5 / 15
5
高橋の話も、田中さんの話も。
佐藤が私の事を、めちゃくちゃ好きみたいに聞こえた。
だけど、いまいち信じきれない私がいる。
だって、普通に罵倒されるし、鼻で笑われるし。
こないだだって、彼ティーってやつ。
Tシャツじゃなくて、スウェットだったけど。
鼻で笑われましたよ。
全く、ちっとも、喜んでなかったんですけど。
そんなんで、好きだなんて、ありえないでしょ。
そんな思いを抱えたまま帰宅すると、佐藤がリビングのソファで寝ていた。
茶色の3人がけのソファが、でっかい体に占領されていた。
ソファから脚がはみ出ている。
佐藤の無駄に長い脚が邪魔だった。
隅っこに座るくらいのスペースはあるけれど、私だって寝転がりたい。
「おかえり」
チラッと私を見てそれで終わり。
やつは場所を空けようともしない。
佐藤は大股広げて寝ていて、そこだけはぽっかりスペースが空いている。
何としても寝てやる!
私はそこに身体をねじ込み、寝転んだ。
「あー、よっこいせ」
ちょうど佐藤の股間あたりに頭が乗る状態になった。
寝るスペースは少ないけれど、脚を曲げれば問題ない。テレビも見ることができるし、寝心地は悪くなかった。だけど、土台がぐらりと動いた。
「ちょっと、動かないでよ」
「は?お前、どこに頭乗せてんだよ」
「どこ、ここ、股?」
佐藤が無言で足をクロスした。頭が脚に挟まれる。
「あてててて!」
脚をタップすると拘束が緩まった。慌てて抜け出ると、不機嫌な顔をした佐藤に睨まれた。
「直列に寝んな。並列にしろ」
並列って、佐藤が叩いているソファの隙間を見る。
佐藤の前にあるスペースは30cmもない。
私はそんなペラペラな身体じゃないんだけど。
「絶対狭いじゃん」
ぶちぶちと文句を言いつつ、私は佐藤の前に寝転がる。何とか身体をねじ込んだけど、ギリギリソファに乗ってる状態だ。ちょっとでもバランスを崩したらソファから落ちてしまう。
くそ、もっとゆとりが欲しいな。
ぎゅうぎゅう身体を押し込むけど、後ろに佐藤がいて、これ以上ゆとりがつくれない。
無駄に胸板が厚い。もっと佐藤の身体に厚みがなかったらゆとりがあったはずなのに。
こいつ、また筋肉つけたな。
「せっま」
佐藤が呻いた。
「だから言ったじゃん!」
佐藤の腕が私の身体に回る。バックハグされてる状態なんだけど。腕が重い。邪魔だ。仕方ない。佐藤の腕を持ってお腹辺りに動かす。
うん、これならまだマシだ。それでもやっぱり邪魔だった。あと佐藤の体温が高いのか、暑い。
「……これはこれで悪くないな」
背後で佐藤がなんかぼやいた。
よく聞こえなかった。
「佐藤、なんか言った?」
後ろを向きつつ聞き返すと、急に佐藤が「うわっ」と上擦った声を上げた。
「髪が口に入った!うぇ、ちょ、邪魔だ!やっぱ、あっち行け!」
そのまま、ところ天みたいにソファから押し出されて、私はドスンと床に落とされた。
「痛っ!なんでよ!並列ならいいって言ったじゃん!」
抗議しても、佐藤はしれっとしたまま起き上がる気配すらない。
こんの!私だってソファで寝たいのに!!
絶対乗ってやる!!佐藤の股の間から這い登ろうと身体をねじ込むと、佐藤が慌てた。
「やめろ!直列にすんな!わかったから!買い替えるから!」
「いま寝たいの!私は!」
訴えても、佐藤はソファから動かない。
「譲ってよ」
「俺の方が疲れてる」
「はあ?」
この扱いで好きだと?ありえんだろ!想い人をソファから押し出す男がどこにいるんだ!
床の上で体育座りをしながら、じっと佐藤を見る。
「なんだよ」
「佐藤は、私のこと好きなの?」
「はあ?」
佐藤の目にちょっと圧が加わった。やばい、ちょっと怒った?怒られる理由なんて微塵もないのに、何故だか責められてるような気持ちになった。不思議と語気が弱々しくなってしまう。
「だって、高橋がさ。佐藤に怖い目で睨まれてたって言ってて……」
「……高橋?元カレか?なに?会ったの?」
眉間に深い皺が寄る。睨まないでよ。ちょっと怖いんだけど。
「佐藤はそんなやつじゃないって言ったんだけど……」
佐藤がのそりと身体を起こして、首の後ろをかく。
「そう指摘されると、そうだったかもしれない」
「え?」
予想外の言葉に驚いた。そうだったの?全然気が付かなかったんだけど。
「だって鈴木、男の趣味わりーもん。普通にムカついてた」
「悪くないわ」
なんてこと言うんだ。
「あいつ、顔だけじゃん。後輩の女子と簡単に関係持つし。そういう軽薄さが顔に出てた」
「……めちゃくちゃ厳しいこと言うね」
「事実だろ」
「じゃあさ。どんな男だったら、趣味いいって言えるわけ?」
佐藤は少し黙って、虚空を見つめた。
「……俺が負けたって思えるやつ?」
「それ、佐藤しか答え分からないよね」
佐藤は唸って、首の後ろを撫でる。
「よくわからん。けど、他の女にうつつ抜かす男は論外。クソ。これは確定してる」
「暴論すぎでしょ」
「暴論じゃない」
言い切るのが腹立つ。
『♪~お風呂が湧きました』
すごくいいタイミングでお風呂が湧いた。
納得いかない。けど、佐藤は面倒くさそうにして頭をかいた。
「もう、いいだろ?で、風呂湧いたけど、先入るか?」
「いや、後にする」
「じゃあ、お先に」
脱衣所のほうに消えていく背中を見送りながら、私はなぜか、さっきより少しだけ胸の奥が静かになっていることに気づいた。
深く気にするだけ無駄なんだろう。相手は佐藤だし。それに、佐藤に頭の容量を取られるのも癪だった。
壁掛け時計を見た。
午後7時になろうとしている。
「仕方ない、ご飯作るか」
私は立ち上がって、キッチンへと向かった。
今日は、面倒臭いから豚丼にする。
冷蔵庫から豚肉とニラとえのきを取り出して、食べやすいサイズに切る。油を引いたフライパンで炒めて、甘辛く味付けしたら完成。
それと、毎度「汁が欲しい」とうるさい佐藤のためにえのきとお揚げで味噌汁も作った。
味噌のいい香りがする。
ちょうど、佐藤が風呂から戻ってきた。
ほかほか湯気を出しながら、佐藤が鍋の中を覗く。
「お、美味そうじゃん、これなんて料理」
名前なんてない。テキトーに作ったし、強いて言うなら……
「ごちゃ丼?」
「ネーミングセンス」
鼻で笑われた。
「汁は?」
「はいはい、汁ね」
と鍋を開けると嬉しそうに汁椀を持ってきた。
私は味噌汁をよそって佐藤に渡した。
「丼はこっちにして」
佐藤がでかい丼を出した。
「これ、ラーメン入れるヤツじゃん」
「腹減ってんだよ、ごはん山盛りな」
「はいはい」
山みたいに盛ってやった。
それでもペロッと食べれちゃうから驚きだ。
それで太らないから羨ましい。
「佐藤って、胃袋どうなってんの?」
「身体でかいし、鍛えてるからじゃね?」
ああ、なるほど。
佐藤は、見た目はいいけどデカくて燃費の悪い外車みたいだ。
「燃費悪いと生きるの大変だね」
「勝手に想像して哀れみの目を向けてくるんじゃねぇよ」
「お可哀想に」
おほほと笑うと、私の丼に佐藤の箸が突き立てられた。
「じゃぁもっと肉よこせ」
わしっと私の丼から肉が奪われてゆく。
「あ、肉っ」
箸に乗った肉が、佐藤のでかい口にばくんと飲み込まれた。
佐藤がふんと鼻で笑う。
こんなことするやつが、好きなわけないじゃん。私は淡く考えてしまった可能性を否定して、頭の隅に追いやった。
あなたにおすすめの小説
皇太子殿下は、幼なじみの頬しか触らない
由香
恋愛
後宮には、美しい妃が大勢いる。
けれど皇太子・曜は、誰にも触れないことで有名だった。
――ただ一人を除いて。
幼なじみの侍女・翠玉。
彼女の頬だけは、毎日のようにつつき、摘まみ、抱き寄せる。
「殿下、見られてます!」
「構わない」
後宮中が噂する。
『皇太子は侍女に溺れている』
けれど翠玉はまだ知らない。
それが幼なじみの距離ではなく、皇太子の独占欲だということを。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。
皇太子殿下は、幼なじみに触れていないと落ち着かない
由香
ファンタジー
幼い頃から一緒に育った皇子は、なぜか距離が近すぎる。
後ろから抱きしめられ、手を取られ、頬に触れられるのが当たり前の日常。
やがて彼は皇太子となるが――その距離は変わらないどころか、むしろ深まっていき。
「触れていないと、落ち着かない」
公の場でも離してくれない彼の執着に、周囲は騒然。
けれどその腕の中は、どうしようもなく安心してしまう。
これは、幼なじみの距離のまま始まる、逃げ場のない溺愛の物語。