アズアメ創作BL短編集

アズアメ

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(88)悪魔と魔法石

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 出来損ない悪魔×悪魔を捕縛しようとする青年。
 記憶の中の想い人勘違いBLが好きです!

ディア:黒の悪魔。人間たちにその力を狙われる。幼い頃自分を助けてくれたリトに再会し、行動を共にする。
ラパ:悪魔の力を狙う青年。幼い頃自分の村を襲った悪魔に復讐しようとしている。
リト:宝石商。ディアと行動し追手から逃げるが、ラパに捕まってしまう。
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 黒の悪魔。僕は、そう呼ばれて迫害されてきた。
 正直、僕が本当に悪魔という生き物なのかはわからない。だって、物心つく前から、僕は一人ぼっちだった。だから、力も上手く使えない。物の道理もわからない。それなのに、人間たちは寄って集って僕を捕まえようとする。
 でも、僕は逃げ続けた。奇跡的に生き延びることができていた。それはきっと、このお守りのおかげだ。そして。
「ああ。リト。君には本当に感謝しているよ」
 追手から逃げ伸び、息を整えたところで目の前の少年にお礼を言う。言わなければこの気持ちはきっと収まらない。
「はは。もうその台詞、何回目かな」
 軽快に笑った少年が眩しくて、僕は思わず目を細める。ああ。この少年はやっぱり僕の神様だ。



 まだ僕が幼かった頃の話。逃げ伸びる途中、空腹に耐えきれず、僕は動物の罠にかかった。
 なんて間抜けな最期だろう。きっとすぐに大人に見つかって、僕は動物よりも酷い殺され方をするのだろう。
 僕は恐怖に震えた。この世界を呪った。己の黒い瞳を呪った。これがあるから、人間たちは僕を悪魔と呼ぶのだ。ああ、これさえ抉ってしまえば、僕は人間として認めてもらえるのだろうか……。
 幼い心に闇が落ちる。その時の僕は、きっと醜い顔をしていただろう。それなのに。
「お前、何やってんだ?」
「え?」
 自分と歳の変わらない子どもが、警戒することなく僕を覗き込む。
「なにって……。その……。お腹空いてて、罠に、かかっちゃって……」
「うわ。ばっかで~。しょうがねえな、取ってやるからじっとしてな」
「へ……?」
 宣言通り、少年は僕を罠から救い、僕の瞳をまじまじと見つめた。
「お前の目、珍しい色してるな。宝石みたいで綺麗だ」
「は? 君、僕が怖くないの……?」
 自分でも嫌っている禍々しい瞳。それを宝石だの綺麗だのと言ってのける少年に驚いた。
「なに目ぇ丸くしてんだよ。こんな間抜けなお前のどこが怖いんだ? てかさ、お前、そんなに腹減ってんならついて来な」
「え?」
 手を引かれるままについて行くと、僕は少年の家に辿り着いた。
「大したもんはねえけど」
「えっ。いいの……?」
 テーブルに置かれたパンとスープに、限界を超えていた腹が盛大に鳴る。
「はは。食え食え! 困ったときはお互い様ってやつだ」
 そう言って笑う彼は、神様みたいだった。

「お前、泊まるとこないんだろ? 泊まっていけよ」
 久々の満腹に幸福感を抱いていた僕に、彼は躊躇うこともなくそう言った。
「えっと、でも、僕は……」
「狭いけどさ、一緒に寝れば温かいだろ?」
「でも……」
「ほら。寝る子は育つ、だぞ?」
 ボロボロのベッドに手を引かれるまま寝そべる。屈託のない微笑みを浮かべた少年は僕の手を握り、そのまま目を閉じた。
 絶対に寝れないと思った。一人でも眠れなくて困っているのに、他人と一緒に眠るなんて、できっこない。はずだったのに。
 あれ……。何かあったかくて、むずむずして、気持ちいい……。
 すぐ隣から聞こえる安らかな寝息を聞いている内に、僕の意識は薄れていった。
 その日、僕は久々にたっぷりと眠ることができたのだった。

「ありがとう。君のことは忘れないよ」
 翌日。朝食までちゃっかり御馳走になった後、僕は彼に別れの言葉を告げた。正直なことを言うと、僕はもっと彼と一緒に居たかった。僕は、自分を人間として扱ってくれた彼のことがすっかり好きになってしまっていた。でも。だからこそ、彼の傍を一刻も早く離れなければと思った。だって、僕は――。
「お前さ、こいつを持ってきな。足しにはなるだろ」
「わっ」
 少年が放ったそれを慌てて受け止める。ちかりと光ったそれは、夜空のように美しい宝石をあしらったペンダントだった。
「それ、俺が作ったんだ。初めて上手くいったやつ。守護の力が込めてある。少しはお前を守ってくれるはずだ」
「僕を、守る……?」
 言われた意味が分からずに、ペンダントと彼を交互に見つめる。
「見ての通り俺もさ、この歳にして苦労して生きてんだよね。だからさ、お前に同情した」
「そうか。君も、苦しいんだね……?」
 彼の家は、確かに家というよりは小屋で、家具もどこかから拾ってきた物なのか、全体的に古びていた。食事だって、あまり良い物ではなかったし。彼は僕と同じく全然肉がついていなかった。
「俺はさ、家族も村の仲間も殺されて、一人だけ命からがら逃げてきたんだ。情けないだろ? でも、幼い俺には何もできなかった。だからこそ、俺はどんな手を使ってでも強くなって、敵を討つんだ。俺はこの苦しさを乗り越えてみせる。だからお前も、何から逃げてるかは知らないが、生き延びてみせろ」
 彼の瞳に宿った憎悪と決意に言葉を失った。僕は今まで、自分だけが辛い目に遭っているんだと思っていた。でも、それは間違っていた。目の前の彼は己の不運を嘆きつつも、抗うための牙を研いでいた。ああ、僕は自分が情けない。
「これ。大事にするよ、ありがとう。僕も自分の運命に抗ってみるよ。そして、君の決意が実ることを切に願うよ」
「ああ。俺が敵を討ち、お前が生き延びていたその時に、再び会おう」
 差し出された手を掴み、握りしめる。その手の平の熱さを僕は生涯忘れない。神様みたいに僕の道を示してくれた彼を忘れない。


 そうして数年後。僕はあっさりと神様に再会してしまった。
「あ……」
 追手から逃げつつ護身のための魔石を購入すべく、とある町の宝石商を訪ねたところ。僕は、ふと一つの宝石に目を留めた。
 それは、僕が彼から貰ったペンダントと瓜二つで。気付いたら僕は興奮気味に宝石商の肩を掴んでいた。
「あの! これをどこで?!」
「え……? ええと、これは、オレが作ったんだよ」
「それじゃあ、もしかして、君は、あの時の……」
「ごめん、ちょっと思い出せないんだけど。オレ、キミとどこかで?」
「僕だよ! 君は僕を助けてくれた恩人じゃないか!」
 フードを取って顔を見せた僕に、彼は酷く驚いていた。でも、その顔には確かに喜びが浮かんでいた。
「その目、まさか……!」
「僕は君のおかげでここまで生きてこれたんだ。ただ、君にもう一度会いたいという思いだけで」
「ああ。オレもずっと会いたかったんだ、キミに! ようやくこの日が来たんだね!」
 彼は、本当に僕のことを待ち詫びていたのだと言わんばかりに、僕の手を取り、強く握った。
「それで、君は敵を取ることが出来たの?」
 運命の日、別れ際に誓ったあの約束を思い出しながら問う。あの日のような熱さが彼にはなかった。その手の平は、少し冷たいぐらいだった。
「ああ、うん。なんとかね」
 頷いた彼を見て思う。そうか。彼は成し遂げたのか。道理で落ち着いているわけだ。
「そっか。良かったよ。じゃあ僕はもう、いつ死んでもいいや」
 僕は心の底からそう思った。だって、彼の願いは叶ったんだ。そして、僕の願いも叶った。
 立派に成長した彼とこうしてまた言葉を交わすことができた今、何も思い残すことなどない。
「駄目だよ。キミはオレが死なせない」
「え?」
 彼は、やはり優しかった。あの時と変わらずに、優しかったのだ。
「キミはまだ死ぬべきではない。オレがキミを守るから」
「ああ……。君は本当に、僕の神様だ……」
 そうして、僕は彼に守られながら、追手から逃げた。僕は、何度も彼に僕を見捨てて欲しいと言ったのだが、彼は笑って首を振った。それがオレのためでもあるから、と彼は僕から離れようとしなかった。
 でも。



「リト!」
 教えてもらった彼の名前を叫びながら、後悔する。どうして僕は彼に甘えてしまったのか、と。どうして僕は彼の申し出を断れなかったのか、と。
 逃げきれたと思ったのに、追手の青年は僕らをあっという間に追い詰め、リトを殴り飛ばした。
「リト……」
 気絶してしまったリトからの返事は勿論ない。
「ふん。随分と手こずらせてくれたな。だが、お荷物が増えたおかげで、追いやすくなったよ。黒の悪魔」
 地面に横たわるリトの肩を足先で突きながら、青年がせせら笑う。確かに、僕一人で逃げていた時は、気配を消して行動していたため、追手に見つかることは少なかった。が、二人で行動するようになった今、リトの気配を感知することは彼にもできてしまう。つまり、これはわかっていたことなのだ。それなのに。
 僕は、リトと一緒にいたかった。リトが僕にくれた言葉が嬉しすぎて。つい自分の気持ちを優先してしまった。でも、それじゃ駄目だったんだ。リトがこんな目に遭ってしまった今、僕はもう、助けを乞うことしかできない。
「っ。お願いです。リトは逃がしてあげてください!」
「どうせ何か企んでいるんだろう? 悪魔め」
「違う! リトは僕の命の恩人なんだ! 僕はリトにだけは生きていて欲しいんだ! 僕のせいで死んでほしくないんだ!」
 リトに覆い被さり、叫び散らした僕に、青年が冷たい眼差しを向ける。
「こいつを助けて欲しいんだったら、お前のその悪魔の力をこちらに寄越せ」
「そんなの、やり方が分からない!」
「しらばっくれるか」
「本当なんだ!」
「お前はこいつに惚れているんだろう? だったら契約をしているはず……」
「違う! 僕とリトはそんなんじゃなくて! 僕は、子どもの頃に助けてもらったことがあって……! だから、僕は……」
「何でもいい。俺がこいつを殺さない内に、早く力を寄越せ」
「本当に、僕は何も知らないんだって……」
 惨めだった。自分の力のことすらわからなくて。そのせいで、大切な人を失ってしまうなんて。そんなの。耐えられる訳がない――。
「頼む、魔法石! 僕に力を!」
「ッ……!」
 目を瞑り、魔法石にありったけの祈りを込める。すると、すぐに魔法石が眩く光り、青年の視界を奪ってゆく。
 よし、今のうちに……!
「チッ。目眩ましとはこざかしい真似を」
「な……」
 リトに手を伸ばしかけた手を止め、振り返る。
 どうして効いていないんだ……?
 ピンチの時にこうして魔法石に祈ると、決まってその光が相手の目を眩ませた。でも、忌々しそうにこちらを見つめた青年の目は、しっかりと開かれていた。
「残念だけど。そんな出来損ないの汚らしい魔法石、俺には効かない」
「あ……」
 青年の手が、大切な魔法石を掴み取り、無理やり奪ってゆく。そして。
 ぱき。嫌な音がした。青年の開かれた拳を見ると、魔法石にひびが入っていた。
「やめろ! 僕の宝物に触るな!」
「目障りだ。捨てろ。こんなものに価値はない」
 ひび割れた魔法石を見て、ふつりと怒りが湧いてくる。
「よくも……。お前にこの魔法石の価値なんてわからないだろう。けど、僕にとっては大切なものなんだ!」
「ふん、こんな石ころ、ただのゴミ……」
「やめろ!」
「っと、何ムキになってんだよ、危ねえな!」
「返せ!」
 魔法石を取り返そうと、必死になって青年に殴り掛かる。が、いくらやっても彼を捉えることができなくて……。
「ふーん。そういう顔もできんだ。ちょっとぞっとした。悪魔らしいや」
「ふざけるな!」
 自分がどういう顔をしているかなんて、今はどうでもよかった。ただ、自分を守り続けてくれた魔法石を取り返したくて。気付いたら感情的に叫んでいた。
「ふざけるな、ね。それはこっちの台詞だ。お前は悪魔だ。そんな石ころに縋るほど弱っちくはない。思い出せ。己の業を」
「知ったような口を! 僕はただ、人間に追い立てられて逃げてきただけだ。悪いことなんか一つもしていない!」
「黙れ。お前の演技など、もう見たくない」
 青年の顔が酷く疲弊したように歪み、目を逸らされる。
 今だ!
 その一瞬の隙を突き、青年の手から魔法石を奪い取る。
「よし!」
 自らの手に収まった愛しいその石をそっと撫でる。ひび割れても尚、美しい色は変わらない。
「馬鹿め。その石を取るとは、お前は本当に愚かだ」
「ぐ……」
 青年の放った拳が腹を突く。魔法石に願っても、やはりその力は彼に効果はないようで。薄れゆく意識の中で、僕は必死に石を握りしめた。例え捕まったとしても、これだけは失わないように。


「おい悪魔。お前に仕事だ」
「う……」
 牢に捕らえられて数日。久々に開かれた扉から差し込む日差しに目が眩む。
「敵国を焼き払え。先日の自然災害でダメージを負った今が好機だ。すぐに赴くぞ」
「そんなことはできない!」
「これは国王の命令だ」
「この国の王様なんか知らない。どうせ僕には関係ない」
「いいからやれ。やらなければ、コイツをじっくり痛めつけてやるぞ?」
 そう言って、嫌な笑みを見せた青年は、すぐ側に横たわっていたリトの腕を掴み上げた。
「やめろ! やればいいんだろ!」
 数日間食事をとらないだけで、リトはみるみるやつれていった。僕もお腹は空いたけれど、彼ほどではないところをみると、やはり自分が人間でないことがよくわかる。
「そうだ。どうせお前は逆らえない。お前はもはやこの国の兵器に過ぎないんだからな」
 青年の言葉に、自分の運命を呪った。どうして僕は悪魔なんかに生まれてしまったのだろう。

「さあ、やれ! やらなければコイツが痛い目をみるぞ!」
「ッ!」
 脅されるがまま、目の前の国に手のひらを向ける。
 やらなきゃリトが殺される。僕のせいで彼が、僕の命の恩人が殺されてしまうなんて、あっていいはずがない!
 ちり。一瞬、手のひらが焼けるような感覚がした後、炎が目の前で膨れ上がる。
「行け! 全て燃やし尽くしてやれ!」
 青年の号令と共に炎が手から離れて、目の前にあるもの全てを焼いてゆく。
「はは。やっぱり出来るんじゃないか。悪魔め」
「……アンタだって、充分悪魔だ」
「……ああ。そうだな。違いない」
 たくさんの悲鳴を聞きながら、青年の顔を見ると、彼は僕に負けないぐらい青い顔をしていた。どうして彼はそんな顔をするのだろう。どうして僕はこんな力を使ってしまったのだろう。考えることがありすぎた。だから、僕の心はすっかり疲れて。気付いたら、僕はその場に倒れ込んでしまっていた。

 僕はどうして悪魔なのだろう。どうして僕はこんな力を持っているのだろう。
「っ……。僕は、こんなことをするために生まれたわけじゃないのに……」
「おいやめろ。泣き真似なんて意味がない」
 牢の外で見張っていた青年が、うんざりした顔で僕に吐き捨てる。
「泣いてなんかない。僕は、悪魔だ。泣くもんか」
「……そうかよ」
「そうだよ……」
 しばしの沈黙。噛み殺しても漏れてしまう嗚咽。突き刺さる青年の視線。
「俺にはお前の考えることが全く分からない。俺を惑わせて楽しんでいるのか?」
「僕だって、アンタの言ってることがこれっぽっちもわからないよ。僕は君が思っているような捻くれた悪じゃないのに」
 再び沈黙が二人の間を流れる。どこか食い違っている気がした。彼の中に誤解が生じているのは明白だった。
「ふん。お前に清い心があると言うのなら、さっさと力を俺に渡せばいい。そうすれば、わざわざお前があんなことをしなくて済む」
「そうしたら、アンタが直接力を振るうことになるんじゃないか?」
「は。元よりその覚悟は出来ている」
 そう言った彼の瞳は確かに強い意志を帯びていた。しかし、依然としてその顔色は悪く、本意でないことは明らかだった。
「安心しなよ。僕にはこの力を渡す方法なんてわからないんだから」
「……本気か? お前はあの宝石商と契約しているはずだ。だからこそあんな力が使える。そうだろう?」
「契約なんて、僕はしてない」
「そんなはず……。悪魔は己が気に入った人間の魂を吸い、力を使うはずで。人間の魂を吸わなければ悪魔は力を使えないはず……」
「僕は確かに悪魔なのかもしれない。だけど、僕は人間として育ったからそんなことは知らない」
「馬鹿馬鹿しい。自分が人間と同じだと?」
「僕は人間でありたいと思っている。だから、人の魂を吸い取ってまで魔力を使おうなんて思わない」
「嘘だ。それじゃあどうしてお前は力を使える?」
「知らないよ! 僕だってあれが初めてだったんだ」
「嘘だ」
「嘘じゃない。そっちこそ、僕がリトと契約したっていう証拠があるのか?」
「それは……。確かに、宝石商の体には悪魔と契約した証である痣がなかった……。でも、何故かは知らんがお前は宝石商に執着しているはずだ。彼の心を手に入れたいと思っているはずだ。だとしたら、契約していないとおかしい。悪魔は、己の欲に忠実な存在なのだから」
「僕は違う! そんなこと、しない!」
「本当に? あの宝石商、手に入れたいと思わないか?」
「だから、リトはそういうんじゃ……」
「よく言う。そんなくっだらない石大事にしておいて……」
「?」
「馬鹿じゃねえの?」
「あっ」
 ぶちり、と音を立ててペンダントのチェーンが切れる。
「こんなガラクタ、不吉なだけだ。こんなもの……」
「やめ――」
 じりりりりり。青年が魔法石を地面に投げ、踏みつけようとしたその瞬間、警報が鳴り響く。
「チッ。敵襲らしい。行くぞ。お前の力で何とかしてもらう。逆らえば宝石商の命はない」
「あ、待ってよ」
 牢の鍵を開け、くるりと背を向けた青年の後を追う。勿論、地面に転がったままの魔法石を大事に拾い上げてから、だ。

「霧の魔術だ。気をつけろ」
「気をつけろって言われても……」
 城の外では、いくつもの剣戟、そして魔法のぶつかる音が響いていた。
「くそ。お前、敵だけ狙って撃てるか?」
「そんなの、出来る訳……」
「やらなけりゃ、俺もお前も宝石商もここでお陀仏だがな」
 青年の言葉は嘘ではなさそうだ。視界が悪くてもわかる。戦況は芳しくない。次々とこちら側の兵がなぎ倒されている。城に攻め込まれるのもきっと時間の問題だ。
「でも、僕は……」
 人を傷つけたくなんてない。例えそれが敵国の人間だとしても。僕は……。
「クソ! 宝石商を連れてこい! 今すぐコイツの目の前で甚振ってやれ!」
 近くにいた兵士に青年が怒鳴りつける。が、しかし。返ってきたのは。
『その、そう思って先ほど宝石商を連れてこようとしたのですが、どうにも逃げられてしまって……』
「は?」
 汗を掻きながら説明する兵士に、青年の顔が引きつる。
「ディア!」
 そこにタイミングよく駆け込んできたリトが、呪符を投げて青年と兵士の視界を奪う。
「ッ!」
「ディア、今のうちに!」
「あ。待って、リト!」
 転けるようにして、伸ばされたリトの手を取り、駆ける。
「クソ……、逃がすか、よ……!」
「痛ッ!」
 青年ががむしゃらに放ったナイフが僕の手を掠める。
「ディア! 森まで走って!」
「わかった!」
 リトの姿は霧に紛れてすっかり見えない。痛みで離してしまった手は、もう繋げない。それでも、僕は言われた通りに森を目指して駆け抜けた。
「ディア、大丈夫。もうすぐこの悪夢も終わる。だから、もう少しの辛抱だ」
「うん」
 リトが言うんだ。きっとそうなのだろう。だけど。
「僕は、君に逃げて欲しいんだ……。君はこれ以上僕に振り回されてはいけない……。だから……」
 ふと、辺りに人の気配がないことに気づく。
「リト、どこに……」
 はぐれてしまった。冷や汗が背中を伝う。この戦場で、ただの宝石商である彼が逃げ切れるという確証はない。だから、僕は彼を霧の外に逃がしてやらなければいけないのに。
「リト……」
 返事をしてくれ。僕は君に守られてばかりじゃいけないんだ。僕は、僕の命を救ってくれた君を守りたい。僕は……。
『そこに誰かいるぞ!』『捕まえろ!』
 敵兵の叫び声に顔を上げる。自分のことかと一瞬思ったが、そうではないらしい。
 声のした方に目を凝らすと、ぼんやりと浮かんだ影が取り囲まれ、追い詰められていた。あの感じはきっと。
「リト!」



「クソ。最悪だ……」
 未だにチカチカする目を押さえながら森へと急ぐ。
 油断した。あの宝石商が呪符を隠し持っていたなんて。折角の悪魔を逃したとあっちゃあ確実に俺の首は飛ぶ。だが。
『そこに誰かいるぞ!』
 敵兵の声に舌打ちする。とにかくここで物理的に首が飛んだら元も子もない。
『……気のせいか?』
 全神経を集中させて、己の気配を霧に隠して様子を伺う。どうやら敵兵の中に勘のいい奴はいないらしい。
 離れてゆく敵兵に安堵し、息を吐こうとしたその時。
 チカッ。足元で何かが光る。これはあの宝石商のものか?
 不吉に光る赤い宝石を拾おうと屈んだ瞬間――。
『カア!』
「っ!」
 突然襲ってきた大烏に、体が傾く。危ない。そう思った時には既に遅く。
「っあ!」
 足を踏み外した俺は、崖の下へ真っ逆さま。とっさにダメージを魔石の力で軽減したが、状況が芳しくないことを悟る。
『おいあれ、ラパじゃないか?』『本当だ!』『捕まえろ!』
 随分と有名人じゃないか全く。
『こんなとこでくたばってるお偉いさんを見つけちまうとは、ラッキー!』
「誰がくたばってるって?」
 向かってくる敵兵に魔法で作った氷の刃を刺す。
『クソ! 増援を!』『魔獣を使え!』
 叫び声と共に、魔獣の唸り声が近づいてくる。
『アンタ、魔獣に弱いらしいな!』『今度こそくたばれ!』
 目の前に迫った魔獣の爪。蘇る過去の記憶。
「ぐあ……」
 勝手に身が竦み、回避が一瞬遅れた。結果、何とか爪を避けきった後、敵兵の放ったナイフが腹に刺さり。
『残念だったな』
「く……」
 立て続けに刺さったナイフを一つ一つ抜いてゆく。血が流れる。立とうとするのに体がいうことをきかない。焦れば焦るほどに手が血で滑り。
『くたばれ』
 大剣が振り翳される。ああ。終わった。俺の人生、呆気なかったな。やっと復讐できると思ったのに。
「リト!」
「は……?」
 目の前を炎が躍る。寸前まで迫っていた大剣は、一瞬にして灰になる。
「って、あ、れ? なんでアンタが……?」
 俺の顔を覗き込んだ悪魔が目を丸くして動きを止める。
「それは、こっちの、台詞だ……」
 いや、見当はつく。俺を宝石商と間違って助けたんだろう。
『悪魔だ』『本物か?』『初めて見た』『逃げろ』『いや捕まえろ』
「に、げろ……」
 悪魔に手を伸ばす。掠れ声で呟いたその言葉に、悪魔が驚いた顔をする。俺だって、どうしてそんなことを口走ったのかはわからない。諦めだろうか。いや、そんな偽善、今更必要ないはずだ。ああ。血の味がする。体が酷く重い。寒い。
「……死んじゃ駄目だ!」
 馬鹿だな。何でお前がそれを言うんだよ。何で……。
 霞む視界の中で、黒く美しい瞳を捉える。
 ああ。やっぱり、宝石みたいで、綺麗だ。


 昔、悪魔が村を滅ぼした。父も母も殺された。周りの人々も次々と殺されていった。
「あ、あああ……」
 怖かった。怖くて、俺はただ物陰に隠れることしかできなかった。
『ぐるるるるるるる』
 悪魔の唸る声が聞こえる度に、どれだけ恐怖したことだろう。
 結果的に、俺は生き残った。
 でも、他の村人は皆死んでしまった。一面真っ赤に染まった村を見て、俺はただ震えた。
 恐怖に。悲しみに。怒りに。
 生き残るべきではなかった。俺は皆と共に死ぬべきだった。そうしたらきっと、こんなに苦しみ続けることもなかった。だから。今度こそは――。


 目を開ける。
「え……?」
『ラパさん! 気がつかれましたか!』
「えっと……」
 悪夢で流した汗を拭い、辺りを見回す。
「なるほど。ここは病院か」
『ええ。森に敵兵が多数倒れていたところを見つけまして。駆け寄ってみると、ラパさんがその中心に倒れていまして。いや、さすがラパさん。敵を倒し、ご自分で応急処置まで済ませているとは』『いやあ、本当に。医者が要らない程完璧な治癒でしたよ』
「え?」
 確かに、あれだけ酷かった全身の痛みが嘘のように消えていた。ただ、手の平が焼けるように熱い。そういえば、この前、アイツが炎を使った時もこんな痛みがあったような……。握りしめていた手を解き、見つめる。
 は……?
 そこには小さく契約の印、悪魔の紋章が浮き上がっていた。
『ラパさん?』
「あ、いや。悪魔と宝石商は?」
 悟られないように、再び手のひらを閉じる。何故。どうして。何で俺の手にコレがあるのか。
『宝石商は逃げたようですが、悪魔は貴方の側で倒れていました。貴方がやったんでしょう?』
「俺が……?」
『とりあえず、悪魔と貴方のおかげで絶望的だった戦況は覆り、敵を退けることができたので。安心してお眠りください』
「ああ……」
 安心などできるはずがない。
「これは、一体どういうことだ……」


「おい。これは一体どういうことなんだ。教えてくれ」
 考えることを早々に諦めた俺は、牢の中の悪魔に問う。
「あ! もう歩いて大丈夫なの?」
 心配そうに駆け寄ってくる悪魔は、まるで邪気がない。
「やはり、お前が俺を治したのか?」
「それが、よくわかんないんだ。僕も必死で、何が何だか……」
「……これ。お前の印じゃないのか?」
「ん……?」
「悪魔が力を使うごとに、契約した人間の肌に小さく印がつく」
「え。そんな決まりがあるのか。あ、でも、ほんとだ。いくつかついてるね」
「ほんとだ、って……」
「いや、僕はただアンタを助けなきゃって思って、そしたらなんかこう、ばーっといつの間にか……」
「お前は俺との契約を今すぐ解除するべきだ。俺はお前を好きになることはない」
「ああ。確か気に入った人間と契約を結ぶ、だっけ」
「お前が契約すべきは、あの宝石商のはずだ」
「僕もそう思う。だってアンタは、僕のとっての敵だ」
「わかっているのなら……」
「だけど、なんか、見捨てたくないって思ったんだ」
「は?」
「アンタは綺麗だ。どうしてだか、僕はアンタが悪い人には思えない」
「とんだ口説き文句だな」
 吐き捨てながら、その黒い瞳を盗み見る。忌まわしき悪魔とどうしても結びつかない美しい色はやはり、幼い頃に出会った少年のものと酷似していた。
「お前のそのガラクタ、宝石商に貰ったんだよな?」
「ガラクタじゃない! これは、僕の大切なお守りだ。これがあるから僕は僕でいられるんだ」
 取り出した魔石を愛おしそうに撫でる悪魔に、咳払いをして手を差し出す。
「それ、よく見せてみろ」
「嫌ですよ」
「……あ、宝石商」
「え?」
「隙ありってね!」
「あっ!」
 幼稚な手で石を奪い、太陽に翳す。
 やはり、これは……。魔力の偏り方が。まだ粗い頃の……。
「はあ……。やっぱ、あの時のがお前ってわけか。んで……」
 心の支えであったあの子が、俺の復讐すべき相手だということ。薄々気づいていた。だけど。それならどうして。
「ラパ……?」
「俺は、お前を殺さないといけないんだ。だけど、お前は俺を殺そうとしない。それどころか、生かそうとする。何故だ。なあ、お前の本性はどれだ? お前は悪魔じゃないのか? どうしたら俺を殺してくれるんだ? 俺は、お前に遊ばれているというのか?」
「……僕は、ラパを殺したりしない」
「殺してくれと頼んでもか?」
「アンタは一体どうして死にたがる?」
「俺は……。お前は覚えていないのか? お前が滅ぼした村のことを」
「僕が?」
「俺はそこで生き残った。だから、皆の仇を取りたいと思った。でも、本当は。死に損ないの自分を皆と同じ死に方で消し去ってしまいたかっただけで……。俺は、一度そのチャンスを逃してんだよ。みすみす相手に塩まで送ってさ。だから、今度こそは……」
「ねえ、ラパ。まさか君は……」
「絶望の中、俺はただ、お前に会うためだけに力を磨いた。最初は魔石を作って売り。魔法が上手く使えるようになったら、城に兵として雇われ。そして高いとこまで上り詰めて、ようやくお前に会えたんだよ。さあ殺してくれ。さもなくば、俺がお前を殺してやる」
「ああ。なるほど。ラパがあの子だったとは。道理で魔法石が効かないはずだ。僕はてっきりリトかと思っていた。勘違いしていた。でもね、今やっとわかったよ」
「は?」
 ディアが微笑んだ瞬間、二人を隔てる鉄格子が溶けて消え去る。
「今の僕にはわかるんだ。ラパはあの時からずっと、僕のものだったんだ。契約の証が……ここに刻まれているはずだ」
「ひっ」
 ディアの手が足の付け根を撫でた瞬間、燃えるような熱さを感じる。
「これは、僕があの時につけたものだ」
「あの時って……」
「初めて出会ったあの日。僕が初めて人間らしい扱いを受けた日さ」
「な……、まさか寝ている隙に? 馬鹿げている。俺もお前も。敵同士だというのに、俺はお前を助け、そのせいでお前は俺を気に入り……。本当に。本来あるべきではない。こんな契約はやはり今すぐ解除するべきだ」
「どうして?」
「俺はお前を憎んでいるんだぞ? お前を殺したいとも思っている。そんな人間と契約するなんて、どうかしている」
「でも、僕はラパが良い。ラパじゃなくちゃ嫌だ」
「お前は囚われている。この宝石に。全て偽りに過ぎない。この不出来な魔石も。人間らしく振る舞うお前も。未だ死に損なっている俺も」
「偽りでもいい。僕は今、ラパが欲しい。それだけなんだから」
「やめろ」
「僕はラパを死なせたりはしない。ねえ、僕が魔法を使う度にラパの魂はすり減るんだろう? だったら、僕がまた補充してあげる」
「なに、言って……」
「ラパ。僕のものになって?」
「やめ、放せ……!」
 真っ黒い瞳を欲で揺らしたディアの馬鹿力に、為す統べもなく組み敷かれる。悪魔に憑りつかれた人間が唯一長生きする方法。それは確か、悪魔が得た魔力を増幅して、性交渉により人間に還元するもので……。
「お、前、知っていたのか?」
「わかんないけど、こうすれば、ラパに僕の力が注げるんじゃないかなって」
「やめろ、やめろやめろやめろ……」
「ラパ。愚かな僕を受け入れて? 今度は君を絶対に放さないから」
「あ、あ……」
 首筋を噛まれた途端、麻酔にかかったように全身が痺れて動かなくなる。そして俺は、相変わらず美しい夜空のような瞳から目を離すことが出来なくなってしまった。


 目を覚ますと、国が燃えていた。人々の悲鳴があちこちから聞こえていた。
「これは一体……」
「ああ、ようやく起きたねラパ」
 高い塔の上から街の様子を見下ろすラパの腕で、俺は不安で心を揺らす。
「お前がやったのか?」
「まさか。僕はラパ以外の人間に興味なんてない」
「じゃあ一体誰が……」
「君が命令するのなら、僕がこの炎を消してみせるよ」
 言いたいことはたくさんあったが、今、この国を救えるのは自分しかいないのであれば。
「ディア、頼む、消してくれ……!」
「わかった。それじゃあ、ここで大人しく待っていて」
 そうディアが姿を消した。直後、雨が大地に降り注ぐ。
「すごい……」
 人々の声が落ち着きを取り戻してゆく。彼はたくさんの命をその力により救ったのだ。やはり、ディアが俺の村を襲った悪魔だとどうしても思えなかった。

「やあラパ。少し見ない間に随分と腑抜けた顔になったね」
「!」
 突然背後から聞こえた声に振り向く。
「お前……。その姿は、なんだ……?」
 そこにいたのは、悪魔だった。だが悍ましい姿をしたそれの声は、確かに宝石商のものだった。
「あはは! 驚くよね? これがオレの本当の姿さ」
「そんな、まさか……。お前が、お前こそが悪魔だったというのか……?」
 目の前の悪魔は、にやりと笑った。それはディアと比べ物にならないくらい邪悪な雰囲気を纏っていた。
「オレ“も”悪魔だったのさ。人間は悪魔がディア一人しかいないと思ってるみたいだがね。実際にはもっといるさ。オレたちはディアみたいな出来損ないとは違って、普段は人間に成りすまして生きている。んで」
「あぐ……」
「人の魂を吸って生きてんだよ」
「ふざ、けるな……!」
 喉を締め付ける悪魔の手に、魔石をぶつけてみるが、びくともしない。
「特にさ、悪魔に憑りつかれた人間の魂ってのは元々上質でさ。ラパ、オレはアンタの魂がずっと欲しかったんだよ。アンタはただでさえ、このオレから一回逃れてんだ。覚悟はできてるんだろう? オレに殺されたいと思ってたんだろう? だったら、いいよなあ?」
「や、やめ……」
「やめろ」
 喉を押さえつける手が、炎で焼かれて放される。力を失い傾いた体は、温かい腕によって抱き寄せられる。
「ラパ。大丈夫だった?」
「ディア……!」
 ディアを見た瞬間、不安だった心に明かりが灯る。
「うわ。気付くの早すぎ」
「まさかリトが薄汚い悪魔だったとはな」
「は~。ついにバレちゃったな。面白かったよ。アンタらの勘違い!」
 睨みを利かせたディアに向かって悪魔が厭味ったらしく笑ってみせる。
「お前が俺の本当の復讐相手だったってわけか」
 そうだ。悪魔が複数いるというのならば、ディアが俺の村を襲ったという証拠にはならない。もっとコイツの正体に早く気づくべきだった。
「オレはさ、最初っからラパ目当てだったんだよ。強い魂を持ったアンタがいたから、あの村を襲った。んで、アンタだけを生かしておいて、村の連中を食べた後にアンタと契約しようと思ったんだ。なのに、アンタはまんまと逃げちゃっててさ。時間掛けてやっと見つけたと思ったら、そこの出来損ないと契約してるし。いや~、最悪な気分だったよ。まさか出来損ないに横取りされるなんて! その後、オレは見失ったラパを探すために、ディアを罠に掛けた。わざとラパが作った魔石を店に並べて待ち構え、オレをラパだと思い込ませた。そうすることで、オレは自然にディアの隣にいることができた」
「なるほど、まんまと僕は騙されたわけだ」
「契約した悪魔と人間は、嫌でも引き合う仕組みになっている。んで、契約した人間の気配は、他の悪魔が感知することはできない。だから、オレはお前たちを泳がせた。そして、ラパが昔逃した魚だと確信を持ったというわけさ。さあ、ディア。お遊びはお終いだ。人間に擬態することもできない出来損ないの力なぞ、たかが知れている。さあ選べ。大人しくラパを渡すか、オレに殺されるか」
 楽しそうに語り尽くした悪魔は、ディアの力を下に見ていた。実際、肌で感じる力は、リトの方が強かった。でも。
「どっちも違う。僕は、お前を倒してラパを守る」
「はっ。愚かな! それじゃあ、せいぜい苦しんで死ぬがいい!」
 リトが振るった禍々しい爪は、ディアの業火に阻まれる。そして、その炎はリトの体に燃え移り……。
「馬鹿な! 何故、出来損ないのお前がこんな力を……! オレが負ける……? そんなことが……!」
「うるさいなあ。僕、力の使い方わかんなかっただけだし。それに、僕にはラパがついてるからね」
「ああああああああああああああああああああ!」
 炎が消える頃には、跡形もなくリトは消えていた。ああ、俺はようやく仇が取れたのだ。
「……お前じゃなかったんだな」
「ん?」
 無事を確かめるように俺の体を撫で回していたディアが首を傾げる。
「俺の村を滅ぼしたの。それに、村が滅びた原因が俺だったなんて……」
「ラパ。君の仇は消えた。それでも、君はまだ死にたい?」
「俺は……」
 困ったように微笑むディアの手を取り、その甲に口づけを落とす。
「ディア。お前に任せていいか?」
「それはラパを僕にくれるってこと?」
「ああ。好きにしていい。どうせ俺は逆らえない」
「それじゃあさ。僕と一緒に旅をしよう。今度は人間から逃げるためじゃない。君とたくさん良いものを見るために。僕らの人生を取り戻せるように」
「お前となら何処へでも」
 夜空の瞳を輝かせて笑うディアにつられて、俺も甘い笑みをこぼす。これから先も、きっと力を狙う人間たちがディアを襲いに来るだろう。でも、今の彼はそんなものには屈しない。そして俺も。ディアが言うように、逃げるためじゃなく、人生を楽しめるように。今までの分たくさん笑ってやろうじゃないか。
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