アズアメ創作BL短編集

アズアメ

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(68)寝込み弟兄

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両親を亡くし、兄として弟育てに奮闘する扉音。しかし輝の反抗期は収まる気配がない。そんなある日、寝ぼけた輝に彼女と間違われて……。

高校生反抗期弟×社会人苦労人兄
当社比、エロに力を入れています。視点途中で切り替わります。ママみのあるお兄ちゃんに依存してる感じ好きです!

東雲 扉音(しののめ とおん):弟育て頑張ってる系お兄ちゃん。神経質。輝の前のみ砕ける。
東雲 輝(しののめ あきら):爽やかイケメン。兄の前だとツンツン。絶賛思春期
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 夜が明け、遠くで鶏が鳴き出す時刻。
「今日も眠れなかった……」
 ため息と共にぽつりと呟き、豆電球を消す。窓から射す明かりがほんのりと部屋を赤く染める。
 部屋に響くのは時計の秒針。そして、自分のお腹の音。
「……起きるか」
 布団を剥ぎ、もそりと起き上がる。ああ、今日という何でもない日がまた始まる。



 トントントントン。
 目を覚ますと、包丁の音。小気味よく響くそれと、香ばしいトーストの匂いで目覚めるのが日課となって、もうどれだけの日々が過ぎただろうか。
 眠い頭を振りかぶり、階段を下ってゆく。
「ん、アキラおはよ。丁度今起こしに行こうと思ってたとこだ」
 キッチンから顔を出した黒髪の青年が、マグカップにお湯を注ぎながらこちらを向く。
「兄ちゃん、今日も寝れなかったん?」
「ん~。ちょっとは寝たから大丈夫」
「嘘じゃん? 目の下、クマ出来てるし」
「嘘?」
「そっちがね」
 受け渡されたマグカップに口をつけ、目を瞑る。珈琲の香りが眠気を覚まし、苦味が空腹を呼び覚ます。
「座って飲め。あと、ほらこれ運べ」
 ゆっくりする暇もなく、空いている方の手に皿が乗せられる。逆らうほどの気力もなく、言われるがままにテーブルまで皿を運び、腰を下ろす。
「ちょっと焦げた。焦げてるとこは適当に取って食べてくれ」
 運んだ皿の上のトーストを見ると、確かに端が黒くなっている。だが、兄の手に乗っているトーストは、それよりも酷く焦げていた。
「いい方くれるんだ?」
「一応、兄だからな。我慢するよ」
「優しいことで」
 兄もテーブルについたところで、二人そろって手を合わせる。
「「いただきます」」
 どちらが合図するでもなく、ぴったりと合う掛け声。
 カリカリに焼いたベーコンに目玉焼きの乗ったトースト。その横に添えられたサラダ。インスタントのコーヒーとコーンスープ。
 いつもと変わらない朝のひと時が、オレは堪らなく好きだった。

 東雲兄弟は仲が良く、近所でも評判が良かった。しっかり者の兄、扉音。人当たりの良い輝。二人はいつだって支え合って生きてきた。
 両親が交通事故で死んでから、ずっと二人で。

「そろそろ父さん母さんの七回忌か」
「え、もうそんなだっけ?」
「お前も大きくなるはずだわ。今何歳だっけ?」
「十七だよ。じじいみたいなこと言ってんな。てか兄ちゃんもう二十三か、ヤバ……」
「ヤバいとか言うな」
「それで彼女とかいないのは、流石にヤバいっしょ」
「お前は彼女居過ぎてヤバい。また同じような子に手ぇ出してんだろ?」
「はは。まぁね」
「はぁ~。頼むから、子どもだけは作んなよ?」
「ぷ、ほんとジジ臭くなったな、兄ちゃん」
「お前がチャラ過ぎなんだよ」
「いや、オレは結構一途なんだけどね」
「お前、吐くんならもっとまともな嘘を吐けよ。っと。もうこんな時間か」
 食べかけのトーストを一気に頬張った兄は、自分の皿を流しに持ってゆく。
「洗っといてやるよ」
「ひゃすはる! ひゃのんら!」
「助かる、頼んだ?」
「んっ。んぐっ」
 頷きながら、もごもごと行儀悪く口を動かした兄は、そのまま急いでコーヒーを口に押し流す。
「ぷは。んじゃ、行ってくる!」
 エプロンを外し、鏡の前でネクタイを整えたスーツ姿の兄は、オレを置いて会社へと向かう。オレは、いつもこのしばしの別れが嫌いで堪らなかった。



 俺、東雲 扉音は、自分で言うのもなんだが、中々人生頑張っていると思う。高校の時に両親に先立たれ、弟のために大学を諦め、就職し、慣れない仕事の傍ら、家事をこなし……。ようやく仕事にも慣れ、アキラも成長した今、前よりも生活が楽になると思っていたのだが……。
「おい、アキラ、飯!」
「ん~」
「手伝えって!」
「ちょい待ち~。今忙しいんだって」
「スマホ弄ってるだけだろうが! リア充LINE厨!」
 一向に動こうとしない弟に蹴りを入れる。しかし、反応はない。
「もしも~し! アキラさ~ん?!」
 肩をちょいちょい突いても全く動かない。丸無視だ。
「お~い。そんなにスマホが面白いか~?」
「キモっ!」
 一体何をそんなに真剣に見つめているのだろうと、気になって覗こうとした瞬間、アキラは慌ててスマホを隠す。
「なに? やましいことでもしてんの?」
「してねぇよ」
「んじゃ、見せてくれたっていいじゃん」
「うざ!」
「ひど~い。反抗期こわ~い!」
「キモいつってんだろ」
「む~」
 茶化しても止まらない暴言に、頬を膨らませてみる。
「くそ。幼稚な真似してんじゃねーよ!」
 案の定飛んできた言葉の追撃に、反撃を怯むほど俺は臆病じゃない。言葉が駄目なら、実力行使だ!
「隙ありっ! こちょこちょこちょ~!」
「わ、やめろって!」
 弟の腋に手を挟み、全力でくすぐってやる。が……。
「こちょこちょ~って、あれ……。あんま効いてない?」
「いっつもやられてるから慣れてんだよ。いい加減学べっての」
「チッ。一丁前に耐性つけやがって! だが、これでどうだ!」
「どうだって、変わってないだろ」
「速度が速くなってる!」
「しょうもな。邪魔だから退けって」
「ぐ~! 俺は諦めない~!」
「ええい、鬱陶しい! これで満足か?!」
「わ、馬鹿! くすぐり返す奴があるか! や、やめ……」
「やめろって言ってもやめなかったのは兄ちゃんだろ?」
「待っ、やめ、んんっ……!」
「な、何だよ、その声……」
「っ、放せ!」
 人に触られるのは、どうも苦手だ。特に、アキラの手は、なんだかぞわぞわして嫌なんだよ……。
 肩で息をする俺に刺さるアキラの視線がなんとも恥ずかしい。
「ば、馬鹿にするならすればいい!」
「チッ。ほんと、兄ちゃんは馬鹿だよな!」
「うわ、逆ギレすんなって!」
 二階に駆け上がっていく弟の後ろ姿に、やってしまったと後悔する。
「は~。また怒らせちゃったな。アイツ、スキンシップ取ろうとすると、すぐにキレるんだよな……」
 たった二人の家族なんだから、俺としてはもう少し仲良く過ごしたい。でも、思春期の少年に、そんな家族愛を求めるのはやはり無理なんだろうな……。
「少し前までは、俺にべったりくっついてて可愛かったんだけどなあ……」

 なんとか機嫌を取り、二人で夕食を食べ終わり。アキラを風呂に追いやり、食器を水に浸ける。一日の終わりを感じて、いよいよ体は疲労を訴える。
 最近、体がしんどくて敵わない。それもこれも、睡眠の質が悪いせいなのだろう。眠れたとしても、すっきりしないというか。余計に体が怠くなるというか。悪夢を見ている気がするのだ。何か拒絶するべきものに襲われている夢。ふわふわとしか覚えていないが、その恐怖のせいで、眠ること自体が怖くなってしまって。
 こんなことでは東雲家の平和は守れない。だから、今日こそは良質な睡眠を目指して……。
「上がった。次、どうぞ」
 丁度食器も片付き、決意を固めていたところに、アキラがパンイチで現れる。
「お前は、またそんな格好でうろついて……! おっさんぽいからやめなさい!」
「別にいいじゃん。兄ちゃんしかいないんだし」
「俺が嫌だって言ってるの!」
「あ~、はいはい。キヲツケマ~ス」
「ったく。んじゃ入ってくるから、ちゃんと頭乾かして寝ろよ?」
「ハイハイ」
 全く気を付ける様子のない弟に、ため息を吐きながら風呂場に向かう。思春期だってんなら、可愛く恥じろっての。

「あっつ~」
 調子に乗って風呂に浸かり過ぎた。いや、だって疲れには効くかなって思ってさ。
「おい、キモイ格好してんなよ!」
「は? キモ……?」
 ソファで伸びている俺に向けられた暴言に首を傾げる。格好……? パジャマのボタン、一個外してるだけで、後は至って普通。きっかり着てますけど??
「着るならしっかり着ろ。馬鹿」
「お前ね、自分の格好見てから言えよ」
「オレはいいんだよ!」
「じゃあ俺もいーじゃん。なんなら上全部脱ごっか?」
「キモいって言ってんだろ!」
「あっ、こら! また部屋に籠る!」
 余りにも理不尽過ぎるが、とりあえずボタンを留めてため息を吐く。
「世間のママさんたちは、一体どうやって息子の反抗期を乗り切ってるんだろ……」
 相談する人もいないので、俺は結局弟の心理がわからないままだった。いや、きっとアキラも口には出さないが、親が居なくて寂しいのだろう。その寂しさが理不尽な言いがかりに繋がっているのだ。彼は、言いがかりをつけることでしか自分の感情をぶつけることができないのだろう。そう思うと、なんだか俺の方が悪かったような気がして……。

「おーい。寝てんのか~? 起きろ起きろ~!」
 駄目だ。全然起きん……。
 とりあえず和解を図ろうと、弟の部屋をノックしたはいいものの、返事はなく。ならばと侵入してみたところ、なんと彼は静かに眠っていた。うらやましい奴め。
「もしも~し! お兄ちゃんだよ~!」
 どれだけ揺さぶって耳元で叫んでも、起きる気配が全くない弟に呆れる。
「快眠野郎め。ふざけやがって……。てか、こっちは風呂上がりで寒いんですけど。温かそうだな、おい」
 人肌で温められた毛布の誘惑に負けた俺は、弟の隣に潜り込む。
「うわ、あったか~い!」
 思った通り、布団の中は温かく、一度入れば中々出られないやつだ!
「こいつ、体温高んだよな~。うらめしい。あそれ、ぎゅーっとな」
 試しに抱きしめてみた弟の体は驚くほどぬくぬくで、人間湯たんぽで……。
「ダメだ、こっちまで、ねむ……」
 久方ぶりの心地よい眠気に襲われた俺は、その温かさに身を委ねて意識を手放した。

 ちゅ。ちゅ。
 ん……? ネズミが鳴いてる……? これ、夢……?
 なんか、重たい……。誰か、のしかかって……?
「っひゃわ?!」
 いきなり首筋を生暖かいものに撫でられ、意識がはっきりとする。
「な、な……?」
 混乱したまま目を開くと、そこにいたのは弟。弟が、のしかかって俺の首筋を舐めている。
 どういうことだ?!
「恥ずかしがらなくていいよ」
「な、なに……?」
 耳元で囁かれるその声は、いつもの弟のものではなく、低く、真剣で、丁寧で……。
「気持ちよくしてあげる」
「っ~!」
 不覚にもぞくりとして、思わず耳を覆ってしまう。
 確かにこいつは、どこで間違ったのか、俺と違ってカッコいい。高校ではファンクラブができるほどモテてるんだとかなんとかを聞いたことがある。
 でも、だからってこいつは、パンイチでおっさんで反抗期真っ只中の可愛くない愚弟で……。
「や、やめろ、馬鹿……!」
 考えている間にも舌は首筋を這いずり回り、ところどころを軽く噛んでゆく。
「おいって、寝ぼけてんのかよ、こら、アキラっ、退けって、くそっ……」
 手首をがっちりと掴まれ、のしかかられた今、足掻いてもビクともしない。悲しいかな、腕力でも弟に劣るとは……。
「ん……。ユイ、好き」
「痛っ! てか、ユイって誰だよ!」
 鎖骨に噛みつかれた俺は、悲鳴を上げながら記憶を辿る。ユイ……。確か、アキラの新しい彼女の名前だったな。ってことは。
「こいつ、やっぱ寝ぼけて……。馬鹿! 起きろ! こんな気持ち悪いこと、さっさと、んぐっ」
「騒がない」
 アキラの手の平で口を塞がれ、言葉を閉ざされる。その眼差しは、いつもの反抗的なものではなく、どこか色を秘めていて、俺はじわじわとこの状況が不味いことに気づく。
「んっ、んんー!!」
「ふ、可愛い。可愛いなぁ、もう」
「んっ、んんっ!」
 冗談じゃない! このまま流されてたまるものかと、なんとか声を出そうとするが……。
「ほんと、好き、大好き、もう、抑えられない」
 耳元で熱っぽく口説かれた童貞の俺は、色んな感情が混ざり合って一気に羞恥に襲われる。
 こんな台詞吐かれたら、女の子ならイチコロじゃないか……。実際、男の俺でも、なんかクラクラして……。
 って。いやいや! そんなこと言ってる場合じゃねえ! このままじゃマジでやばい!
「むぐー!!」
 不穏な気配を感じて、アキラの顔面を何とか押しのける。そんでもってアキラが怯んだ隙に、腹に蹴りを一発。よし、いいぞ。奴は体勢を崩した。このまま脱出を……。
「痛った。なに? 抵抗するの? 馬鹿だな」
「っは! 馬鹿はお前だアキラ! いい加減目を覚ませ! 俺はユイちゃんじゃな……」
「大人しくしてればいいものを」
 ゆらりと再びのしかかってくるアキラに、心臓が縮まる。
 誰だ、これ……。
 いつも見てきたアキラではない。確かに、こいつは捻くれたところがあった。けど……。目の前の嗜虐的な顔に、今度は俺が怯む番だった。笑ってるようで、全く笑ってないその瞳は、獣のように俺を睨んで逸らさない。
「おい、アキラ。これは、違うぞ? なあ、頼むから、いい加減に、目ぇ覚ま……」
「黙ってろって、言ってんだけど」
「んむ!」
 再び口が強引に塞がれる。しかし、今度は手のひらではなく……。
「んんんんっ!」
 な、なんで弟にキスされないといけないんだ!!
 唇で蓋をされた言葉は、容赦なく入ってくる舌によってかき消される。
「っは、ん……」
 な、なんだよ、これ……。舌が……。っ、汚いのに、汚いのに……。
「ぷはっ……」
「息、ちゃんとしろよド下手」
「は、は、あ……」
 駄目だ……。こいつ、多分すげー上手い……。童貞には、刺激、強すぎて……。頭が痺れる……。心臓どくどく言ってる……。力、抜ける……。
「……ほんと、ムカつく」
 ふわふわする意識の中で視線が交わった瞬間、アキラは目を細めたかと思うと、暴言を吐き、再び唇を重ねる。
「んむっ、う……」
 碌に抵抗できないまま、薄く目を開いてみるが、目の前の現実に耐え切れなくなり、一瞬で目を閉じる。
 ああ、今、俺は弟と……。うう、情けない……。されるがままに口内を掻き回されて、感じるなんて……。こんなの……。
「どう?」
「んえ?」
 口を離したアキラが、こちらを真っ直ぐ見つめて意地の悪い顔をする。
「気持ちいいでしょ? 泣いちゃうぐらいにさ」
「な、泣いてなんか……!」
「そう?」
 手を伸ばしたアキラに目元を拭われる。確かにそれは濡れていた。触れられて初めて気づいたけど、どうやら俺は本当に泣いていたらしい。いや、ただほんのちょっとだけ涙目になっただけだ! 完全に泣いてるわけじゃない!
「じゃあさ、もっと気持ち良くしてあげないとだな」
「えっ」
 アキラに手を取られた瞬間、俺は顔を背け、口を堅く結んだ。そう何度も簡単にキスされてたまるか……って。
「手……?」
 俺の予想を裏切ったアキラは、まるで王子が姫にするみたいに、俺の手の甲に口づけを落とした。
 わ、わからない……。これは、どういう状況なんだ?
「ぼーっとしすぎ」
「っひ!」
 ちょっと油断した隙に、べろりと手の甲を舐められたかと思うと中指を噛まれ、指をあちこち舐め回される。
「あ、アキラ、汚いことするな馬鹿! いい加減やめろ阿保!!」
「阿保って。オレに言ってんの?」
「う……」
 喝を入れたつもりが逆に威圧され、指の腹を舌で撫でられる。幼稚な行動のはずのそれは、彼がやるとなんだかとてもエロい。せり上がってくる何かを押さえつけながら、俺はそれから目を逸らすことしかできなかった。
「ユイってば、いつの間にオレにそんな口、聞くようになったわけ?」
「だからっ、お前、寝惚けて……」
「そっちから誘ったんだからさぁ、責任、取れよ」
「へ?」
 唾液がついたままの手は、誘導されるがままに弟の服の上を滑らされる。それはどんどん下に下がってゆき……。硬くなったそれに当たった瞬間に、さぁっと血の気が引く。
「んな、何してっ?!」
「わかるだろ? 欲情してんの」
「お、おい、待て! 違う、俺はっ、ん……!」
 三度目の口づけは今までよりもさらに深く、激しく掻き乱され、太ももに当たる固い感触も気に留められないほどに、俺の呼吸は荒くなる。
「んっ、んんあっ!」
 だらだらと口から唾液が流れる。舌が、歯が、口の中が、体全身が、電撃が走ったみたいに痺れて上手く動かない。
「エロ過ぎだろ」
「っは……」
 解放されても上手く起き上がれなくて、そのままアキラが離れるのをぼうっと見つめる。
 でも……。駄目だ……。今、何時……? 弁当の仕込みやんなきゃ……。それと、仕事の資料、作って寝ないと……。明日、早いし……。こんなこと、してる場合じゃ……。
 頭の片隅で警報を鳴らす理性に、よたよたと起き上がりかけるが……。
「おい、大人しくしてろ」
「ん。いや、アキラこそ、早く寝なきゃ……。明日、寝坊する……」
「このまま眠れるとでも思ってんのかよ」
「わ!」
 アキラに再び肩を押され、布団の上に倒れ込む。
「自覚が足りない鈍感野郎には、自分の脆さをわかってもらわないとな」
「は……?」
 自覚がないのは寝ぼけて相手を間違えてるお前の方だろ!!
 弟のドSっぷりに思わず頭を抱えそうになるが、それも叶わない。
「よし、これで手は使えないだろ」
 いつの間にかアキラが持ってきていたビニール紐で、両の手首を縛られたからだ。もちろん抵抗したのだけど、あっさりと力でねじ伏せられてはどうしようもない。
「さてと」
 アキラは満足そうに見下ろしたかと思うと、俺のパジャマのボタンに手を掛け……。
「ほら」
 ぷちり。一番上のボタンが外れる。
「外すよ?」
 ぷちり。二番目のボタンが外れる。
「いつもかっちり着込んでるけどさぁ」
 ぷちり。三番目のボタンが外れる。ここまでくると、普段めったに晒さない肌が、空気に触れて心もとない。
「アキラ待っ……」
「ほんと肌白くてさ」
 ぷちり。アキラは俺の制止を全く無視して、嗜虐的な笑みを浮かべる。
「細くてさあ」
 ぷちり。台詞と共に吐かれた息が、首を撫で上げる。
「そそるんだよねえ」
 ぷちり。最後のボタンが外されたときには、俺は羞恥に耐えられず、唇を噛みしめて俯くことしかできなかった。
「はい。全部外したよ。さ、開くよ?」
「や、やめ」
 たかがシャツ一枚。男が上半身を見られて恥ずかしいことはない。はずなのに。ねっとりとしたアキラの視線と、絶妙な声音に、まるでいけないことをしているような気になって、無意識に体が震えていた。
「恥ずかしいの?」
「う、うるさ……っわ!」
 俺が文句も言い終らないうちに、ボタンを弄んでいたアキラは目を細めると、いきなりシャツを乱雑に開く。
「ふ~ん」
 じろじろと舐め回すように、晒された肌を見つめるアキラ。その楽しそうな表情に羞恥と怒りと疑問が浮かぶ。
「おい! いい加減やめろ。ていうか、明らかに女のと違うだろ、お前、ほんとに目覚めてないのか?!」
「ふ。乳首、明るいとこで初めて見た。思ってた以上に可愛い色してんな」
「っ! 聞いてるか?!」
「舐めちゃおうか?」
「や、やめろ……」
 にまにまと笑いながら舌を出してみせるアキラに、血の気が引く。冗談じゃない。俺にそんな趣味は……。
「っん!」
 アキラの口が近づいたかと思うと、ふう、と息を吹きかけられ、堪らず変な声が出る。
 あ……。な、舐められるかと、思っ……。
「恥ずかしいんだ。ほら、尖ってきてる。ね、ほんとに舐めたげよっか?」
「じ、冗談が過ぎ、るっ?!」
 生暖かくぬるりとした感触。それが胸を舐めた瞬間、全身がぞわりと震える。
「あは、舐めちゃった」
「お、前、こんなことして……」
「こんなことされてさ」
「痛ッ!」
 再び舐めたかと思うと、勢いよく吸われ、甘く噛まれる。
「感じたらさぁ」
「は……」
 弟の舌でこねくり回された胸は、次第に熱を持ち、疼きだす。
 駄目だ、こんなの、違う。違くて……。
「それこそ変態じゃない?」
「ん、な……、んんッ!」
 きゅっと強く摘ままれた瞬間、感じたことのない快楽に痺れ、熱い吐息が零れる。
「ねえ。兄ちゃん?」
 あ、あれ、こいつ、今、兄ちゃんって言ったか……?
「あ、きら……?」
「なぁに? 兄ちゃん」
 目が合った瞬間、にこりと微笑む弟に、感じていた熱が一気に冷める。
「お、お前、やっぱり、揶揄って……」
「揶揄ってたんじゃないよ。別に」
「い、今すぐやめろ! 俺は怒ってるぞ?」
 震える声でアキラに訴えるが、彼の顔色は変わらない。それどころか、より一層楽しそうに笑って……。
「兄ちゃんさぁ、オレに触られてさぁ」
「いっ」
「感じるんでしょ?」
「痛いっ、抓るな、そんなんじゃな……、ひっ」
「じゃあ、これは?」
 ぺろぺろと執拗に舐められた胸は、再び熱を取り戻してゆく。違う。こんなの違う。違うのに……。
「ん、はぁ……」
「感じるんでしょう? いいんだよ。素直になって」
「ふあっ!」
 突然歯を立てられた瞬間、胸が痺れて、堪らない快感が体の奥からせり上がる。
「ぷ、声、抑えられなくなっちゃったね」
 なんだこれ。なんで、なんで、痛いはずなのに、こんな……。
「可愛いなぁ。俺のおかげで感じるようになっちゃってさぁ」
「ちが、これは、そういうんじゃなくて……」
「へえ? じゃあさ、これは?」
「あっ」
「何で硬くしてんの?」
 ふいに触られたそれは、ズボンの上からでも分かるほど欲に支配されていて……。
「ば、馬鹿、触るな! っあう」
「触ってほしいの間違いだろ?」
 つう、となぞられただけで、全身がもどかしく震える。
「お、前、なぁ……!」
 なんとか言葉を紡ごうとしたところに、四度目の口づけが落とされる。それは、先ほどとは違い、触れるだけのキスだったけど、今までで一番丁寧で、真剣なものだった。
「素直になればいいのに。どうせここにはオレと兄ちゃんしかいないんだからさ」
「正気、なのか……?」
「そんなに怖がらないでよ。気持ち悪い?」
「あ、あたりまえだろ?! こんなの、普通じゃない!」
「酷いなぁ。たった一人の家族じゃん」
「だからだろ? だから、こんなことしたら、駄目に……」
「ならないよ」
「んっ」
「ねぇ、本当に駄目?」
「さ、触るなって、言って……!」
「黙ってたら誰にもわかんないよ?」
「っ……」
「ね、兄ちゃんとオレだけの秘密にするから、ね?」
「あ……」
 それなら。
 ぐらり。触られた熱に、理性が傾く。
「ほら、全部オレに任せればいいから、ね?」
「う」
 アキラがズボンに手を掛ける。このままいけば、流されてしまう。そう思った俺は、最後の力を振り絞り……。
「退け!」
「うわ」
 アキラに向かって蹴りを飛ばした。それは、見事にアキラの腹に入って。
「あ、悪い……。その、大丈夫か……?」
「それが答え?」
「え?」
 腹を抱えて丸まったアキラが、ゆらりと立ち上がる。
「せっかく、あま~く慣らしていこうと思ったのに。兄ちゃんはほんと馬鹿だね」
「ひっ」
 にこりと笑ったアキラが、俺の足を取り、ズボンの裾を引っ張る。
「おい、ほんと、やめろ! 早くこれ、解け!」
「うるさいなあ。少しは黙ってなよ。ほら、脱がすよ?」
「やめろって!」
「本当に駄目なの?」
「な、だ、めに、決まって……」
「あは、まぁ兄ちゃんの許可なんかいらないよ」
「あ、待……」
 抵抗も虚しく、ズボンと共に下着まで脱がされ、ついに裸になった俺は、弟から目線を逸らす。
「恥ずかしい? 恥ずかしいよねえ?」
「っ、あき、ら。頼むから、そんな目で見ないで、くれ」
「そんな目って? オレが兄ちゃんのこと、犯したくてたまらないって思ってるのが、わかっちゃう?」
「っ……」
「あはは。やっぱり予想通り可愛いね」
「う、うるさい、お前、兄にこんなことして……」
「楽しいよ?」
「あっ!」
 つつ、と直に指でなぞられる。それだけで、萎えかけた欲が再び身を震わせる。
「弟に見られて、触られて、嬉しいね、兄ちゃん?」
「ふ、ふざけるな……!」
「ふざけるな、は兄ちゃんの方だよ」
「なに?」
「オレの想いにも気づかないでさぁ。呑気なもんだよ」
「?」
 アキラの想い? 俺のことがムカつくってことか? だからって、こんな悪ふざけ……。
「ほんと、ムカつく」
「あ、いっ!」
 いきなり胸を指で弾かれ、身体が強張る。予測していなかったその刺激は、痛みのはずなのに、やはり快楽を伴っていて。
「はは、相変わらずいい反応だね、兄ちゃん」
「お前、やっぱ俺のこと揶揄って……」
「さぁ。どうでしょうかね。そんなことよりもさ。ココも、触ってほしいよね?」
「な、に……?」
 尻の穴にひたと当てがわれた指に、体の奥が疼く。とんとんと叩かれたそこが、なんだか異様にムズムズして……。
「待て、何をする気……」
「大丈夫」
 アキラはそう言って微笑むと、俺の目の前で、どろりとした液をにちゃにちゃと指に絡めてみせた。
「っ……。な、んでそんなもの……」
「兄ちゃんのために決まってるだろ」
 ローションの容器をぽいと捨てたアキラは、そのまま指を穴に沈めてゆく。
「いだっ、ひっ、怖……!」
「力抜いて、兄ちゃん」
「あっ」
 前をくすぐられ、感じた隙に、指が奥までずるりと入り込む。
「ね、大丈夫でしょ?」
「あっ、っん……!」
 痛いはずなのに。気持ち悪いはずなのに。指がぐちぐちと中で動く度に、性欲が高まって……。き、気持ちいい……。こんなとこで感じるなんて、そんなはずない。のに、なんか……。
「気持ち良くて仕方ないって顔してる」
「そんな、女みたいな、こと……、あるわけ……」
「恥ずかしがることはないよ。兄ちゃんが女の子みたいに気持ち良くなっちゃうのは当たり前だもん」
「は……?」
「だってさ。兄ちゃんには、オレが何回かやってあげてるんだもん」
「は?」
 今、なんて……?
「寝てるときとか、気付かないもんだね。睡眠薬が強すぎたのかな。それとも、夢だと思ってた?」
「夢……?」
 そういえば、睡眠不足の原因である悪夢。あれは、確かに、アキラが出てきた、ような……。
「どこもそこも感じるの当たり前なんだよね。だって、オレがそう教え込んだからさ」
「教え込んだ……?」
 そういえば、悪夢を見た次の日は、異常に体が痛かった……。
「兄ちゃんの記憶がなくてもさ」
「っ!」
「ほら、身体は覚えてるでしょ?」
 ぐちゃりと生々しい音を立てて掻き混ぜられたそこは、確かにもどかしいほどの熱を帯びていた。まるで、それが悦びであることを知っているかのように。
「な、なんで……」
「ほんと、馬鹿だな」
「う、うあ」
「オレがどんな想いで兄ちゃんの側にいたのか」
「ひゃ! な、なに?!」
 熱を帯びたそこに、固く冷たいものが押し当てられる。ローションに浸されたそれは、いやらしい音を立てながら穴を広げて……。
「たっぷり考えてみてよ」
「は、あ……、入って……! あっ、うご、いて……!」
「玩具でも感じちゃう? 気持ちいいんでしょ?」
「あっ、だ、ダメだって、出、せ……! やっ……!」
「もう手遅れなんだよ、兄ちゃん。兄ちゃんの体は、とっくの昔にオレの物なんだからさ」
「こんな、の、知らないッ……!」
「大丈夫。二人だけの秘密にしてあげるって言っただろ?」
「こんなの、ダメだって……!」
「ほんとにダメだと思ってる?」
 アキラの指に押された玩具が、更に奥に当たる。
「だ、だ、め……。と、止め……」
「素直になりなよ」
「あ、あああっ!」
 胸を摘ままれた瞬間、中が絞まってアキラの指までしゃぶりつくす。
「ほら、見てよ。これが兄ちゃんの本当の気持ちだよ」
「や、やめろ……」
「俺に触られただけで、感じるでしょ?」
「あっ、あ、んんっ」
 前を擽られたことにより、耐え切れなくなったそこから液が先走る。
 駄目だ、駄目なのに。どうして、こんなに……!
「汚くて、欲に忠実で、はしたないでしょう?」
「うっ、ううっ……」
 アキラの指が涙をぬぐい、唇は俺の頬に優しく口づけを落とす。
「兄ちゃんはオレが好きなんだよ。ね、オレのことが欲しくてたまんないでしょ?」
「あ……」
 ふざけるな、と言いたいはずなのに、口をはくはくとしたまま押し寄せる欲を留めることしかできない。
「ねぇ、欲しいって言わないとこのままだよ?」
「う、もう、わけわかんな……」
「兄ちゃん、オレが欲しい?」
「ん、んん、も、掻き回すの、や……あッ!」
 玩具で中を掻き回される度に、熱くなったローションがぐちゅぐちゅと音を立てる。
「ほら、意地張ってないで。それとも、もっといじめて欲しいの?」
「う、ああっ。アキラっ、も、助けてッ……!」
 体中が熱くて、全てが欲に侵されて。情けなく弟に縋ることしかできなかった。涙を溜めて、息を震わすことしかできなかった。
「オレのが欲しい?」
「ん、ほ、欲しいッ」
「オレのこと好き?」
「ん、好きっ、好きだからっ、アキラっ……!」
「愛してる?」
「ああっ、愛してるっ! 愛してるからッ!」
 気づいたら、腰を動かしながら夢中で叫んでいた。そんな俺を見て、アキラは満足そうに微笑んでいた。
「その言葉、忘れんなよ?」
「ん、あっ、あああ!」
 頷いた瞬間、ずるりと玩具が引き抜かれる。さっきまで自分の中にあったそれは、ぬらりと糸を引きながら、振動を止め、横たわる。
 こんなんじゃ、足りない……。
「ああ、ほら、見てよ兄ちゃん。ココ、待ち遠しくてヒクヒクしてる」
「あ、アキラ……。いい、からっ! は、早くっ……!」
「ふふ、どっちの口も素直になっちゃってさ。ほんと可愛いな、兄ちゃん」
「あ、あああっ!」
 ずぶずぶと入ってきたそれは、熱くて、擦れる度にイってしまいそうで……。
「は、兄ちゃんの中、実は初めて入るんだよ」
「う、あ、あ、これ、なんか、んんっ、だ、め、腰、止まんな……!」
「ああ、気持ちいね、兄ちゃん! あ、もう、最高だ、これ……!」
「は、あっ! あ、きらっ、あっ、もうっ、で、る……!」
「は、兄ちゃん、可愛い、愛してる、愛してるよ……!」
「ああああっ!」
 今まで感じたことないほどの強い快感に、火照りきった体が震え、全てをぶちまける。次第に遠くなる意識の中、アキラの腕に抱かれ、口づけの甘さと余韻に浸りながら、俺は静かに目を閉じた。


「さ、最悪だ……」
 目を覚ましたベッドの上。あれは夢だったのだと、自分に言い聞かせようとした矢先、自分の手頸が目に入る。そこには、くっきりと縛られた痕が残っている。それに、腰の痛みも無視できない。しかも、着てる服も変わってるし……。
「あ、兄ちゃん起きた?」
「お、前、学校は……?」
 時計に目をやると、既に昼過ぎ。窓の外は気持ちにそぐわず、のどかで明るい。
「休んだ。風邪ってことにした。兄ちゃんの会社にも、休みの連絡入れといた」
「ん、そうか」
「うん」
「って、そうじゃなくて……!」
 勢いよく叫んだはいいが、その続きを口にするのが怖くて、俯く。
「ごめんね。あの後、調子に乗って何回か続けちゃったからさ。兄ちゃん辛いよね」
「っ……! ほん、とに、お前は……! お前は……どう、しちゃったんだよ……」
「ごめん」
「いつから、そんな……」
「いつからだろうな。でももうずっと前から、兄ちゃんが好きだよ」
 ベッドにそっと腰かけたアキラに引き寄せられると、そのまま後ろから抱きしめられる。その温かさが心地よくて、なんとなく振り払う気にはなれなかった。
「それは、俺しかいなかったからじゃないのか?」
「どういう意味?」
「お前は寂しかったんだ。母さんも父さんも一遍に死んじまったから。お前はまだ甘えたい年頃だったろう? それを全部俺に向けた。だから、お前は」
「勘違いしたって言いたいわけ?」
「そうだ。愛情に飢えたお前には俺しかいなかった。俺も、寂しい思いをさせないようにとお前のことを気遣ってきた。でも、それはお前にとって良くなかったのかもしれない」
「兄ちゃんはオレのこと愛してないの?」
「それは、愛してる。けど、お前のとは違う。俺の愛は家族としてであって……」
「オレにはわかんないよ。なんで家族として、とか区別つけなきゃいけないの?」
「なんでって……。普通に考えておかしいだろ、お前はおかしいんだよ、アキラ……。ああ、やっぱり、俺だけじゃ、ちゃんとお前を育てられなかった……」
 己の力不足に、後悔してもしきれない。弟を普通に育てることができなかった。俺は、間違ってしまったんだ。そう思うと、無性にやりきれなくて……。
「ねぇ、兄ちゃん。オレは駄目な子?」
「え、あ、そんなつもりじゃ……」
 肩口に顔を埋めたアキラが、心細そうな声で尋ねるものだから、俺は慌てた。
「兄ちゃんはオレのこと、おかしい奴だって思ってるの?」
「それは、だって、でも。あんなことするなんて、やっぱりおかし……」
 罪悪感に駆られながらも、なんとか言葉を紡いだ俺の唇に、アキラの唇が重なる。
「これも駄目なの?」
「あ、当たり前だろ!」
 真っすぐに見つめてくるアキラに、腕を振って遠ざける。
「ねぇ、兄ちゃん。二人きりの家でも常識って考えなきゃ駄目なの?」
「え?」
「オレたちはさ、親がいなくなったとき、普通から落っこちたじゃん」
「それは」
「オレ、外ではちゃんとしてるでしょ? 彼女だって、そりゃ兄ちゃんの代わりとして兄ちゃんに似た子とばっか付き合ってるけどさ、ちゃんと作ってるし。オレ、兄ちゃんより外面はいいよ?」
「いや、確かに俺より真っ当な青春送ってそうだけど……。って、ん? 彼女、俺の、代わり……?」
「オレ、これでも兄ちゃんに手ぇ出しすぎないように苦労してんだよ。もちろん、誰にもそんな理由、言ってないけどさ」
「お前、それ女の子が可哀想だろ……」
「女の子のこと庇うんだ?」
「いや、訳わかんないとこで拗ねるなよ。というか、もうなんか、頭ん中ぐちゃぐちゃでわかんねえよ……」
「そのままオレに委ねてよ。全部わかんないままでいいからさ。ここでだけは許してよ。兄ちゃんが好きだよ。お願い、それをオレに伝えさせてよ」
「アキラ……」
 子犬のように潤んだ瞳が、真っすぐに見つめてくる。久しぶりに見たそのおねだりモーションは、俺の心を確実に絆して、隙を作る。
 そのおかげで、アキラの何度目かわからないキスをまたしても受け入れてしまった。
「うわ、お前、伝えるって、言葉だけにしろ!」
「嫌だよ。オレだって、兄ちゃんに触りたいしキスしたい。もっともっと兄ちゃんを泣かせてやりたい」
「いじめだろ、それ」
「違う。兄ちゃんの弱ったとこ、好きなんだよ。俺だって酷いって思ってる。でも、可愛いから。兄ちゃん、可愛いから、もっと、見たくなるんだよ」
「俺が可愛いとか、お前大丈夫かよ」
「大丈夫じゃなくてもいい。ねぇ、そんなに駄目なことかな? オレの恋は間違ってる? 勘違い? こんなに好きなのに? 普通じゃない? これは紛れもない愛だって言い張れるのに? 許されないの?」
「それは……」
「お願い、兄ちゃん。せめて、兄ちゃんに彼女ができるまで、それまででいいから。お願いだから、オレと恋愛ごっこしてくれよ……」
「それは」
「だめ?」
「だ、だめだ。俺も、彼女作れるよう頑張るから、だから、お前も一緒に……」
「アハハ! 相変わらず兄ちゃんは馬鹿だね」
「は?」
 アキラのおねだりを何とか躱したが、明るく声を立てて笑う彼に嫌な予感がする。全く目元が笑っていないのだ。
「引っかかってくれたら優しくもするのにさ」
「お前……」
「兄ちゃんがどんなに普通じゃないと思っても、オレは兄ちゃんを愛することを止めない。パジャマのボタンを一つ外してるだけでも欲情しちゃうし、スキンシップ取られたら襲いそうになる。スマホだって兄ちゃんの隠し撮りばっか入ってんだよ? 兄ちゃんがどんなに嫌がったって、下剤飲まして、睡眠薬飲まして、玩具突っ込んで、オレなしじゃ生きていけない体にしてやる。兄ちゃんはオレだけのモノだ。誰にも渡す気なんてない」
「ひっ……」
 ぐい、と引き寄せられたかと思うと、そのまま至る所を撫で回される。指でなぞられただけだというのに、昨日の情事を思い出し、熱が再び蘇りそうになる。
「でもさ。気づいてるでしょ? もう既に兄ちゃんだって普通じゃなくなってるってさ。ね、大人しく認めた方がいい。そしたら、オレだって優しくする」
「違う。俺は違う。お前とは違う!」
「馬鹿だね。本当に。でもいいよ。オレがちゃんと気づかせてやるから」
「あ……」
 無理やり押し倒された体。重なる唇。熱い吐息。何度も繰り返される後悔と羞恥に蓋をする。そして。俺は結局、倫理を手放して、浅ましい欲に悦んだ。
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