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side佐藤
※章立てしてましたが、読みづらくなってしまったので外しました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ときおり鈴木から、嗅ぎ慣れない匂いがした。
鈴木の好みと合わない、品の良すぎるブランドの香水みたいな匂いだった。
俺の日常がゆっくりと侵される感覚。
たまらず鈴木に訴えた。
「最近変な匂いがする」
ソファで寛いでいた鈴木に伝えると、鈴木は雑誌から視線を上げて不思議そうな顔をした。
スンスンと自分の手首辺りの匂いを嗅ぎだした。
「なんだろう……ハンドクリームかな?」
言って手の甲を俺の鼻先に近付けた。
あの匂いがした。
俺は思わず顔をしかめた。
「これなに?」
「ハンドクリーム。伊藤くんにもらったの」
くん、男かよ。
俺は舌打ちをして、鈴木の隣に腰を下ろした。
「こないだ新婚旅行行ったお土産のお返しだって」
鈴木が雑誌を閉じて、ローテーブルに置いてあったポーチを手に取った。中から女ウケしそうなピンク色のチューブを出して、俺に見せた。
パッケージからして、どう見ても安いものではなかった。
「そんなに高価な土産渡したのか?」
鈴木は首を横に振った。
「全然。係のみんなにクッキー渡したくらいだよ」
鈴木はチューブをポーチに戻しながら言った。
クッキーに対して返しが釣り合ってない。
化粧品に疎い俺だって分かる。
「なんでそんな話になってんだよ」
「日頃のお礼だって。伊藤くんも使ってて、勧められたから貰っちゃったんだけど……ダメだったかな?」
「……」
鈴木はポーチを抱えたまま不思議そうな顔で俺を見ている。
俺は息をはいた。
喉まででかかった言葉は飲み込んだ。
「そいつ、気をつけた方がいいぞ」
「ん?何が?いい子だよ?」
「とにかく断れ……そいつからモノ貰ってくんな」
「え?なに?どういうこと?」
既婚者に自分の使ってる香りを送ってくる男なんて、どう考えたってろくな奴じゃない。
俺はソファから立ち上がると、キッチンへと向かった。
冷蔵庫から缶ビールを取り出して開けると、不満を流し込むように勢いよくあおった。
「なに怒ってるの?」
ソファから立ち上がった鈴木が、俺を追いかけてカウンターまでやってきた。カウンターに肘を置いて、身を乗り出すように俺の顔を覗き込んだ。
なに怒ってるの、じゃねぇよ。ぽやぽやしやがって。
じっと見つめてみるが、鈴木は困った表情をするばかりで、これっぽっちも理解できていないようだった。
~♪
風呂が湧いたアナウンスが鳴った。
「とりあえず、風呂いけ」
俺はため息ついて、鈴木を風呂へと押しやった。
イライラしながらも、ソファに座って酒を飲む。気晴らしになるかと、バラエティ番組を出してみたが、今日はあまり面白く感じない。
それでも流し見していると、だいぶ酔いが回ってきた頃に、ローテーブルにある鈴木のスマホがなった。
ワンコール。ツーコール……
鈴木はまだ風呂から戻ってくる気配は無い。
ほっておくが、それでもスマホはしつこくなり続ける。
何度もなる単音。
俺は耐えかねて、ローテーブルに手を伸ばし、スマホに出た。
スマホから少し高い男の声が聞こえた。
『うわっ、もしかして由佳さんの旦那さんすか?』
もうその一言でこいつが誰だか分かった。
「てめーが伊藤か」
唸るような低い声が出た。
『こわぁ』
電話先で伊藤がカラカラと笑った。
『人の携帯出るとかマナー違反じゃないっすか?』
おちょくるような発言が余計に腹が立った。
「人の嫁にちょっかい出す方がマナー違反だろ」
『人のとか関係ないでしょ?どうするか決めるのは由佳さんですし』
「名前で呼んでんじゃねぇよ」
『由佳さん可愛いっすよねぇ。小さいし、笑った顔とかちょっと抜けてるとことか……俺わりと本気なんで』
「ざけんな!!」
怒りのまま通信を切った。
スマホを床に叩きつけそうになって、押し留まって、ソファに投げた。
怒りはぐるぐる腹の中で暴れているのに、俺はきっとこの気持ちを鈴木に言えない。
俺はキッチンへ向かうと、今度は焼酎をグラスに注いで一気にあおった。
飲んでも飲んでも気分は晴れやしない。
そのうち、カウンター越しに鈴木が風呂から戻って来るのが見えた。
勢いよくグラスをあおぐ俺を見て、鈴木が心配そうな声を出した。
「ちょっと、勢いよく飲みすぎじゃない?」
俺の傍までやってきた鈴木を抱き寄せた。
小さな鈴木は俺の腕の中にすっぽり収まった。
俺は、鈴木の肩に顔を押し当てた。
鈴木から嗅ぎなれた匂いがしてほっとした。
いつかこの匂いも塗り替えられるのかと思うと、どうしようもなく不安になった。
「なぁ、鈴木、愛してるって言ってくれ」
「は?自分が言えないくせに人に言わそうとか、10年早いわ」
鈴木は容赦ない。
「んだよ、言えよ……」
情けない。酔ったせいもあって、どうにも制御が効かない。丸めた俺の背を鈴木がさする。
「なに?どうしたの?」
優しい声色が、傷口に染みた。
「あのクソガキの連絡先消してくれ」
「は?クソガキって誰?」
「鈴木は俺に他の女から連絡来ても平気なのか?」
「え?まずクソガキが誰か教えてよ」
「そんなもん、クソガキはクソガキだ」
「話にならん」
鈴木が呆れたように言った。
鈴木は雲と一緒だ。ここにいるのに掴めた気がしない。
「あの伊藤ってやつ……」
俺の言葉に鈴木は「ああ」と呟いて黙った。
言ってからダサすぎて後悔した。
俺の腕の中で鈴木が、ふふ、と小さく笑った。
「もしかして、ヤキモチ焼いてる?」
予想外の言葉に思わず見下ろした。
鈴木の表情は見えなかった。だが、鈴木の声が弾んでいた。
「佐藤は普段分かりづらいから、なかなかに良い気分だよ」
鈴木が俺の背を宥めるようにポンポンと叩いた。
俺はムッとした。
「んだよ、性格悪いぞ」
鈴木がくすくすと笑った。
「そんなに嫌なら伊藤くんの指導担当変わって貰うよ?」
「いい。ムカつくけど、それやると負けた気がする」
「勝ち負けの基準が分かんないんだけど」
「とりあえず、1日1回あいつの前で俺のこと惚気けてくれ 」
「めんどくさいな。それなら変わってもらうよ」
しがみつく俺を鈴木は「よしよし」と頭を撫でた。
単純なもので、酔いが覚める頃にはもう、ギスギスした気持ちは無くなっていた。
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ときおり鈴木から、嗅ぎ慣れない匂いがした。
鈴木の好みと合わない、品の良すぎるブランドの香水みたいな匂いだった。
俺の日常がゆっくりと侵される感覚。
たまらず鈴木に訴えた。
「最近変な匂いがする」
ソファで寛いでいた鈴木に伝えると、鈴木は雑誌から視線を上げて不思議そうな顔をした。
スンスンと自分の手首辺りの匂いを嗅ぎだした。
「なんだろう……ハンドクリームかな?」
言って手の甲を俺の鼻先に近付けた。
あの匂いがした。
俺は思わず顔をしかめた。
「これなに?」
「ハンドクリーム。伊藤くんにもらったの」
くん、男かよ。
俺は舌打ちをして、鈴木の隣に腰を下ろした。
「こないだ新婚旅行行ったお土産のお返しだって」
鈴木が雑誌を閉じて、ローテーブルに置いてあったポーチを手に取った。中から女ウケしそうなピンク色のチューブを出して、俺に見せた。
パッケージからして、どう見ても安いものではなかった。
「そんなに高価な土産渡したのか?」
鈴木は首を横に振った。
「全然。係のみんなにクッキー渡したくらいだよ」
鈴木はチューブをポーチに戻しながら言った。
クッキーに対して返しが釣り合ってない。
化粧品に疎い俺だって分かる。
「なんでそんな話になってんだよ」
「日頃のお礼だって。伊藤くんも使ってて、勧められたから貰っちゃったんだけど……ダメだったかな?」
「……」
鈴木はポーチを抱えたまま不思議そうな顔で俺を見ている。
俺は息をはいた。
喉まででかかった言葉は飲み込んだ。
「そいつ、気をつけた方がいいぞ」
「ん?何が?いい子だよ?」
「とにかく断れ……そいつからモノ貰ってくんな」
「え?なに?どういうこと?」
既婚者に自分の使ってる香りを送ってくる男なんて、どう考えたってろくな奴じゃない。
俺はソファから立ち上がると、キッチンへと向かった。
冷蔵庫から缶ビールを取り出して開けると、不満を流し込むように勢いよくあおった。
「なに怒ってるの?」
ソファから立ち上がった鈴木が、俺を追いかけてカウンターまでやってきた。カウンターに肘を置いて、身を乗り出すように俺の顔を覗き込んだ。
なに怒ってるの、じゃねぇよ。ぽやぽやしやがって。
じっと見つめてみるが、鈴木は困った表情をするばかりで、これっぽっちも理解できていないようだった。
~♪
風呂が湧いたアナウンスが鳴った。
「とりあえず、風呂いけ」
俺はため息ついて、鈴木を風呂へと押しやった。
イライラしながらも、ソファに座って酒を飲む。気晴らしになるかと、バラエティ番組を出してみたが、今日はあまり面白く感じない。
それでも流し見していると、だいぶ酔いが回ってきた頃に、ローテーブルにある鈴木のスマホがなった。
ワンコール。ツーコール……
鈴木はまだ風呂から戻ってくる気配は無い。
ほっておくが、それでもスマホはしつこくなり続ける。
何度もなる単音。
俺は耐えかねて、ローテーブルに手を伸ばし、スマホに出た。
スマホから少し高い男の声が聞こえた。
『うわっ、もしかして由佳さんの旦那さんすか?』
もうその一言でこいつが誰だか分かった。
「てめーが伊藤か」
唸るような低い声が出た。
『こわぁ』
電話先で伊藤がカラカラと笑った。
『人の携帯出るとかマナー違反じゃないっすか?』
おちょくるような発言が余計に腹が立った。
「人の嫁にちょっかい出す方がマナー違反だろ」
『人のとか関係ないでしょ?どうするか決めるのは由佳さんですし』
「名前で呼んでんじゃねぇよ」
『由佳さん可愛いっすよねぇ。小さいし、笑った顔とかちょっと抜けてるとことか……俺わりと本気なんで』
「ざけんな!!」
怒りのまま通信を切った。
スマホを床に叩きつけそうになって、押し留まって、ソファに投げた。
怒りはぐるぐる腹の中で暴れているのに、俺はきっとこの気持ちを鈴木に言えない。
俺はキッチンへ向かうと、今度は焼酎をグラスに注いで一気にあおった。
飲んでも飲んでも気分は晴れやしない。
そのうち、カウンター越しに鈴木が風呂から戻って来るのが見えた。
勢いよくグラスをあおぐ俺を見て、鈴木が心配そうな声を出した。
「ちょっと、勢いよく飲みすぎじゃない?」
俺の傍までやってきた鈴木を抱き寄せた。
小さな鈴木は俺の腕の中にすっぽり収まった。
俺は、鈴木の肩に顔を押し当てた。
鈴木から嗅ぎなれた匂いがしてほっとした。
いつかこの匂いも塗り替えられるのかと思うと、どうしようもなく不安になった。
「なぁ、鈴木、愛してるって言ってくれ」
「は?自分が言えないくせに人に言わそうとか、10年早いわ」
鈴木は容赦ない。
「んだよ、言えよ……」
情けない。酔ったせいもあって、どうにも制御が効かない。丸めた俺の背を鈴木がさする。
「なに?どうしたの?」
優しい声色が、傷口に染みた。
「あのクソガキの連絡先消してくれ」
「は?クソガキって誰?」
「鈴木は俺に他の女から連絡来ても平気なのか?」
「え?まずクソガキが誰か教えてよ」
「そんなもん、クソガキはクソガキだ」
「話にならん」
鈴木が呆れたように言った。
鈴木は雲と一緒だ。ここにいるのに掴めた気がしない。
「あの伊藤ってやつ……」
俺の言葉に鈴木は「ああ」と呟いて黙った。
言ってからダサすぎて後悔した。
俺の腕の中で鈴木が、ふふ、と小さく笑った。
「もしかして、ヤキモチ焼いてる?」
予想外の言葉に思わず見下ろした。
鈴木の表情は見えなかった。だが、鈴木の声が弾んでいた。
「佐藤は普段分かりづらいから、なかなかに良い気分だよ」
鈴木が俺の背を宥めるようにポンポンと叩いた。
俺はムッとした。
「んだよ、性格悪いぞ」
鈴木がくすくすと笑った。
「そんなに嫌なら伊藤くんの指導担当変わって貰うよ?」
「いい。ムカつくけど、それやると負けた気がする」
「勝ち負けの基準が分かんないんだけど」
「とりあえず、1日1回あいつの前で俺のこと惚気けてくれ 」
「めんどくさいな。それなら変わってもらうよ」
しがみつく俺を鈴木は「よしよし」と頭を撫でた。
単純なもので、酔いが覚める頃にはもう、ギスギスした気持ちは無くなっていた。
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