菓子屋の店員は若い女性だ。髪色はオレンジ色で、セミロング。ミツキと同じように表情が明るい。名前は“ホノカ”というらしい。

「うちはオーランゲ領産の小豆を使った大福なんかを売り出してるよ!でも、その小豆もそろそろ底を尽きそうで困ってるんだよ~」

水不足の影響がそこかしこに出ているようだ。確かに並んでいる大福の数も少ない。

「ミツキさんからの紹介で来ました」

「あ!ミツキさん?いつも紹介してくれて助かるな~!今度はこっちからもマルトさんのお店紹介しなくっちゃ!……さ、大福買っていくよね?」

ミツキもホノカも商売がうまい。また新たなおやつを買わされている。案の定オペラはそのままお店で大福を食べて、ご満悦だ。

「オーランゲ領にいたら確実に太っちゃう……でもやめられないよ~~!」

「お買い上げありがとう!またこの辺りに来るときは大福以外にも買っていってね!」

ホノカの店を後にし、引き続き散策を行う。ヴィブギョールの街はロックス以外にも市場がそこら中にあり、見ていて飽きない。そしてロックスを抜けた先にはこの街のシンボルとも言える大きな音楽堂が姿を現す。

「わぁ…!おっきいねー!!」

オペラは大きな音楽堂を見て感動している。ただ、残念なことに音楽堂の周りに人影はほとんどない。閑古鳥が鳴いているようだ。

「こんなに大きいシンボルなのに、人が少ないな」

「さすがに水不足が深刻なようだ。あれを見ろ」

タリムの一言を聞いたセイジは、とある方向に指を指す。指した先には音楽イベントのポスターがズラッと貼られており、全ての音楽イベントは別の紙で『中止』と大きく貼り出されていた。3人はポスターに近付く。

「なになに……『吹奏楽隊“オレンジの悪魔“、再び公演!』か。再びってことは人気なんだろうな」

「……イベントを中止するレベルだ。水不足の深刻さを物語っているな」

「むむむ………吹奏楽隊のイベント……絶対楽しいのに中止にされちゃってるなんて……」

オペラは眉間にシワを寄せ一人唸っている。オペラはこのイベントが中止になったのが許せないようだ。

「私、この音楽イベントを絶対復活させるから……!」

「そ、そうだな」

オペラの音楽にかける熱い想いに何かが触れたようだ。確かにオペラは幼少期から音楽も好きだったが、あまりの熱量に若干引く。

「今後の行き先について決めたいんだがいいか。領主館で見た地図はもう頭に入ってる」

セイジの言葉に少し休めるところを探した。音楽堂の近くには立派な植物園がある。セイジたっての希望もあり、植物園内のベンチに座った。

「あ、見てみて。ワインボトルみたいな形の木があるよ。可愛いね」

「特徴から見てオーランゲ・バオバブと呼ばれる種類の木だ」

「(さすが植物研究所の研究員。見ただけで言い当てられるのか……)」

セイジは自分の持っているカバンから紙を取り出し、自身の筆記具を用いてオーランゲ領の地図をざっくり描いている。上手い。

「今がここ……ヴィブギョールの街だ。さっきマルトさんも話していたこれがヒューム川。ヒューム川の支流として、それぞれ“ホーベル川”、“ハドソン川“、“ウィラドゥリ川”という名前の川がある。その川たちを中心にそれぞれの街で酪農や牛、羊の放牧、田畑、果樹栽培などを行っている」

セイジの手によってオーランゲ領の地図が浮かび上がる。説明のあった川の周辺には、大規模な農場や牧場が連なっているようだ。

「ここが乳牛による酪農、牛肉の加工を中心とした牧場の街“ララキア”、少し離れたところにあるここが、野菜と小麦の栽培を中心とし、羊の放牧、羊毛加工も行っている“ガウナ=クリン”の街。そしてヴィブギョールの町から最も遠い、ぶどうを始めとする果樹・野菜全般を栽培している“フレオ”の街がある。僕が行きたいのはフレオの街とガウナ=クリンの街だ」

セイジが筆記具をトントンと紙に打つ。2つの街は両方とも植物に大きく関係がある。元々オーランゲ領に行く理由の1つに『左都植物研究所から栽培を依頼した品種の植物たちを見る』というものがある。セイジの目的は達成するべきだ。

「ヴィブギョールの街のちょうど反対、大陸の一番外側にクルムズ領だと“パトラマ火山”みたいなところがあるね。これは大きな岩?の洞窟かな」

オペラが見ている先にはセイジの字で”ウルル・オーガスタ”と書かれたダンジョンがある。

「どうやらそうらしい。フレオの街が1番近くにあるが、ウルル・オーガスタまではかなりの範囲で砂漠が広がっているみたいだ。この洞窟に到着するのは一筋縄ではいかなさそうだ」

クルムズ領の“パトラマ火山”、ヒスイ領の“シリエトク”と並ぶ岩の洞窟。おそらくここにも“インペリアル”の名がつく宝石が眠っているだろう。ただ砂漠地帯を越えられる装備はあいにく持ち合わせていない。今はまだ近寄るべきではない。

「この水不足でも野菜や果物が生育するのか、まずは状況確認だ。大陸全土の食糧がどれくらい持つのかも知っておくべきだし、何より植物学者として、この状態を放っておくことはできない」

淡々と話すセイジだが、植物学者のプライドをひしひしと感じる。タリムとオペラはそれぞれ顔を見合わせ、アイコンタクトした。最初に目指すのはガウナ=クリンの街だ。


【∞】


街の外に出た3人は驚いた。直近までいたヒスイ領の道と違い、完璧に道路として舗装されていたからだ。

「ヒスイ領とはまるで違うな。あたりに魔獣の姿が全く見えないじゃないか。まぁ……そのほうがありがたいが」

セイジはホッとしている。オーランゲ領の道路の脇には、等間隔に木が生えている。逆にヒスイ領は植物たちの自生に委ねる形で、道のほうをぐねぐねさせている印象だった。

「歩きやすくていいね!」

一行はヴィブギョールの街を流れていたヒューム川の支流、ホーベル川沿いを歩いていく。
少しなだらかな丘に差し掛かったところで、どこからともなくオレンジ色の蛾が現れた。羽も含めた体長は約15cmほど。サイズ感からして魔獣かどうか分からない。

「ひっ……!!……本当にどこでも虫っているよね?!」

「……この大陸の生物では虫の種類が最も多い」

セイジの言葉にオペラは心底嫌そうな顔をした。

「かすかにオーラを纏ってる……から一応魔獣だとは思うけど」

タリムが2人に話しかける。どうやら蛾は魔獣のようだがとても弱々しい。クルムズ領ならすぐにでもモズの魔獣に食われるだろう。オーランゲ領で初めて会う魔獣だ。

「自分の領以外の魔獣か。……とても興味深い」

「このオーラの弱々しさ……もしかしたら“ミラージュコア”が近くにあるのかも」

「オーランゲ領に来てから街の中でしか鳥を見ていないな。蛾の天敵となる鳥の魔獣がいない可能性がある」

セイジとタリムが蛾を見ながら各々分析し始める。オペラは魔獣を倒すのか倒さないのか判断を待っているようだ。

「倒さないなら早くガウナ=クリンの街に向かおうよ~~!虫はあんまり見たくないよ~……」

「……確かに。この小ささだからわざわざ倒さなくてもいいだろ」

オペラが泣き喚く前にタリムたちは蛾の魔獣を横切ろうとする。すると、近づいたことに反応した蛾の魔獣がいきなり羽ばたき、舗装されていない箇所の地面の砂を吹き上げた。2人は細かな砂によるダメージを受ける。

「いたいいたい!!」

「砂が目に入った!くぅ……!」

「小さくても魔獣は魔獣ということか。さらに興味深いな」

セイジは一人だけ淡い緑のオーラを纏い、風をコントロールしてダメージを食らわないようにしていた。

「「冷静に分析してる場合じゃない!(でしょ!)」」

鋭いツッコミが二人から入るが、セイジはマイペースだ。

「仲間のような蛾もいない。このままガウナ=クリンの街に向かおう」

3人は蛾が飛び去って行くのを目で追いながら、足早にガウナ=クリンの街を目指すのだった。


【∞】


ホーベル川沿いを歩いていた3人だったが、また川が大きく分かれていた。ガウナ=クリンの街に向かうため、今度はハドソン川沿いを歩き、少し時間が経ったところでちょうど街が見えてきた。当たり前だが本流のヒューム川が干上がっているため、ホーベル川もハドソン川も干上がっている。

「見てタリム!変わった形の岩があるよ!」

もう少しでガウナ=クリンの街に到着するが、舗装された道から少し外れた場所に、巨大な動物のような形の岩があることが気になったオペラ。その岩に向かって指を指す。

「少し寄ってみよう。何か岩の形に意味があるのかもしれないし」

タリムはオペラに返答すると、その大きい岩に向かって歩き出した。変わった形の岩は近寄るとやはり大きく、高さは人間が4~5人分はあるものが多い。

「これは大きな鳥の嘴、これは大きなゾウで、これは大きなヤドカリかな~♪」

オペラは岩を見ながら動物たちを連想しているようで、とても楽しそうだ。実際オペラが言う動物たちにも見えないことはない。

「……橙のオーラエレメントの影響なのか何か分からないが、そこらにある岩とは形成のされ方が異なるのだろう。あたりの地面と岩では触った感じの質が違う」

セイジは岩に触れ、つぶやいた。

「そうか。自然にできたとしたらすごいことだよな」

「人為的に形成された可能性は否定できないが、ここは川に近いところで自然の力でできた可能性もあるだろう。タリムの予想も案外当たっているかもしれないぞ」

3人は舗装された道のほうに戻り、ガウナ=クリンの街に向かう。ガウナ=クリンの街の入口はハドソン川をちょうどまたぐようにして岩がアーチ上になっており、アーチをくぐればすぐに街がある。岩……といっても天井部分からは鍾乳石がびっしり生えており、もし落ちてきたら痛そうだ。

「さっきの変わった岩みたいにこのアーチもできた気がするよねぇ。オーランゲ領ってもしかしてこういう岩が多いのかも? クルムズ領にもヒスイ領にもなかった感じがして面白いね~!」

何事も楽しめるところはオペラのいいところだ。岩のアーチをくぐったところではオレンジがかった毛並みのカンガルーたちが木陰で休んでおり、ほとんどのカンガルーたちがこちらを見た。

「かわいい!」

「可愛い…のか?」

カンガルーたちの中には仰向けで寝そべっているもの、身体を掻いているものなど、いかんせんマイペースに行動しているものが多い。動物たちに好かれやすいオペラだが、カンガルーたちはあまり寄ってこないようだ。

「さぁ、野菜や小麦を栽培している場所がないか、聞き込みするぞ」

セイジはタリムとオペラの話を遮り、ガウナ=クリンの街の散策を始める。街の中にはヴィブギョールの街と同じく植物園があり、人が出入りしている様子が見えたため、植物園に向かうことにした。植物たちの様子も同時に観察する。

「オーランゲ領はいいところだ。どの街にも植物園のようなものがあるらしい。農業だけではなく、植物そのものの保存に力を入れてくれているのは僕達にとってもありがたいことだ」

ちょうど植物研究所にもあった温室に入ったところだ。中はムシムシしている。

「あ! 水に浮かぶきれいな葉っぱとお花がある!」

オペラも植物の鑑賞を楽しんでいるようだ。反対にタリムはこの蒸し暑さに耐えかねていた。

「あれはスイレンの葉と花だ。まだ街の中だからなのか、完全に水が干上がっていないようで安心した」

オペラが植物を指さすたびに、全てセイジが解説してくれる。温室から出た3人は、今度はガラス貼りになっているお城のような造りの建物に入る。

「ほ、ほんとに植物園なのか?」

タリムは一瞬たじろいだ。植物園の中にある建物とは思えないからだ。

「あれはパームハウスというらしいぞ。ガウナ=クリンの街が発展する途上で造られたものらしく、由緒ある建物だそうだ」

「(なんでそんなこと知ってるんだ……)」

セイジはタリムの考えが分かり、入り口でもらったパンフレットを見せた。

「全部ここに書いてある。まだまだ注意力が足りてないなタリム」

セイジの意地悪な笑みが浮かぶ。

普段であれば、きっと植物園も相当な賑わいを見せるのだろうが、やはり人が少ないため、聞き込みはできなかった。植物園を出た3人はたまたま看板に書いてあった”ブライトン地区”という場所に足を運ぶ。

「かわいい色使いの小屋がいっぱいあっていいね~!」

ブライトン地区にはカラフルな小屋がたくさん並んでいる。ピンクに水色、黄色に緑、青に紫と配色豊かだ。ブライトン地区のすぐ横には広い歩道があり、ストリートアートと思われる多種多彩な絵が至る壁に書いてある。オーランゲ領はヒスイ領とは違った意味で色彩豊かで、見るものを楽しませてくれる。

「見てタリム! カンガルーの絵が書いてある!」

「家の壁面だけじゃなくて、こんなゴミ箱にまで絵が……」

「落書きにも見えるが、この道はこういう絵を描いてもよいことになっているんだろう。この自由な感じがオーランゲ領の一つの領民性なのかもしれないな」

セイジが壁の絵を見ながらつぶやいた。タリムもオペラも賛同する。街の中を歩いていると、今度はガウナ=クリン刑務所と看板のついた施設が目についた。

「今度は刑務所か……”BOS”に行ったことを思い出して嫌になるな」

「そういや捕まったと言っていたな。こう……罪を犯したわけでもなかっただろうに」

「よく考えたらなんであんな牢獄にいれられたんだろうな。一方的にボコボコにされたのはこっちのほうなのに……」

タリムは遠い目だ。監獄ときくと嫌な思い出が蘇ってしまう。

どうやら今はこの刑務所は使われておらず、プリズムが空に鎮座してから100年ほど使われたようだ。当時の領代表者に噛み付いた”ケリー氏”が処刑されたところだと、看板の周りに説明が書いてある。

「なになに……ケリー氏はオーランゲ領の中でも義賊的な扱いで、領代表者からの弾圧に対抗するために、貴族階級を襲っていたらしい。今でこそ自由な領だが、昔のオーランゲ領はもしかしたら荒れていたのかもしれないな」

「前に聞いた伝承にはそのような話は聞いてないな……平和じゃないオーランゲ領なんて想像もつかないよ」

植物園、刑務所と続き、ガウナ=クリンの街の心臓部分と思われる市場に到着した。他の観光スポットよりは人がいる。ただ、市場を見てみるとヴィブギョールの街と同じく全体的に品薄状態であり、ここでも水不足の深刻さが伺える。

「やっぱりアデレードファームもメルボルンファームもまずい状態らしいぞ」
「まだしばらくは持ちそうだが……こんなのは初めてだ」
「そういや俺の仲間の農家たちも領主館に行ったって言ってたな。大丈夫なんだろうか」

市場からはそんな世間話が聞こえてくる。3人は市場の農家さんに直接話しかけた。

「このあたりで野菜や果物を大量に作っている場所があると聞いたんですが、どのあたりにその農場があるんでしょうか?」

「あと、羊も飼っていると聞いてるんですけど……」

農家さんたちはタリムらを一瞥し、きちんと答えてくれた。

「やっぱりここらへんで有名な農場といえば“アデレードファーム”だろうなぁ。街の中じゃなくて少し外れにあるんだがな」

「あとは少し東にメルボルンファームもあるぞ。2つともオーランゲ領内では比較的冷涼な場所で、ぶどうや果物の産地になってる」

「あとはどっちの農場でも小麦もさかんだぞ。うちだけじゃなくて、メルボルンファームよりさらに東のフレオの街周辺にも小麦やら果実の産地があるな」

「ありがとうございます。まずはアデレードファームとメルボルンファームに行ってみます」

市場を出て、街の外れにある両農場に向かう。割とすぐに到着したそのアデレードファームでは、小麦の穂が金色に輝いている。農場の端には見慣れない大型の機械が並んでおり、タリムらは機械の前に行くことにした。

「なんだこれは・・・」

タリムがオレンジに塗られた大型の機械に手を伸ばそうとすると、セイジがタリムの手を掴む。セイジが首を横に振っていた。

「迂闊に触るなよ。下手したら死ぬぞ」

「えっ!?」

「なんでそんな危ないものがこんなに……?」

タリムもオペラも驚く。

「それはその緑の髪の男の子の言っていることが正解。操作できない人が”重機”に触って無差別に動いたら、身体が粉々になっちゃうよ!」

「ひっ……」

農家のお姉さんは自らを”メロン”と名乗り、農場の機械について教えてくれる。どうやらこの大型の機械は大規模で農業を行うときに使う機械らしく、オーランゲ領でしか使用を認められていないものらしい。タリムやオペラが知らないのも無理はない。

「……逆になんでセイジはその重機の存在を知っているんだよ」

「植物研究所はオーランゲ領に品種改良した植物を送っているんだから、どういった栽培状況か把握しているに決まっているだろう。さっきのは”トラクター”と呼ばれる土を耕す機械。ほかにも”コンバイン”と呼ばれる稲穂なんかを刈りとる機械なんかもあるぞ」

メロンさんに許可を取り、小麦畑を歩いていく。水不足とは何だったのかと錯覚するくらいには十分すぎる収穫量かと思われるが、どうやらそうでもないらしい。

「これを見ろ。灌漑用の水路が枯れている。本来ならハドソン川から水を引っ張ってきているはずだ」

「か……かんがい?」

「オペラ、きっと農業専門用語だ。多分川から水を運ぶ…とかそういう意味のものじゃないか」

セイジとメロンさんは頷いた。どうやら合っていたようだ。

「小麦やぶどう、ある程度の果物たちは元々水が少なくても、ある程度は育つものを選んでいるわけ。今回はたまたま水不足前に生長しきっているから収穫できそうなんだけど、次はそうは行かないかな。羊たちに渡す餌もなくなるし、そもそも動物にも当然飲み水は必要よ。羊が死んだら羊毛も取れなくなる……水不足はここから私たちをジワジワ蝕んでいくかもしれないね」

メロンさんの横にはその父親のオータムさん、その他の農業仲間の方もいつの間にか同席していた。

「今は農作物も不作だからどうしようもねぇ……このまま廃業になったら路頭に迷っちまうなぁ」

「でもこの前ネーブルさんが来たじゃないか。あんの人なら大丈夫だ。きっと領の代表者にも説明してくれる」

突然名前が挙がった謎の人物。この水不足を解消してくれる可能性のある人物のようだ。

「ネーブルさんはどこの誰ですか?」

オペラは首を傾げつつ、メロンさんに訪ねた。

「ネーブルさんはフレオの街、ここと同規模の農場、”パースファーム”を仕切ってくれている人だよ」

「なるほど、ではこの現状はネーブルさんが領の代表者に伝えてもらっている可能性が高いんですね」

「そうだそうだ。まぁ詳しいことはフレオの街に行くといい。俺達だけじゃどうしようもねぇし。ただ……こっちに水が通ってないことを思うと、フレオの街も絶望的だろう。あっちのほうが下流側になるから……」

農家さんたちの少し悲しい声を聞きつつ3人はガウナ=クリンの街へ戻ってきた。アデレードファームとメルボルンファームを歩きっぱなしだったのでかなり疲れたため、3人はすぐに宿を取って休むことにした。すでにオペラは寝息を立てている中、セイジは今日1日調査したものを紙にまとめ上げている。

「セイジ、休んだほうがいいぞ」

「……研究所にいたときのほうが寝ていなかったからどうってことない。あと少しで終わるから先に寝といてくれ」

「無理するなよ」

「あぁ……」

タリムは眠りについた。紙とペンの音が部屋に響いている。


【∞】


翌朝、セイジはタリムよりも早く起きていた。オペラはまだ眠っている。

「ちゃんと休んだのか……?」

「あぁ」

少し心配になるタリムだが、植物研究所にいたときのほうがクマがひどかったことを思い出す。

「初めて会ったときよりも健康そうだな」

「その気になれば1週間程度は寝なくても大丈夫だからな。寝られている分健康だ」

よく分からない持論を話すセイジに、少し引くタリム。しっかり寝てほしいと強く感じた。すぐにガウナ=クリンの街を出発し、フレオの街に向かうことにした。ハドソン川を少し戻り、ホーベル川の下流に向かって東に歩いていく。

道は変わらず舗装されており、ミラージュコアの影響なのか全く魔獣には出くわさない。

途中、舗装された道から少し外れた箇所に奇妙な岩が点在しているが見え、案の定オペラの掛け声とともに寄り道する。ここら一帯は舗装された道とは打って変わって足場が砂漠のようになっている。

「ずいぶん変わった形の岩だ。しかもあちらこちらにあるけど、何か意味があったりするんだろうか」

「・・・見ろタリム。この岩のこの部分だ。木の根の一部と思われるものが見えている。おそらくこの岩は元々木だったものの可能性がある」

「そうか・・・さすがに岩ができあがるまでの行程は知らないな」

「このあたりは風が強い。点在しているのも何らかの自然現象によるものだと思うが」

こういう話をしているとセイジの知見の深さには驚かされる。

「見てタリム!私と全く同じサイズの岩だよ!」

「人型もあるのか。面白いな」

「この岩ができたのが水不足の影響でなければいいが。一面砂漠状態だ。このまま水不足が続けば人が住む街ももしかしたら・・・」

恐ろしいことを言うセイジ。奇妙な岩への興味はこのくらいにして、フレオの街に急ぐこととする。


【∞】


フレオの街に到着する少し前、くしくも目的地の一つであるパースファームにたどり着いた。ホーベル川の支流、ウィラドゥリ川に入ったところだった。パースファームには小麦の他、ぶどう、果物の苗木が所せましと並んでいる。

「おや。このパースファームにお客さんかい? でもあいにくここのブドウは保存に回すから、ワインは今休止中さ」

パースファームには”ワイナリー”と呼ばれるぶどうを収穫しお酒などを作っている建物がある。ちょうどその建物が目についたので立ち寄っていた。ワイナリーにいる農家のおじさんに話しかけられたところだ。

「どっちみちお酒は飲めない年齢なので…」

「それよりも畑の様子を知りたくて。僕はヒスイ領の植物研究所に所属する、セイジ・シナトベです。ブドウも含めた果物たちを観察させてもらってもいいですか」

「まぁ~わざわざヒスイ領から? むしろ見てちょうだい。水不足で大変でね」

横にいた農家のおじさんの妻と思われる方に見学を快諾してもらったので、しっかり調べることにした。

「……僕たちが品種改良した果実たちは……あぁ、水が少なくても生長するよう調整した甲斐があって育っているな」

等間隔に並んだぶどうの木には紫と緑色の房が何千、何万と実っているが、一部の房はすでにしわしわで瑞々しさは全く感じない。同様に、丘陵地にある果樹には、ネクタリンやプラムといった多種多様な果実を育てているようだが、先ほどのブドウ畑と同じく一部が枯れかけている。

「セイジ、あの透明の家みたいなのはなーに?」

オペラは広大な敷地のぶどう畑のさらに奥にある透明な家のような建物を見て、セイジに質問した。

「あれはビニールハウスというんだ。中の温度はある程度一定になっていて、外に比べると比較的植物たちが育ちやすい環境になっている。ただ、この水不足だ。ビニールハウスの中でも育たない可能性があるな……すみません、あちらのビニールハウスの中も見学してもいいでしょうか」

「あぁ、もちろん」

ビニールハウスの中は風を送る機械の他、ホースのようなものが植物の周りに綺麗に配置されている。セイジに聞いたところ自動で水をまくための装置だそうだ。

「ビニールハウスの中だろうが、植物の成長に水は欠かせない。一部の植物はごく僅かな水でも生きることができるものもあるが、人間の食べるものはそうはいかないだろう」

ビニールハウスの中の見学も終え、ワイナリーに戻ってきた。農家の方のご厚意で少し休ませてもらう。

「普段なら、観光で来てくれた人に果物を採ってもらって、自分でジャムやサイダーを作る体験とかやっているんだけどねぇ……。この状態じゃしばらくはお休みね。いやいっそドライフルーツにしてやろうかしら」

農家の方の話によれば、扇状になっている果樹園地帯のうち、水が引けていて、かつ田畑にも水が供給できているのはごくわずかだそうだ。

「ちなみに……オーランゲ領の代表はこの状況を知っておられるかご存知ですか」

「もちろん知っておられるよ。ついこの前、お前さんと同じようにパースファームも視察されていたし……このエリア一帯の水の状態もみてくださった」

「なら安心ですね。ネーブルさんという方のおかげなのかも」

タリムの一言を聞いた農家の夫婦が「ははは」と笑う。

「?」

「そのネーブルさんだよ。このオーランゲ領の精神力代表は」

「えっ!?」

休んでいた3人は驚き目を見開いた。アデレードファームとメルボルンファームではそんな話は一言も聞いていない。

「まぁ領の代表自ら視察に来るなんて、あんまり考えにくいわよね。一応ネーブルさんの一族がパースファームを取り仕切っているから、代表と言われてもみんなピンとこないのよ。あっはっは!」

それでもアデレードファームとメルボルンファームの人たちは自分の領の代表者が誰なのかぐらい把握しておいてくれてもいいだろうに。

「どっちにしろネーブル代表には一度会って現状がどうなっているのか確認したほうがいいんじゃないか?」

「そうだな。僕が調べた内容もお伝えしたほうがいいだろう。そもそもオーランゲ領はこの大陸の中で最も農作物が生長しやすい土壌だ。その農作物で酪農や牧畜もやっているから、大陸中の食料確保を担っている。でもそれは水があってこそだ。さすがにアズーロ領側が大陸中の食料確保を断絶する意図があるとは考えにくいが……もし水を意図的に止めているなら戦争物だぞ」

「戦争………」

タリムとオペラ、その場にいた農家の夫婦もゴクリと生唾を飲む。人間が生きていくための必要な水が止められているんだ。どういった目的があるのかは知らないが、さすがに見過ごせない。大陸中の食料なのだから、自分たちだけの問題じゃない。クルムズ領の家族、ヒスイ領でお世話になった人々、全員が食糧難になる可能性があるということだ。

「とりあえず次のネーブル代表にも話を聞こう。食糧難になったらオーラを元に戻す前に死んでしまうしな。さすがにほっとけない」

「じゃあ決まりだね。フレオの街に向かおう!」

農家の方々に別れを告げ、目的であるフレオの街、ネーブルさんの家に向かう。


【∞】


ネーブルさんの家を訪ねるため、パースファームからほど近いフレオの街に到着した。他の街と同じく閑散とした雰囲気で、水不足の深刻さが伝わってくるようだ。そんな街だが、入口にある巨大な岩の隅のほうから、オレンジがかった体長40cmほどの笑った顔に見える動物がお出迎えしてくれる。

「かわいい~!カンガルーの小さい姿に似ている気がするけど、これって何ていう動物なんだろ?あんまりクルムズ領では馴染みがないよね」

「この動物の名前はクオッカというようだ。オーランゲ領にしか生息していない個体だと、領主館のガイドにも書いてあったぞ」

「可愛いねぇ!」

どうやらクオッカは人懐っこいようで、オペラの周りに群がってきた。空港ではカモたちに囲まれ今回はクオッカにも囲まれている。少し羨ましい。

「オペラ……クオッカが可愛いのは分かったけど、そろそろネーブルさんの家に向かうぞ」

「はーい」

名残惜しそうにオペラはクオッカに手を振る。なぜかクオッカも名残惜しそうにしている。ネーブルさんのお屋敷はどうやら街の中でも奥のほうにあるようで、ひたすら小高い丘にある大きな公園を歩き回っている。公園の名前は“キングス”というらしく、植物も多く自生していて、見るものを楽しませてくれる。

「セイジ!あのカラフルなお花はなに?」

「あれはオーランゲ領独自に自生している“ワイルドフラワー”というものだ。10000種類は軽くあるぞ」

「10000!? すごい数だね」

「フレオの街には植物園はないようだが、規模の大きい公園にこれだけの植物が自生しているんだ。植物園という名前じゃないだけで、実質植物園に等しいぐらいの場所だ」

キングス公園をようやく抜けた先には、先ほどパースファーム周辺にも存在していたウィラドゥリ川がまた現れた。どうやら街の中にも川が流れていたようだが、相変わらず干上がったままだ。川を眺めて歩くこと数分、お目当てのネーブルさんの家に到着した。

「おっきーーい!セイジの家よりも大きいんじゃない?」

「確かに」

大きな門扉を叩きネーブル代表を呼ぶ。

「すみませーん!ネーブル代表にお会いしたいのですが!」

数秒後、執事服を着た男性が現れる。タリムは一瞬ゾッとしたが、よく見ると“BOS”で出会った執事服の男性とは違うことに気づきホッとする。

「ネーブル様に何の御用でしたか」

「私への客なら通してくれて構わないぞ」

執事服の男性の後ろから恰幅の良い立派な口髭が生えた男性が姿を現した。身なりが整っており貫禄がある。

「旦那様……。我々執事やメイドがいる意味がありませんのでおやめいただけますか……」

「まぁそう言うな」

ハハハと笑う男性。目的の人物、フレオの街の農業エリアの管理者とも呼べる存在で、オーランゲ領精神力代表の“ネーブルさん”のようだ。ネーブル代表は、3人の手首に装着されているリングを一目見た。

「さて君たち、私に何の用かな?」

タリムからオーラを元に戻す旅をしていることを話し、セイジから農作物らの調査研究について口にした。事情を聞いたネーブル代表は家の中に招き入れてくれる。

「オーランゲ領に住んでいないにも関わらず、川の干上がり、そして農作物について何とかしたいと……。ふむ、詳しい話は中で聞こうじゃないか」

家の中に入ると大勢いるメイドさんたちがお辞儀をして出迎えてくれる。タリムとオペラは困惑し目が泳ぐが、セイジは淡々とネーブルさんの後ろをついていく。もしかして慣れてるのか。

長い廊下を抜けると何十人もが一度に食事を取ることができる広間に繋がっていた。広間に入るとメイドさんたち数名に囲まれ、上着や荷物などをそっと回収された。そのまま広間にある長机のイスに座るよう促される。

「(なるほど……危険なものがないか点検……といったところか)」

その後メイドさんたちは広間からいなくなり、ネーブルさんの後ろには執事服の男性が1人立っていた。ネーブルさんもイスに座り、話が始まる。

「うちの管理しているパースファームも見てくれたかい?」

「勝手ながら拝見いたしました。私が所属していますヒスイ領の“左都植物研究所”で品種改良したものは、何点か無事な農作物もありました」

「おや……あの研究所の方か。トクサ殿にはいつも世話になっているよ。セイジ君の指摘のとおり、無事な農作物も確かにある。だが、次はそれを植えたとして発芽することはあるまい?」

セイジが頷くと同時にタリムとオペラは驚いている。まさかここでもトクサさんの名前を聞くとは思ってなかった。

「ネーブル代表、差し出がましい質問で恐縮ですが、全ての農場を回られたのでしょうか? すでに課題は熟知されているように思いますが」

セイジがネーブル代表に問いかける。ネーブル代表はゆっくり頷いた。

「そうだよ。うちの管理するパースファーム、それにガウナ=クリンの街のアデレードファームとメルボルンファームだけで大陸のほとんどの食糧備蓄を担っているにもかかわらず、この状態であと6箇月もすればオーランゲ領内の食糧備蓄もなくなることが分かっている。そうなれば大陸全土で食糧の奪い合いが起き、各地で暴動になる可能性も高い。下手すればオーランゲ領を侵略しようとする連中すら出てくるだろう。そうでなくても農業や畜産関係で働いている方から失業者すら出てくる緊急事態だ。それだけは何とか阻止しなければならない」

真剣な眼差しで腕を組むネーブル代表。タリムらには各地の農場であった農家の方々の顔がよみがえる。

「少なくともこのオーランゲ領の領民のうち、約半数が大陸全土のための農作物を育てている。農作物を運ぶ人がいて、牧畜や酪農に活用してくれている人がいる。またそれを出荷し商売をしてくれている人がいる。全てが上手に回っていないと大陸全土の食糧の確保はできない。川の干上がりという課題に対し、領の代表者として解決に導くことが重要だ。まずは現場の牧場、田畑など全てを確認し、現場の人の困っている声を聞く。それは我々領の代表者が真っ先にできることだ。ヴィブギョールの街にいても現場のことは分からない。それだと何を対策すればよいのか分からないからね」

領の代表者が領の課題を率先して把握し解決していく。当たり前と言えば当たり前だが、その当たり前ができない人も世の中には多くいる。代表者としての器をしっかり持っている人だ。

「そして、セイジくんの言うようにすでに川の干上がりに対して手を打っている。オーランゲ領に流れるヒューム川の上流は、アズーロ領の“アステル”と言う名のダムによって管理されている。すでに私からアズーロ領の代表者に声をかけているところだ。本来であれば“虹彩会議”にかけるべき案件だったが、事態は想像以上に深刻だ。そろそろ返事があるとは思うのだが……」

ネーブル代表の話の途中、先程歩いた長い廊下のほうからバタバタと騒がしい足音がする。直後、音の主が勢いよく広間にやってきた。

「パパーーーー!!はいこれ!!ヴィブギョールの街からのお手紙ー!!!………あれ?お客さん???」

ネーブル代表をパパと呼ぶのだからどう考えてもこの音の主は娘さんだろう。大きな声と明るい表情が際立っている。髪色はほんのり淡い橙色。髪型がツインテールというのもあってか、タリム、オペラよりは幼い印象を受ける。なぜか作業用のツナギを着ており、ツナギは泥だらけだ。

「キャロ、ありがとう。あと客人の前だ。もう少し声を控えめにしてもらえたら嬉しいかな」

「ごめんねパパ!!」

キャロと呼ばれた少女はネーブル代表に封書を渡す。きっとアズーロ領からのものだろう。少女が泥だらけで飛んできたからか、メイドさんたちが着替えを持って飛んできた。掃除をしているものもいる。

「ちょうどいい、君たちにも見てもらおう」

そういうとネーブル代表は封を開け、手紙に視線を寄越し一読する。

「ふむふむ……なるほど……はい、君たちも」

ネーブル代表からタリムに封書が渡された。タリムは封書を読み上げる。

「―アズーロ領“知力”代表のレオナルデです。このような事態を招いたのは、我々アズーロ領の内政によるものであり、私めから各領に事情を説明するべきところ、先立ってオーランゲ領代表から直々に封書をいただくことになり申し訳ございません―」

タリムは続ける。

「―早速ではありますが、当領内のダムの状況をご説明いたします。オーランゲ領に流れているヒューム川の上流にはアステルダムがございますが、数日前に何者かによって占領され、現在も川の水がダム下流にいかないよう堰き止められている状況にあります。本来であれば該当するダムに兵士らを派遣し、水を止めたものを討伐する必要があるのですが、先日行われた“ミラージュコア破壊作戦”により、アズーロ領の兵士らの大半はオーラが使えず、派遣が難しい状況にあります―」

読み上げているタリムの顔は徐々に青ざめていく。

「―また、アステルダムだけでなく、複数のダムが同じように占領されているため、アズーロ領だけで対応するのが難しい現状です。次回の“虹彩会議”でお諮りする予定でありましたので、各領代表者がいる場でオーラが纏える兵士の派遣について議論いただければ助かります」

タリムが読み上げたあと、オペラ、セイジ、そしてその場にいたキャロがそれぞれ反応する。

「誰かは分からないけど、ダムの水をわざと止めた人がいるってことだよね?許せないよ!」

「少なくともアズーロ領が故意に水を止めた……とかではなさそうだな」

「ねーパパー?ダムって何ー?」

「ダムっていうのは水の流れを増やしたり減らしたりする建物のことだよ。アズーロ領にはそういう建物がいっぱいあって、オーランゲ領の土木職人たちもダムの建設を手伝ったんだよ」

「へぇ~!!すごいな!!」

ネーブル代表がキャロにダムについて説明している。タリムは再びイスを下げ、ネーブル代表の前でひざまずき、頭を下げた。

「ネーブル代表、申し訳ございません。私の兄であるクルムズ領の武力代表、ゴルドによって、ミラージュコア破壊作戦は決行されたと聞いています。その影響がこんなところにまで波及してしまって……」

「……タリム君、別に君のせいではないだろう?家族として頭を下げたくなる気持ちは分かるが、きちんとゴルド代表は“虹彩会議”には諮っていたし、それを承認したのは各領の代表者たちだ。まぁ……少々圧はあったのは分かっていたけどね。ハハハ」

ネーブル代表は優しくタリムに語りかけた。タリムは顔を上げる。

「過ぎたことを悔やんでも仕方がない。封書の内容からも分かるとおり、アズーロ領側もこの状況を把握できていて、かつ何者かが、何らかの目的で川の水をコントロールしていることが分かった。しかもアズーロ領だけでは解決することが難しいこともね。それだけでも私から封書を送った価値はあったというもの」

ネーブル代表はゆっくり立ち上がる。横に立っていた執事服の男性に合図を送り、執事服の男性は退室した。

「さて、私はこれから次の虹彩会議のために準備しておくことができた。君たちはどうする?もし可能なら1つ私から頼まれてくれないか?」

タリムも立ち上がり、オペラとセイジと顔を見合わせる。ネーブル代表の目をしっかり見てタリムが答えた。

「できることなら何なりと仰ってください」

「ハハハ、いい目だ。では、頼みごとの内容を説明しよう。先ほど封書の内容からして、今後はダムを占拠したものと戦う可能性が高い。そうなればある程度の戦闘力が必要で、またオーラを纏えるに越したことはない」

3人は頷く。キャロだけは状況が分かっていないのか上の空だ。頭の上に“?”マークが見えている。

「おそらくアズーロ軍はアステルダム以外の対応にも追われているはずだ。先のミラージュコア破壊作戦のこともあって、人員的にも厳しそうなことは分かる」

ネーブル代表の話にタリムは唇を噛んだ。自分が取れる責任などないに等しい。悔しさがこみ上げる。

「そこで、アズーロ領にあるダムの敵を討伐するために協力してくれないか? キャロ、君もだ。私が今から新たに封書を用意する。アズーロ領のレオナルデ代表にここにいる4人がアズーロ領に協力することを書き記すつもりだがどうかね?」

少しの沈黙。キャロが口を開く。

「私はいーよ!!でもパパ、畑で使う“重機”を動かすための“電池”はいいの?この辺じゃ私しか作れないんじゃなかったっけ?」

キャロがニコニコしながらネーブル代表に問いかける。

「(電池?あまり聞いたことがない単語だな……)」

「“オーラバッテリー”のことだね。キャロが毎日1個作ってくれているおかげでバッテリーの備蓄はかなりある。これからアズーロ領に行くとなると、帰ってくるまでに数日はかかると思うけど大丈夫だ。思う存分、自分の橙のオーラエレメントを使ってくれて構わない」

「分かったー!!腕が鳴るなー!!」

元気のいい返事である。次はオペラが手を上げてネーブル代表に尋ねた。

「あのぉ……ネーブル代表、オーラバッテリーって何ですか?」

「そうかそうか。クルムズ領出身だとあまり馴染みがないか。セイジ君、答えられるかい?」

ネーブル代表はセイジのほうを見る。セイジがひと呼吸おいて、答え始める。

「……オーラバッテリーっていうのは“橙”、”緑”、“紫”のオーラエレメントを使って作る、擬似的なエネルギー体のことだ。僕も実物は見たことがない」

学者の説明の仕方だ。言われてもあまりピンとこない。今度はタリムとオペラの頭の上に“?”が浮かぶ。

「ハハハ。大筋はその通りなんだけど、まぁ伝わらないのも無理はない。さて、私からも補足説明しよう。例えば私のように“橙”のオーラエレメントを使える人間がいたとする。もちろん“赤”のオーラエレメントが使えるではないから、私は君たちクルムズ領の出身者と同じように火の力を扱うことはできないね?」

タリムとオペラとキャロは首を縦に振った。キャロは初耳ではないと思うのだが。

「オーラバッテリーというのは、“橙”のオーラエレメントでも“赤”……つまり火の力を使えるように加工したものだ。やり方は単純。体内にある“橙”のオーラエレメントを体の外に放出し、“橙”のオーラエレメントを“白”のオーラエレメントでコーティングするんだ。コーティングしてできたものをオーラバッテリーと呼ぶんだよ」

オペラは眉間にシワを寄せ始めた。そしてなぜかキャロも同じ表情をしている。この子がそのオーラバッテリーを作っているのではなかったのだろうか。

「どういった理屈なのかは解明されていないが、“白”のオーラエレメントでコーティングした”橙”のオーラエレメントは、“赤”と”黄”のオーラエレメントの効果を持つようになる。この場合は火と雷の力だね」

タリムは右手の親指と人差し指を自分の顎に当てた。

「(そんな革命的なことが起きるのか。にわかには信じがたいけど……?)」

「欠点があるとすれば、“橙”のオーラバッテリーの形にしたときの“橙”のオーラエレメントは、“赤”と“黄”のオーラエレメントの混合物という扱いになるようでね。“赤”や“黄”のオーラエレメントを使える人間が使う火の力、雷の力よりも効果が落ちるようなんだ。でも欠点はそれぐらいで、オーラバッテリー自体は半永久に使える可能性が示唆されている。あとは元々の橙のオーラエレメントには戻らないことも、欠点の一つかもしれない」

「そのオーラバッテリーをビニールハウス栽培や農業用の大型の機械……重機に応用しているわけですか」

「そのとおりだよセイジ君」

タリムも眉間にシワが寄っている中、オペラとキャロが現実に帰ってきたようだ。

「詳しいことはあまりよく分からなかったけど、オーラバッテリーは“橙”のオーラエレメントを“白”のオーラエレメントでコーティングするんことでできるんですよね?……それをキャロちゃんができるってことはもしかして……」

オペラがキャロのほうを見ると、キャロは察したのか、ニコニコ笑顔で答える。

「淡い橙のオーラが纏えるよー!」

キャロの右眼が光り、全身に淡い橙のオーラを纏った。あまりのオーラの大きさにタリムらは目を見開く。

「少し話は変わるが……この子は白のオーラエレメント自体は扱えるようなんだけど、何故か他人を回復させるのは上手くいかないみたいなんだ。よかったら君たちに白のオーラエレメントの使い手がいるならば、回復させるコツみたいなものがあるなら教えてやってくれないか。別に回復できなくても全く困らないんだけども」

ネーブル代表は苦笑する。本当に困ってない様子だった。オペラとセイジが顔を見合わせる。

「特にコツみたいなものはないんですけど、またアズーロ領に向かうときにでも……逆にオーラバッテリーのことをよく教えてほしいぐらいです」

オペラの話にセイジも頷く。タリムは“白”のオーラエレメントを扱えないため、置いてけぼりである。

「とりあえず目的はハッキリしたね。君たち3人は宿を取っているかい? もし取っていないなら今日はここで泊まっていくといい。キャロも喜ぶだろう。キャロ、サラさん……ママも呼んでおいで。食事の準備はできるね?」

「もちろんだよー!!誰かが泊まるなんて久しぶりだから、頑張ってご飯作るねー!!」

3人とも少し緊張していたが、キャロも実際喜んでいる。お言葉に甘えて泊まらせてもらおう。

「ママー!!パパのお客さんが泊まっていくから食事の準備するねー!!」

キャロは別室にいる母親を呼びに行った。すぐに母親らしき人が広間に現れる。

「あなた、お客様?それなら食事の準備をするからお待ちになってね」

「……食事の準備はサラさんではなくて、キャロとメイドさんたちに準備してもらおうかな。キッチンの後始末が大変になるからね」

ネーブル代表は妻であるサラさんをなぜか制止した。サラさんはキャロの母親と紹介されたが、実際はかなり若く見える。髪色はキャロと同じほんのり淡い橙色でロングヘア、街中を歩いていたら誰もが振り向くほどの美人な人だ。下手したらキャロのお姉さんと言っても過言ではない。

「サラさんは食事の準備じゃなくて、お客様のおもてなしを頼んでもいいかい?君のヴァイオリンが聞きたいな」

「あら、よろこんで。早速準備いたしますね」

ネーブル代表はハハハと笑う。広間周りにいたメイドさんたちは何人かがキッチンに、何人かがサラさんの部屋に向かったようだ。急にバタバタと家の中が騒がしくなった。

広間のイスに座っていたタリムとオペラであったが、気まずくなったのかキャロがいるだろうキッチンのほうに向かい、大きい声で話しかける。

「て、手伝います!」

「いやいや、お客さんなんだから座って待っててよー!!」

「キャロ様も皆様も我々にお任せください!!」

「みんなこそ休んでていいよー!!」

「……!!」「……??」「……!?」「……?!」

キッチンはごった返し、広間には喧騒が聞こえる。

「ハハハ、賑やかなのも悪くないね」

「ええ。あいつらの取り柄ですから」

ネーブル代表とセイジはゆっくり話をしているようだった。


【∞】


結局タリムとオペラはキッチンから排除され、広間に戻された。サラさんがヴァイオリンを用意し、その演奏をみんなで聴き入る。

「わー……すごく綺麗な音色……!」

いつの間にか執事服の男性が複数人広間にいるのに気づく。演奏が終わると拍手に包まれた。しっかりお辞儀するサラさん。ちょうど演奏が終わるのを見計らってか、何人かのメイドさんが広間に食事を運んできた。

「さぁ、みんなで食事を摂ろうじゃないか。全員、座りたまえ」

ネーブル代表の掛け声で、広間のイスに執事服の男性たち、メイド服の女性たちが背筋を伸ばし着席した。広間のテーブルには、オーランゲ領名産の牛肉で作られたステーキや、温かなパン、トウモロコシのスープなどが人数分置いてある。

ネーブル代表が食事前に手を合わせながら一言、言い放つ。

「全ての命に感謝して……いただきます」

ネーブル代表の言葉のあとに、その場にいる全員が「いただきます」と言った。言わなければ怒られそうな謎の威圧感だ。

ちなみに、出ている料理はどれも1流のシェフが作ったものと遜色ないぐらいの美味しさであり、思わず舌鼓を打つ。普段クールなセイジもあまりの美味しさに、いつもより食が進んでいるようだ。

「さすがキャロ。料理が上手いね」

「キャロちゃん、いつもありがとう」

「私が好きでやってるんだからいいよー!!みんなどんどん食べてねー!!」

親子の仲がうかがえる会話だ。しかもこの料理はキャロの手作りらしい。タリムらの向かいに座っているメイド服の女性たちがヒソヒソと話し込んでいる。

「キャロ様ったら料理がお上手なんですもの。食事において出番がありません……」
「そうよね。配膳ぐらいしかしてないわ」
「逆に私たちがご馳走になってるみたい……」
「急いで食べて宿泊の準備をしなくちゃ……今度はサラ様が動き出す前に……」

ちょうどタリムらの後ろ側に座っている執事服の若い男性たちもヒソヒソと話し込んでいる。

「キャロ様が作ってくださった食事で明日からも頑張れる」
「この家は本当にどうなってるんだ……何もかも高待遇すぎる」
「死ぬまでお世話になりたい」

執事服の若い男性たちは本音がダダ漏れである。

「(キャロがこのご飯を作っただけでも驚きなのに……さらにめちゃくちゃ美味しいなんて……人は見かけに寄らないな)」

横にいるオペラが無言で食にありついている。さぞ美味しいのだろう。……この美味しい食事も下手したら6ヶ月後には食べられなくなる。気を引き締めなくては。

食事のあと、3人はキャロの部屋に案内された。食事の片付けをしようとしたら、メイドさんたちに一蹴されたからだ。

キャロの部屋は年頃の女の子たる部屋で、大きなカンガルーとクォッカのぬいぐるみや、リボンなどのアクセサリーが綺麗に並べられている。特に部屋の中で目立つのは天蓋付きのベッドだ。キャロがお嬢様であることが嫌でも分かる。

「ねーみんな!!よく考えたら自己紹介してないよね??私はキャロット!!みんなからキャロって呼ばれてるから、みんなもキャロって呼んでね!!」

早速自己紹介が始まった。

「俺はタリムで……こっちが……」

「私はオペラ。よろしくねキャロちゃん」

「僕の名前はセイジだ。よろしく頼む」

自分たちが寝るところを準備してもらうまでの間、キャロの部屋で雑談を交わす。盛り上がってきたところで部屋の扉がノックされた。

「……皆様、準備が整いました。こちらの部屋にどうぞ」

「ねーメイドさん!!今日はオペラと一緒に寝てもいい??」

キャロの純真な瞳でメイドさんを捕まえた。メイドさんはタジタジである。

「……よろしいかと思います。あとでネーブル様とサラ様にもお伝えしておきますね」

「やったー!!オペラ、一緒に寝よ!!」

「分かった!楽しみだねキャロちゃん」

オペラはそのままキャロの部屋に残り、タリムとセイジは客間に案内された。客間……と言いながら豪華な宿泊施設の一室を借りているかのような、大きなベッドと調度品が置いてある。

「……全然落ち着かないんだけど」

「その気持ちは分かる」

何だかんだと農業エリアを歩き回り疲れていたタリムたちは、言葉とは裏腹にあっさりと寝入ってしまった。


【∞】


翌朝、再度広間に集まる4人。ネーブル代表からアズーロ領、レオナルデ代表宛の封書を預かるタリム。

「ここに封書を用意した。アズーロ領での君たちの安全の確保を依頼するとともに、ダムへの進軍に対してアズーロ領の軍の傘下に置いてもらうよう依頼する内容になっている」

「ありがとうございます。アズーロ領の代表者に渡してまいります」

大事な封書だ。しっかり保管させてもらおう。

「私は君たちの力を見ていないけど、その真っ直ぐな眼で、キャロのことを預けても大丈夫だと確信した。キャロのこともよろしく頼むよ。ほらキャロ、3人に改めてご挨拶を」

「みんなよろしくね!!」

キャロは自分の身体ぐらいある斧を持ちながら3人に挨拶する。オペラがキャロに質問した。

「キャロちゃんは斧が使えるの?」

「そうだよー!!たまに農作物を荒らす魔獣が出てくるから、これで追い払ってるんだー!」

持っている斧をぶんぶん振り回すキャロ。

「こんな細い腕にどんなパワーがあるの……?」

少しオペラが引いている。タリムもセイジも驚きを隠せない。ネーブル代表がハハハと笑い質問に答えてくれた。

「キャロが小さい頃から農業を手伝ってくれていたから、そのせいかと思っているよ。ま、気にしないでもらってよいと思うがね」

さすがに農業の手伝いだけでこの力がつくとは考えにくい。ただ、目の前でいとも簡単に斧を振り回しているキャロを思うと、考えるのもバカらしくなってくる。

「じゃあパパ、みんなと行ってくるね!!」

「気をつけていってらっしゃい。こっちも早速、虹彩会議に向けて動きだすよ」

「いってらっしゃ~い。ねぇあなた、あの子たちはこれからどこに行くのかしら?」

サラさんもお出迎えしてくれる。サラさんは4人がどこに行くのかまるで把握していなかった。

「君のそういうところ、本当に素敵だね。今オーランゲ領中の川が干上がってるのは知っているかい……?」

サラさんの頭の上には“?”が浮かんでいた。少し天然な方なのだろう。


【∞】


一向はフレオの街を後にし、首都ヴィブギョールに向かう。パースファームには今日も何人もの農家の人が出入りしており、その人たちに向かってキャロが大声で叫ぶ。

「コーラルおじさん行ってくるねー!コーラルおばさんも!頑張ってくるよー!」

「おーキャロちゃん!どこに行くのか知らんがいってらっしゃい!」
「また帰ってきたらうちの畑も見に来てねー!」
「キャロちゃん、こっちの野菜は何とか収穫できたけどいるかー?」

先日お会いしたパースファームの農家の夫婦だ。それ以外の農家の人にも次々と声をかけられているキャロ。パースファームでキャロの名前を知らないものはいないんじゃないかと思われるぐらい人気者だ。

「ありがとナスタさん!でも荷物になっちゃうからまた帰ってきたら行くねー!」

律儀に返すキャロ。農業エリアから出ようとした瞬間、男性の大きな声が聞こえてきた。

「魔獣だ!!魔獣が出たぞ!!」

「「!?」」

キャロは声の主に向かって駆けていく。すでにキャロは淡い橙のオーラを纏っていた。

「今行くね!!」

その走る速度に誰も追いつけない。1歩踏み出しただけで数メートル先に次の足が着地していた。

「(……速い!)」

オペラも思わず「速すぎ!」と言い放っていた。僅か数秒、キャロの並外れた身体能力を肌で感じ取る。

「キャロちゃん!“ケツァル”だ!」

ケツァルと呼ばれる魔獣は翼を広げると体長が有に5メートルほどある、鳥のような身体をしていた。全身がオレンジ色で、先程から甲高い声で鳴いている。ここら一帯の農作物も全て食べ尽くすことができそうだ。

「ケツァル1匹だけなら大丈夫だねー!!」

オーランゲ領に到着して最初に出会った蛾を除けば、初の魔獣との戦闘だ。キャロは見慣れているからか余裕そうにしているが、こちとらこんなサイズの魔獣はヒスイ領で出会った合成植物の魔獣ぐらいしかお目にかかったことはない。クルムズ領の“メドゥーサ”でさえ、ここまで大きくはなかった。

「あれみんな。別に私一人で平気だよ??」

やっとキャロに追いついた3人。すでにセイジの息が上がっている。

「ハァ……ハァ……速すぎだろ……」

「あはは!!セイジ大丈夫かー??とりあえず倒しちゃうね!!」

キャロは準備運動していた。

「あんな空を飛んでる魔獣、どうやって……!?」

オペラが一言二言漏らす間に、キャロは少しだけ膝を曲げ、一気にジャンプした。ケツァルが反応するより速く、ケツァルより上に跳んだのだ。そのまま持っていた斧を振り下ろす。

「“マーコット・アックス”!!」

キャロの斧がケツァルの身体を一刀両断した。そのままキャロに地面に着地し、決めポーズする。

「やったー!!ナスタおじさん見てたー??カッコよかったでしょー!!」

「さすがキャロちゃん!!お見事だねぇ」

その場にいた農家のおじさんたちは拍手した。状況について行けてない3人。

「なっ………!!」

「キャロちゃん……すごすぎ……!!」

「ハァ……ハァ……何だ……今の力は……」

オーランゲ領での大型魔獣との戦闘は、キャロの一太刀で終了した。


【∞】


「いやー!!久しぶりに魔獣が出てきたからつい倒しちゃったね!!」

4人は今、魔獣が出たパースファームからガウナ=クリンの街に向かっている。キャロのテンションは高いままで、ずっとニコニコしている。

「本当ならオーランゲ領の魔獣の起源や生態の傾向なんかも聞こうと思ってたんだが……あんな瞬時に倒されたらどうしようもないな」

ため息をつくセイジ。キャロが太陽のように明るいこともあって、セイジは逆にとても暗く見えてしまう。

「あの恐竜たちはいつもウルル・オーガスタの方からやってくるんだよー??何でフレオの街に来るかは分かんないなー。パースファームのおいしい野菜を狙ってるのは分かってるんだけどなー?

どうやらケツァルは“恐竜”と呼ばれる種類に分類されているらしい。クルムズ領では見たことがない。

「なるほど、あれは恐竜と呼ばれるのか。他にもそういう魔獣がいるのか?」

セイジの興味スイッチが入ったようだ。ただ、相手はキャロなので、まともに答えてくれるかどうかは分からない。

「恐竜とは全部で何種類いて―……大きさはどれもあれぐらいなのか―……ウルル・オーガスタには行ったことがあるのか―……」などなど、セイジが質問攻めしている。悲しいことにキャロは全ての質問に「分かんない!!」と笑顔で答えてくれた。研究者泣かせである。

「……予想通りの返答だな」

セイジはまたもため息をついた。今度はタリムから質問する。

「キャロ、走るスピードが速いのはまだいいんだけど、さっきものすごく高く跳んでいたよな?……およそ常人の力ではないと思うんだけど、淡い橙のオーラの力なのか?」

「そうだなー……。オーラを纏っている間は『高く跳べ!』って思ったら高く跳べるし、『速く走らなきゃ!』って思ったら速く走れちゃうんだよね!!あ!でも限界はあるよ!!」

限界がなかったらそれはもう人間ではない。ただ、淡い橙のオーラの力というにはあまりにも不可解だ。

「橙のオーラエレメントは“地”の力を宿しているはずだ。その身体能力の説明にはなっていないが……。オーラを纏っているとき、他にはどういった特徴があるんだ?」

セイジも顎に手を当て考え込む。

「んーっとねぇー……うまく説明できないけど、オーラを纏っている間は、自分の周りの地面がどういう形が分かるっていうのかなー?地面の上に何かが落ちてるのが分かるって感じ」

「例えば今、キャロが目を瞑ってオーラを纏ったとしよう」

「こうかー??」

早速キャロは淡い橙のオーラを纏い実演してくれる。例え話ではなくなってしまったわけだが。

「今目の前に見えているのはなだらかな坂道で若干登りになっているわけだが、100mぐらい先にそこそこ大きな岩が見えているはずだ。それがどんな形なのかわかるか?」

「目の前の道を遮らないように、その部分だけ削り取られてる感じがするなー!!多分岩の大きさは4mぐらいでー……幅はその半分ぐらいかなー??……重さは2000kgぐらいだと思うよ!!」

「「なっ!?」」

タリム、オペラ、セイジはキャロがきちんと目を瞑っていることを確認する。そのままなだらかな坂道を登り、100m先の岩に到達したとき、おおよその高さ、幅や奥行きをセイジが計算してくれた。

重さこそ分からないが、キャロの見立てはほぼ合っている。岩は何かの機械で削り取られてる部分もあり、そちらも合っていた。

「キャロちゃんすごーい!!」

「えへへ!そうだろー!!」

オペラが褒めたことに対し、少し照れ笑いするキャロ。

「橙のオーラエレメントの力がよく分からないんだけど……実際そういう力なのか?」

タリムがセイジにぼやくものの、セイジはタリムの言葉を無視し、紙と筆記具を取り出し何か書き始めた。

「地面の上に何かが落ちているのが分かるということは索敵に長けている可能性が高いということ……本来は砂や石などを流動的に動かすことも可能なはずだが……まだまだ奥が深いな……オーラエレメント……」

「(これは……あとでセイジに聞こう)」

タリムはお返しとばかりに少しため息を吐きつつ、のどかな道を歩くのであった。


【∞】


やはりミラージュコアの影響もあるのだろう。ガウナ=クリンの街周辺では魔獣には出くわさず、首都ヴィブギョールの街に到着した。

「この数日でこの街に行ったり来たりになっちゃったな」

「キャロちゃん、ヴィブギョールの街には来たことがあるの?」

「いや、ないよー!」

「淡い橙のオーラを纏っているんだから登録しに来たんじゃないのか?」

「何か登録とかはパパが全部やってくれたから知らなーい!」

あははとキャロは笑う。確かに、ネーブル代表は領主館に出入りするんだから、淡い色のオーラの登録するのは容易だろう。実の娘なのだから。……いや、いいのかそれで。

「とりあえず今日はここで休んでおこう。明日の朝、アズーロ領にむけて出発することでいいか?」

タリムの発言に3人は頷く。泊まった宿ではネーブル代表の家で聞いたオーラバッテリーの話で持ちきりだ。

「なーなーセイジー。ヒスイ領の人もオーラバッテリーって作れるんじゃないのかー?」

最初はキャロがセイジに疑問をぶつけた。タリムも同じことを思っていたので丁度よい質問だ。

「それか……。ヒスイ領は領の取り決めでオーラバッテリーを作ることを禁じられている」

タリム、オペラ、キャロは顔を見合わせて「なんで?」という顔をした。

「はぁ……順を追って説明するぞ。橙のオーラバッテリーは赤と黄のオーラエレメントで使える力と同じであることは、ネーブル代表が説明していたとおりだ。橙が赤と黄と分かれるって聞いて、何か気づいたことはないか?」

ここでオペラが手を上げる。

「はい!橙は絵の具で赤と黄を混ぜたときにできる色です!」

「そのとおり」

セイジは淡々と説明する。先生みたいだ。

「つまり、“緑のオーラバッテリー”が仮に作れたとして、それは“青”と“黄”のオーラエレメントの力を持つということになる。緑は青と黄を混ぜた色だからだ」

紫のオーラバッテリーは赤と青のオーラエレメントの力が使える……ということらしい。

「なぜ、緑のオーラバッテリーを作ることが禁じられているのか……それは黄のオーラエレメント……雷の力がヒスイ領の生態系、豊かな自然を壊しかねない力を持っているからだ。ネーブル代表の話にもあったように、黄の雷の力は重機などの機械を動かすことができる。畑を耕すことや、農作物の効率的な収穫にはうってつけだが、使い方によっては自然を簡単に壊すこともできる。魔獣と対話すらしようとしている領の方針だ。……生態系を破壊できる可能性のあるオーラバッテリーを作ることは許されないだろう」

セイジの説明に納得した。畑を耕す重機の現物はアデレードファームとメルボルンファームで見させてもらったが、確かに自然を壊すことも簡単にできそうである。

「これは余談だが、そもそもヒスイ領は雲龍山脈があって水が豊富だ。わざわざ青のオーラエレメントの力を使わなくても生活には困らない」

このアルクス大陸の最も大きな水源になっているのが雲龍山脈から流れる川である。ヒスイ領にはダムがなく、水を管理しているという話は聞いたことがない。最も、ヒスイ領民たちがしっかり下流側のことを考えて水を使ってくれているからである。

「噂では、ヒスイ領内でも僕と同じ淡い緑のオーラが纏える人間で“オーラバッテリー”を作っている人はいるらしい。特別な許可を得ているんだろ。理論だけで言えば僕も作れないことはないが、作ったことはない。作らないほうが当たり前だと教えられたからだ」

これで緑のオーラバッテリーがほぼ存在しないことが明らかになった。次は実際のオーラバッテリーの効果について、キャロに聞く。

「詳しいことは私もよく分からないんだー!!」

予想通りの回答だ。だがキャロから続きの言葉が聞けた。

「でも、重機にはオーラバッテリーを入れる穴があって、そこに私が作ったオーラバッテリーを入れる感じだよ!!」

セイジが1人頷いている。

「重機がオーラバッテリーで動くように設計されているはずだ。でも白のオーラエレメントによるコーティングはどうなってる?……あれは僕達のような淡い色のオーラを纏えるものにしか解除できないんじゃないのか?」

「私みたいな淡い橙のオーラを纏える人が、それぞれ街にいるんだって、パパが言ってたよ!!」

セイジとキャロの話に耳を傾ける。クルムズ領でオーラバッテリーの話なんて、聞いたこともなかった。新たな技術に興味津々なタリムとオペラである。

「ねぇタリム。何でクルムズ領でオーラバッテリーなんて便利そうなものの話って聞かなかったんだろ」

「多分だけど、赤のオーラエレメントで火の力が使えるからじゃないか?バッテリーを使わなくても生活が困っている感じには思えなかったし」

オペラは何か閃いたようだ。すぐにセイジとキャロに質問する。

「ねぇ、セイジ、キャロちゃん。私にも“赤のオーラバッテリー”、作れないかな?……もし作れたら戦闘のときに私がいなくてもタリムにオーラエレメントを付与できたりしないかなと思って」

オペラは至って真剣な眼差しをしている。その発想はなかった。確かに備えておけば万が一オペラのオーラエレメントがなくなっても戦えるかもしれない。

「赤のオーラバッテリーかー……。赤は分からないなー。作れるかどうか、オペラが自分で試してみたらいいよ!!」

「……そういや赤、黄、青のオーラバッテリーは作ることが難しいと何かの論文で見た気がするな。ちょうどいいんじゃないか?……今みたいに街で休めるタイミングを見計らって作れるのか試してみても」

キャロとセイジがそれぞれ意見を出す。更にセイジが私見を述べた。

「オーラエレメントが回復できる状態なら気兼ねなく試せるし、何よりオペラの赤のオーラエレメントがいちいちタリムの戦闘のために使われるのは長時間の戦闘には向かない。今後の戦闘面でも何か改善されるかもしれないな」

3人がワイワイと話しているのを聞きながら、オーラが纏えないことに悔しさを覚える。何とかして早くオーラを元に戻したいところだ。

「じゃあ今作るから見てもらおうかなー??……私あんまり教えるのとか得意じゃないけど大丈夫かなぁ??」

指を頬に当て、少し上の方を見るキャロ。

「いいのいいの!とりあえず見様見真似でやってみようかと思って」

ちょうどキャロが実践でオーラバッテリーを作ってくれることになった。タリム、オペラ、セイジはしっかり観察する。

「みんなに見られながら作るのはちょっとだけ恥ずかしいなー……。まず橙のオーラエレメントだけを自分の身体から外に出す感じでー………こんな感じ!」

キャロの右目が光り、淡い橙のオーラが纏われた。両手の手のひらの上に、ボール大の橙のオーラエレメントを乗せている。

「えーーーと……こんな感じか!」

同じくオペラも淡い赤のオーラを纏った。両手の手のひらの上に同じように赤のオーラエレメントを乗せている状態になる。

「そうそう!!オペラ上手いなー!!……ここからねー……白のオーラエレメントをねー……このボールの外側に流すイメージって言えばいいかなー……。ちょっと見ててね……」

眺めているだけのタリムでも、キャロが眼を大きく見開き集中しているのが分かる。キャロは手から白のオーラエレメントをゆっくりと放出し、手の上に乗っている橙のオーラエレメントの外側を覆っていく。

その後、ボール大の橙のオーラエレメントの1番上だけ、白のオーラエレメントで覆わないように調整した。

「これだけだとただ外側に白のオーラエレメントを覆っただけだから、最後だけ気合で……こう!!」

キャロはボール大の橙のオーラエレメントをゆっくり左手だけに持ち替えた。そして、右手に白のオーラエレメントを纏った直後、白のオーラエレメントで覆っていない部分を思いっきり強く叩いた。

バリバリバリッッッ!!

「わっ!!!」

「きゃっ!!!」

雷が落ちたような強くて高い、それでいて大きな音がなり、まばゆい光が発生した。キャロ以外の3人は目が眩む。

「じゃーん!これで“オーラバッテリー”が完成したよー!」

うっすら目を開けると、キャロの左手の上にはボール大だった橙のオーラエレメントが円柱形の筒に変化し、周りを白のオーラエレメントで完全に覆われたオーラバッテリーの姿があった。

「キャロ!大きい音がなるなら前もって言ってほしかったぞ……」

「あはは!!ごめんね!!」

キャロが全員に謝罪する。あまり反省はしてなさそうだ。オペラは手のひらに乗せていた赤のオーラエレメントを解き、セイジ、タリムとともにオーラバッテリーを観察する。

「これがオーラバッテリー……ここから赤と黄のオーラエレメントの力が生まれるのか……?……見たところ綺麗な橙色のままだし、これにそんな力があるとは今のところわからないな」

オーラバッテリーの現物を見たセイジが見たままを述べている。タリムも全く同じ感想を抱いていた。

「なんかねー……私も詳しいことはよくわかんないけど、私が作ったオーラバッテリーは、けっこう日が経たないと赤と黄のオーラエレメントの力に変化してくれないみたいだよ」

「作り手によっても違うのか?……とても興味深い」

セイジの独り言と筆記する手が止まらない。

「よし!じゃあ私も作れないか試して見るね!」

一通り話を聞いたオペラは張り切っている。再び両手の上で赤のオーラエレメントをボール大のサイズに放出した。


【∞】


「えぇぇぇー何でできないのー!?」

そのオペラの張り切った声を聞いてから数分経過した。キャロと同じように赤のオーラエレメントをボール大にするところまでは上手にできている。問題はここからで、白のオーラエレメントで赤のオーラエレメントの周りを覆う……というところができないようだ。すでに3回挑戦しているが、できない。

「むむむむむ……」

オペラが悔しがる。元々白のオーラエレメントで赤のオーラエレメントの周りを覆えるという理屈が分からないため、タリムでは何の助言もできない。

「こればっかりは教えられないというか、自分でも感覚でできるからわかんないんだよなー!!」

ニコニコ笑顔のキャロもお手上げである。

「……どこかで見た学術論文のとおりだな。オペラの赤のオーラエレメントを観察していると、赤と白のオーラエレメントの相性の問題のようにも思える」

「まぁ、教えてもらってすぐにオーラバッテリーが作れるなんて思ってないだろ?」

セイジとタリムがオペラに話しかけた。

「そうだね、何かコツみたいなのがあるかもしれないし、こうやって休めるときに試してみるよ」

悔しさもあるだろうが、前向きに物事が考えられるのはオペラのいいところである。

「じゃあこれ、タリムにあげるよ!」

「えっいいのか?」

キャロから橙のオーラバッテリーを受け取る。どちらにしても自分では白のオーラエレメントを扱えるわけではないが、何か使えるときがあるかもしれないので受け取っておく。

「タリム、また僕にも貸してくれ」

「もちろん」

タリムは快諾する。むしろ自分よりセイジが持っておいたほうがいいかもしれないと思いつつ、ゆっくり休むことになった。


【∞】


翌朝、ヴィブギョールの街の領主館にて、キャロのリングを発行してもらうために手続きを行う。

「このリングかわいいなー!!」

「でしょでしょ!」

何の変哲もない細いリングに見えるのだが、キャロは可愛いという認識のようだ。オペラと二人でワイワイ騒いでいた。

「何でこんな手続きの1つであそこまで騒げるのか……」

セイジはため息を漏らす。これにはセイジに同調せざるを得ない。同じように空港でもオペラとキャロは騒いでいた。

「さ、キャロちゃん。この藤のカゴに乗って。今から楽しいことが起きるから」

「楽しいことってなんだー?しかもカゴに乗るのかー!ワクワク!!」

もはやお馴染みになりつつある、空港にいる色黒の逞しい身体のお兄さん。お兄さんもニコニコしながら案内してくれている。

「このフライトをここまで楽しんでいただけるとハ、素晴らしい感性をお持ちですヨ」

ヒスイ領にいた時間が長かったこともあり、今回、こんなに早く空港に来るとは思っていなかった。目指すは青“アズーロ”領のアステルダム。何としても川の干上がりを止めなければならない。

「準備はよろしいですカ?では行きますヨ」

龍笛を出し、緑のオーラを纏うお兄さん。初めて聴く笛の音色に興奮するキャロ。そしてその音色によって羽ばたくカモたちを見て、目を輝かせるオペラ。

「楽しいことってこれかーー!!すごーーーい!!」

「じゃあねお兄さん!行ってきまーーす!」

「相変わらずうるさい……」

「今度乗るときは男女で分かれて乗ろう……」

思い思いを口にし、オーランゲ領を後にした。空港ではお兄さんが手を振っている。


【∞】

― <アルクス大陸“青”アズーロ領> ―


「あー楽しかった!」

「いつもありがとうね」

カモたちがオペラとキャロの周りに集まっている。集まったカモたちの頭を撫でまわるオペラ。キャロも見習うようにカモたちの頭を撫でまわる。かなり喜んでいるようだ。

「おやおや……私たちのカモたちがこれほど懐くなんテ、クルムズ領やオーランゲ領にいるのがもったいないですヨ」

「えっ!?さっきもオーランゲ領の空港にいなかった!?」

キャロは色黒で逞しい身体のお兄さんを見てびっくりしている。空港初見あるあるになってきた。

「新鮮な反応で嬉しいですヨ」

本当に見分けがつかない。やっぱりワープでもしてるんじゃないだろうか。どこのお兄さんも愛想がよく、いつも笑っている。

「ちょっと気になったけど、お兄さんたちは六つ子なんだよね?どの領のお兄さんが一番お兄さんなのかな?」

「ふふふ、秘密でス。当てたらいいものを差し上げますネ」

オペラの言葉でよく分からないイベントが始まってしまいそうだ。今はそれどころではないと説明し、空港を後にした。川の干上がりが何とかできたら、存分にやってくれて構わないから。

空港を出るとすぐに、アズーロ領の首都“アルコバレーノ”の到着した。アルコバレーノの街の中は至るところに水路が張り巡らされているようだが、肝心の水がない。小舟たちは皆、泥の上だ。

「水路が機能してないな。何とか橋で行き来はできるみたいだが……」

セイジが街の様子を見て一言漏らす。水不足は依然として解決には至っていないようだ。

「早速領主館に行こう」

タリムの言葉に頷く3人。領主館への看板を辿っていくと”マルコ広場”たる大きな広場に到着した。東西南北全てが見事な柱廊に囲まれていて、中央には大きな鐘楼が建っている。

広場の鐘楼の奥にある領主館に着いた4人は、領主館の受付の男性に封書を見せ事情を説明する。セイジの話によれば、こちらの領主館はオーランゲ領の領主館とは対照的らしく、がらんとしていた。

「オーランゲ領、ネーブル代表からの封書を届けに参りました。お会いしてもよろしいでしょうか」

タリムたちはそのまま男性の付き添いのもと代表者室を案内された。代表者の部屋には1人、女性が立っている。

「私がアズーロ領“知力”代表のレオナルデだ。よろしく頼む」

レオナルデ代表は背筋をピンと伸ばしており、白いブラウスと青いベスト姿がよく似合う。どうやら男性用の衣装のようだ。ウェーブがかかった金髪で、他の領の知力代表とはまた違った貫禄がある。武力と精神力代表は不在のようだ。

「生憎、私しかおらず申し訳ないな。早速だが、ネーブル代表からの手紙の内容について話そう」

レオナルデ代表に招かれ、応接用のソファに座る4人。キャロは「うちの領のと変わらないねー!」とニコニコしている。

「封書を預かろう。……ふむ………ネーブル代表には頭が上がらないね……。さて、アズーロ領の現状から話そうか」

封書をテーブルの上に置き、両肘を机の上に立て、両手を口元で組んだ。

「すでにアズーロ領にある6ヶ所のダムには、少ないながら兵士を派遣している。ダムを占領した者たちの行動の把握が主だ。あと、相手が領民たちへ攻撃する可能性もあることから、領民たちが混乱しないように街の警護を行うものもいる」

すでに兵士は派遣されているようだが、大がかりな戦闘にはなっていないようだ。

「そして武力代表のカテリーナ、精神力代表のハンスも各街を視察中だ。視察した内容は全て私のところに情報が届くようになっている。……本来はアズーロ領で起きた問題だからうちだけで何とかするべきだろうが、やはりミラージュコア破壊作戦のあとの兵士の補充は難しい。君たちの助力、感謝するよ」

もう何度聞いたか分からないぐらいミラージュコア破壊作戦による各領への影響。タリムも変わらず、その話を聞いた直後にソファから立ち上がり、すぐにひざまずく。

「レオナルデ代表、それは………」

「すでにネーブル代表からの封書に詳細は添えてあるよタリム。君が謝罪する内容ではない。そのまま座り直したまえ」

「………分かりました」

敬礼とともにソファに座り直すタリム。ネーブル代表がそこまで気遣ってくれているとは驚きだ。

「あの作戦において、派遣した各領の兵士らのオーラがなくなることは、我々も予見しておく必要があったのだ。結果としてなんの目的かは分からないが、こちらが管理しているダムへの侵入を許し、挙句、大陸全土に渡るはずの水の管理ができていないのはこちらの落ち度だ。むしろ詫びるのはこちらだよ」

レオナルデ代表は座ったままだが頭を下げた。タリム、オペラ、セイジが少し焦る。

「いえいえ、顔をお上げになってください」

「……ふふふ、そうさせてもらうよ。さて、君たちにお願いしたいのはダムを占領した者たちの討伐だ。先行している兵士らからの報告では、相手はやはりオーラを纏える者だそうだ。戦闘は必至だろう」

オペラとセイジは難しい顔をした。対人での戦闘はしたことがないからだ。

「ダムの管理は代々“青のオーラ”を纏える者にしか行えないことからも、相手がアズーロ領民であることはほぼ確実だ。ただ、他の領民との複合隊である可能性は否めない。そのため相手の索敵能力も未知数だ」

こちら側の位置を把握する力、つまりはキャロと同じ橙のオーラが纏える相手だと大変厄介である。

「作戦はこうだ。少数精鋭で相手に気付かれないようにダムに近づき、相手を討伐、ダムを制圧してほしい。相手はアズーロ領民なので、討伐と言いつつも殺さないようにだけはしてほしい。……君たちに向かってもらいたいのはアステルダム……相手の本拠地と思われる場所だ」

アズーロ領の地図を広げ、レオナルデ代表が指を指す。代表の言うアステルダムは、オーランゲ領に流れている川を管理をするダムで、アズーロ領のダムの中で最も大きいものだそうだ。山間の中腹に位置している。

「大陸全土に影響があるこのアステルダムに敵も勢力を固めているだろう。君たちはこのままこの街からネーデルの街を経由して、アステルダムを目指してもらいたい。ネーデルの街にアズーロ軍の伝令がいるから、到着したことをその伝令に伝えてくれ」

クルムズ軍にもいた伝令役。今回の事件ではアズーロ軍の伝令も大忙しだろう。

「伝令が君たちの到着を知ったら、そのまま街で休んで夜の間にアステルダムに向かってもらう。この伝令はすぐに、”エテルナ”の街にいる“アリス”に向かってくれる。アリス率いる小隊が、君たちとは反対側から敵の陽動を兼ねて動き始める。ちょうどアステルダムで挟み撃ちしてもらう算段だ」

レオナルデ代表の口から聞き慣れない単語が出たためセイジが尋ねた。

「すみません、“アリス”というのは…?」

「あぁ、説明不足で申し訳ない。アズーロ軍のNo.2、次期武力代表とでも言っておこうか。その子の名前だよ。実力は私が保証する。最後はアリスが相手を倒し拘束する予定にしているが、君たちにも当然相手の意識は向くだろう。……作戦のイメージはこんな感じだがどうだ?」

4人は顔を見合わせる。挟み撃ちの役割とはいえ、オーラを纏う人間と戦う可能性は高い。キャロはある意味躊躇はないだろうが、オペラとセイジは性格もあって難しい任務になりそうだ。

「無論、嫌なら断ってもらっても構わない。相手は人間だ。躊躇する気持ちも十分に分かる。もし断るようであれば、その旨をネーブル代表にも分かるよう、封書をお返ししようと思うがどうだ?」

レオナルデ代表も一定配慮してくれている。もし断っても誰も傷つくことはない。

「……俺はミラージュコア破壊作戦のこともあるから行くよ。人を相手にしたこともあるし。……めちゃくちゃボコボコに負けたけどな」

タリムは自分で言ってて悲しくなるが、ここは引けない。全員の反応を待つ。

「……私がタリムについて行かなかったら、生身で青のオーラの攻撃を受けることになっちゃうし、私も行くよ。でも……人相手だから攻撃はしないかもしれない。タリム、それでもよければ」

オペラの顔を見ると、怖さを感じていることが分かる。もしオペラに攻撃されることがあったら何が何でも守らなくては。

「……僕も相手を攻撃するというよりは“匱籠”で相手の動きを止めることをメインにしたい。人と戦うのは……できれば避けたいところだ。ただ、どちらにしてもこのままオーランゲ領の農作物を放っとく気はない。それでもいいか」

「相手は人かー……魔獣とは違うから斧で攻撃しちゃダメだよね!死んじゃったら困るもんね!」

オペラやセイジの力はともかく、キャロの一撃は本当に危ない。止められる気がしないが何とかしよう。

「覚悟はある程度決まっているようだな。よし、では早速だがネーデルの街に向かってくれ。健闘を祈る」

「かしこまりました」

レオナルデ代表の発言を受け、領主館をあとにする4人。いつもなら街の散策をするところだが、事は急を要する。散策はダムが復旧してからでもできるため、今回は真っ直ぐネーデルの街を目指すことにした。

が、アルコバレーノの街は他の領の首都と違い、水路が使えないため、かなり入り組んだ地形になっていた。そのため中々街の外に出られない。

「……街の外に出るのにこんなに時間がかかることあったか?」

「タリム、地図を貸してくれ」

セイジは淡い緑のオーラを纏った。流れてくる風の方向で建物の位置を把握し、道案内してくれる。

「セイジすごいな!」

キャロがニコニコ笑いながらセイジに抱きつきに行った。セイジがぶんぶん振り回してキャロを身体から外そうとしている。今度は最初からセイジに地図を渡そう。

入り組んだ街の中を練り歩くと視界が開けた場所に出た。ちょうど街の外に繋がっている場所で、目の前には1本の大きな橋がある。“リベルタ”という名前の橋らしい。

「ヴィブギョールの街にも橋があったけど、もっと大きいね!さすが水の街というか……」

オペラはレオナルデ代表と話したあとは少し神妙な面持ちだったが、持ち前の明るさでテンションを取り返したようだ。だが、すぐに川の干上がりを見て暗くなってしまった。

「さぁ、ネーデルの街に向かおう。早く川の水を戻すんだ」


【∞】


「そうそうタリム!さっき領主館で人相手にボコボコにされたって聞いたけど、相手はすごくでっかいカンガルーみたいなやつだったのかー?」

リベルタ橋を渡りきった4人はネーデルの街に向かう。水路が巡らされているのはアルコバレーノの街の中だけで、街の外は普通の道だった。オーランゲ領ほど整備はされていなかったが、クルムズ領のような平野が続き、歩きやすい。

魔獣もいない道なので、足取りが軽いキャロがタリムに質問した。少し反応に困ったが、タリムは答える。

「カンガルーみたいな人ってどんなのか分からないけど、執事服を着た男性で……そうだな、ネーブル代表ぐらいの年齢の人じゃないかな。とにかく剣の腕が立ってね。手も足も出なかったよ」

タリムは苦笑する。まだ記憶に新しいこともあって、嫌な思い出が蘇る。

「そうかー……ダムにそんな敵がいたら嫌だなー」

珍しくキャロの声が下がる。少なくとも兄のゴルドよりも強い人間がいることは証明されているし、ダムを占領できていることも考えると、弱いわけがない。

「タリム、その執事服の男性相手に“匱籠”を使っていたヒスイ領の兵士はいたか?」

セイジもタリムに問いかける。

「いや、シアンユー代表も言ってたけど、魔獣たちにその技を使っていたのは見た気がする。ただ、その男性は桁違いの強さだった。一瞬で何千もいた兵士がやられていたから、技を使う時間もなかったはずだ」

「そうか……」

セイジが顎に手を当て考え込んだ。オペラもそろっと挙手した。

「あのさータリム……人を相手にするときってどういうことに注意すればいいかな……」

オペラもセイジも優しい人間だからこそ、どんな人間でも攻撃したくはないのだろう。

「俺も僅かな時間、兵士間で稽古しただけで、対人戦闘を少しかじった程度だから、注意するところが分からないんだよ。さっき話した剣士はまるで参考にならなかったしな」

「そうだよね……」

「オペラやセイジが人間相手に攻撃するのを躊躇う気持ちは分かるよ。だから、まずは相手の動きを止めるような魔術……それこそ“匱籠”や、オペラなら相手が手に持っている武器に攻撃する感じでいいんじゃないか?人間そのものを攻撃するんじゃなくてさ」

「……!それなら何とかできるかも」

オペラもセイジも少しだけ明るい表情に戻った。

「あ、魔獣だ」

キャロが発語した途端、隣にいなくなった。オーランゲ領での魔獣との戦闘でもあった、驚異的な身体能力であっという間に魔獣に詰め寄る。

「待てキャロ!!」

「えっ」

タリムが制止しようとしたが、時すでに遅し。キャロは謎の魔獣の前に着地し、持っていた斧で真っ二つにした。

「キャロ、タリムが止めたのは魔獣の出方を伺うためだ。もうちょっと魔獣の姿形を見てから攻撃してくれないか……」

セイジが大きなため息をつく。

「あはは!!ごめんねー!でもこの魔獣、まだ生きてるよ??」

キャロが真っ二つにした魔獣に全員で近寄ると、青い粘性の液体のような身体が2つに分かれ、それぞれがうようよと蠢いている。体長は20cmほど。2つ合わせて40cmぐらいだ。

「なるほど……“スライム”というやつか、何かの本で見たことがあるな。オペラ、火の魔術は使えるか?いつものやつでいい」

「うん分かった。“キラズ・フレイム”!」

淡い赤のオーラを纏ったオペラによる火の魔術。2つの火球が2つに分かれたスライムに当たり、スライムは消滅した。

「ふむ……火の魔術は有効だな。……キャロ、まず魔獣たちの動きや攻撃方法の観察がしたい。先に飛び出していくのはやめてくれ。あと、魔獣の方向が分かればそれを先に教えてくれたら助かる」

「分かったー!!」

そこからネーデルの街に行くまでに何度かスライムと呼ばれる液体の魔獣と出会うが、セイジの“匱籠”による捕縛も有効であることは分かった。

スライムの中には同じ青でも薄かったり濃かったりと、色が違うものもいたが、特に差があるわけでもなさそうだ。

その後もネーデルの街に着くまでの間、スライムにはよく出会った。干上がった川の底には僅かだが水が残っているところもある。おそらく何らかの影響で魔獣化しているのだろう。

ミラージュコアが近いのか、とんでもなく大きいスライムには出くわすこともなく、オペラの火の魔術でスライムを倒しながら快調に進んでいった。


【∞】


無事にネーデルの街に到着した。敵の襲撃などを警戒しているからか、街の中には多数の兵士が見回りをしていた。川の干上がりも含めて異常事態であり、外を出歩いている人は少ない。

いつもならオペラに促され街の中を散策するところだが、今回はアズーロ軍の伝令役を探すのに徹する。指定された少し狭い路地の奥にそれらしい人影が見えた。

「もしかして伝令役のエラスムスさんですか?」

「……合言葉を」

「⸺アルクス大陸・青天の霹靂」

「……よし。俺が伝令役のエラスムスだ。お前たちは早めにこの街で休んでオーラエレメントを回復させるんだ。ちょうど真夜中になったらアステルダムに向かってくれ。向こうも休みたいタイミングを狙うんだ。私は今からアリス様のところに向かう。健闘を祈る」

「かしこまりました」

エラスムスさんはすぐに駆け出していった。この街で今やることは休むこと1択。すぐに宿屋に向かう。レオナルデ代表が根回ししてくれているようで、すぐに休むことができた。

「……全然眠くない!!」

「……気持ちは分かるけどオーラエレメントの回復が優先だ。みんな、真夜中になったら出発するぞ」

「「分かった」」

「はーい」

みんな各々と準備をする。出発する時間もいつもとは違う。キャロを除いた3人はいつも以上にぴりっとしていた。

―ちょうど真夜中、ネーデルの街をあとにし、アステルダムに向かう。街は見回りをしている兵士しかいなかった。こちらの作戦を理解しているようで、皆、敬礼してくれる。

アステルダムはネーデルの街から南に数時間はかかる距離だ。ダムが建設されているということは、当然川の上流部向かうことを意味しており、すなわち、山の中に向かって行くことになる。

「キャロ、大きい声は出したらだめだぞ。魔獣にも人間相手にも、気付かれると面倒だから」

タリムはコソコソとキャロに話す。

「わかってるよー!!」

いつもよりほんの少しだけ小さい声だが、普段の声量とあまり変わらない気がした。キャロにはあまり制限をかけないほうがよいかもしれない。

「タリム……これってダムに侵入するまではいいんだけど、ダムの中ってどこに向かえばいいか分からないよね」

「確かに……まぁしらみつぶしに行くしかないよな」

オペラからまともな質問が飛んでくる。ダムの構造はザッとレオナルデ代表から話は聞いているものの、そもそも建物内のどこに敵がいるかは分からない。結局ダムの内部をウロウロする羽目になるのだろう。

アステルダムに向かう道中、魔獣たちの動きは活発だった。昼間と比べて数が多い。先ほど道中で会った“スライム”の他、青いザリガニがそこかしこにいる。

スライムのサイズ感は変わらず、青いザリガニも体長30cm程度だ。そこまで大きくない。

淡い橙のオーラをキャロの索敵は夜にも有効のようで、敵に見つかる前にキャロが敵の居場所を教えてくれる。なんて便利な能力なんだ。

「あっちの方向にスライムがいてー……こっちの方向にザリガニかなー……あ、あのザリガニちょっと大きい!」

「しー!声が大きい!!」

思わず自分が一番大きい声を出しかけた。危ない。スライムとザリガニの魔獣も動きは比較的鈍いので、速やかに駆け抜ける。

「ありがとうキャロちゃん」

キャロはニコニコ笑顔でオペラに親指を立てたサインを送った。

ここまでの間、オペラから赤のオーラエレメントを付与してもらわずに来れている。先に敵の位置が分かるというのはとても重要だ。

ただ、キャロは索敵するにあたり、常に淡い橙のオーラを纏っている。どれぐらいの時間纏えるのかは誰も知らない。おそらくキャロ自身も把握していないだろう。

「あっちのほうになんか大きな建物があるなー!!」

キャロが指を指した方向を見ると、木々の間から明らかな人工物が目についた。

「おそらくあれがアステルダムだろう。こんな山の中腹にダム以外の建造物はそうないだろうし」

セイジがヒソヒソと話す。

「構造から考えたらこの上は水が大量に貯蔵されているはずだ。アリスもきっと向かってきてくれているはず……」

川の下流側からダム内部を目指す4人。ダム周りの地形は複雑で、坂……というより崖に近い急勾配である。岩肌が露出しており足場はかなり不安定だ。少し態勢を崩しただけで転んでしまいそうになる。

「……きゃっ!」

オペラが転びそうになるのをタリムは咄嗟に手を差し伸べる。

「大丈夫かオペラ!」

「あ、ありがとうタリム」

「坂も急だし気をつけろよ」

グッとタリムはオペラを引き上げる。オペラは少し頬を赤らめた。

「大丈夫かー??」

キャロはこの複雑な地形を難なく駆け上がっていき、登りきったところで振り向き、声をかける。

「こういう体力を使うのは……ふぅ……苦手だ……」

逆にセイジは疲れていそうだ。何とか全員、坂を登りきり、少し開けたところに出る。アステルダムの入り口は見えているため、茂みに隠れながら様子を見る。

「ここからは見えないが……真夜中だから攻撃音は聞こえるな」

ダムの反対側でかつ川の上流側を見渡すと、先ほどから赤くゆらめく火が見えている。

「あれは……赤のオーラエレメントによるもの……!?まさかクルムズ領からこの事件に加担した人がいるのか!?」

タリムは目を見開いた。火はすぐに消火されているが、すぐに新たな火が現れる。かろうじて剣戟も聞こえていることから、クルムズ領民とアズーロ軍が交戦しているようだ。

「くっ……早くこのダムの水を開放しないと……!」

水が流れないせいで本来戦わなくていいはずの人たちが戦っている。一刻も早くダムの水を解放しないといけない。

「おかしい……ダムの天端に誰もいないぞ」

セイジは淡い緑のオーラを纏い風の流れを読んだようだが、首を傾げた。一番見晴らしがよいはずの場所に見張りがいない。

「キャロ、人の気配はあるか」

「あそこに2人、人が倒れてるよ」

タリムがキャロに質問すると、キャロが指を指した。ダムの天端の中央、ちょうどダムの地下に行くための階段があるところに男性が2名倒れていた。上半身は裸で上着がとにかく派手だ。

「すっごい派手な服だな……アズーロ領では普通なのかな?」

「あんまりかっこいいとは思えないかも……」

オペラは上裸の男性たちから目を逸らした。男性2人は刀身が大きい剣を持ったままだ。目立った傷はなく、なぜ倒れているのかは全く分からない。息はしているが気絶している。

「おそらく、ダムを乗っ取ったやつの仲間で見張り役だったんだろうが……」

「手に剣を持ったまま……奇襲か何かでやられた可能性があるな」

「まだ川の上流の攻撃音が止んでいない。……にも関わらず、ここの見張りが倒されているのはおかしくないか?」

「もしかしたら、俺達の他にアズーロ軍の別働隊が先行して来てくれていたのかもしれないな。とりあえず戦わなくていいなら、そのほうがいい。先に進もう」

セイジとタリムで状況を整理する。オペラはうなずき、キャロはダムの水を見て感動している。

「水が多いっんーーーーー!」

タリムに口を塞がれるキャロ。声が大きい。


【∞】


時は少し遡り、アステルダム内の水流制御装置の前にいる“海賊”たち。数十人が集まりガヤガヤと騒いでいる。そこに海賊側の伝令役が走ってきて、少しぴりっとした空気になる。

「おかしら!アズーロ軍のアリスだ!さすがにそろそろアステルダムから撤退したほうがいいんじゃねぇか?」

伝令役は黒い口髭を蓄えた少し小太りのリーダー格の男性に内容を伝えた。おかしらと呼ばれた人物は腰にサーベルを装備し、ドクロマークがついた青い海賊帽を被っている。

「がっはっは!アリスと戦うのは俺達じゃねぇ。クルムズ領からの手練れだ。あんなやつ相手にできるか!そいつがアリスに負けたときにすぐにズラかるぞ」

「?……何でクルムズ領のやつがいるんです?」

「俺達がダムを占領してやることは水の押し売りだ。クルムズ領のやつはその押し売りして得られる金目当てに俺らの作戦に参加したわけだ。どうやら生活に充てるためらしい。今回クルムズ領は増税したばっかで領民に金がないらしいからな。いくらそいつが強くても生活には金がかかる。こんな水の押し売りもしなくちゃなんねぇぐらい困ってるなんて、あそこの代表はバカがやってるんじゃないのか?がっはっはっはっは!!!」

「それはクルムズ領のやつは可哀想っすねぇ。はっはっは」

伝令役の海賊が腕を組み納得している。

「アステルダム以外のダムも俺達が乗っ取ったから、そろそろオーランゲ領に完全に水が行き渡らなくなる頃合いだ……!それぞれの領が混乱しているその隙に、この水をオーランゲ領や他の領のやつらに高値で売りつけろ!それでボロ儲けできる!」

おかしらの発言に海賊たちのテンションが上がっていく。

「アズーロ軍が海の警備を強めたせいで、俺達の稼ぎがなくなったからなぁ……」

「稼ぎも何も漁師らを襲ってただけじゃねぇか!」

「ぎゃははは!違いねぇ!」

何人かの海賊が下衆い笑い声を上げている。自分たちの金のことしか考えていないのだ。

「お前ら!ありったけの水は確保したな!?……アリスが死んだらこのままダムを占領したままで問題ねぇ!アリスが勝ったらすぐに逃げてネーデルの街で落ち合うぞ!」

「「「「おおおーーーー!!!!!」」」」

数十人しかこの場にはいないはずだが、大きな歓声があがった。

「がっはっは!!俺達はツイてる!なんせミラージュコア破壊作戦のあと、普段は厳重に警戒されているアステルダムや他のダムの兵士の数が一気に少なくなったからなぁ!」

海賊たちも戦闘力はある。普段の兵士の体制であれば強固な連携で突破も難しかっただろうが、ミラージュコア破壊作戦で兵力が落ちたのだ。そこを突かれてしまったようだ。

「おかしらぁ、伝令の話によれば、川の上流部にはアリスの他にも軍の兵士はいるらしいが、クルムズ領のやつのおかげで兵士たちが散り散りになっているらしいぜ!」

「アッハッハ!アズーロ軍は対応が後手後手になってるねぇ!!」

「他のダムも占領したかいがあったってもんだよ!」

海賊たちの中には男性だけでなく女性もいる。女性も男性たちと同じくサーベルを装備したもの、銃を装備しているものもいる。

「おかしら、このまま水を売ったあとはどうしたら?」

伝令役の男性が、おかしらに尋ねた。

「馬鹿野郎、またおんなじようにダムの水を止めりゃあいいんだ。アズーロ軍の中でもアリスは特別に厄介だが、アズーロ軍よりこっちのほうが人数は多いんだ。あとはダムを止める、川が流れなくなる、水に困る、俺達は水を確保して売る……おんなじことを繰り返せばいいだけだ!!」

「おかしら賢すぎる!見習いてぇ!!」

「さすがおかしら!!」

真夜中にも関わらずどんどん声が大きくなっている。まるで宴会のようだ。

「がっはっは!!あとはこのダムに埋まっていた筒みたいなものを確保さえしてれば……!!」

おかしらがニヤリと笑う。手に持っているのは青のオーラエレメントが入った筒のようなものだ。

「なるほど、そのような目論見で水を止めたのですか……賢いじゃないですか」

話に夢中になっていた数十人の前に、黒髪の少女が突如現れる。おかしらを含めた取り巻きの海賊たち全員が驚く。

「……!?なんだお前ら!どうやってここまで入ってきた!!見張りはどうした!?」

海賊のおかしらは声を荒げた。黒髪の少女の横には少女よりも歳上と思われる金髪の女性が立っている。黒髪の少女は白のブラウスに深い青のロングスカートを着ていて、およそ戦闘には向かない格好だ。対象的に金髪の女性は黒と青を基調としたローブのようなものを着ており、頭の上に黒いとんがり帽子を被っている。見た目は魔女そのものだ。

「見張りなんかいましたか?」

黒髪の少女は金髪の女性に話しかける。

「いましたよぉ~。見張りの方ぁ~。まぁ……私達の存在に気付くことなく、倒しちゃいましたけどぉ~♡」

金髪の女性はニコニコと笑いながら、黒髪の少女に答えを返した。

「ちっ……俺達の顔を見られちまうことになるとはな……野郎ども!この2人を蹴散らせ!!相手はたった2人だ!」

「「おお!!」」

海賊たちは斧や槍、剣など多種多様な武器を構え、一斉に青のオーラを纏った。

「にしても、黒髪のガキはともかく、金髪のやつはいい女だ……!安心しろ、殺しはせずに俺達で楽しませてもらうぜ……!うおぉぉぉ!!」

海賊たちの1人が呟き、数人が2人に向かって突撃する。それを見た黒髪の少女は金髪の女性に小さい声で話す。

「……セレン、わかってるでしょうね……『殺しちゃダメよ』」

「は~い……仰せのままにぃ~♡」

セレンと呼ばれた女性の右目が青く光り、“青のオーラ”を纏った。攻撃態勢に入ったが、海賊たちは突撃をやめない。明らかに戦闘慣れしている。

「青のオーラでの攻撃なんざ、俺たちには効かないぜぇ!」
「所詮後衛の魔法使い!何ができるって言うんだ!!」

「うふふふ……威勢がよくて素晴らしいですねぇ~♡……じゃあ行きますねぇ~……“アクアサテライト・トリトンランス~”♡」

セレンは不敵に笑いながら水の魔術を放つ。杖から出た水は大きな細身の槍の形に変化した。ご丁寧にも突撃してくる海賊の数の分の槍を瞬時に作り出す。

「……!?なんだあの大きさの槍は!?」

「さよならぁ~♡」

セレンは指を鳴らし合図する。水でできた槍は高速で海賊たちを迎え撃った。

「なっ!?うわぁぁぁあああ!!!!!」

向かってきた海賊たちに水の槍が直撃する。自身らが纏っていた青のオーラの力で、何とか致命傷は避けたものの、水の槍は海賊たちの身体のどこかに突き刺さったままである。

「ぐわぁぁぁあぁぁぁ!!!」
「痛てぇ!!痛てぇよぉぉぉぉ!!!」

「この技のいいところは、刺さった水の槍が消えてしまうところなんですよねぇ~♡」

「(青のオーラを纏っているのに水が身体に貫通しただとぉ……!?)」

セレンは恍惚な表情で海賊たちを見下ろした。海賊たちに突き刺さっていた水の槍は、セレンの言葉通り跡形もなく消える。

槍に貫かれた箇所から血を出している海賊たちの姿を見た海賊のおかしらは背筋に悪寒が走る。それとは裏腹に黒髪の少女がため息をこぼす。

「はぁ……やりすぎなのよあなたは……」

「ちゃんと『殺してません』よぉ~?」

セレンが詠唱を唱えている素振りは全くない。それにも関わらずもう次の水の槍が出現している。

「なんだあの水の魔術は……!?俺たちの知っているものとは威力が違いすぎる……!?」

他の海賊たちが震え上がっているところ、またもセレンが指を鳴らした。容赦なく水の槍が海賊たちを襲い、悲鳴が上がる。

「ぎゃああああぁぁぁぁ!!!」

「おかしらぁ!!青のオーラを纏っててもあの技はどうしようもないですぜ!」

「何とかしてくれぇ!」

残念なことに海賊のおかしらも同じように震え上がっているが、他の海賊たちは気づかない。

「(いやいやいやいや!!!俺もどうしようもないぞ!!!)」

頭を抱えて悩んでいる海賊のおかしらの後ろに、黒髪の少女が突如として現れる。

「……随分と考え込んでるではありませんか、バッカニア・ピラータ。海賊の頭領であるあなたがこの者たちを導かないでどうするのです?……それとも、もう策は尽きましたか?」

「なっ!?」

さっきまでセレンの横にいたはずの黒髪の少女は、いつの間にかバッカニアの背後を取っている。バッカニアは震え上がるのを気合で押さえつつ、精いっぱい声を張り上げた。

「なぜ俺の名を知っているんだ!!」

バッカニアは振り向きざまに持っていたサーベルで黒髪の少女に攻撃するが、次の瞬間にはまたバッカニアから距離を取り、自身の正面に立っている。

「……何なんだお前らは……!?なぜ俺たちの邪魔をするんだ!?……アリスの仲間か!?」

苦し紛れに叫ぶバッカニア。黒髪の少女が答えた。

「アリスという人物は存じておりますが、アリスの仲間ではありません」

「じゃあなんで……!?」

黒髪の少女がバッカニアと話しているかたわら、セレンは残りの海賊たちを相手に一方的に蹂躙していた。海賊たちの断末魔がダムに響き渡る。

「あなた方が止めた川の水は“私達の領”にも必要ということです。それに大陸中の川を止め、水が供給されていない影響は計り知れない。それを止めにきた、ただそれだけのこと。……ではバッカニア、覚悟はいいですね?」

黒髪の少女の“左眼”が黒く輝き、少女は“黒のオーラ”を纏った。何もない空間へと姿を消す。

「……黒いオーラだと!?……くっ、どこに行った!!」

辺りをキョロキョロと見回すバッカニアだが、黒髪の少女はどこにも見当たらない。

「これならまだ、ゴルドのほうがはるかに強かったですね」

バッカニアの背後から姿を現す黒髪の少女。バッカニアは黒髪の少女に全く反応できず、黒のオーラエレメントが纏われたたったの一撃の手刀でダムの壁面まで吹っ飛んでいった。

「ぐふっっ………!」

ダムの壁面が大きくひび割れ、そのまま地面に落ちていった。バッカニアは気を失い倒れている。

「……まぁこんなものでしょう。さて、セレンのほうは……」

黒髪の少女が周りを見ると、セレンが海賊たちを蹂躙したせいで辺り一面が血の海だった。海賊たちは皆、虫の息である。返り血の一部がセレンの顔面に付着しているが、セレンは全く気にしていない様子だった。

「もう!だからやりすぎなんです!」

黒髪の少女はさっきまでの冷静さを失い、目を見開き怒っている。そっとセレンの顔の血をハンカチで拭った。

「はぁ~……!!主様が私のために怒ってくださるなんてぇ~♡……しかも返り血まで拭いてくださるなんてぇ~♡……今日は興奮して寝られなくなりそうですぅ~♡♡」

「はぁ……わざとやってるでしょうセレン……!もういいです、連れてきた私が悪かったの」

なぜか頬を赤らめるセレンに対し、ため息とともに額に手を当てる黒髪の少女。

「……直にアズーロ軍の誰かが来るでしょう。先に首謀者らを“BOS”に送り込みます。セレン、首謀者らの名前を列挙してください」

「はぁ~い、海賊の頭領バッカニア、あとはアズーロ領の海賊でサミュエル、ボネット、ジェニングス、アン、ロロネー、メアリ、ラカムという方々が今回の計画における中枢を担っているようですねぇ~……。戦闘要員としてはぁ~ここにいる数名の他にもクルムズ領の人もいるようですけどぉ~、この中にはいませんねぇ~」

「先ほどの話だとクルムズ領の方はアリスと戦っているのでしょう。その方はアズーロ軍に処遇を任せようと思います。少なくともアリスが負けるとは思えません」

再び左目が黒く輝き、黒のオーラを纏う黒髪の少女。

「では、参りますね……“ブラックボックス”」

銀髪でメイド服を着た女性がゴルドに使った技と同様、人間大の黒い箱が首謀者8人を閉じ込めた。その瞬間、バチッッッッと音が鳴り、バッカニアが収まった黒い箱から筒状のものが1つ、外に飛び出し地面に転がる。

それに気付いた黒髪の少女は筒を手に取り眺めた。

「(これは……?……………………なるほど、“ブラックボックス”では少々“力不足”のようですね……)」

少し逡巡した黒髪の少女は、セレンには見えないよう微かに微笑んだ。

「主様ぁ~何ですかそれぇ~。私にも見せてくださいよぉ~」

駄々っ子のようにセレンが黒髪の少女に抱きついた。セレンは頑張って黒髪の少女から筒状のものを奪おうとするが、黒髪の少女はセレンの顔に手を伸ばし押しのける。

「ダメです。あなたに渡したら『研究のために』なんて言って、持ち帰ったうえに私にすら返さないでしょう?このダムに必要なものでしょうから、アズーロ軍にお渡ししますよ」

「ギクッ……えぇ~そんなぁ~」

図星だったセレンは、身体をクネクネさせながら黒髪の少女に媚びるが黒髪の少女には通じないようだ。

「さて、それではこの8人は“BOS”に行ってもらいましょう」

黒髪の少女は黒い箱に触れると、首謀者8人は箱ごといなくなってしまった。

「あとの残りの方は海賊たちによって雇われた人たちのようですね~。水を運び、各領の街で売る役割だったようです~」

セレンは黒髪の少女から筒状の物を奪うことを諦め、他の人間の罪状を読み上げた。

「あとの皆様はオーラエレメントを抜いて“ネモ・プリズン”に行ってもらいましょう。……何故チタンと同じように峰打ちみたいなことができないのですかあなたは……ハァ……」

黒髪の少女はセレンを睨みつけた。セレンはどこ吹く風でダムのひび割れた壁面のほうを見て誤魔化す。

「セレン、次からミラージュコアの防衛、ネオンかチタンに代わってもらいますよ?」

「ひぃ~それだけはぁ~~」

黒髪の少女の言葉でようやくセレンの顔が青ざめた。

「しっかり反省してください」

「はぁ~い……♡」

残念ながらあまり反省の色は見えなさそうだ。

「……セレンがめちゃくちゃにしたので、血だまりも片付けてしまいましょう。……“ブラックホール”」

黒髪の少女が技を発した次の瞬間、海賊たちに雇われた残りの人間、そして数々の血だまりがブラックホールに沈んでいく。ダムの水流制御装置の前に残されたのはかすかな血と筒状の物体、そして黒髪の少女とセレンのみとなった。


【∞】


「そろそろダムの中心か?結局敵らしきやつは1人もいなかったけど、敵が油断してるのか、それとも罠か……」

4人はアステルダムの内部、水を一定の場所で維持するためのコンクリートの中をウロウロしていた。タリムの言うとおりダムの中には人っ子一人いない。

「もしかして、アリスさんたちに向かっている人が多いのかも……?」

オペラも不思議そうにしている。オペラの言うとおり、その可能性も十分ある。

ただ、アズーロ領内全てのダムに人を手配し大陸全土にまで影響が出ているのにも関わらず、特にこのダムだけ手薄にする理由が思いつかなかった。

「クンクン……ちょっとだけだけど血の匂いがするねー。あっちかなー??」

キャロは嗅覚も鋭いようだ。キャロの指差す方向に目を向ける。

「アズーロ軍の誰かが戦闘しているのかもしれない!急ぐぞ!」

4人は急いでコンクリートの最下部まで走り抜け、ようやくダムの水流制御装置の前に辿り着いた。水流制御装置の前は視界が開けた場所だったが、タリムだけがほんの微かな“黒”を察知する。

「(なんだ今のは…!?)」

タリムの視界には2人の女性、黒髪の少女と金髪の女性が立っている。タリムは残り3人を制止し、大きく間合いを取った。タリムの額から冷や汗が止まらない。

「なんだー??タリムどしたー??」

キャロの発言が聞こえないぐらい動悸がしている。前方に立っている黒髪の少女はタリムと同い年ぐらい、魔女のような黒い、それでいて大きい帽子を被っている金髪の女性は、黒髪の少女より歳が上に見える。二人とも黒いオーラを纏っているわけではなかった。

「(気のせいの可能性もあるが…!?)」

金髪の女性は、青のオーラを纏い警戒している。表情こそニコニコしているが、全く隙がない。

「あら、アズーロ軍の方ですか?……いえ、どうやらそうではなさそうですね」

黒髪の少女は距離を取ったままタリムに話しかけ、タリムらが手に装着している各色の細いリングを一目見た。オーラを纏っている素振りは全くないが、こちらはこちらで全く隙がない。

「……アズーロ軍ではないですが、少なくとも川の水を止めた人間を倒しに来たものです。アズーロ軍と協力してね」

タリムの額から汗が流れる。自身の右手が剣の柄から離すことができない。相手の警戒態勢を肌身で感じ取る。

「そちらこそ、見たところアズーロ軍の方ってわけではなさそうですが……何者ですか?」

タリムから黒髪の少女に質問を仕掛ける。アズーロ軍の軍服は先のネーデルの街でも見ているが、軍服とはまるで違う恰好だ。アズーロ軍ではないことは一目瞭然である。二人は答えに悩んでいるのか、しばしの沈黙が流れる。

「もしかして、どちらかがアリスさん……ですか?」

間合いが悪いことにオペラが2人の女性に尋ねてしまう。

「アズーロ軍のアリスさんではないですがぁ~♡ アリスさんの仲間みたいなものですぅ~」

「わぁ!!金髪魔女のお姉さん、可愛い喋り方だな!!」

「わぁ~ありがとぉ~♡」

キャロのいつもの調子で話しかけるせいで、金髪の女性との会話が成立してしまった。少し咳払いし、黒髪の少女が話し出した。

「“私達の住むところ”にも水が来なくなってしまったので、原因を調べていたところ、このアステルダムに行き着きました。ダムの内部に何やら悪いことをお考えの方がいらっしゃいましたので、少し戦いましたが、皆逃げてしまいました。どうやら顔を見られたくなかったようです」

淡々と話す黒髪の少女。……とはいえ不自然なぐらいダムの壁面がひび割れている。あとはキャロの言ったとおり、ほんの僅かだが血の匂いもする。

「ああ、そうでした。悪さをした人たちが逃げ出す際にこの筒状のものを落としていかれまして。何かは分かりませんがあなたたちにお渡しします。クルムズ領の剣士さん、そろそろ警戒は解いていただいてよろしいですか?」

タリムはぎくりとする。少し呼吸を整える。

「失礼しました。敵の可能性もありましたので……」

タリムは剣の柄から右手を離し、敵意がないことを示すために両手を挙げた。それを見た金髪の女性は黒髪の少女を一瞥したあと、青のオーラを纏うのをやめた。

「ご理解いただきまして感謝いたします。ではこちらを」

黒髪の少女は筒状の物体を持ったまま、タリムら4人に近づき、そのままタリムに渡した。何故か金髪の女性は名残惜しそうな顔をしている。

「(これは……オーラバッテリーか?)」

「それでは。あとのことはよろしくお願いいたします」

タリムが青のオーラバッテリーを眺めている間に、黒髪の少女と金髪の女性は立ち去ろうとしていた。通路の曲がり角を曲がる直前だ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!敵が逃げ出すほどの強さであれば、この血の匂いの原因、そしてあの壁面のひび割れは何なのか教えてもらえないか!?」

「(……この僅かな血の臭いが分かるとは……)」

タリムが黒髪の少女と女性を引き止めようとする。黒髪の少女はタリムらに見えないように金髪の女性に対し信じられない圧で睨みつけた。しばしの沈黙が流れたあと、黒髪の少女が喋りだす。

「そうですね……。先ほど言ったように敵は顔を見られたくなかったようですから、ほとんど戦っておりません。ここにいる彼女の水の魔術で一人だけ敵を打ちのめしましたが、その一人もお仲間に回収されていきました。そのため、血の匂いと壁面のひび割れの主は同一人物であり、このダム付近の森にお仲間とともに隠れているのではないでしょうか……。今はいないかもしれませんが……」

4人全員が首を傾げる。それらしいことを言われている気もするが、いくら顔を見られたくなかったとしても、全く戦闘にならないとは考えにくい。

「うふふ~♡ 数日後にぜひ、このあたりの森を探してあげてくださいねぇ~♡」

金髪の女性がそう言い、2人とも通路のほうに立ち去り見えなくなってしまった。

「まて!」

タリムが2人を追いかけるものの、すでに影も形もいない。

「キャロ、もうあの2人は近くにはいないよな?」

ダム内部の水流制御装置前までの道はそこそこ長い1本の通路だったはず。走ってもこんなすぐにいなくなるのは不可能だ。

「もういないよー。急いで走った感じでもなくて、本当に“そこから消えた”って感じだと思う!!」

キャロは淡い橙のオーラを纏い、辺りを確認してくれる。キャロの力であれば、地面に足が着いている人がいればすぐ分かるはずだ。それでもいないのであれば、本当に消えたのだろう。

「今の2人は何者だったんだ……。金髪の女性のほうは青のオーラを纏っていたから、おそらくアズーロ領の人間なんだろうが……」

セイジの額からも汗が出ていた。タリムと同じく最大限警戒していたのだろう。

「みんな、あの2人から、黒のオーラエレメントを感じなかったか? 特に黒髪の女の子のほうから」

タリムは3人に質問したが、全員首を振った。

「二人ともただものじゃないとは思ったけど、黒いオーラエレメントは感じなかったね。どっちかっていうとあの魔女みたいな帽子を被った金髪のお姉さんのほうがよっぽど危険な感じがしたけど……」

「あぁ。黒髪の女の子よりは、後ろの金髪の女性のほうが気になった。途中、青のオーラを纏うのをやめるまでは、いつ攻撃してくるか分からなかった。オーラを纏うのをやめたときに安心したぐらいだ」

「金髪のお姉さんの喋り方が可愛かったなー!!でも、そのお姉さんのほうが全然スキがなかったねー!!」

それぞれが二人の女性と相対したときの感想を述べる。

「そうか、一瞬黒のオーラエレメントが見えたと思ったけど気のせいだったかな」

そこからタリムを除く3人は談笑していたが、タリムだけはまだ心ここにあらずだった。

「(一瞬でいなくなったのが、BOSで出会った執事服の男性と同じ力なのであれば……黒のオーラエレメントがあったのも説明はつく。もし仮にBOSの住人だとしたら目的は……?私たちの住むところ……?)」

様々な考えがまとまらない。とりあえず手に持っている青のオーラバッテリーをどうするかを考えていたところに、ダム内の通路から数名の足音がこちらに向かっているのが聞こえてくる。4人はもう一度戦闘態勢に戻り、各々オーラを纏った。

「アリス中将!伝令から聞いておりました4人がおりました!青のオーラバッテリーも奪還しております!」

アズーロ軍の軍服を着た兵士数名がこちらに気づき、後ろにいたアリスと呼ばれる女性に報告している。

「……ご苦労様でした……」

ゆっくりと4人に近づくアリス。アリスは白と青を基調にした軍服を着ていたが、軍服には戦闘の跡と思われる汚れが目立っていた。見た目は水色の髪のセミロングヘアで、オペラより少し髪の長さが短く、背が高い。歳はタリムと同じぐらいに見える。4人は纏っていたオーラを解いた。

「あなたたちですね……オーランゲ領、ネーブル代表からの応援と言うのは………」

アリスの声が小さく、とても聞き取りにくい。あまり話すのは得意ではなさそうだ。

「……それと、青のオーラバッテリーの奪還、ありがとうございます。ダムを制圧した首謀者たちはどちらでしょう……?」

アリスが辺りをキョロキョロ見回すも、タリムら4人とアズーロ軍の兵士しかいない。

「実は……」

タリムが順を追って説明する。自分たちがダム内部に侵入してから、敵らしき人間が誰もいなかったこと、この場で出会った謎の2名の女性の存在について、……結果的に自分たちも今回の事件の首謀者には誰一人会えていないこと。

「……そうですか。どうしようかな……」

アリスは目を瞑り、剣を鞘にしまい考え込んでいる。

「何ならこの青のオーラバッテリーもその2人の女性から渡されたので、本当に何もしていません」

タリムは青のオーラバッテリーをアリスに渡した。青のオーラバッテリーを確認したアリスが、近くにいた兵士に声をかける。

「……あの……用意したオーラバッテリー……ありましたよね……?」

「はっ、ただいま」

アリスに質問された兵士がテキパキと新しいオーラバッテリーを用意する。兵士が用意したものは、紫と緑のオーラバッテリー……もとい、オーラバッテリーだったものだ。中のオーラエレメントはそれぞれ赤と青、黄と青に分かれている。

「……すみません……あそこの……あの枠にオーラバッテリーをはめ込んできてもらってもいいですか……?」

「はっ」

兵士たちが素早く脚立を組み立て、あっという間にダムの水流制御装置にオーラバッテリーをはめ込んだ。

「……とりあえず……応急的ではありますが……」

アリスの右眼が光り、淡い青のオーラを纏った。アリスが腰に携えた剣を持ち、目を瞑って集中している。

「………“ビアンカ・リモツィオーネ”」

アリスの剣は白のオーラエレメントに包まれる。刹那、2つのオーラバッテリーを覆っている白のオーラエレメントが破壊され、中に閉じ込められていたオーラエレメントが放出、ダムの水流制御装置が動き出した。

「……ふぅ……さすがに連戦したあとにこれをやるのは疲れますね……」

淡い青のオーラを纏うのをやめたアリス。だいぶ疲れが溜まっているようだ。

「いやーすごいねーアリスー!!オーラバッテリーの白のオーラエレメントをあんな簡単に壊しちゃうなんて!!」

一連を見ていた4人だったが、キャロがアリスに馴れ馴れしく話しかけに行く。

「……!!……あまり近寄らないでもらってもいいですか……!?」

「あ、ごめんねー!!」

キャロは少し身を引いた。さすがに馴れ馴れしすぎる。初対面のはずだろ。

「……元々海賊たちに青のオーラバッテリーが盗られている、または壊されていることを想定して新しいのを持ってきたんです……。……結局、水流制御装置からオーラバッテリーが抜かれただけだったみたいなので、新しいのは必要じゃなかったみたい……とはいえ、一旦は2つのオーラバッテリーで復旧させてもらって……青のオーラバッテリーは今度また用意しましょう……」

アリスは少し困惑している。そのせいなのかどんどん声が小さく、細くなっていく。

「……見たところ……その青のオーラバッテリーは問題なく使えそうです……。少々古いものにはなりますが、この青のオーラバッテリーはあなたたちに差し上げます。……何かの役に立つかもしれませんし……それにアズーロ軍でもないあなたたちが……こうやって海賊たちを討伐しようとしてくれたお礼はするべきかと………」

「あ、ありがとうございます……何もしてないですけど」

青のオーラバッテリーを受け取るタリム。そんな簡単に貰っていいものなのだろうか。

「……さて、私が戦っていたクルムズ領の方や、そのほかの海賊たちも捕虜として引き上げなければなりません……。すみません……ええ、その手配を……」

アリスは連れてきた兵士らに指示を飛ばしている。“クルムズ領”と聞こえたのでオペラがアリスに話しかける。

「アリスさん、クルムズ領の人がどうかしましたか?私たちもクルムズ領の領民なんです。さっき川の上流で火が見えたのもあって気になってたんですけど……」

「そうだ!アリスさんと戦っていたクルムズ領の人は……!?」

タリムが焦って大きな声を出した。アリスはタリムの手に装着されている赤く細いリングを見て、納得した顔で話し出した。

「……先ほどこのダムに突入する前に中々の実力者をお相手しました……。突入に時間がかかったのはその方を倒していたからです……放っておいたらこちらの兵がやられるところでした……。今はもう倒して捕まえておりますが……名前はシラーフ・ディケと名乗っていました……」

「シラーフさん!?」

タリムが驚く。クルムズ領のシラーフ・ディケと言えば、領の武力代表を決める大会の常連だ。クルムズ領でも割とその名は知られており、教えを請いたいというものも少なくない。

「シラーフさんがなぜ……」

うなだれるタリム。残念な気持ちでいっぱいだった。

「……倒したあとに仰られていましたが……ミラージュコア破壊作戦の前にクルムズ領内で増税された関係だと……。生活に支障があったのでしょう……家族のためともおっしゃってました……」

「……くそっ!」

タリムは拳を地面に叩きつける。増税を進めたのは自分の兄のゴルドであり、それがかなりの影響を及ぼしているようだ。

「……申し訳ありませんが、今回の行いは悪行ではありますので……クルムズ領のケマル代表には申し送りします……。あとのことは虹彩会議に諮ってもらいますね……」

「……えぇ、そうですね……」

タリムはかなり怒っていたが、アリスさんの言葉で少し頭を冷やす。

「……では皆さん、撤収しましょう……。あなたたち4人をアルコバレーノの街まで送り届けます……。ダムを止めた首謀者たちはまた後日、アズーロ軍にて捜索することで、うちのレオナルデ代表には話しておきます……」

アリスさんの号令により、アステルダムから撤退する一同。アズーロ軍が事件の関係者を発見するのはもう少し後のことになる。


【∞】


アルコバレーノの街に着いた4人。川の水は元通りになり、水路を移動するための渡し船が数多く見え、街の機能も回復している。

「(……オーランゲ領の川の水も回復していそうだ)」

街についた途端にアリスさんは複数の軍の伝令に捕まり全てに応対していた。

「……ええ……分かりました……。全く人使いが荒い……ええ……はい……ではそれでお願いします……」

一通り話し終わったのか、アリスが戻ってくる。

「……あなたたちはこの街でゆっくり休んでください……私は次の任務がありますのでこれで失礼いたします……」

アリスはひどく眠そうな顔をしているが、並んでいた兵士たちとともに、4人に向かって敬礼する。タリムも敬礼した。オペラとセイジは頭を下げる。

「アリスー!また会おうねー!!」

キャロだけがこのテンションである。何でそんなに馴れ馴れしいんだ。アリスを気に入ったのか。どちらにしろアリスの体調が大丈夫なのか気になるところだ。

「ふぅ……結局人間と戦うことはなく終わったな……ある意味助かったけど」

タリムは安堵した。それにオペラとセイジも続く。

「タリムのオーラを元に戻すための旅が、まさか人と戦うかもしれないところまで発展しちゃうなんてね……」

オペラは色々と考え込んでいる。

「結果的には何もしていないが、青のオーラバッテリーをいただけたんだ。きっちり調査すれば、タリムのオーラが元に戻るきっかけが得られるはずだ。もう少しこのオーラバッテリーについて調べたいんだが……」

反対にセイジは研究意欲をかきたてられている。

「全然動き足りないぞ!……でも川の水が戻ったんだから、オーランゲ領に戻ってパパのところに帰ろー!」

「その前にレオナルデ代表のところにも一応挨拶しておこうな」

キャロの言うとおり、ネーブル代表に報告しに行く必要はある。だが、レオナルデ代表には宿の手配など色々お世話になったため、さすがに挨拶なしにオーランゲ領に帰るわけには行かない。

早速小舟の船頭さんに声をかけ、マルコ広場にある領主館まで案内してもらう。あの入り組んだ街が、船を使うとあっという間だ。領主館に入ると、真っ先にレオナルデ代表のいる部屋に向かった。

「……君たちか。今回はよくやってくれた。川の干上がりもこの通りだ。アリスから伝令を介して聞いたよ。まぁそこにかけてくれ」

応接のソファに案内された4人。レオナルデ代表が話し始める。

「今回のダム制圧事件の首謀者はアズーロ領内の海でひとしきり暴れている海賊たちであることが、関係者の情報から分かった。あとはその海賊たちから依頼を受けてダムの制圧、並びに水の売買を行うものなど、かなり組織だって仕組まれたことのようだ。いくら手薄になっていたとはいえ、多大な迷惑をかけた。本当に申し訳ない」

レオナルデ代表は前回と同じように座りながら目を閉じ頭を下げた。

「いえいえ、無事に事件は解決できたので良かったです」

タリムが代表して発言する。

「そう言ってもらえるなら何よりだ。ところで、事件の関係者であるはずの海賊たち数名が行方不明になっている。アリスにも指示を出したが、現在、行方不明になったものたちを捜索しているところだ。アリスからの報告にもあったが、君たちしか謎の女性2人組を見ていない。どんなやつだったか教えてくれるか?」

タリムとセイジがそれぞれ分かりうる情報を全てレオナルデ代表に話す。

「20代前半ぐらいの金髪の女性……そして青のオーラか……その女性はアズーロ領民である可能性は高いと思うが……。ただ、10代後半ぐらいの黒髪の少女……ダムの中に敵がいるのは分かっているのにそんな危険を冒してまでダムに行くことがあるのか……?」

レオナルデ代表は手を顎に当て考える。

「そういや黒髪の女の子は“私達の住むところにも水が来なくなった”って言ってたよね」

オペラは黒髪の少女の言葉を思い出す。

「それならば、アステルダムの水が止まったことに影響のある、アズーロ領、クルムズ領、オーランゲ領のいずれかに限られるはずだ」

「いや……もしかしたら“BOS”という線もあり得るのでは……」

レオナルデ代表の言葉を返すかように、タリムがボソっとつぶやいた。

「なるほど……その線も十分に考えられるか。他にもアズーロ領で生まれ育ち、別の領で過ごしている……こともあり得ない話ではない。また他の領へ転出した人の後も追ってみるとするよ」

また新たな仕事を増やした感は否めないが、我々でできることはこれぐらいしかない。

「とりあえずご苦労だった。また敵の首謀者が見つかったら事情聴取するとしよう。アリスの独断だったが青のオーラバッテリーは謝礼として持っていっていい。貴重なものだから失くさないようにな」

レオナルデ代表はニヤリと笑う。今すぐ返したほうがいいのかもしれない。

「君たちはミラージュコア破壊作戦のあとで使えなくなったオーラを元に戻すために旅をしてるんだろう?……もしオーラが元に戻す方法が分かったら、ぜひ我が領にも報告してくれないか?そのオーラバッテリーのお返しということでね」

「ええ、もちろん」

ミラージュコア破壊作戦に参加した各領には何らかの形で応えたい。タリムは真っ直ぐな瞳でレオナルデ代表に返答した。

「ふふふ……いい眼だ。またアズーロ領にも立ち寄ってくれ。君たちなら歓迎するよ。そうだ、オーランゲ領のネーブル代表に向けて封書を用意した。また渡しておいてくれないか」

キャロはレオナルデ代表から手紙を預かる。

「じゃあパパに渡しとくねー!!」

「よろしく頼むよ」

代表者室をあとにし領主館を出た4人は、改めて水路を利用した小船で空港に向かう。川の水が元に戻ったため、船頭さんも大忙しだ。

「快適だねぇ~」

「クルムズ領では考えられないよな。水路がそこら中にある街なんてさ」

船の上にはゆったりとした空気が流れる。今回は特に大きな戦闘もしていないので、そこまで疲労も感じない。気づいたら空港に到着していた。色黒の逞しい身体のお兄さんがいつも通り待ち構えている。

「あなたたちハ……もしかして川の水が元通りになったのはあなたたちのおかげでスか?」

「そんなそんな、アズーロ軍の皆さんのおかげです。俺達は何もできませんでした」

タリムは思わず苦笑いした。事実、アステルダムを往復しただけで何もしていない。

「そして随分と早くアズーロ領から離れてしまうのですネ……寂しい限りですヨ……」

逞しい身体のお兄さんが本当に悲しそうな顔をしている。

「安心してお兄さん。私達、オーランゲ領の用事が終わったらまた来るから」

まだ今後の方針は何も決まっていないのにオペラはお兄さんに言い切った。まだ観光できてないからだろう。

「そうですよネ~。この領も本当にいい領ですヨ~。川の干上がりも元に戻ったのデ、また安心して過ごせそうでス」

雑談もほどほどに、オペラとキャロ、そしてタリムとセイジで藤のカゴを分けた。理由はオペラとキャロがうるさいからである。

「おヤ……!2つ一気に運ぶのですネ……いつもより気合を入れなけれバ………」

お兄さんは“龍笛”を懐から出した。何に気合を入れるのかは全く分からないが、言われてみればいつもよりも力強く笛の音が聴こえる。

「またのお越しをお待ちしておりますヨ」

そのままカゴの周りには大量のカモたちに囲まれる。毎度思うがこのカモたちはいったいどこにいるんだろう。空港ではいつも通りお兄さんが手を振って見送ってくれる。

オペラとキャロはいつも以上のカモの数に大興奮していた。藤のカゴは分けて正解だったようだ。


【∞】


「ふぅ~~!楽しかった!」

「またねー!」

女性陣のカモたちのふれあいタイムも見慣れたものだ。色黒の逞しい身体のお兄さんが、2人に向かって「今度一緒にヒスイ領で鳥使いの試験を受けないですカ」と誘っている。

さすがにそれをされたら旅が続けられなくなるので、2人をカモから引き剥がした。

ヴィブギョールの街に戻ってきた4人は領主館に向かう。キャロが「家に帰らないの?」と聞いてきたが、ネーブル代表が領主館にいるかもしれないので先にそちらに行くことにした。

領主館の受付の方に代表者室の場所を尋ねる。そのまま代表者室へ案内され、代表者室に入ると、ネーブル代表の他、武力、知力代表も自分の席に座っていた。

「おお、キャロ。おかえり」

「パパー!!ただいまー!!タリムの言うとおり、こっちにいたんだねー!!はいこれー!!」

キャロはアズーロ領のレオナルデ代表に渡された封書をネーブル代表に渡し、力強く抱きしめに行った。

「ははは。元気そうで何よりだよ。どれ、早速拝見しよう。そうそう、すでにオーランゲ領のヒューム川を始めとするどの川も正常に流れてきて、各エリアに水がきちんと供給されているよ。……ふむ……ヤガン殿、ニコール殿、これをご覧になってください」

手紙を受け取ったオーランゲ領の武力代表であるヤガン代表。ミラージュコア破壊作戦のときにミラージュコアを破壊した1人だ。肌の色が黒いのが特徴的で、筋骨隆々で背が高く、黒い髭を蓄えた短髪の男性だ。なぜか上半身は裸で、身体には白の紋様が描かれている。ネーブル代表よりも若く、迫力がすごい。

「ハァッハッハ!ネーブルとニコールが上手くやってくれたんだろ!川の水が元に戻ったんだ!難しいことは抜きにして祝賀会でも開こうじゃねーか!!えぇ!?」

ヤガン代表のとてつもなく大きい声で一同は耳を塞いだ。そしてヤガン代表はすぐに手紙をニコール代表に渡した。ほとんど読まずに。

「ヤガン、うっさい。しばらくは全てのエリアできちんと水が供給ができているか確認してもらうよ。どっちみち食糧の供給率なんかは次の虹彩会議で諮らなくちゃなんないんだから」

ニコール代表はヤガン代表とは対象的に肌の色は白く、とても華奢な人だ。見た目はどう見ても子ども。清楚な白いワンピースを着用しているが、オペラやキャロよりも年下に見える。

「読んだよネーブルさん。祝賀会はともかく、とりあえず水の確保ができて良かったわ。ただ……海賊ねぇ……うちの領に住みついてる砂漠の盗賊たちも何とかしなくちゃなんないけど」

ニコール代表の話からも、オーランゲ領にはオーランゲ領の課題があるようだ。

「助かります。キャロ、みんなもそこにかけなさい」

ネーブル代表に促され、応接ソファに腰かける4人。……ネーブル代表がニコール代表に敬語を使っていると違和感がすごい。

「アズーロ領、レオナルデ代表からは、こちらから4人を派遣したことへの感謝が記されていた。まずは私たちからも礼を言う。本当にありがとう。まぁ、実際のところ、今回の事件について、みんなにしてもらったことはほとんどなかったみたいだね」

キャロを除く3人は苦笑いする。本当にアステルダムに移動しただけで、海賊たちをどうにかしたのは女性2人組だ。

「今後はこのようなことがないように、アズーロ領内でも警備の増強のために兵士の志願を募るようだ。オーランゲ領もそこは検討しないといけないところだね。いつ誰が3つの農場を襲ってくるのか分からない世の中にはなっているようだ」

ネーブル代表のあと、ニコール代表が話し始める。

「オーランゲ領は領民全体が穏やかだからなぁ……。兵士の志願を募っても中々集まらないんだけどね」

続けてヤガン代表がネーブル代表に向かって話し始めた。

「ニコールの言うとおりなんだよ!!まぁそれがこのオーランゲ領の良いところなんだけどなぁ!!」

ヤガン代表は相も変わらず大きな声だ。鼓膜が破れそうだ。

「とりあえず大陸全体の食糧供給はこれで問題なく行われることでしょう。問題は今後、新たな脅威に立ち向かうときに各領が連携してくれるのかどうか……ミラージュコアを破壊するべきなのかしないべきなのか……十分に考える必要がありそうです」

タリムはネーブル代表の言葉に頷いている。今回の一連の騒動はミラージュコア破壊作戦が引き金になった、いわば人災だ。オーラが纏えなくなった兵士が警備に参加できなかったことで、警備が手薄になったことも要因である。

また、領内が増税によって、生活を支えるお金がなくなった者が飢えに苦しみ、やむを得ず悪行に手を出したりする人がいた。もしかしたら未然に防ぐことはできたかもしれない。

「さて、キャロ。パパはこのまましばらくヴィブギョールの街に残って、虹彩会議の準備をする。家に帰ってママに伝えておいてくれないか」

「分かったー!!」

「みんなも今日はこのままヴィブギョールの街で泊まっていきなさい。もしかしたら今日は音楽堂で吹奏楽隊の“オレンジの悪魔”が見られるかもしれない。あとは明日のいつでもいい、キャロをフレオの街まで見届けてもらえるかい?」

「はっ」

タリムは敬礼する。

「ははは、そんな堅苦しくしなくてもいいよ」

ネーブル代表が優しく返してくれる。座っていたニコール代表がそっと呟いた。

「そっかー……オレンジの悪魔だったら私も見に行こうかな」

「ニコール代表は私と打合せですのでそれが終わってからなら構いませんよ」

「さすがネーブルさん、聞き漏らさないね」

代表者たちの関係性が分からない。ある意味ネーブル代表がバランスを保っているのかもしれないが。

領主館を後にした4人は、街の中に流れるヒューム川が元に戻っていることを確認し、街の様子を見て回る。

「タリム!音楽堂!!音楽堂に行くよ!!!」

「分かった分かった」

オペラが物凄い剣幕でタリムに迫り、音楽堂に引きずっていく。音楽堂の前は人で賑わっており、噂の“オレンジの悪魔”の公演は今日の夜に行われるらしい。すでに音楽堂内部では他の音楽家たちで演奏会が開かれているようだ。

「無事に公演が再開できててよかったよー!……キャロちゃん、今日の夜、一緒に吹奏楽を聴きにいかない?」

「行く行くー!!」

オペラとキャロのテンションは最高潮だ。

「タリムは私と一緒に来てもらうけど、セイジはどうする?」

タリムが同席するのは確定していた。

「僕は音楽に関心がないし遠慮しておく。オーラバッテリーも調べたいから、このまま宿に行かせてもらう」

「行ったら絶対楽しいんだけどな~……でも無理強いは良くないからとりあえず私たちで行ってくるね!」

セイジは予想通りの反応をする。セイジに荷物を預け、音楽堂での“オレンジの悪魔”の公演を楽しもうと決めた3人は、ヴィブギョールの街一番の音楽堂に再びやってきた。音楽堂前は大層な人だかりができている。

「チケットはこっちに並んだら買えそうだね!」

「楽しみだなー!!」

チケットも無事に買えた3人は人だかりの間を行き来し、音楽堂の中に入った。非常に豪勢な作りとなっており、すごい数の人が今か今かと開演を待ちわびている。

「あ!始まるよ!!」

シーンと鎮まる音楽堂内。第一音が鳴った途端、衝撃を受けたタリムは思わず「すごい……!」と声に出ていた。声は圧倒的な音楽の前に消え失せる。

「わぁ……!」

オペラとキャロの目はキラキラ輝いていた。オレンジの悪魔の演奏はただ音を鳴らすだけではなく、演奏にダンスを取り入れており、終始瞬きできないほどの魅力を感じた。あとでオペラに聞いたところ、演奏形態はマーチングバンドと呼ばれるものだそうで、普段は行進しながら音楽を奏でるそうだ。

いつまでもこの公演を聴いていたいと思うような、素晴らしい演奏だった。公演が終わったあとも余韻に浸る。宿に戻ってもそれは続いた。

「―でね、これがね、そうでね……―とにかくすごかったの!」

「セイジ、すごく賑やかで楽しかったぞーー!」

宿ではセイジが紙にオーラバッテリーを調べた内容をまとめていた。そのセイジに向かってオペラとキャロが詰め寄り、感想を話す。それはもう一方的に。

「分かった……はいはい…………そうか………そろそろ助けてくれタリム……」

「二人が詰め寄るのも理解はできる……正直今回ばかりは実際に見て聴いたら感動するレベルだった……セイジ、もし次回公演される機会があったら聴いてほしい」

「またそういう機会があったらな」

やはりセイジは音楽のほうに関心はなさそうだ。女性陣はひと通り感想を伝えて満足したのか、自分たちの部屋に帰っていった。セイジがひどく疲れた顔をしている。

「お疲れ……。それで、オーラバッテリーのほうはどうだったんだ?」

「原理はおおよそ分かった。結論だけ言うと、“赤”のオーラバッテリーが仮にあっても、タリム1人で使いこなすのは難しい……ということだ。理由は“白のオーラエレメント”にある」

セイジの答えは何となく察しはついていた。セイジから詳しく教えてもらう。

「実際にオーラバッテリーが使われる様子を見たほうが早いとは思うが。僕の仮説だけ説明しておこう。一つ目、オーラバッテリーを使うときに白のオーラエレメントを解除する必要がある。これができるものは淡いオーラを纏っているものだけ。二つ目、オーラバッテリーの中のオーラエレメントは、淡いオーラを纏うものたちが付与するオーラエレメントとは異なる性質を持っている可能性が高い。そもそも人間に付与できるかどうかすら未知数ということ」

「一つ目はそうだと思ってたけど、二つ目はどうしてだ?」

「例えば橙のオーラバッテリー。このオーラバッテリーの中に入っているのは橙のオーラエレメントだったものだ。キャロが作っていたのを見ただろう」

先日、アズーロ領に行く前にここヴィブギョールの街で見たとおりである。セイジが今持っている橙のオーラバッテリーの中はまだ橙のオーラエレメントが入ったままだ。

「白のオーラエレメントにコーティングされた橙のオーラエレメントは、オーラバッテリーの中で赤と黄のオーラエレメントに分かれ、それぞれの持っている性質に分かれる。ネーブル代表の説明がそうだった」

もちろんタリムもその話は聞いている。キャロのオーラバッテリーは何日かかけて赤と黄に分かれるという話だった。

「これを見ろ。青のオーラバッテリーだ」

アリスから渡された青のオーラバッテリー。中のオーラエレメントは青いままだ。

「橙、緑、紫のオーラバッテリーに纏っている白のオーラエレメントには、おそらく色を分離させる性質があると思われる。2つのオーラエレメントが揃うことで青の水の力が上手く相互し、ダムの水流制御装置が動く。これはまだ重機と同じ仕組みを応用していると思われるから分かるんだ」

実際にアステルダムではアリスが兵士に命令し、水流制御装置に2本のオーラバッテリーをはめ込んでいた。今セイジの言ったことは何となく分かる。何が上手いこと作用しているのかは全く分からないが。

「だが青のオーラバッテリーは何にも分離されていない。……にも関わらず『この1本だけで、ダムの制御装置が動いていた』……このことが何よりも不思議な点だ。通常、青のオーラエレメントに赤の火の力や、黄の雷の力はない。このことから、赤、黄、青のオーラバッテリーの中のオーラエレメントは、僕たちが付与できるオーラエレメントとはそもそも性質が違うのではないか……という仮説だ」

「なるほど……?」

ダムの水流制御装置は元々青のオーラバッテリーだけで動いていたことは、アリスの話から確定している。あまりのセイジの話の速さについていけていないということは内緒だ。

「これが事実だとすれば、オペラが赤のオーラバッテリーを作れないのも何となく合点がつく。青と赤、おそらく黄のオーラエレメントも、その性質は似ていると思われる。赤のオーラエレメントが白のオーラエレメントによるコーティングが難しいのは、白のオーラエレメントに赤のオーラエレメントそのものの性質を変える力がある可能性が高い。何らかの形で安定しないんだろう。作ろうとするならば、赤のオーラエレメントと白のオーラエレメント、両方をいい配分で使いこなす鍛錬が必要なんだと思う」

「じゃあこの青のオーラバッテリーを作った持ち主は……」

「相当な実力者……ということだな。何ならアリス自身が作った可能性すらある」

「なるほど…十分あり得る話だ」

アリスさん自身、シラーフさんを倒していることも踏まえ実力者なのは確定している。この前淡い赤のオーラを纏ったオペラにそのような実力があるとは思えない。難しいわけだ。

「もう一つ、僕は機械に詳しくないからこれも仮説だが」

まだ仮説があるらしい。今のセイジは随分と機嫌が良い。

「今のところオーラバッテリーの受け皿はいずれも機械だ。オーランゲ領の重機たち、そしてアズーロ領のダムの水流制御装置……。受け皿側、つまり機械のほうにも各オーラエレメントの力を発揮できる何かがあると思う。そういう機構が中に入っていないと普通は動かないはずだ。オーラエレメントの力を使えるのは人間、もしくは魔獣しかいないからな」

オーラエレメントについて謎に包まれている部分が多い中、よくここまで仮説を立てられるものだ。

「話が長くなったな。……要は機械側に何らかの機構を作った人がいる。その人に詳しく話を聞くべきだ。オーラバッテリーの中のオーラエレメントが、人間への付与にどういう影響を与えるのかもな」

タリムとセイジで次なる目標が決まる。機械の機構は誰が作ったのか、そしてオーラバッテリー自体に隠された力。それを知ることがオーラを元に戻す方法への近道になることを祈る。


【∞】


翌朝、キャロを送り届けるためフレオの街に向かって進んでいく。道中にあるアデレードファームとメルボルンファーム、そしてパースファームは、セイジの希望もあって、以前と同様に立ち寄ることになった。

「あら、セイジくん! 川の水の復旧ができたみたいね!」

アデレードファームのメロンさんがちょうど農作業をしていたところで近づいてきた。思いっきり重機を運転していてかっこよい。小麦を丁寧に収穫しているところのようだ。

「僕たちは何もしていません。とにかく川の水が戻って何よりです」

続くパースファームでは農家の夫婦が川の水が元通りになっていることを嬉しそうに語ってくれた。自然な笑顔がまぶしい。

「あれからネーブルさんも何度かうちに足を運んでいたよ」

「あんたたちがアズーロ領までいったんだって? よくやってくれたよ!」

「ハハハ……」

何もしていないわけではないが、無事に川の水が戻っているので、行ったかいはあったのかもしれない。ワイナリーは再開しており、お礼として絶品のぶどうジュースをごちそうになった。パースファームを後にし、程なくしてフレオの街に着いた4人。早速キャロの家に向かう。家の扉を開けた瞬間、メイドさんたちが一斉にお辞儀をし出迎えてくれる。

「キャロ様、おかえりなさいませ」

「やっほーみんな!ただいまー!」

「あらあらキャロちゃん、おかえりなさい。楽しかった?」

「ママ久しぶりー!!楽しかったよー!!」

キャロとサラさんが抱き合っている。

「今夜はご馳走を作るわね~。お水も戻ったし、キャロちゃんも帰ったし!」

「あ!それなら私が作るよー!!私動き足りないから!!」

2人の話し声にメイドさんたちがヒソヒソ話す。

「まずいわ……サラ様をキッチンに立たせないようにしないと……」

「家が吹き飛んでしまう……」

メイドさんたちも大変である。当たり前のように応接に通され、数十分後には案の定キャロのご馳走が出てきてしまった。本音が駄々洩れな執事たちも健在で、屋敷の中は今回もにぎやかだ。結局サラさんのご厚意でそのまま泊めてもらうことになった。

タリムとセイジ、そしてオペラが就寝したころ、キャロはサラさんの自室にいた。

「ママ? 私、あの3人についていってもいーい?」

パジャマ姿のキャロがサラさんにモジモジしながら聞いている。いつものキャロとは想像もつかないぐらいしおらしい。

「あらキャロちゃん、自分がしたいこと見つかったの?」

「んー……まだやりたいことが何なのかは分からないけど、とにかく今回の旅が楽しかったの! オーランゲ領ももちろんいいところなんだけど、アズーロ領もいいところだった!
あの3人に着いていったらもっと面白いことが分かるかなって思って!」

はにかんで答えるキャロ。しかし答えた直後顔が曇る。

「あー……でもパースファームにあるうちの畑とか、私が育ててる野菜とかどうしよう……パパにも相談してきてないし……」

サラさんはゆっくり微笑みキャロの眼を真っ直ぐ見た。

「キャロちゃんはまだ15歳。キャロちゃんが好きなことをやってほしいわ。もちろん、畑のお仕事も、お料理もキャロちゃんが好きなことなら私は止めないわ。でもそれよりも楽しいことを見つけたんでしょう? きっとパパもいいよって言ってくれるし、あの3人も受け止めてくれるわ。パパがダメっていったら、私がパパを怒るから大丈夫。いつもキャロちゃんがやってるように、想いを伝えたらいいだけよ!」

キャロはサラさんからの言葉を受け、いつもの明るい笑顔に戻る。

「そうだよね!私、もう一回ヴィブギョールの街まで行って、パパにちゃんと話してくる!」

「そうこなくっちゃね!また明日の朝、3人にも話さないとね」

「うん!」

【∞】

翌朝、応接間でタリム、オペラ、セージの3人は今後の行く先をどうするか話し合っていた。

「タリムには話したが、オーラを元に戻す目的の1つにオーラバッテリーを真相を探る必要も出てきた。それも踏まえて次にどこに行くか考えたほうがいい」

「結局私、何回かオーラバッテリーが使えないか試してみたけど、まだ作れないままなんだよね……」

「いっそもう一度アズーロ領に行って、アリスさんに直接“青のオーラバッテリー”について聞いてみてもいいかもしれないな」

「アズーロ領にもう1回行こ!まだ散策してない街もあるし!それにこの前の事件の犯人が帰ってきてるかもしれないもんね」

「決まりだな。“青”アズーロ領に行こう」

そろそろ出発するかと話している3人のもとに、キャロとサラさんが立ち塞がる。

「あ、キャロ、サラさん。大変お世話になりました。そろそろアズーロ領に向けて出発しようと思います」

タリムは宿泊と食事のお礼を言う。

「いえいえ、ところでみなさん。キャロちゃんからお話したいことがあって……」

サラさんの後ろからひょっこりとキャロが顔を出す。少し俯きがちに、それでいてしおらしくしており、いつものキャロとは正反対だ。

「なータリムー、オペラー、セージー……私も3人の旅について行ってもいーい?」

しかも照れながら話すキャロ。目を見開き顔を見合わせる3人。タリムが念の為確認する。

「サラさん……俺たちは歓迎しますが、キャロを旅立たせて大丈夫ですか……? あとでネーブル代表に怒られるのは嫌なんですが……」

「もしあの人があなたたちに怒ることがあったら私があの人を怒るから安心して!」

とびっきりの笑顔である。眩しい。

「……分かりました!」

タリムはキャロの前に手を差し出し、一言告げる。

「キャロ、これからもよろしく!」

キャロは差し伸べられた手を、サラさんと同じく眩しい笑顔で握り返した。続けてオペラ、セイジとも握手する。

「ほらね。大丈夫でしょう?」

サラさんが微笑みながらキャロに話しかける。

「ママありがと!」

「キャロちゃん、行ってらっしゃい!みなさん、キャロのこと、よろしくお願いいたしますね~」

深くお辞儀するサラさん。それを見たキャロは身の引き締まる思いで答える。

「……行ってきます!」

直後、メイドのみなさんも丁寧にお辞儀しながら、口々に出発の挨拶をされる。

「行ってらっしゃいませ、キャロ様!」

「みんなーありがとうー!行ってくるねー!」

キャロは自分の家が見えなくなるまで、家の方に向かって手を振り続けた。


【∞】


「さて、同じ道にはなるけどヴィブギョールの街からアルコバレーノの街に向かおうか」

フレオの街を出た4人はまたヴィブギョールの街に逆戻りだ。キャロを送り届けるつもりが一緒に旅に出ることになるとは全然考えていなかった。

「タリムー、ヴィブギョールに着いたらパパのところに行ってもいーい? まだ旅に出ること言ってないんだー」

「それもそうか。全然構わないよ」

パースファームを通過するとき、農家のみなさんとキャロが挨拶する。農家のみなさんを見ているとキャロのことを実の娘のような対応をしていた。サラさんと同じ顔をしている。

「今度帰ってきたらまたパースファームに寄る―」

農家の方たちとワイワイ話しているところにまたどこからともなく農家の方がこちらに向かってきた。しかも大急ぎで。

「キャロちゃん! 魔獣だよ!!」

「「「なっ!?!?」」」」

水不足が解消されたからなのか、今回は前回の空飛ぶ魔獣とは違い、四足歩行する恐竜の魔獣が姿を表した。特徴的なのはその背中で、亀の甲羅…いや、人が持つ盾にそっくりだ。また尾っぽにはキャロの持っている斧のような武装まである。……残念ながら魔獣のサイズは前回とほとんど変わらない。

「おー!次は”アンキロ”だ~!! 珍しいなー!」

アンキロは橙のオーラを纏い、こちらに突進してきている。橙のオーラエレメントの力なのか、巨体とは思えない素早い動きだ。向かっている方向はどう考えてもパースファームのみずみずしい農作物で、それを止められるのは自分たちしかいない。

「前も思ったけど巨体すぎるんだよ!!」

「どうやってこれを止めたらいいのかまるで分からない……」

「どうしよどうしよアワワワ……」

タリムは突っ込み、セイジは冷静に分析している。オペラは杖を持ちオロオロしていた。キャロ以外は全員困惑している。

「あはは!私の旅立ちを祝ってくれてるのかなー?」

軽く屈伸運動したキャロは、すぐに淡い橙のオーラを纏った。突進してくるアンキロの正面に立っている。どう考えても祝福してくれているような雰囲気ではない。

「キャロちゃん危ない!!」

オペラの声が響くが、前からのドドドという大きな音にかき消されてしまう。

特に振り返ることなく、キャロは斧を持って走り出し、スライディングでアンキロの死角であろう顔の下に潜った。

「私たちのファームには!角1本触れさせないよー!! “バレンシア・アックス”!!」

キャロはアンキロの腹の下から斧で突き上げ、地上から5mほど宙に浮かし、そのまま地上に落下させた。アンキロは背中側から落ちてしまい、亀のごとくその場から動けなくなった。

「じゃあとどめだねー! ”マーコット・アックス”!」

キャロはアンキロの腹を確実に狙えるよう飛び、斧を振り下ろす。容赦ない一撃にアンキロはそのまま倒されてしまった。

「あとはこれを街まで持っていったら、アンキロのお肉が食べられるね! みんな、ちょっとだけ待っててねー!

何の躊躇いもなくキャロはアンキロを動かし、フレオの街まで帰っていった。あの華奢な身体にどれだけの力が眠っているのか分からない。

「……薄々分かっていたことだけれども……もしかして俺達は……とんでもない子を仲間にしたかもしれない……」

タリムは思わずため息が漏れ、頭を抱えた。オペラとセイジは一連の流れを見ていたが、言葉を失っている。


【∞】


当然のことながら道中は何事もなく、難なくヴィブギョールの街に帰ってきた4人は早速領主館に向かい、ネーブル代表のいる代表者室に到着する。今日はヤガン代表とニコール代表は不在のようだ。

「ヤガン代表は今、砂漠地帯に出た魔獣の調査に当たっているよ。ちなみにニコール代表もヴィブギョールの街を視察……という名のサボりかな。自由な人だからね」

この調子で代表者が勤まっているのだから不思議だ。ヤガン代表はともかくニコール代表は何者なんだ。

「パパ、あのね……」

キャロが話し始めるのを遮るようにネーブル代表が話す。

「キャロ、君自身が今ここにいて、みなさんもここにいるということは、キャロがみなさんと一緒に行くことを選んだ……そう言いたいんだろう?」

「えっ!?」

キャロが目を見開き、口もポカンと開き驚いている。

「ははは、それぐらい分かるよ。その様子だとサラさんも後押ししてくれたんじゃないか?」

キャロがさらに驚いている。

「なんで分かるのパパ!!」

「君たち2人は心が真っ直ぐだからね」

これが親子の絆……というやつだろう。ネーブル代表は代表者室に4人で入ったときに一つも驚いていなかった。この結果は予測していた可能性が高い。

「それでねパパ……今耕してる畑とか橙のオーラバッテリーとかどうしたらいいかなぁ?」

今度はキャロが真っ直ぐにネーブル代表を見つめた。ネーブル代表は口を開く。

「どうしたらいいも何も、キャロが頑張って耕してくれた畑は、ここからパースファームの農家さんに協力してもらいながら、みんなで作物を育てていくのさ。オーランゲ領はみんなで何かを作り上げ、みんなに還元されるのが大好きな領だ。それはキャロもよくわかっているだろう? 不安になることはない。キャロがいなくてもみんなでカバーしあう。だから安心して旅に出るといい」

キャロはまだ少し不安そうな顔をしている。

「あとはそうだな。きっとサラさんも言っていただろうけども、キャロのやりたいことを君自身の目で見て、心で感じてきなさい。そしてまた帰ってきたときに色々話を聞かせてほしい。みんなもそれを楽しみにしているはずさ」

ネーブル代表が優しく、それでいて真っ直ぐな言葉をキャロに送った。キャロが少し考え込んだあと、いつも通りの笑顔に戻る。

「農家のみんなのほうが私より大ベテランだもんね!ちょっと不安になっちゃったけど、絶対大丈夫だね!みんなによろしく言っといてね!じゃあ行ってくるよ!」

「みなさん、キャロのことをよろしくお願いします。みなさんの旅にご加護を」

ネーブル代表は4人に向かって敬礼する。4人とも敬礼し返した。本当に器の大きい領代表者、そして一人の父親なのだろう。

領主館を後にした4人は、オーランゲ領で2回目となる空港に足を運んだ。色黒で逞しい身体のお兄さんがまたも出迎えてくれる。

「あなたたちもいろんな領を行ったりきたりと大変ですネ」

「でもこのカモたちの移動が楽しいから全然大丈夫ですよ!」

「そうそう!!」

相変わらず空港に行くたびにテンションが高くなるオペラとキャロを横目にしつつ、一行は再びアズーロ領へ赴くのであった。お兄さんの龍笛の音が美しく響き渡り、藤のカゴが今まさに空に羽ばたこうとしている。



【∞】


―<BOS>―

「セレン、わざと青のオーラを纏ったでしょう?」

「あら~さすが主様~。バレバレでしたか~」

黒髪の少女の問いかけに、セレンはニコニコと返答した。銀髪のメイド服の女性、ネオンが会話に混ざってくる。

「なになに?なんの話~?」

「いえ……アズーロ領のアステルダムの中で出会った人たちに、セレンったらわざと青のオーラを纏ったんです。私がバッカニアたちを回収するために黒のオーラエレメントを使ったのですが、そのときに一瞬、残滓が見られたかもしれません。それを誤魔化すために、青のオーラを纏いお茶を濁した……きっとそんなところですよね?」

黒髪の少女はジッとセレンを見つめた。セレンは頬を赤らめる。

「そんなマジマジ見られてもぉ~♡……まぁ~アズーロ軍はアステルダムの上流側で戦闘しているだけだと思っていましたしぃ~……。まさかアズーロ軍とは別の動きをしている方がいるとは思っておらず~」

「いえ、私も不注意でした。早くバッカニアたちとの戦闘を終わらせたら良かったですね。……とりあえず川の水が復活して何よりです。これで“藍の領”にも水が行き渡りますので」

黒髪の少女は安堵した表情を見せる。

「へぇ~♫ アズーロ軍以外にアステルダムに行った子たちがいるんだね~♫ 本当に一般人?」

ネオンは猫のように目を見開き問いかけた。

「所属はクルムズ領から2人の男女、ヒスイ領から1人の男性、オーランゲ領から1人の女性でしたね。武器は持っていましたし、大方どこかの領が派遣した部隊かと思いますが……」

「(ん……?この前ヒスイ領シリエトクで見た3人……いや、オーランゲ領の子は分かんないな……)」

ネオンは顎に手を当て少しの時間考えたが、一旦は誤魔化すことに決めた。確証はまだない。

「それにしても……まさかダムをいじくって川の水を止めるなんて、この100年の中では初めてなんじゃな~い?ある意味歴史には名を刻むよね~バッカニアとかラカムとかさ~」

ネオンはケラケラ笑いながらバッカニアやラカムら8人が入った黒い箱を眺めている。

「にしたって、セレンさ~ん……これはやりすぎじゃない?もう虫の息じゃ~ん。いくら“ブラックボックス”の中とはいえ、受けた傷が回復することはないよ?」

ネオンは左手の親指と人差し指で丸を作り、自身の左眼に当てた。ネオンの左眼は黒く光っている。

「本当にやりすぎです。おかげでそのアズーロ軍ではない方たちにバレバレの嘘をつく羽目になりました。ネオンからも言ってあげてください」

黒髪の少女は改めてセレンをジッと見つめる。セレンは黒髪の少女の目線から目を逸らす。

「えぇ~と……主様~?回復のことなんですが、新たな黒の技術が使えないかぁ~、この人たちで試してみてもいいですか~? ネオンも協力してくれると助かるんですけどぉ~」

何か思いついたと言わんばかりに、ニコニコと満面の笑みで黒髪の少女に迫るセレン。ネオンのほうにも熱い眼差しを送る。

「そりゃ―――ちゃんがいいなら手伝うけどさ~?」

ネオンはちらっと黒髪の少女のほうを見る。

「……事前に技術の内容とそれにかかるリスクを私に説明してくれるのであれば構いません。それにネオンもいるのなら……まぁいいでしょう。くれぐれも普通の人間ですから、めちゃくちゃにはしないでくださいね」

「ん~~……保証しかねますがぁ~、またご報告にあがりますねぇ~。じゃあお一人、借りていきます♡」

セレンは“ブラックボックス”に入ったバッカニアとともに”ブラックホール”の中に消えていった。

「―――ちゃ~ん……大丈夫なの~?多分セレンさん、実験と称してグチャグチャにしちゃうと思うけどなぁ……」

「……そのためにあなたを寄越すのですから、きっちり報告してくださいね。何かあったら二人ともお仕置きします」

「あぁ~怖い怖い。引き受けるんじゃなかったよ~……」

ネオンはセレンと同様に“ブラックホール”の中に消えていった。黒髪の少女はぼんやりと上を向く。

「(ダムで出会った4人……アズーロ軍に所属していないにも関わらず、ダムに突入するとは勇気ある行動ですね。あの4人の装着していたリングを見る限り……彼らは私の目指したものを見せてくれるかもしれません……きっとどこかでまた、相見えることがありそうです……)」

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