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003 エルディ
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「賢者の書には何が書いてあるんだ!?」
ライデンたちが食いつく中、マリアはパラパラとページをめくった。
「レシピがたくさん載っているよ! 知らない料理がたくさん!」
「料理? するとレシピ本なのか?」とロン。
「そうだと思うけど、これだけ分厚いからもしかしたら違うかも! でも最初のほうのページは料理や調味料のことが載ってる!」
「どんな料理なんだ? 美味そうか?」
ライデンが尋ねると、マリアは「うーん」と唸った。
「写真やイラストがないからなんとも……。それに聞いたことのない料理ばっかり!」
「それはマリアが王宮に閉じ込められていたからじゃない?」
「テオの言う通りじゃ。ほれ、試しに一つ料理名を言ってみぃ」
「じゃあ……ヨーグルトって分かる?」
「「「ヨーグルト?」」」
三人は首を傾げた。
「俺だけでなく情報屋のテオと爺さんも知らないのか。だったらこの世界にはない料理か、もしくはどこかの地方や家庭でのみ作られている物なのかな」
「それか異世界の料理なのかも?」
「「「異世界?」」」
「前に国王陛下が仰っていたんだけど、この書を記した賢者って、この世界とは違う別の世界から来たって言われているらしいの」
「異世界なんてものが存在するのか?」
ライデンは答えを求めてロンを見る。
「与太話の定番ネタではあるが……本当に存在するのかは分からぬなぁ」
「ま、何だっていいか。なんにしても面白そうだし、町に着いたらヨーグルトってのを作ってみようぜ!」
テオが「賛成!」と手を挙げる。
「じゃあ今の内に作り方をマスターしないとね!」
マリアはヨーグルトの製法を口に出して読み上げた。
◇
馬車を何台か乗り継ぐこと約8時間、マリア一行は目的地に到着した。
四人は御者に礼を言って馬車を降りた。
「ここがアルバニアとホライズンの国境に位置する辺境の小さな町〈エルディ〉だ!」
ライデンが両手を広げる。
彼の背後には、築年数の浅い綺麗な石造りの建物が並んでいた。地面も石畳で、周辺の都市よりも近代的な雰囲気が漂っている。
「すごく綺麗!」
「なんたって魔物の消滅後にできた町だからね!」とテオ。
「え、そうなの?」
「冒険者や鍛冶屋、アルバニア王国だと魔法使いもだけど、そうしたお役御免になった人たちの新しい拠点として作られた町なんだ。だから平均年齢が近隣の田舎町に比べて一回り以上も低くて活気もあるよ」
「なるほど!」
たしかに若い人が多いな、とマリアは思った。
思春期を王宮で過ごした無知の彼女ですら、若者ほど都市部に集まることは知っている。国が発行している新聞にそうした情報が載っていたからだ。
「おうクソ野郎! 早く町を発展させて楽させてくれよ! お前のせいで今日も貧乏メシで我慢することになりそうだぜ!」
ライデンより一回り上の男が、近くを通りがかったついでに言った。言葉に反して楽しそうに笑っており、冗談で言っていることがよく分かる。
「まぁそう早まるな! 俺たちはアルバニア王国の聖女様を連れてきたんだ! 底なしの魔力とロン爺の魔法技術でウルトラ魔法タウンになる日も近いぜ!」
「おいおい、聖女様ってマジかよ!?」
男は目をギョッとさせてマリアを見た。
「へぇ、あんたが聖女様か」
「マ、マリアと申します、よろしくお願いします」
「たしかにほとばしる魔力が段違いだなぁ」
「え、分かるのですか?」
「そりゃ魔物がいた頃は冒険者ギルドでステータスカードを作っていたからな!」
マリアにはステータスカードが何か分からなかった。もっと言えば冒険者ギルドが何かも分からない。ただ、話の流れで男が凄いことは分かった。だからこう返す。
「それはすごいですね!」
「へへ、まぁな。ま、この町はド貧乏だし、町長は世界平和のために自己犠牲を厭わない大馬鹿者だけど、住み心地はいい町だから楽しんでいってくれよな!」
話し終えると男は「じゃあな」と去っていった。
「今のおっさんについて、どう思った?」
男が消えるとライデンが尋ねた。
「どうって言うと……」
「率直な感想を教えてほしい。息がくせぇとか何だっていいんだ」
「そんなこと思わなかったよ! むしろ優しくていい人だなぁって!」
その答えを聞いて、ライデンたちは笑顔になった。
「ならマリアはこの町で楽しく過ごせると思うぜ。なんたって〈エルディ〉の住民はあのおっさんみたいな奴ばっかだからな!」
「本当に? でも、皆が皆、あんなにグイグイ来られると辛いかも!?」
「違いねぇ!」
四人が声を上げて笑う。
この時、マリアは心の底から思っていた。
ライデンの誘いに応じて良かったな、と。
ここでの生活がどんなものになるか楽しみで仕方なかった。
◇
ライデンたち三人がマリアに〈エルディ〉を案内する。人口1000人ほどの小さな町なので、あっという間に全てを歩き終えた。
「――で、ここがマリアの家だ」
ライデンが家に手を向ける。二人で過ごすのにちょうど良さそうな一軒家だ。一人だと広すぎるかもしれない。
「え、私の家を用意していてくれたの!?」
「当たり前だろ!」
「などとロンは言っているけど本当は違うよ。この辺りの家は町の誕生と同時に建設されたんだ。だから周囲の家と見た目が全く同じでしょ」
テオの言う通りだった。付近の家は全て同じ外観をしている。
「そこは言わない約束だろ、テオー!」
「僕は正直者だからね。それより案内も終わったしヨーグルトを作ろうよ!」
「賛成! なら町役場に行こうぜ! あそこなら食材が揃っている!」
「なんで町役場に食材が揃っているの?」
当然の疑問を口にするマリア。
「決まっているだろ――」
ライデンはニヤリと笑った。
「――町役場でやることがメシを食う以外にねぇからだ!」
「えぇぇぇ……」
マリアは思った。
この町は果たして大丈夫なのだろうか、と。
ライデンたちが食いつく中、マリアはパラパラとページをめくった。
「レシピがたくさん載っているよ! 知らない料理がたくさん!」
「料理? するとレシピ本なのか?」とロン。
「そうだと思うけど、これだけ分厚いからもしかしたら違うかも! でも最初のほうのページは料理や調味料のことが載ってる!」
「どんな料理なんだ? 美味そうか?」
ライデンが尋ねると、マリアは「うーん」と唸った。
「写真やイラストがないからなんとも……。それに聞いたことのない料理ばっかり!」
「それはマリアが王宮に閉じ込められていたからじゃない?」
「テオの言う通りじゃ。ほれ、試しに一つ料理名を言ってみぃ」
「じゃあ……ヨーグルトって分かる?」
「「「ヨーグルト?」」」
三人は首を傾げた。
「俺だけでなく情報屋のテオと爺さんも知らないのか。だったらこの世界にはない料理か、もしくはどこかの地方や家庭でのみ作られている物なのかな」
「それか異世界の料理なのかも?」
「「「異世界?」」」
「前に国王陛下が仰っていたんだけど、この書を記した賢者って、この世界とは違う別の世界から来たって言われているらしいの」
「異世界なんてものが存在するのか?」
ライデンは答えを求めてロンを見る。
「与太話の定番ネタではあるが……本当に存在するのかは分からぬなぁ」
「ま、何だっていいか。なんにしても面白そうだし、町に着いたらヨーグルトってのを作ってみようぜ!」
テオが「賛成!」と手を挙げる。
「じゃあ今の内に作り方をマスターしないとね!」
マリアはヨーグルトの製法を口に出して読み上げた。
◇
馬車を何台か乗り継ぐこと約8時間、マリア一行は目的地に到着した。
四人は御者に礼を言って馬車を降りた。
「ここがアルバニアとホライズンの国境に位置する辺境の小さな町〈エルディ〉だ!」
ライデンが両手を広げる。
彼の背後には、築年数の浅い綺麗な石造りの建物が並んでいた。地面も石畳で、周辺の都市よりも近代的な雰囲気が漂っている。
「すごく綺麗!」
「なんたって魔物の消滅後にできた町だからね!」とテオ。
「え、そうなの?」
「冒険者や鍛冶屋、アルバニア王国だと魔法使いもだけど、そうしたお役御免になった人たちの新しい拠点として作られた町なんだ。だから平均年齢が近隣の田舎町に比べて一回り以上も低くて活気もあるよ」
「なるほど!」
たしかに若い人が多いな、とマリアは思った。
思春期を王宮で過ごした無知の彼女ですら、若者ほど都市部に集まることは知っている。国が発行している新聞にそうした情報が載っていたからだ。
「おうクソ野郎! 早く町を発展させて楽させてくれよ! お前のせいで今日も貧乏メシで我慢することになりそうだぜ!」
ライデンより一回り上の男が、近くを通りがかったついでに言った。言葉に反して楽しそうに笑っており、冗談で言っていることがよく分かる。
「まぁそう早まるな! 俺たちはアルバニア王国の聖女様を連れてきたんだ! 底なしの魔力とロン爺の魔法技術でウルトラ魔法タウンになる日も近いぜ!」
「おいおい、聖女様ってマジかよ!?」
男は目をギョッとさせてマリアを見た。
「へぇ、あんたが聖女様か」
「マ、マリアと申します、よろしくお願いします」
「たしかにほとばしる魔力が段違いだなぁ」
「え、分かるのですか?」
「そりゃ魔物がいた頃は冒険者ギルドでステータスカードを作っていたからな!」
マリアにはステータスカードが何か分からなかった。もっと言えば冒険者ギルドが何かも分からない。ただ、話の流れで男が凄いことは分かった。だからこう返す。
「それはすごいですね!」
「へへ、まぁな。ま、この町はド貧乏だし、町長は世界平和のために自己犠牲を厭わない大馬鹿者だけど、住み心地はいい町だから楽しんでいってくれよな!」
話し終えると男は「じゃあな」と去っていった。
「今のおっさんについて、どう思った?」
男が消えるとライデンが尋ねた。
「どうって言うと……」
「率直な感想を教えてほしい。息がくせぇとか何だっていいんだ」
「そんなこと思わなかったよ! むしろ優しくていい人だなぁって!」
その答えを聞いて、ライデンたちは笑顔になった。
「ならマリアはこの町で楽しく過ごせると思うぜ。なんたって〈エルディ〉の住民はあのおっさんみたいな奴ばっかだからな!」
「本当に? でも、皆が皆、あんなにグイグイ来られると辛いかも!?」
「違いねぇ!」
四人が声を上げて笑う。
この時、マリアは心の底から思っていた。
ライデンの誘いに応じて良かったな、と。
ここでの生活がどんなものになるか楽しみで仕方なかった。
◇
ライデンたち三人がマリアに〈エルディ〉を案内する。人口1000人ほどの小さな町なので、あっという間に全てを歩き終えた。
「――で、ここがマリアの家だ」
ライデンが家に手を向ける。二人で過ごすのにちょうど良さそうな一軒家だ。一人だと広すぎるかもしれない。
「え、私の家を用意していてくれたの!?」
「当たり前だろ!」
「などとロンは言っているけど本当は違うよ。この辺りの家は町の誕生と同時に建設されたんだ。だから周囲の家と見た目が全く同じでしょ」
テオの言う通りだった。付近の家は全て同じ外観をしている。
「そこは言わない約束だろ、テオー!」
「僕は正直者だからね。それより案内も終わったしヨーグルトを作ろうよ!」
「賛成! なら町役場に行こうぜ! あそこなら食材が揃っている!」
「なんで町役場に食材が揃っているの?」
当然の疑問を口にするマリア。
「決まっているだろ――」
ライデンはニヤリと笑った。
「――町役場でやることがメシを食う以外にねぇからだ!」
「えぇぇぇ……」
マリアは思った。
この町は果たして大丈夫なのだろうか、と。
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