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佐藤と鈴木
「鈴木?」って声をかけられてハッとした。
テーブルで向かい合わせに座っている佐藤が、
食事の手を止めて、私の顔をじっと見つめていた。
「な、何?」
聞き声すと佐藤が少し不機嫌そうな顔になって、わたしは心臓が痛くなった。
「いや、飯。口に入ってないから」
「え?」と指を刺された所を見る。
テーブルの上にご飯粒の塊が落ちていた。
「あ、ごめん!」
ご飯中だったのに、つい呆けてしまった。私は、慌ててティッシュでご飯をくるんだ。
佐藤の視線が痛い。
「あはは……やだね、ぼーっとしちゃって」
ゴミ箱に捨てて、席に座って箸を持つ。
佐藤はじっと私を見つめたままだ。
その視線は全部見透かされてるようで苦手だ。
「なぁ」と佐藤が口を開いた。
「鈴木。なんかあったか?」
核心に触れるような言葉に息が詰まった。
出来たら掘り起こさないで欲しいのに。
「なんでもないよ?」
笑って見せたけど、
「嘘つけ。頬が引きつってんだろ」
佐藤はそんな些細な変化も見抜いてしまう。
目の奥が熱くなって、思わず視線をそらせた。
「鈴木?」
呼ばれて佐藤の方を見る。
佐藤が両手を広げていた。
こっちに来いの合図だ。席をたって佐藤の膝の上に横座りで腰を下ろした。
「どうした?」
我慢してたのに、優しい声色が涙腺を緩めてしまう。
私は佐藤にしがみついた。
その背を、佐藤が優しく撫でてくれる。
そんなことをされたら余計に涙が出てしまう。
零れた涙を私は佐藤の肩に擦り付けた。
「佐藤の会社の前で佐藤が女の人と話してるの見て……」
告げると、佐藤が「ああ」と納得したような声を出した。
「課長のことか……」と佐藤が呟く。
すごく綺麗な人だった。
艶のある真っ直ぐな髪と、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでるモデル体型。
背丈も釣り合っていて、佐藤と並ぶとお似合いのカップルだった。
「それでね……昔のこと思い出して不安に……なっちゃって……」
そう、昔のことなんだけど。
高橋もはじめは佐藤と同じ反応をしていた。
ただの後輩だよって言っていたのに、だんだんと変わっていった。
佐藤は高橋と違うってわかってる。
でも、どうしたって最悪の状況を考えてしまう。
自分でもどうしようもなかった。
しがみついたまま鼻をすすっていると、佐藤が深く息を吐いた。
呆れられただろうか……。
嫌にならないで欲しい。
腕に力を込めると、佐藤が「よしよし」と言って私の後頭部を撫でた。
「クソ橋の野郎め、どこまでも忌々しいな」
佐藤が私を撫でながら「トラウマ植え付けてんじゃねぇよ」とか「今度会ったら文句言ってやる」とかボヤいた。
それから、私をぎゅっと抱きしめた。
「安心しろ、俺には鈴木だけだから」
優しい言葉だ。
そんな言葉を言わせてしまっても、弱い私は信じられないでいる。佐藤の言葉を否定するみたいに頭を横に振った。
「だって……いま、まで、佐藤の彼女って、課長さんみたいな人……ばっかりだった……私は真逆だし……」
必死にしがみつきながら言った言葉は、どもったり、ひっくり返ったりでみっともなかった。
恥ずかしいからやめたいのに、止められなかった。
「たまたまだから。俺の趣味とかじゃない」
佐藤がきっぱりと言った。
「……でも、おっぱい大きかった」
「胸の大きさは関係ないから」
「……綺麗な人だった……」
「鈴木は可愛いから問題ない」
「じゃぁ、じゃぁ……」
「ほんとに、クソ橋の野郎め……」
佐藤がため息をついた。
「マジでトラウマになってんじゃねぇか」
今度は背を撫でながら、佐藤が私の頬に唇をよせた。
泣き顔は見られたくない。
佐藤の肩にぐりぐりと顔を押し付けた。
「だって、だって……うう~めんどくさいってわかってるけどっ……」
「大丈夫だから」
とうとう声をあげて泣き出した私を、佐藤は投げ出さずに、ずっと背を撫でてくれた。
しばらく泣いて落ち着いたので、身体を離すと、私の顔を見た佐藤が「目が赤い」と言ってキスをした。
「後で冷やすか」
うんと頷くと、佐藤が小さく笑う。
「確かに、嫉妬されるのは悪い気分じゃないな」
泣いてた人に言う言葉じゃない。
私はムッとした。
「性格悪いよ」
「鈴木だってこないだ気分がいいって言ってただろ?」
指摘されて、ハンドクリームの時のことを思い出した。
「……確かに」
少し可笑しくなって吹き出すと、
「お互い様だ」
と言って佐藤が私の頭をぽんぽんと叩いた。
「鈴木が思ってるより、俺の方がめんどくさいし、重いから安心しろ」
重い?
一瞬疑問に思って、すぐに思いついた。
今、私は佐藤の膝の上に全体重をかけて乗っている。
「あっ、ごめん!重かったよね」
慌てて膝の上から降りると、佐藤が吹き出した。
「体重の話じゃねぇよ」
立ち上がった佐藤が笑いながら、私の頭をくちゃくちゃに撫で回して、
「もっと気持ちを伝えられるように……頑張るわ」
と佐藤が照れたように言うから
「それも嬉しいけど、まずは名前で呼んで欲しいな」
と伝えてみた。
すると、佐藤は眉間に皺を寄せて天を仰いでしまった。
まだまだ先が長いみたい。
それでもさっきまであった不安は消えていた。
いつだってそうだった。
悲しい時や苦しい時はいつだって、佐藤が慰めてくれた。
佐藤が旦那さんで良かった。
心からそう思った。
__________________
『付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた』は、これにて完結となります。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
毎度、四苦八苦しながら書いていますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
私の作品を見つけて読んでくださった皆様、いいねやエールで応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
いつも創作の励みになっております。
また別の作品でお会いできたら嬉しいです。
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