万能型の追放英雄 ～全適性Ｓ級で始める異世界生活～

002 追放宣告

「6人だったらまずいの？」

　この世界に来て初めて口を開く俺。
　狼狽する王様に代わって、魔術師が詳細を教えてくれた。

　曰く、相手方の予定していた召喚人数は5人とのこと。
　召喚された5人は〈五英雄〉と呼ばれ、各々に特別な力が宿っている。
　その力を使って魔王を討伐してほしい、というのが相手方の意向だ。

「少ないならともかく、多いならいいんじゃ？」

　俺が言うと、他の5人も頷いた。
　魔術師の爺さんが首を横に振る。

「五英雄は5人だからこそ五英雄です」

「なら六英雄に名前を変えよう。それで解決だ」

　5人が笑う。
　だが、この世界の人々は眉間に皺を寄せた。

「召喚した英雄の中にイレギュラーな存在、不純物が混じっているぞ！」

　王様が発狂する。
　絨毯の左右に立つ偉そうな人々も「なんたることだ」と嘆く。
　俺達は何が何やらと立ち尽くす。
　そんな中、魔術師が言った。

「ご安心ください！　調べる方法がございます！」

　魔術師が白い陶器のうつわを召喚した。
　片手の掌にすっぽり収まる大きさで、中には水が入っている。

「この〈魔法具〉に手をかざすことで、その者の秘めた能力を可視化できます。五英雄は全員が特定の能力に特化していますから、偽者以外は、水の色が大きく変化するに違いありません！」

「素晴らしい！　直ちに実行しよう！」

　勝手に召喚しておいて、偽者やら不純物やら、酷い言い草だ。
　とはいえ、今の俺達6人に文句を言う権利はない。
　ただ言われたことに従うだけだ。

「では、お一人ずつ、うつわの水に掌を向けてください。右手と左手、どちらの手でもかまいません」

　よく分からないまま、魔法具とやらを使った検査が始まる。
　最初の男が手をかざすと、水の色が急激に変化した。
　透明だったものが、血のような濃い赤色になる。

「うわぁ！」

　それに驚いて、男が手を魔法具から離す。
　水の色がたちまち透明に戻った。

「次の方」

　今度は緑色に染まった

「次の方」「次の」「次」

　その後も、青、黄、紫と、水の色が変化していく。

「どうやら五英雄はこちらの5人みたいです」

「すると不純物は貴様かぁ！」

　王様が不純物認定した男に向かって怒鳴る。
　その男とは、何を隠そう、俺のことであった。
　先程までの柔らかい態度が、一転して攻撃的になる。

「ちょっと待ってくれよ！」

　今にも処刑されそうな雰囲気だったので、慌てて待ったを掛けた。

「俺だって素質があるかもしれないだろ！　調べてくれよ！　不純物だか偽者だか知らないが、そういう認定をするのは調べてからでも遅くないだろ！」

「だったら調べてみよ」

「言われなくてもやってやらぁ！」

　俺は魔術師の持つうつわに手をかざす。
　水がプルプルと震えるように、小さく波立つ。
　そして、透明から白色に変わった。
　薄らとした白ではなく、牛乳のような濃い白だ。

「ほら見ろ！　変化があるじゃないか！　何が偽者だ！　馬鹿馬鹿しい！」

　ドヤ顔で宣言する俺。
　それに対する王様の反応は予想と違っていた。

「やはりな」

　真顔でそう呟いた後、怒気を発しながら俺に言い放つ。

「お前は違う。オマケで召喚された不純物、偽者だ！」

「なんでだよ！　白色に染まったじゃねぇかよ！」

　魔術師が答える。

「白色が万能型だからです。万能型は全ての能力に秀でている者を指します」

「だったら普通に良さそうだが」

「たしかに悪くありません。しかし、この場に限っては違います。五英雄は特定の能力に特化した者。そして万能型は、特化している能力が何もない。つまり、万能型であることこそ、五英雄でないことの証拠になります」

　王様が「そういうことだ」と頷く。

「よって、不純物であるお主に用はない。今すぐここから出て行くがよい」

　いきなり異世界に召喚された俺は、いきなり追放宣告を受けてしまった。