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(102)殺人怪異と幼馴染
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夏休み。長い髪の女子生徒ばかりを狙う殺人怪異が出る。その怪異の正体は――。
十色×つきめ。幼馴染×怪異。バッドエンドホラーの予定が甘めハッピーエンドになりました……。
男が口紅つけるの、好きです!(は?)
淡海 つきめ(うつみ つきめ):生前は、クール・顔良し・剣道部部長として広くモテていた。が、恋に破れ事故に遭い、その怨念を晴らすために怪異となり果てる。
ネーミングは現桜(見ると桜は分解読み)。
雨露 十色(うろ といろ):つきめの幼馴染。八方美人な人気ナンバー2男子。好きなタイプは髪の長い子etc。
ネーミングは虚ろ嘘吐き(吐が分解読み)。
伊集院 寛子(いじゅういん ひろこ):十色のことが好きな女の子。髪が長い。
ネーミングはヒロイン。
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『長い髪の女子生徒ばかりを狙う殺人怪異が出るんだって』
蝉が鳴くのにも構わずに、補講終わりの教室で、女子生徒たちがうわさする。
『そういえば、今日もニュースで言ってなかった?』
『言ってたよ。〇×高の女子生徒が行方不明になったんだって』
『ヤバイよね』
『ヤバイヤバイ。だってもう何件目? ここらの高校、ほとんど被害が出てるって』
『ウチもそろそろ誰かが……』
『怖いこと言わないでよ!』
『でもさ、目撃情報とか、証拠とか全然無いらしくってさ。人間の仕業だとは思えないよね……』
『だから怪異のせいってわけね』
『怪異だろうと人間だろうと怖いことには変わりないよ』
『アタシ、今日絶対髪切りに行く!』
『それがいいかも。長い髪じゃとにかくヤバイ』
『てかさ、夏休みの補講も無くすべきじゃんね』
『それ』
『ほんと。ウチの高校、どうかしてるって』
あア、あの子かもしれなイ……。あの子かもしれなイ……。
乾いた喉を潤すようニ。その血を啜れバ、僕だっテ……。きっト……。
*
『きゃ~!』『淡海くん~!』『カッコいい~!』
女子からの黄色い声援。竹刀がかち合う音。そして、部員たちの勇ましい掛け声。
ウチの剣道部は、普段の練習にも多くの女子たちが応援にきてくれるのでありがたい。男どもの士気が上がるというものだ。
「よし! 十分間休憩!」『ウス!』
一学期がもうすぐ終わる。つまり、三年である俺たちは、そろそろ引退しなきゃいけなくなる。部長という肩書を押し付けられ、面倒臭くも感じたが、後輩を育成するのは中々面白くもあった。
『は~。やっぱ人気よね、淡海君。あんなにイケメンで実力のある部長、早々いないもの!』
『惚れない方がおかしいよ! ね、寛子も淡海君狙いなんでしょ?』
『私は、その、淡海くんより……』
『ん~? 寛子、もしかして他に好きな人でもいるの?』
『そ、それは……』
視界の隅で姦しく話に花を咲かせる少女たち。俺は、知らずの内にその会話に耳を澄ませていた。
寛子と呼ばれた彼女は、素朴で可愛らしい少女だった。彼女のことは前々から気にはしていたのだ。なにしろ……。
「よ、つきめ。部活は順調か~?」
「十色……」
片手を上げ、へらりと笑顔を浮かべながら近づいてきた彼は、雨露 十色。不愛想な俺とは違い、誰にでも愛嬌を振りまく優男だが、俺の幼馴染であり大親友だ。
「つきめってば、本当にモテるよな」
「お前だってモテるくせに」
俺が顔の良さでモテているのに対して、彼は人の良さでモテていた。いや、別に十色の顔が良くないという訳ではないのだが、女子曰く、俺に比べれば霞む、らしい。
「なあなあ、この中だったらどの子がタイプなの? 僕にこそっと教えてくれよ」
「いや、俺は別に……」
耳打ちしてくる十色から慌てて距離を取る。だって、そうしないと、心臓がうるさいから。
「なんだよ、他に好きな子でもいるってか?」
「それは……」
お前だよ、とは言えなかった。言えるわけがない。意気地なしの俺は、ずっと幼馴染の肩書を貫き通してきた。今更、壊せるわけがない。
「マジ? 女の子たちみんな悲しむぞ、このこの~」
「あんまり揶揄うな。あとくっつきすぎだ。お前のことが好きな女子から在らぬ誤解を受けても知らないぞ」
「ははっ。んなもんいねーよ」
『……うう』
俺たちの会話を聞いていたらしい伊集院 寛子が、うめき声をあげてその身をふらつかせる。
『はは~ん。なるほどね』
そのバレバレな反応を見て、彼女の隣にいた友人がしたり顔で微笑んだ。
ああ、もしかしたら、面倒なことになるかもしれないな。
その時の俺には、まだ余裕があった。
だって、十色は女に興味がないと言っていたから。女子がフラれる様を、幾度となく見てきていたから。だから、俺は、油断していた。十色が恋に現を抜かすことはないだろうと、信じ込んでいた。
*
「僕のタイプ?」
『そうそう。雨露君はどういう女の子が好きなのかなって』
放課後。部室に向かう途中、そんな会話が聞こえたものだから。俺は、思わず身を隠し、そのままお行儀悪く盗み聞きを続行した。
「大人しい子が好きだな」
『大人しい子……』
ああ、確かに彼は騒がしい子を好まないからな。
『外見は?』
「う~ん。黒髪が好きかな。長い方がいい。肌も真っ白だといいな。赤い口紅が似合いそうなぐらいに」
『口紅……』
口紅、か。俺には無理な話だな。
「つまり僕は、白雪姫みたいな子が好きなんじゃないかな」
『ね、もしかしてそれ、寛子のことじゃ……』
「ふふ、どうだろうね」
『ッ……!』
あれ……。これ、なんだ……?
十色は、伊集院 寛子をしっかりと見て微笑んだ。それを受けて彼女は、当然顔を赤くした。
眩暈がした。吐き気がした。
伊集院 寛子は、去年の文化祭で白雪姫を演じていた。そのとき、彼は彼女に何と言っていただろうか。
似合っているよ。
そう。ドレスを身に纏い、口紅をつけた少女に、似合っていると言ったのだ。それに対して赤面した彼女を見て、俺は彼女のことが嫌いになったのだった。
それが。その嫉妬は、やはり間違いではなかった。
なんてことはない。彼は、タイプなどという曖昧なものを語ったのではなく、はっきりとした人物像を示したのだ。伊集院 寛子を前に、告白したも同然だった。
ああ、なんだ。俺は失恋したのか。
馬鹿みたいに全身から汗が噴き出して、気持ちの悪さが増してゆく。
今日は、帰ろう……。それがいい……。
誰にも告げず、重たい足を引き摺って歩き出す。
ああ、蝉がうるさい。夕方だというのに、どうしてこんなにも日差しが強いんだ。汗が止まらない。頭が痛い。あれ……、なんか、目が回る……。白線が眩しい。車のクラクションがうるさい。うるさい。うるさい。うるさい――。
「……あ、れ」
気づいた時には、俺の体はアスファルトに打ち付けられていた。
目が、霞む……。痛い……。痛い……。俺は、死ぬ、のか……。
人々の叫び声。赤く濡れた地面。違う、こんなの、現実じゃない……。
『アア、カワイソウニ』
目を閉じると、どこからか声が聞こえた。
『マダ、ワカイノニネ』『オレタチト、ドウルイダ』『ウレシイナ』
歪なその声たちは、楽しそうに笑っていた。
『ネエ、キミガシンダノニ、キミノイトシイヒトハ、オンナトイッショニ、ワラッテイルヨ』
暗かった視界が晴れ、俺はいつの間にか教室に立っていた。そこには、当たり前のように十色と伊集院 寛子が寄り添って窓の外を見つめていた。
『そう。僕が好きなのは伊集院さんだよ。え? つきめ? どうしてアイツの名前が出てくるの? アイツはただの友達だよ。愛しているのは、君だけだよ』
『嬉しい……』
抱き合った二人が、俺に目をくれることもなく口づけを交わす。
『ニクイダロウ?』
……憎い。その言葉は驚くほど心臓に染み込んだ。
『アノオンナヲ、コロシタインダロウ……?』
ああ、そういえば、そうかもしれない。そうすれば、俺は楽になれるのかもしれない。
『ユルセナイ?』
許せなイ……。
『コロシタイ?』
殺したイ……。
どうしてだろうか。だんだん、考えることが面倒臭くなって。考えるより先に、勝手に言葉が口から洩れる。
「殺したイ……、殺したイ……」
心が真っ黒な闇に支配されていくのを感じた。だけど、今の俺にはそれがとてつもなく心地よくて。
『アハ。オメデト。キミモカイイノナカマ』『オメデトウ』『オメデトウ』
ざわざわと、楽しそうな声がこだまする。
そうして俺は、人生を終えた。
*
俺は、どうしてこんなに、長い髪の女が憎いんだろウ……。
どうして、その長い髪を切り裂いてやりたいんだろウ……。
どうして、その白い肌を真っ赤な血で染め上げたいんだろウ……。
どうして、少女たちを殺す度に、こんなに胸が痛むのだろウ……。
人を殺すのは、楽しいはずなのニ……。
動かなくなった少女の長い髪を切り刻む。その肌を切り刻む。そうして、気づく。
「あレ……。まだ足りなイ……」
決定的な何が足りない。
「あア、これじゃなイ……」
この子じゃないんだ。今から美容室に行こうとしていたのだ、と泣いて許しを乞うたこの子じゃなかったんだ。
俺は、誰かを探していたんだった。
赤く染まった少女を川に捨てる。これはもう要らない。
あア、あの子が憎い。あの子を遠ざけなくちゃ。早く引き裂いてやらなくちゃ。幸せになんてさせてやるものカ。
憎い。憎い。憎い憎い憎い憎イ――。
*
『ねえ、殺人怪異のうわさ、聞いた?』
『聞いた聞いた。なんでも、最近同じ高校の女子生徒ばっかり狙われてるって話』
『そうそれ。こう言っちゃ悪いけどさ、ちょっと安心したよね』
『でもさ、やっぱり誰かを探してるんだよね、きっと』
『ニュースでも言ってた。犯人は、きっと本命がいるんだろうって』
『怖いよね』
『本当に人間の仕業なのかな』
『だから、怪異の仕業だって言ってんじゃん』
『信じられないけど、信じちゃいそう……』
道行く女子高生たちの会話に薄っすらと微笑む。
彼女たちが言う通り、俺は数日前に殺した少女の制服に不思議と心が動かされた。消えてしまったはずの生前の記憶が、俺に呼びかけるのだ。あの制服の女を狙え、と。もうすぐお前の恨みを晴らせるぞ、と。
こつり、こつりとアスファルトを踏みしめる靴音に耳をそばだてる。
あア、あの子だろうカ……。
不自然なほどに整った長い黒髪を揺らしながら、少女が目の前を通り過ぎる。勿論、制服は最近殺してきた少女たちと同じものだった。
それにしたって、なんだろう。この胸の高鳴りは。
変に乾く喉を押さえる。こんな感覚は初めてだ。
あア、ようやく会えたのかもしれない。ようやく終わるのかもしれない……。
赤く染まる夕日の中、何も知らない少女を追う。
「ねェ、君。少しいいかナ」
少女の肩に手を置き、呼び止める。
あれ。熱い。彼女に触れた手が、どうしてだかすごく熱い。
本当に。彼女こそが、本命なのかもしれない。
確信を持ち、ゆっくりとこちらに振り返る少女に、引き摺っていた刀を振り翳す。
これで、全てが終わる。そう思った瞬間――。
「ああ、やっぱりつきめだ」
「は?」
どくり。振り向いたその人と目が合い、心臓が痛む。心臓など、とっくに機能していないというのに、だ。
“つきめ”。それは、誰の名前だっただろうか。
「やっと見つけた」
そう言って、その綺麗な黒髪を引っ掴んだその人は、そのまま地面へとそれを投げ捨てた。
「ウィッグ……」
「まさか僕が女装してるなんて、思いもしなかっただろう? つきめ」
その人好きのする笑顔は、見覚えがあるような気がした。ありすぎる気がした。
この人は、誰だっただろうか……。
蝉が鳴く。
ああ、うるさい。頭が、割れるように痛い……。
ああ、嫌だ。見られたくない。こんな姿、見られたくない……!
「あ、あア……」
「逃げても無駄だよ、つきめ」
縺れるようにして逃げる俺に、彼はぽつりと呟いた。
その声音が、妙に恐ろしくて。
彼は、怒っているのだろうか……。そんなこと、“今まで”一度も無かったというのに……。
「ぐァ……!」
ふいに浮かんできた記憶が、その先の何かにぶち当たって、ぶつりと途切れる。
嫌だ。思い出したくない。忘れていたい。だけど、憎イ……。
『あれ、淡海、くん……?』
逃げた先、燃えるように真っ赤な夕日に染められた少女が立っていた。
その素朴で可愛らしい少女を見た瞬間、全身が憎しみに、そして喜びに震える。
「イジュウインヒロコ……」
ああ、俺はこの子を探していたんだ。俺は、この子が憎くて。この子になりたくて。
『嘘だよね、淡海くん……。だって、淡海くんはもう……。私、夢でも見てるのかな……』
可哀想なほど顔を青くして怯えた彼女に、これ以上ないほどに優しく微笑みかけてやる。
「あア、やっと見つけタ」
少女の瞳に、恐ろしい顔をした怪異が映る。
そして――。
*
「伊集院さん! ……クソ、遅かったか」
彼女だったその残骸を見て、彼……十色が悔し気に吐き捨てる。
「……つきめ、いるんだろう?」
「あハハ。お前、怒っているのか? 彼女を殺したことを。まさか、俺に復讐する気カ?」
それでもいいと思った。じわじわと記憶が蘇ってくる今、この時間が、俺は恐ろしくてたまらなかった。思い出したくない。思い出すぐらいなら、彼の手で殺されたい。そう思ってしまった。
「お前はどうして黒い長髪の子ばかりを狙う? どうしてウチの女子生徒だけを狙う?」
「さてね」
「答えろ」
その冷たく強かな声に、周りの空気が震える。
……大丈夫。アイツは今、俺の姿を見ることすらできないはずだ。
少女を狙うときには、自ら姿を見せて犯行に及んでいたが、そこは幽霊。今みたいに人間の目に映らないように声だけを届けることだってできるのだから。
「さて。どうしてだと思う?」
精一杯の余裕のある声を作り、彼に囁いてやる。でも、彼に虚勢は通じなかったらしい。
「その質問の答え、つきめにはわかっているの?」
「……」
十色の言葉に答えることができなかった。どうしてか、なんて俺が聞きたいぐらいだ。
「呆れた。やっぱりわかってないのか」
わざとらしく肩を竦めた彼を睨む。コイツは、知っているのだろうか。空っぽな怪異となり果てた、俺の意味を、教えてくれるのだろうか。
「……分かっているんだったら、教えロ」
ふ、と微笑んだ彼の仕草に息を飲む。握った刀が小刻みに揺れて止まらない。
「つきめ、それはね、可愛い嫉妬なんだよ」
「ハ……?」
緩慢な動作で、彼の指が刀の血を拭いとる。そして、迷うことなくその血で俺の唇に朱を引いた。
「な、どうして、俺の姿ガ……」
言いたいことはたくさんあったが、彼の目が確実に俺を捉えていることに動揺する。それに、触れることさえできるだなんて……。
「そりゃあ、愛の力だよ」
「愛……?」
わからない。彼はどうして笑っている? 俺は、どうしてこんなにも焦っている?
「ああ、可哀想なつきめ。つきめが聞いてるの気づいてたから、ちょっと嫉妬を煽るようなこと言っただけなのに。……死んじゃうなんてさ」
彼の顔がくしゃりと歪む。ああ、珍しいな。彼がそんな顔をするのは。……あれ? 俺は彼のことをよく知っているんだっけ。
「……つまり俺は、お前に嫉妬して死んだのカ?」
そうだ。きっとそうだ。俺は伊集院 寛子のことが好きだったんだ。だから、彼に嫉妬をしたんだ。そうに決まっている。そうじゃなきゃいけない。そうでなくては……。
「もうとっくに気づいてるくせに。つきめってば本当に狡いね」
「知らない……。俺は、お前なんカ……」
雨露 十色。不愛想な俺とは違い、誰にでも愛嬌を振りまく優男だが、俺の幼馴染であり大親友だ。そして――。
「認めなよ。つきめが嫉妬したのは僕じゃなく、伊集院さんにだって」
「……違ウ」
「違わないでしょ? だって、つきめは僕のことが、」
「違う――!」
その先が聞きたくなくて、十色に向かって刀を振りかぶる。けど。
「どうしたの? 僕を黙らせるんじゃないの?」
「そん、な、こと……」
その刃は彼を傷つけるより前に動きを止める。カタカタと揺れる刀は、どうしてもそれより先に押し込めない。
できるわけがなかった。だって。俺は。
十色のことを、愛しているのだから……。
「ああ、やっぱりつきめは可愛いなあ」
目を細めてそう呟いた彼が、しゃがみ込んで青ざめる俺の手から刀を奪い取ったかと思うと、刀をぐにゃりとよじ曲げた。
「え……?」
あれ。十色はこんなに力が強かったか……? 人間って、こんなに力を持っていたか……?
「あのね、つきめ。だけどね、僕は怒ってるんだよ? 僕はつきめしか見てないっていうのにさ。勝手に死んじゃうんだもん」
「……?」
俺の腕を取った彼の言葉に首を傾げる。俺しか見てない、とはどういう意味だろうか。
「鈍感だよねえ。死んでもわからないなんて。つきめ、こんなことなら早く言っておけばよかったね。あのね、僕が好きなのはつきめ、ただ一人だよ。僕はお前を愛してるんだ」
「は……? う、嘘を言うな!」
まるで童話の王子様のように俺の手の甲に口づけた彼を、払い退ける。
これはきっと悪い夢だ。あの怪異たちが俺に見せた幻だ。そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃいけない。
「嘘でお前の後を追ったりするもんか」
「後、を……?」
言葉を反芻しながら、彼の足元を見つめる。
まさか、コイツ……。
「そういうこと」
「そんな……、どうして……」
よくよく見ると彼の足は俺のものと同じく、夕日を浴びて時々透き通っていた。
「お前のいない世界なんて、生きていても仕方がないからさ」
「嘘だ! お前は、伊集院さんのことが好きだって……」
「まさか。あの時に僕が答えた特徴は、伊集院さんのものじゃないよ」
「今更なにを……」
「嘘じゃない」
じっと瞳の奥を覗き込まれ、押し黙る。それは、彼が真剣に話をするときの合図のようなものだった。ああ、昔から俺はコイツのこの目に弱かったんだっけ。
「つきめはさ、歳の割にめちゃくちゃ落ち着いてるじゃん?」
「は?」
「大人しくて。ほら、綺麗な黒髪だ。それも、男にしては長い」
「な、やめろ!」
後ろ髪を掴むその手を払う。確かに、俺の髪は括れるほどの長さはある。が、所詮は肩につく程度の長さだ。今まで殺してきた女子や伊集院 寛子のように、男心を擽る美しいそれではない。
「肌だって。伊集院さんと同じぐらい。いやそれ以上に白くて」
「十色……」
頬を滑る彼の手も例外なく払い除けようと思った。けれど、その手が、あまりにも冷たくて……。
「ああ。赤い口紅、やっぱり似合う。覚えてるかな? 僕たちがまだ小さかった頃、女の子の化粧ごっこに付き合わされてさ……。口紅塗られたつきめを見た瞬間、僕は雷に打たれた気持ちがしたんだ。だって、美しかったんだ。その時のつきめは、白雪姫みたいだったなぁ……」
そういえば、そんなこともあった。でも、十色は俺を見て固まったから、てっきり似合わなかったのだろうと……。
「いや、だが、俺は男で、そんなもの、似合う訳が……」
「つきめはさ、綺麗なんだよ。僕が見てきた誰よりも美しいよ。つきめが男だなんて、そんなことは嫌というほどわかってるさ。だから、ずっと我慢してた。途中からつきめがまんまと僕のことを意識し始めたのだって、気づいてた」
「え……」
今、彼は何と言っただろうか? 俺の好意に気づいていた、と……?
「ま、当然だよね。僕、つきめのこと散々甘やかしてきた自覚があるもん。つきめが僕に惚れるのは無理もないことってわけ」
「……」
確かに、俺が十色に惚れたのは、十色があまりにも優し過ぎたせいかもしれない。コイツが人に優しくするのは当然のことで、幼馴染という立場上、他人より優しくされがちなのだと、勘違いしそうになる自分に、毎度のように言い聞かせていたけれど……。まさか、それが、勘違いじゃなかったというのだろうか……?
「だけど。それでも僕は勇気が出なかった。男同士で愛し合うことが正しいことなのか、わからなくて。怖くて……」
「それは……」
なんだ。十色もそんなことを考えていたのか。俺が散々悩んだように、彼も同じように悩んでいたというのだろうか。
「でも、そうこうしてる内に、つきめは死んだ。僕も死んだ。そうしたら、もう悩んでたのが馬鹿らしくなって。後はご存じの通り。つきめと出会うために女に化けた。僕はね、お前を止めたかったんだ。だけど、つきめは伊集院さんを殺しちゃったから……」
「……ごめん」
「それは、何に謝ってるやつ?」
「伊集院さんを、殺したから……」
「ふふ。やっぱりつきめは勘違いしてる。いや、今のは僕の言い方が悪かった。確かに僕は、つきめが彼女を殺すのを阻止したかった。でもね、僕が止めたかったのは、つきめの手を汚したくなかったからだよ。別に、彼女が死のうと僕には関係ない」
「でも」
「つきめ。僕のために悪霊なんかにならないでくれよ」
「え……?」
悲しそうに笑った十色の腕が、俺を強く抱きしめた。体温なんて感じないはずなのに、どういうわけか温かくて。……このまま眠ってしまえたなら、どんなに幸せだろうか。
「僕はここにいる。つきめが悪霊になるっていうなら、僕も一緒になってやる。だから」
だから、もう置いていかないでくれ。
彼はそう呟くと、そっと唇を重ねた。
ああ、そうか。俺は悪霊になってしまうのか。彼は、それを止めるために現れたのか。
温かい。俺は、ずっとこれを望んでいたんだった。そうだ。俺の夢は叶ったんだ。もうなにも悲しいことなんかないんだ。
「いかない。俺だって、ずっとお前と一緒にいたい……。だから、俺は悪霊になんか、なりたくないよ……、十色……」
幼子のように十色に縋る。いつもそうだった。泣きたいときには必ず傍に十色がいて。いつだって、黙って胸を貸してくれたんだった。ああ、好きだ。俺は、この優しい十色が堪らなく大好きなんだ……。
『アーア。モウスコシダッタノニ』
「つきめは僕のものだ。お前らにはやらないよ」
いつの間にやらこちらを見つめていた怪異たちに向かって、十色があっかんべーと舌を出す。
彼の目に映った俺が、肌の爛れた化け物から元の人間の姿に戻ってゆく。
『モウイッカイ、チョウセンシヨウヨ』『ソレガイイ』『ツギハモット、ウマクヤロウ』『ナカマハヤク』『ハヤクオイデ』
「困ったね。どうやらつきめは怪異に気に入られたらしい」
「怖いことを、言うな……」
眩暈がした。それと同時に、静かだった蝉たちが、一斉に鳴き始める。
「大丈夫。何があったって、僕はもう二度とお前を逃がさないよ」
「はは。どっちが怖いのかわからないな、それ」
繋がれた手を握り返す。ああ、蝉がうるさい。うるさい。うるさい――。
*
「僕のタイプ?」
『そうそう。雨露君はどういう女の子が好きなのかなって』
放課後。部室に向かう途中、そんな会話が聞こえたものだから、思わず身を隠し、そのまま俺は、お行儀悪く盗み聞きを続行した。
でも。
どうしてだろうか。このまま聞いていたら、よくないことが起こる気がする。
「いや、そんなことわかり切っているけどな。どうせ俺の恋が叶うなんて思っていないし……」
まあ、十色の回答によってはショックを受けるだろうけどさ。
「まさか死ぬわけじゃあるまいし」
そう呟いた途端、蝉が一斉に鳴き始める。その中に混じって、時々妙な笑い声も聞こえる。
あれ、これ本当になんかヤバいかも……。
全身から汗が噴き出す。とにかくここを立ち去ろうとするのだけど、どういうわけだか足が動かない。
「そうだなぁ。僕が好きなのは」
十色の声が嫌というほどクリアーに聞こえる。
耳を塞がなくては。そう思うのに。やはり体が金縛りにあったかのように動かなくて。
ああ、もう駄目だ……。俺はまた……。また、なんだっけ……。
ぐらり。視界が揺れる。
わかっている。俺はこの先を知っている。ああ、俺は、きっとまた過ちを犯して――。
「僕が好きなのは、淡海 つきめ。それ以外を愛したことなんて一度も無いんだ」
「え……?」
聞き間違いだろうか。そう思い、そっと顔を覗かせる。
『えっと、それって、どういうこと……?』
『ああ、雨露君、やっぱり、そうなんだね……』
「うん。ごめんね?」
ばちり。女の子たちに謝った十色がいきなりこちらを向いたものだから、頭を引っ込める間もなく視線がかち合う。かち合った途端、十色の瞳が優しく細められたのを見て、心臓がいよいよ蝉よりも煩く鳴り響く。
『ううん。私こそごめん……。本当は、気づいてたの。だから、えっと……、応援してるね!』
「……ありがとう」
『あ、ちょ、寛子……!』
涙を堪えながら去ってゆく彼女を追いかけるようにして、その友人も去ってゆく。
「ね、聞いてたんでしょ? つきめ」
「……ッ」
降ってきた十色の声に胸を押さえて立ち上がる。
いつの間に傍に来ていたんだ……。というか、こんな顔、見られたくない……!
「待って。逃がさないって言ったでしょ?」
「は、放せ……!」
「放さない。ねえ、つきめ。もう間違えたくないよ。お願い。行かないで?」
「十色……」
ふつりふつりと蘇ってくる悪夢の中で感じた温かさ。それと同じ温かさが、俺を抱き包んで、唇に触れる。
「ふふ、つきめってば、顔が真っ赤だ。ほんと、可愛いよ」
「う、うるさいな……。お前が、変なこと言うから」
「駄目だった?」
「そ、れは……。わかってるくせに……」
視線に耐え切れなくなり、彼の肩に顔を埋める。
「ねえ、つきめ。言葉にしよう? これからは僕もなるべく素直になる。もうすれ違うのはごめんなんだ。ね、つきめもそう思うでしょう?」
「……それは、まぁ」
赤子をあやすように髪を撫でる十色の言葉に、同意せざるを得ない。俺だって、もうあんな思いをするのはごめんだ。
散々忙しく鳴いていた蝉の声は、勢いを削がれ、惰性で音を奏でているようだった。
「つきめ。僕はお前が好きだ。皆が思っているよりも、つきめはずっと弱くて傷つきもする。でも、そんなつきめが可愛くて、美しくて。小さい頃から愛してるんだ」
「……俺だって、十色が好きだ。あ……愛、してる。もう、あんな思いはしたくない。俺は、お前の一番として一緒にいたい」
「もちろん、ずっとつきめが僕の一番だよ。保証する。命を懸けて誓うよ」
「そんなこと言って、俺に殺されても知らないぞ?」
「できないくせに。よく言うよ」
甘い口づけが落とされる。ああ、どろどろとした感情が、悪夢の余韻が、全て溶かされてゆく。
『ツマラナイ』『コレムリダ』『チガウノニシヨウ』『オシイナァ』
禍々しい声が遠ざかり、蝉が完全に沈黙する。
ああ、もうすぐ夏が終わる。
十色×つきめ。幼馴染×怪異。バッドエンドホラーの予定が甘めハッピーエンドになりました……。
男が口紅つけるの、好きです!(は?)
淡海 つきめ(うつみ つきめ):生前は、クール・顔良し・剣道部部長として広くモテていた。が、恋に破れ事故に遭い、その怨念を晴らすために怪異となり果てる。
ネーミングは現桜(見ると桜は分解読み)。
雨露 十色(うろ といろ):つきめの幼馴染。八方美人な人気ナンバー2男子。好きなタイプは髪の長い子etc。
ネーミングは虚ろ嘘吐き(吐が分解読み)。
伊集院 寛子(いじゅういん ひろこ):十色のことが好きな女の子。髪が長い。
ネーミングはヒロイン。
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『長い髪の女子生徒ばかりを狙う殺人怪異が出るんだって』
蝉が鳴くのにも構わずに、補講終わりの教室で、女子生徒たちがうわさする。
『そういえば、今日もニュースで言ってなかった?』
『言ってたよ。〇×高の女子生徒が行方不明になったんだって』
『ヤバイよね』
『ヤバイヤバイ。だってもう何件目? ここらの高校、ほとんど被害が出てるって』
『ウチもそろそろ誰かが……』
『怖いこと言わないでよ!』
『でもさ、目撃情報とか、証拠とか全然無いらしくってさ。人間の仕業だとは思えないよね……』
『だから怪異のせいってわけね』
『怪異だろうと人間だろうと怖いことには変わりないよ』
『アタシ、今日絶対髪切りに行く!』
『それがいいかも。長い髪じゃとにかくヤバイ』
『てかさ、夏休みの補講も無くすべきじゃんね』
『それ』
『ほんと。ウチの高校、どうかしてるって』
あア、あの子かもしれなイ……。あの子かもしれなイ……。
乾いた喉を潤すようニ。その血を啜れバ、僕だっテ……。きっト……。
*
『きゃ~!』『淡海くん~!』『カッコいい~!』
女子からの黄色い声援。竹刀がかち合う音。そして、部員たちの勇ましい掛け声。
ウチの剣道部は、普段の練習にも多くの女子たちが応援にきてくれるのでありがたい。男どもの士気が上がるというものだ。
「よし! 十分間休憩!」『ウス!』
一学期がもうすぐ終わる。つまり、三年である俺たちは、そろそろ引退しなきゃいけなくなる。部長という肩書を押し付けられ、面倒臭くも感じたが、後輩を育成するのは中々面白くもあった。
『は~。やっぱ人気よね、淡海君。あんなにイケメンで実力のある部長、早々いないもの!』
『惚れない方がおかしいよ! ね、寛子も淡海君狙いなんでしょ?』
『私は、その、淡海くんより……』
『ん~? 寛子、もしかして他に好きな人でもいるの?』
『そ、それは……』
視界の隅で姦しく話に花を咲かせる少女たち。俺は、知らずの内にその会話に耳を澄ませていた。
寛子と呼ばれた彼女は、素朴で可愛らしい少女だった。彼女のことは前々から気にはしていたのだ。なにしろ……。
「よ、つきめ。部活は順調か~?」
「十色……」
片手を上げ、へらりと笑顔を浮かべながら近づいてきた彼は、雨露 十色。不愛想な俺とは違い、誰にでも愛嬌を振りまく優男だが、俺の幼馴染であり大親友だ。
「つきめってば、本当にモテるよな」
「お前だってモテるくせに」
俺が顔の良さでモテているのに対して、彼は人の良さでモテていた。いや、別に十色の顔が良くないという訳ではないのだが、女子曰く、俺に比べれば霞む、らしい。
「なあなあ、この中だったらどの子がタイプなの? 僕にこそっと教えてくれよ」
「いや、俺は別に……」
耳打ちしてくる十色から慌てて距離を取る。だって、そうしないと、心臓がうるさいから。
「なんだよ、他に好きな子でもいるってか?」
「それは……」
お前だよ、とは言えなかった。言えるわけがない。意気地なしの俺は、ずっと幼馴染の肩書を貫き通してきた。今更、壊せるわけがない。
「マジ? 女の子たちみんな悲しむぞ、このこの~」
「あんまり揶揄うな。あとくっつきすぎだ。お前のことが好きな女子から在らぬ誤解を受けても知らないぞ」
「ははっ。んなもんいねーよ」
『……うう』
俺たちの会話を聞いていたらしい伊集院 寛子が、うめき声をあげてその身をふらつかせる。
『はは~ん。なるほどね』
そのバレバレな反応を見て、彼女の隣にいた友人がしたり顔で微笑んだ。
ああ、もしかしたら、面倒なことになるかもしれないな。
その時の俺には、まだ余裕があった。
だって、十色は女に興味がないと言っていたから。女子がフラれる様を、幾度となく見てきていたから。だから、俺は、油断していた。十色が恋に現を抜かすことはないだろうと、信じ込んでいた。
*
「僕のタイプ?」
『そうそう。雨露君はどういう女の子が好きなのかなって』
放課後。部室に向かう途中、そんな会話が聞こえたものだから。俺は、思わず身を隠し、そのままお行儀悪く盗み聞きを続行した。
「大人しい子が好きだな」
『大人しい子……』
ああ、確かに彼は騒がしい子を好まないからな。
『外見は?』
「う~ん。黒髪が好きかな。長い方がいい。肌も真っ白だといいな。赤い口紅が似合いそうなぐらいに」
『口紅……』
口紅、か。俺には無理な話だな。
「つまり僕は、白雪姫みたいな子が好きなんじゃないかな」
『ね、もしかしてそれ、寛子のことじゃ……』
「ふふ、どうだろうね」
『ッ……!』
あれ……。これ、なんだ……?
十色は、伊集院 寛子をしっかりと見て微笑んだ。それを受けて彼女は、当然顔を赤くした。
眩暈がした。吐き気がした。
伊集院 寛子は、去年の文化祭で白雪姫を演じていた。そのとき、彼は彼女に何と言っていただろうか。
似合っているよ。
そう。ドレスを身に纏い、口紅をつけた少女に、似合っていると言ったのだ。それに対して赤面した彼女を見て、俺は彼女のことが嫌いになったのだった。
それが。その嫉妬は、やはり間違いではなかった。
なんてことはない。彼は、タイプなどという曖昧なものを語ったのではなく、はっきりとした人物像を示したのだ。伊集院 寛子を前に、告白したも同然だった。
ああ、なんだ。俺は失恋したのか。
馬鹿みたいに全身から汗が噴き出して、気持ちの悪さが増してゆく。
今日は、帰ろう……。それがいい……。
誰にも告げず、重たい足を引き摺って歩き出す。
ああ、蝉がうるさい。夕方だというのに、どうしてこんなにも日差しが強いんだ。汗が止まらない。頭が痛い。あれ……、なんか、目が回る……。白線が眩しい。車のクラクションがうるさい。うるさい。うるさい。うるさい――。
「……あ、れ」
気づいた時には、俺の体はアスファルトに打ち付けられていた。
目が、霞む……。痛い……。痛い……。俺は、死ぬ、のか……。
人々の叫び声。赤く濡れた地面。違う、こんなの、現実じゃない……。
『アア、カワイソウニ』
目を閉じると、どこからか声が聞こえた。
『マダ、ワカイノニネ』『オレタチト、ドウルイダ』『ウレシイナ』
歪なその声たちは、楽しそうに笑っていた。
『ネエ、キミガシンダノニ、キミノイトシイヒトハ、オンナトイッショニ、ワラッテイルヨ』
暗かった視界が晴れ、俺はいつの間にか教室に立っていた。そこには、当たり前のように十色と伊集院 寛子が寄り添って窓の外を見つめていた。
『そう。僕が好きなのは伊集院さんだよ。え? つきめ? どうしてアイツの名前が出てくるの? アイツはただの友達だよ。愛しているのは、君だけだよ』
『嬉しい……』
抱き合った二人が、俺に目をくれることもなく口づけを交わす。
『ニクイダロウ?』
……憎い。その言葉は驚くほど心臓に染み込んだ。
『アノオンナヲ、コロシタインダロウ……?』
ああ、そういえば、そうかもしれない。そうすれば、俺は楽になれるのかもしれない。
『ユルセナイ?』
許せなイ……。
『コロシタイ?』
殺したイ……。
どうしてだろうか。だんだん、考えることが面倒臭くなって。考えるより先に、勝手に言葉が口から洩れる。
「殺したイ……、殺したイ……」
心が真っ黒な闇に支配されていくのを感じた。だけど、今の俺にはそれがとてつもなく心地よくて。
『アハ。オメデト。キミモカイイノナカマ』『オメデトウ』『オメデトウ』
ざわざわと、楽しそうな声がこだまする。
そうして俺は、人生を終えた。
*
俺は、どうしてこんなに、長い髪の女が憎いんだろウ……。
どうして、その長い髪を切り裂いてやりたいんだろウ……。
どうして、その白い肌を真っ赤な血で染め上げたいんだろウ……。
どうして、少女たちを殺す度に、こんなに胸が痛むのだろウ……。
人を殺すのは、楽しいはずなのニ……。
動かなくなった少女の長い髪を切り刻む。その肌を切り刻む。そうして、気づく。
「あレ……。まだ足りなイ……」
決定的な何が足りない。
「あア、これじゃなイ……」
この子じゃないんだ。今から美容室に行こうとしていたのだ、と泣いて許しを乞うたこの子じゃなかったんだ。
俺は、誰かを探していたんだった。
赤く染まった少女を川に捨てる。これはもう要らない。
あア、あの子が憎い。あの子を遠ざけなくちゃ。早く引き裂いてやらなくちゃ。幸せになんてさせてやるものカ。
憎い。憎い。憎い憎い憎い憎イ――。
*
『ねえ、殺人怪異のうわさ、聞いた?』
『聞いた聞いた。なんでも、最近同じ高校の女子生徒ばっかり狙われてるって話』
『そうそれ。こう言っちゃ悪いけどさ、ちょっと安心したよね』
『でもさ、やっぱり誰かを探してるんだよね、きっと』
『ニュースでも言ってた。犯人は、きっと本命がいるんだろうって』
『怖いよね』
『本当に人間の仕業なのかな』
『だから、怪異の仕業だって言ってんじゃん』
『信じられないけど、信じちゃいそう……』
道行く女子高生たちの会話に薄っすらと微笑む。
彼女たちが言う通り、俺は数日前に殺した少女の制服に不思議と心が動かされた。消えてしまったはずの生前の記憶が、俺に呼びかけるのだ。あの制服の女を狙え、と。もうすぐお前の恨みを晴らせるぞ、と。
こつり、こつりとアスファルトを踏みしめる靴音に耳をそばだてる。
あア、あの子だろうカ……。
不自然なほどに整った長い黒髪を揺らしながら、少女が目の前を通り過ぎる。勿論、制服は最近殺してきた少女たちと同じものだった。
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あア、ようやく会えたのかもしれない。ようやく終わるのかもしれない……。
赤く染まる夕日の中、何も知らない少女を追う。
「ねェ、君。少しいいかナ」
少女の肩に手を置き、呼び止める。
あれ。熱い。彼女に触れた手が、どうしてだかすごく熱い。
本当に。彼女こそが、本命なのかもしれない。
確信を持ち、ゆっくりとこちらに振り返る少女に、引き摺っていた刀を振り翳す。
これで、全てが終わる。そう思った瞬間――。
「ああ、やっぱりつきめだ」
「は?」
どくり。振り向いたその人と目が合い、心臓が痛む。心臓など、とっくに機能していないというのに、だ。
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そう言って、その綺麗な黒髪を引っ掴んだその人は、そのまま地面へとそれを投げ捨てた。
「ウィッグ……」
「まさか僕が女装してるなんて、思いもしなかっただろう? つきめ」
その人好きのする笑顔は、見覚えがあるような気がした。ありすぎる気がした。
この人は、誰だっただろうか……。
蝉が鳴く。
ああ、うるさい。頭が、割れるように痛い……。
ああ、嫌だ。見られたくない。こんな姿、見られたくない……!
「あ、あア……」
「逃げても無駄だよ、つきめ」
縺れるようにして逃げる俺に、彼はぽつりと呟いた。
その声音が、妙に恐ろしくて。
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「ぐァ……!」
ふいに浮かんできた記憶が、その先の何かにぶち当たって、ぶつりと途切れる。
嫌だ。思い出したくない。忘れていたい。だけど、憎イ……。
『あれ、淡海、くん……?』
逃げた先、燃えるように真っ赤な夕日に染められた少女が立っていた。
その素朴で可愛らしい少女を見た瞬間、全身が憎しみに、そして喜びに震える。
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ああ、俺はこの子を探していたんだ。俺は、この子が憎くて。この子になりたくて。
『嘘だよね、淡海くん……。だって、淡海くんはもう……。私、夢でも見てるのかな……』
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「あア、やっと見つけタ」
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*
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「……ごめん」
「それは、何に謝ってるやつ?」
「伊集院さんを、殺したから……」
「ふふ。やっぱりつきめは勘違いしてる。いや、今のは僕の言い方が悪かった。確かに僕は、つきめが彼女を殺すのを阻止したかった。でもね、僕が止めたかったのは、つきめの手を汚したくなかったからだよ。別に、彼女が死のうと僕には関係ない」
「でも」
「つきめ。僕のために悪霊なんかにならないでくれよ」
「え……?」
悲しそうに笑った十色の腕が、俺を強く抱きしめた。体温なんて感じないはずなのに、どういうわけか温かくて。……このまま眠ってしまえたなら、どんなに幸せだろうか。
「僕はここにいる。つきめが悪霊になるっていうなら、僕も一緒になってやる。だから」
だから、もう置いていかないでくれ。
彼はそう呟くと、そっと唇を重ねた。
ああ、そうか。俺は悪霊になってしまうのか。彼は、それを止めるために現れたのか。
温かい。俺は、ずっとこれを望んでいたんだった。そうだ。俺の夢は叶ったんだ。もうなにも悲しいことなんかないんだ。
「いかない。俺だって、ずっとお前と一緒にいたい……。だから、俺は悪霊になんか、なりたくないよ……、十色……」
幼子のように十色に縋る。いつもそうだった。泣きたいときには必ず傍に十色がいて。いつだって、黙って胸を貸してくれたんだった。ああ、好きだ。俺は、この優しい十色が堪らなく大好きなんだ……。
『アーア。モウスコシダッタノニ』
「つきめは僕のものだ。お前らにはやらないよ」
いつの間にやらこちらを見つめていた怪異たちに向かって、十色があっかんべーと舌を出す。
彼の目に映った俺が、肌の爛れた化け物から元の人間の姿に戻ってゆく。
『モウイッカイ、チョウセンシヨウヨ』『ソレガイイ』『ツギハモット、ウマクヤロウ』『ナカマハヤク』『ハヤクオイデ』
「困ったね。どうやらつきめは怪異に気に入られたらしい」
「怖いことを、言うな……」
眩暈がした。それと同時に、静かだった蝉たちが、一斉に鳴き始める。
「大丈夫。何があったって、僕はもう二度とお前を逃がさないよ」
「はは。どっちが怖いのかわからないな、それ」
繋がれた手を握り返す。ああ、蝉がうるさい。うるさい。うるさい――。
*
「僕のタイプ?」
『そうそう。雨露君はどういう女の子が好きなのかなって』
放課後。部室に向かう途中、そんな会話が聞こえたものだから、思わず身を隠し、そのまま俺は、お行儀悪く盗み聞きを続行した。
でも。
どうしてだろうか。このまま聞いていたら、よくないことが起こる気がする。
「いや、そんなことわかり切っているけどな。どうせ俺の恋が叶うなんて思っていないし……」
まあ、十色の回答によってはショックを受けるだろうけどさ。
「まさか死ぬわけじゃあるまいし」
そう呟いた途端、蝉が一斉に鳴き始める。その中に混じって、時々妙な笑い声も聞こえる。
あれ、これ本当になんかヤバいかも……。
全身から汗が噴き出す。とにかくここを立ち去ろうとするのだけど、どういうわけだか足が動かない。
「そうだなぁ。僕が好きなのは」
十色の声が嫌というほどクリアーに聞こえる。
耳を塞がなくては。そう思うのに。やはり体が金縛りにあったかのように動かなくて。
ああ、もう駄目だ……。俺はまた……。また、なんだっけ……。
ぐらり。視界が揺れる。
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「え……?」
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ばちり。女の子たちに謝った十色がいきなりこちらを向いたものだから、頭を引っ込める間もなく視線がかち合う。かち合った途端、十色の瞳が優しく細められたのを見て、心臓がいよいよ蝉よりも煩く鳴り響く。
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「……ありがとう」
『あ、ちょ、寛子……!』
涙を堪えながら去ってゆく彼女を追いかけるようにして、その友人も去ってゆく。
「ね、聞いてたんでしょ? つきめ」
「……ッ」
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「待って。逃がさないって言ったでしょ?」
「は、放せ……!」
「放さない。ねえ、つきめ。もう間違えたくないよ。お願い。行かないで?」
「十色……」
ふつりふつりと蘇ってくる悪夢の中で感じた温かさ。それと同じ温かさが、俺を抱き包んで、唇に触れる。
「ふふ、つきめってば、顔が真っ赤だ。ほんと、可愛いよ」
「う、うるさいな……。お前が、変なこと言うから」
「駄目だった?」
「そ、れは……。わかってるくせに……」
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「そんなこと言って、俺に殺されても知らないぞ?」
「できないくせに。よく言うよ」
甘い口づけが落とされる。ああ、どろどろとした感情が、悪夢の余韻が、全て溶かされてゆく。
『ツマラナイ』『コレムリダ』『チガウノニシヨウ』『オシイナァ』
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「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。
アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。
ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。
愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。
「……お前のわがままには、最後まで付き合う」
針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。
執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
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