【完結】付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた

ぽぽよ

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 そのまま同棲生活が始まり、早くも2週間が経とうとしていた。

 佐藤は佐藤のままだし。私は私のまま。

 別に困ったことも違和感もないまま、意外と普通に生活できている。

 このままゆるっと夫婦になっていくのだろうか。

 それはそれでどうかと思うのだけど。

 そんなことは現実には関係ないことで、引越しを伝えると総務課から容赦なく住所変更の手続きを促された。


 会社の休憩室で弁当をつつきながら書類を広げてみていた。

 紙一枚で済むかと思ったら、それ以外にも書くものが多かった。これを籍入れてからまたやるのかと思うとげんなりする。ちょっと課長に相談しようかな。

 そんなことを考えていると、

「おす」と聞きなれた声がした。

 心臓がぎゅっとなった。身体が強ばる。

 どうしたって嫌な記憶が頭を掠めた。

 そろりと視線をあげると、やはり元カレ高橋だった。高橋はコーヒー片手に向かいの席に座った。

 私はサッと書類をまとめて脇に避けた。

 高橋の視線が私の自家製の弁当に落ちた。

 見事に茶色ばっかりのおかずの弁当だった。
 昔、高橋に馬鹿にされたことを思い出した。

 私は反射的に身を屈めて弁当を隠した。

「彼女と別れた」

 ぽつりと落とされた言葉に思わず視線を上げた。


「あ、そうですか……」


 我ながら素っ気ない返事をしてしまった。

 別れた当初は泣きもしたけれど、今ではなんとも思わない。むしろ、部署が違う高橋がわざわざそれを言いに来たことに驚いた。

 高橋と私が破局したのは、高橋が女子力高めの後輩ちゃんに乗り換えたからだ。
 けど、その後輩ちゃんは別の部署の男の子に奪われてしまったらしい。

 高橋って意外とモノグサだから、後輩ちゃんとは長く続かないんじゃないかと思ってたけど、やっぱりだめだったらしい。

 まあ、はじめからあの子はそんな感じだったし、高橋だって分かってたことなんだろうけど。

 高橋からは、昔感じた全能感が無くなっているように感じた。
 夢中になったところで後輩ちゃんに捨てられてしまったのだろうか。そうとうショックだったんだな。
 ご愁傷さまです。私は心の中で合掌した。


「あのさ……虫のいい話ではあるんだけど……俺ら、より戻さないか?」


 ご飯が喉に詰まって咳き込んだ。

「おい、大丈夫か?」

 高橋が椅子から腰を浮かせた。
 そのまま私の背中を摩りだしそうだったので、慌てて手で制した。

「だ、だい、じょうぶ」

 咳き込みながら何とか伝える。

「おお、そっか」

 高橋が再び席に座った。

 沈黙が重い。

 これは、返事を待たれてるのだろうか。

 なんだこれ、めちゃくちゃ言いづらいな。

 ううん、と私は咳払いをした。


「……あの、さ。その……結婚するっぽいから、復縁は……無理です」

 伝えると、高橋が目を見開いた。


「……は?何、ぽいって。結婚するのか?」

「あー、これから……そうなる予定」

「だから、なんだよそれ!相手いるのか?いないのか?どっちなんだよ!」


 高橋が声を荒げた。今日は一段と機嫌が悪い。彼女に振られたからって私に当たらないでよ。


「いるけど、なんというか……まだ、なりきれてないというか」


 なんだか照れくさくて、もごもごしてしまった。それを聞いた高橋は、何か腑に落ちたみたいに息をついて大人しくなった。


「あー……佐藤さんだっけ?あの人?」


 いきなり佐藤の名前が出た。


「……なんで分かるの」

「そりゃ分かるだろ」


 高橋はしかめっ面でコーヒーを一口飲むと、頬杖をついた。

 なんか、態度が悪い。顔が怖いんですけど。

「ま、だよなぁ。あの人、俺のことめちゃくちゃ威圧してたし、目とかすげえ怖かったし」

「え、や。目つきは悪いけど、佐藤はそんなやつじゃないよ?」

「あの人、俺のことゴミムシ見るみたいな目で見てたぞ?」

「……ゴミムシ……は言いすぎでしょ」

「いやマジで。あの人俺より背でかいし、鈴木の事でマウントしてくるし、ホント嫌だったんだよな」

 なんか。少し前に似たようなこと聞いたような気がするぞ。

「佐藤はそんなタイプじゃないと思うけどなぁ」

「じゃ、鈴木が知らないだけだろ」

 高橋は、自嘲気味に笑った。

「なんだよ、くそ」

 高橋は悪態をつくと、席をたった。

「……邪魔して悪かったな」

 それだけ言い残して高橋は去っていった。

 なんだったのか。

 またしても、ちょうどいい女扱いをされたということなのだろうか。

 なぜか胸の奥が少しだけざわついた。


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