【完結】付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた

ぽぽよ

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 高橋の話も、田中さんの話も。

 佐藤が私の事を、めちゃくちゃ好きみたいに聞こえた。
 だけど、いまいち信じきれない私がいる。
 だって、普通に罵倒されるし、鼻で笑われるし。

 こないだだって、彼ティーってやつ。
 Tシャツじゃなくて、スウェットだったけど。
 鼻で笑われましたよ。
 全く、ちっとも、喜んでなかったんですけど。

 そんなんで、好きだなんて、ありえないでしょ。

 そんな思いを抱えたまま帰宅すると、佐藤がリビングのソファで寝ていた。
 茶色の3人がけのソファが、でっかい体に占領されていた。
 ソファから脚がはみ出ている。
 佐藤の無駄に長い脚が邪魔だった。

 隅っこに座るくらいのスペースはあるけれど、私だって寝転がりたい。

「おかえり」

 チラッと私を見てそれで終わり。
 やつは場所を空けようともしない。
 佐藤は大股広げて寝ていて、そこだけはぽっかりスペースが空いている。
 何としても寝てやる!
 私はそこに身体をねじ込み、寝転んだ。

「あー、よっこいせ」

 ちょうど佐藤の股間あたりに頭が乗る状態になった。
 寝るスペースは少ないけれど、脚を曲げれば問題ない。テレビも見ることができるし、寝心地は悪くなかった。だけど、土台がぐらりと動いた。

「ちょっと、動かないでよ」

「は?お前、どこに頭乗せてんだよ」

「どこ、ここ、股?」


 佐藤が無言で足をクロスした。頭が脚に挟まれる。

「あてててて!」

 脚をタップすると拘束が緩まった。慌てて抜け出ると、不機嫌な顔をした佐藤に睨まれた。


「直列に寝んな。並列にしろ」


 並列って、佐藤が叩いているソファの隙間を見る。
 佐藤の前にあるスペースは30cmもない。
 私はそんなペラペラな身体じゃないんだけど。

「絶対狭いじゃん」

 ぶちぶちと文句を言いつつ、私は佐藤の前に寝転がる。何とか身体をねじ込んだけど、ギリギリソファに乗ってる状態だ。ちょっとでもバランスを崩したらソファから落ちてしまう。
 くそ、もっとゆとりが欲しいな。
 ぎゅうぎゅう身体を押し込むけど、後ろに佐藤がいて、これ以上ゆとりがつくれない。
 無駄に胸板が厚い。もっと佐藤の身体に厚みがなかったらゆとりがあったはずなのに。
 こいつ、また筋肉つけたな。

「せっま」

 佐藤が呻いた。

「だから言ったじゃん!」

 佐藤の腕が私の身体に回る。バックハグされてる状態なんだけど。腕が重い。邪魔だ。仕方ない。佐藤の腕を持ってお腹辺りに動かす。

 うん、これならまだマシだ。それでもやっぱり邪魔だった。あと佐藤の体温が高いのか、暑い。

「……これはこれで悪くないな」

 背後で佐藤がなんかぼやいた。
 よく聞こえなかった。

「佐藤、なんか言った?」

 後ろを向きつつ聞き返すと、急に佐藤が「うわっ」と上擦った声を上げた。

「髪が口に入った!うぇ、ちょ、邪魔だ!やっぱ、あっち行け!」

 そのまま、ところ天みたいにソファから押し出されて、私はドスンと床に落とされた。

「痛っ!なんでよ!並列ならいいって言ったじゃん!」

 抗議しても、佐藤はしれっとしたまま起き上がる気配すらない。

 こんの!私だってソファで寝たいのに!!

 絶対乗ってやる!!佐藤の股の間から這い登ろうと身体をねじ込むと、佐藤が慌てた。

「やめろ!直列にすんな!わかったから!買い替えるから!」

「いま寝たいの!私は!」

 訴えても、佐藤はソファから動かない。

「譲ってよ」

「俺の方が疲れてる」

「はあ?」

 この扱いで好きだと?ありえんだろ!想い人をソファから押し出す男がどこにいるんだ!

 床の上で体育座りをしながら、じっと佐藤を見る。

「なんだよ」

「佐藤は、私のこと好きなの?」

「はあ?」

 佐藤の目にちょっと圧が加わった。やばい、ちょっと怒った?怒られる理由なんて微塵もないのに、何故だか責められてるような気持ちになった。不思議と語気が弱々しくなってしまう。

「だって、高橋がさ。佐藤に怖い目で睨まれてたって言ってて……」

「……高橋?元カレか?なに?会ったの?」

 眉間に深い皺が寄る。睨まないでよ。ちょっと怖いんだけど。

「佐藤はそんなやつじゃないって言ったんだけど……」

 佐藤がのそりと身体を起こして、首の後ろをかく。

「そう指摘されると、そうだったかもしれない」

「え?」

 予想外の言葉に驚いた。そうだったの?全然気が付かなかったんだけど。

「だって鈴木、男の趣味わりーもん。普通にムカついてた」 

「悪くないわ」

 なんてこと言うんだ。

「あいつ、顔だけじゃん。後輩の女子と簡単に関係持つし。そういう軽薄さが顔に出てた」

「……めちゃくちゃ厳しいこと言うね」

「事実だろ」

「じゃあさ。どんな男だったら、趣味いいって言えるわけ?」

 佐藤は少し黙って、虚空を見つめた。

「……俺が負けたって思えるやつ?」

「それ、佐藤しか答え分からないよね」

 佐藤は唸って、首の後ろを撫でる。

「よくわからん。けど、他の女にうつつ抜かす男は論外。クソ。これは確定してる」

「暴論すぎでしょ」

「暴論じゃない」

 言い切るのが腹立つ。

『♪~お風呂が湧きました』

 すごくいいタイミングでお風呂が湧いた。

 納得いかない。けど、佐藤は面倒くさそうにして頭をかいた。

「もう、いいだろ?で、風呂湧いたけど、先入るか?」

「いや、後にする」

「じゃあ、お先に」

 脱衣所のほうに消えていく背中を見送りながら、私はなぜか、さっきより少しだけ胸の奥が静かになっていることに気づいた。

 深く気にするだけ無駄なんだろう。相手は佐藤だし。それに、佐藤に頭の容量を取られるのも癪だった。

 壁掛け時計を見た。

 午後7時になろうとしている。

「仕方ない、ご飯作るか」

 私は立ち上がって、キッチンへと向かった。

 今日は、面倒臭いから豚丼にする。
 冷蔵庫から豚肉とニラとえのきを取り出して、食べやすいサイズに切る。油を引いたフライパンで炒めて、甘辛く味付けしたら完成。
 それと、毎度「汁が欲しい」とうるさい佐藤のためにえのきとお揚げで味噌汁も作った。
 味噌のいい香りがする。

 ちょうど、佐藤が風呂から戻ってきた。
 ほかほか湯気を出しながら、佐藤が鍋の中を覗く。

「お、美味そうじゃん、これなんて料理」

 名前なんてない。テキトーに作ったし、強いて言うなら……

「ごちゃ丼?」

「ネーミングセンス」

 鼻で笑われた。

「汁は?」

「はいはい、汁ね」

 と鍋を開けると嬉しそうに汁椀を持ってきた。

 私は味噌汁をよそって佐藤に渡した。

「丼はこっちにして」

 佐藤がでかい丼を出した。

「これ、ラーメン入れるヤツじゃん」

「腹減ってんだよ、ごはん山盛りな」

「はいはい」

 山みたいに盛ってやった。

 それでもペロッと食べれちゃうから驚きだ。
 それで太らないから羨ましい。

「佐藤って、胃袋どうなってんの?」

「身体でかいし、鍛えてるからじゃね?」

 ああ、なるほど。

 佐藤は、見た目はいいけどデカくて燃費の悪い外車みたいだ。

「燃費悪いと生きるの大変だね」

「勝手に想像して哀れみの目を向けてくるんじゃねぇよ」

「お可哀想に」

 おほほと笑うと、私の丼に佐藤の箸が突き立てられた。

「じゃぁもっと肉よこせ」

 わしっと私の丼から肉が奪われてゆく。

「あ、肉っ」

 箸に乗った肉が、佐藤のでかい口にばくんと飲み込まれた。

 佐藤がふんと鼻で笑う。

 こんなことするやつが、好きなわけないじゃん。私は淡く考えてしまった可能性を否定して、頭の隅に追いやった。

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