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佐藤と鈴木
「ただいまぁ」
帰宅後、玄関でパンプスを脱いでいると、音を聞きつけた佐藤がリビングから出てきた。
「おかえり」
廊下は狭いのに、佐藤が両手を広げてリビングの入口を塞いでしまう。
佐藤は詳しく言わないけれど、これは「こっちにこい」の合図でもある。
私は自分から佐藤の腕の中に入ると、ぎゅっと抱きしめられた。
佐藤が嫉妬したあの一件以来、日課になっていた。
佐藤が私の肩口に顔を寄せる。
鼻先がくすぐったい。
身を捩ると、ぐっと強く抱き寄せられる。
耳のすぐ側でスンスンと佐藤が鼻を鳴らす音が聞こえてくる。
「うん」と佐藤が頷いて、私の腕を取る。
今度は、持ち上げた私の手首に鼻先を近づけて、スンスンと鼻を鳴らした。
そして、また「うん」と小さく頷く。
そうしてやっと、佐藤は私を解放する。
なんだか犬みたいだな、と毎度思ってしまう。
はじめは何をしているのか分からなかったけれど、これは匂いを確かめられているのだと最近やっと理解した。
全ては伊藤くんを警戒してのことらしい。
もう、指導担当でもないのに、信用されてるのか、されてないのか。
とにかく佐藤が心配性なことはよく分かった。
「合格?」と聞くと、佐藤は「うん」と頷くので笑ってしまった。
まぁ、そんな感じで佐藤は毎日、私の匂いを確認している。
*
ご飯も終わって、ソファに並んで座っている時だった。
忘れていたことを思い出して、私は「あ!」と声を上げた。
佐藤が驚いた顔で私を見た。
「あのね、佐藤。そういえば伊藤くんのことだけど異動になったよ」
告げると、佐藤が更に驚いた顔をした。
「問題起こして、遠くに異動するみたいだよ」
そこまで話すと、佐藤は口端をあげた。
「ざまあねぇな」
佐藤が、意地悪く言ってくくっと笑った。
「性格悪いよ」
「自業自得だろ」
そう言われると、確かにそうかとも思うので、口を噤んだ。
「まぁ、でもこれで心配は無くなった?」
隣にいる佐藤の顔をのぞき込むと、佐藤が「おお」と頷いた。
それは良かった。
「一応、元指導担当ってことで詳しく聞いたけど、聞く?」
「いい、鈴木がちょっかい出されないなら、問題ない」
佐藤がそう言って、私の腕を引いた。
身を捻った状態でぎゅっと抱きしめられた。
佐藤の背中をポンポンと叩くと、佐藤が「そういえば」と腕の力を緩めた。
「鈴木。また俺の事、佐藤って呼んでるよな?」
今それ聞く?随分前から「耕平」から「佐藤」に呼び方を戻していたけど、心配ごとが片付いてようやく気づいたらしい。私は小さく笑った。
「そうだよ、佐藤が鈴木って言うから、私のこと名前で呼べるようになるまで、佐藤って呼ぶことにしたの」
そう伝えると、佐藤が眉間にシワを寄せて難しい顔をした。
「なんでだよ」
「なんでって、フェアじゃないでしょ?嫌なら佐藤も私の名前で呼んでよ」
佐藤の目が逸らされた。
都合が悪くなるとすぐそうやって目を逸らす。
私はムッとする。
「結婚2年目になるまでには呼べるようになってよ」
そのまま腕の中から抜け出そうとしたのだけど、ぐっと力を込められて、また抱きしめられてしまった。
ぎゅっと力を込めて抱きしめられるけど、佐藤は何も言わない。
「佐藤?」
佐藤を呼ぶと、耳に何かが触れた。
「……由佳」
低く掠れるような声に、背筋がぞくりとした。
名前を呼んで欲しいとは言ったけど……
「由佳」とまた名前を呼ばれる。
何度も、何度も。
どこも触れられていないのに、その度に背筋がゾクゾクした。
「……っ、それは反則だよ」
訴えると、佐藤が私の肩に顔を埋めてしまった。
「無理だ……やっぱ、恥ずかしい……」
佐藤が観念するように呟いた。
私は思わず笑ってしまった。
帰宅後、玄関でパンプスを脱いでいると、音を聞きつけた佐藤がリビングから出てきた。
「おかえり」
廊下は狭いのに、佐藤が両手を広げてリビングの入口を塞いでしまう。
佐藤は詳しく言わないけれど、これは「こっちにこい」の合図でもある。
私は自分から佐藤の腕の中に入ると、ぎゅっと抱きしめられた。
佐藤が嫉妬したあの一件以来、日課になっていた。
佐藤が私の肩口に顔を寄せる。
鼻先がくすぐったい。
身を捩ると、ぐっと強く抱き寄せられる。
耳のすぐ側でスンスンと佐藤が鼻を鳴らす音が聞こえてくる。
「うん」と佐藤が頷いて、私の腕を取る。
今度は、持ち上げた私の手首に鼻先を近づけて、スンスンと鼻を鳴らした。
そして、また「うん」と小さく頷く。
そうしてやっと、佐藤は私を解放する。
なんだか犬みたいだな、と毎度思ってしまう。
はじめは何をしているのか分からなかったけれど、これは匂いを確かめられているのだと最近やっと理解した。
全ては伊藤くんを警戒してのことらしい。
もう、指導担当でもないのに、信用されてるのか、されてないのか。
とにかく佐藤が心配性なことはよく分かった。
「合格?」と聞くと、佐藤は「うん」と頷くので笑ってしまった。
まぁ、そんな感じで佐藤は毎日、私の匂いを確認している。
*
ご飯も終わって、ソファに並んで座っている時だった。
忘れていたことを思い出して、私は「あ!」と声を上げた。
佐藤が驚いた顔で私を見た。
「あのね、佐藤。そういえば伊藤くんのことだけど異動になったよ」
告げると、佐藤が更に驚いた顔をした。
「問題起こして、遠くに異動するみたいだよ」
そこまで話すと、佐藤は口端をあげた。
「ざまあねぇな」
佐藤が、意地悪く言ってくくっと笑った。
「性格悪いよ」
「自業自得だろ」
そう言われると、確かにそうかとも思うので、口を噤んだ。
「まぁ、でもこれで心配は無くなった?」
隣にいる佐藤の顔をのぞき込むと、佐藤が「おお」と頷いた。
それは良かった。
「一応、元指導担当ってことで詳しく聞いたけど、聞く?」
「いい、鈴木がちょっかい出されないなら、問題ない」
佐藤がそう言って、私の腕を引いた。
身を捻った状態でぎゅっと抱きしめられた。
佐藤の背中をポンポンと叩くと、佐藤が「そういえば」と腕の力を緩めた。
「鈴木。また俺の事、佐藤って呼んでるよな?」
今それ聞く?随分前から「耕平」から「佐藤」に呼び方を戻していたけど、心配ごとが片付いてようやく気づいたらしい。私は小さく笑った。
「そうだよ、佐藤が鈴木って言うから、私のこと名前で呼べるようになるまで、佐藤って呼ぶことにしたの」
そう伝えると、佐藤が眉間にシワを寄せて難しい顔をした。
「なんでだよ」
「なんでって、フェアじゃないでしょ?嫌なら佐藤も私の名前で呼んでよ」
佐藤の目が逸らされた。
都合が悪くなるとすぐそうやって目を逸らす。
私はムッとする。
「結婚2年目になるまでには呼べるようになってよ」
そのまま腕の中から抜け出そうとしたのだけど、ぐっと力を込められて、また抱きしめられてしまった。
ぎゅっと力を込めて抱きしめられるけど、佐藤は何も言わない。
「佐藤?」
佐藤を呼ぶと、耳に何かが触れた。
「……由佳」
低く掠れるような声に、背筋がぞくりとした。
名前を呼んで欲しいとは言ったけど……
「由佳」とまた名前を呼ばれる。
何度も、何度も。
どこも触れられていないのに、その度に背筋がゾクゾクした。
「……っ、それは反則だよ」
訴えると、佐藤が私の肩に顔を埋めてしまった。
「無理だ……やっぱ、恥ずかしい……」
佐藤が観念するように呟いた。
私は思わず笑ってしまった。
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