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005 即席松明で洞窟探検

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 草原から北に向かった理由は一つ。
 そこまで離れていないところに山が見えるからだ。
 いや、丘と呼ぶほうが適切かもしれない。
 その程度の大きさだ。
 まずはそこの頂上から周囲を見渡したい。

「この森って動物が多いよね」

「そうだな、常に何かしらの動物が見える」

 森の中を歩きながらアキノと話す。
 付近の木にはサルやシマリス、遠くの地面にはシカが見える。

「どの動物ものんびりしているね」

「食糧が豊富だからだろうな」

 そこらに果物の木がある。
 種類も様々だ。

 例えば右斜め前方には、ブルーベリーとリンゴの木が並んでいる。
 かと思いきや、その隣には背の高いココヤシの木が生えていた。
 植生に疎い人間であっても、ここが異常な場所だと分かる。

「やってきたはいいが……思った以上の断崖絶壁だな」

 丘のふもとに到着した。
 登るには迂回する必要がある。

「洞窟じゃーん! じゃじゃじゃじゃーん!」

 謎の効果音を付けながら前を指すミズキ。
 崖のふもとは大きな洞窟になっていた。
 アンコウの口みたいな形をしている。
 光源がないため、中の様子は暗くて分からない。

「入ってみる?」とサナエ。

「知らない洞窟はわりと危険だが、この胸のうずきは止められない!」

「つまり入るってことだね!」

「おうよ! 松明を作って洞窟探検だ!」

 ただちに松明作りを開始した。
 まずは近くに生えていた孟宗竹を黒曜石の石包丁でカット。
 手に入れた竹筒の先端を少し割り、そこに松ぼっくりを装着。

「松ぼっくりと竹を使った即席松明の完成だ!」

 女性陣も俺と同じ物を製作する。

「松ぼっくりって燃えるの? ……って、めちゃ燃える!」

 コトハが「わお!」と驚いている。
 おっぱいの揺れ方が凄まじくて凝視を禁じ得ない。

「松ぼっくりは油分を多く含んでいるからな。キャンプで燃料として使う人もいるくらいだ」

「へぇ! ユウマって面白いこといっぱい知ってるなー!」

「タメになるしすごいよね」

 ミズキとアキノも嬉しそうだ。

「見て見て! ダブル松明とカラリパヤットのコンボ!」

 サナエは相変わらずのウンコ気張りポーズを決めている。

「みんな松明は手に持ったな? 行くぞ!」

「「「おー!」」」

 俺たちは真っ暗な洞窟に足を踏み入れた。

 ◇

 洞窟の中は外よりもひんやりしていた。
 外の気温は体感で約30度なのに対し、中は22度前後。
 それでいて湿度がそれほど高くない。

「外も不思議だった洞窟内も不思議だな」

「そう? 何が不思議なの?」とアキノ。

「この湿度さ。外よりも低い。この手の洞窟は湿度が高いものだ」

 試しに付近の壁を触ってみる。
 さらさらしていて湿っていない。

「たしかに洞窟ってもっとジメジメしている印象があるね」

「そんなことより生き物が全然いないじゃん! そっちのが気にならない?」

 両手に持った松明を振り回すサナエ。

「いいところに気がついたな。人は見かけによらないということか」

「むきぃー! 見かけによらないとは何だー!」

 俺は「ふっ」と笑った。

「たしかに生き物がいないのも気になる。洞窟内に生息する生き物……いわゆる『洞穴生物』が見当たらない」

 洞穴生物の代表格と言えばコウモリだろう。
 数多の病原菌を保有する厄介な存在だが、ここには一匹もいない。
 ヤスデなども定番と言われているが見当たらなかった。

「いいじゃん! コウモリってなんか怖いし! ラッキー!」

 ミズキはポジティブ思考だ。
 彼女とサナエは雰囲気がよく似ている。
 ジャケットを羽織っていない点も同じだ。

「どういうわけか湿度が低いから寄りつかないのかもな。洞穴生物って壁や地面の水滴から水分補給しているだろうから」

 そんな話をしているまさにその時だ。

「なんか聞こえない?」

 アキノが言った。
 俺たちは会話を中断して耳を澄ます。
 洞窟の奥からザーザーという音が聞こえてきた。

「この音は……」

 歩くペースを上げて奥に向かう。
 最奥部は入口から約100メートルの地点にあった。
 半円状になっていて、これまでよりも天井が高い。
 そして、そこには――。

「「「滝だ!」」」

 大きな滝があった。
 天井付近の裂け目から水が放出されている。

「なんかマイナスイオンを感じるぅ!」

 ミズキは「ルルルゥー♪」と謎の回転ダンスを始めた。

「こいつは壮大だな」

 俺は滝の落下地点となる湖に目を向けた。

(水位が変動していない……湖の中に水の抜け道があるのか)

 湖に潜って状況を調べたいところだ。
 しかし、ダイビング道具が何もないためできない。

「見てユウマ君、湖の中にたくさんのお魚がいるよ!」

 コトハが水面を指す。
 透き通った水を泳ぐ多数の魚が目に付いた。
 川で生きる淡水魚と海で生きる海水魚が共生している。

「ほんと常識の通用しない場所だな」

「ユウマ! ここの水いけるよ! そのままでも飲める!」

 そう言って湖に顔面を突っ込んでいるサナエ。

「知らないぞ、細菌性のなにがしに罹って苦しむことになっても」

「平気平気!」

 サナエは顔面を水でビショビショにしながら笑った。

「胃のことはともかくとして、よく顔を濡らして平気でいられるな。女ってのは化粧が取れるとか気にするもんじゃないのか」

「そりゃ普通の人はねー! 私、化粧してないもん!」

「マジかよ」

「ウチって貧乏だからさー!」

「学費のヤバそうな私立高校に娘を入学させているのに?」

「だから苦しいんだよー! 無理いって入れてもらったんだよね! だからお小遣いはないし、学費を賄うために私自身もバイトしてる! 化粧品を買う余裕なんてないわけ!」

「そうだったのか」

 実家で親に甘えている俺よりもよほどしっかりしている。
 人は見かけによらないものだと思った。

「ま、私は顔がいいから化粧品なんていらないんですけどー!」

 サナエは脇腹に両手を当て、背中を反らせて「ガハハハ」と笑った。
 それに釣られて小さく笑った後、俺は話を変えた。

「とりあえず草原に戻って霧島にこの場所を教えてやろう。草原に不出来なシェルターをこしらえるより洞窟を根城にしたほうがずっといい」

「ほーい! ユウマは優しいなー!」

 そう言うと、サナエは俺のシャツで顔を拭きだした。

「いや、優しくないよ。だから言う、それやめろ!」

「もう遅い!」

 シャツの腹部がビショビショになってしまった。

「では草原に戻ろー!」

 壁に立てかけていた松明を持って歩き出すサナエ。
 それにミズキが「おー!」と続く。

「やれやれ」

 俺は苦笑いでため息をついた。

 洞窟を出た俺たちは、草原を目指して来た道を戻っていく。
 当初の予定だった丘の頂上は別の機会に行くとしよう。

 それから歩くこと小一時間。
 何ら問題に見舞われることなく草原に戻ってきた。
 時刻が16時を過ぎ、徐々に日が暮れ始めようとしている。

「一年と二年も作業を手伝え! ちんたらするな!」

 草原では霧島が偉そうに命令しまくっていた。
 シェルターの建設に思ったよりも手こずっているようだ。
 とはいえ、いくらか時間が経ったので形になりつつあった。

「作業が佳境を迎えているところで恐縮だが……」

 俺たちは霧島に近づき、洞窟の件を報告した。
 この場にいる約500名を収容できることもしっかり伝える。
 それからここよりも洞窟で過ごした方が快適で安全だと主張した。

 だが――。

「洞窟なんか必要ない! ここで十分だ!」

 ――霧島は聞く耳を持たなかった。
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