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第一章
作戦会議といきましょう
しおりを挟む「お嬢様、朝の私の話を覚えていらっしゃいますか?」
理解してないの?頭付いてないの?とでも言いたげな、冷めた目をしたリーナと目が合う。
今日ほどにリーナが冷たかった日は、今までなかったと思う。
「覚えているけど、微妙に違っても問題ないでしょう?」
私と殿下の婚約がなくなればいいのでしょう、という私の考えは間違っているのでしょうか。リーナの反応を見れば、間違っているのは明らかだけど。
「私の知る小説と異なるということは、結末も変わる可能性が高いということです」
「つまり?」
「婚約を破棄出来たとしても、お嬢様がハッピーエンドになるかお約束出来ません」
リーナの顔が苦々しくなるのが私の為だと思うと、この後大変なことになるかもしれないのに、嬉しい気がしてしまうなんて伝えたら怒られそうです。
「リーナありがとう。それではその微妙に異なることを、一つずつ整理していきましょう」
異なることがどんなことなのか、それはリーナしか知り得ない。
「まずお嬢様とサーシャ様の性格など、異なるところが幾つかございます」
「性格?」
「左様にございます。私の読んだ小説のお嬢様は、作物を育てることなどありませんでした」
これはとても驚きです。
作物を育てることに興味を持ったのは、お父様の影響であることは明白。もちろんお父様は公爵として宰相の職を全うしているので、作物を育てることばかりに時間は費やせないのだけれど。
それでもお父様も先代の方々も、公爵の爵位を授かった理由をとても大切に思い、ハウス家の畑が枯れることはない。
まだ私が小さな頃、お父様がよく聞かせてくれた言葉がある。
「リディア、この畑が豊かであるということは、この国アルディオールが豊かであることの象徴なんだよ」
わたしが作物を育てることに夢中になるには、十分すぎる言葉だった。
もちろんお父様はサーシャにも同じように教えていたし、サーシャも感銘を受けていたのは間違いない。
「では、私はどのように過ごしていたのかしら?」
リーナを責めているのではなく、純粋な質問だった。ダンスレッスンに夢中になる姿なんて、自分でも想像がつかないというのに。
「どのようにと言うよりも、お嬢様とサーシャ様の性格が真逆なのです」
「真逆ということは、私がダンスを得意としてサーシャが作物を育てていたの?」
「その通りでございます」
俄かには信じられないことですが、リーナが私に嘘をつく必要もない。ということは、紛れもない事実なのでしょう。
でも私がダンスなんて、どう考えても不自然です。
「私の見た目はどうだったのかしら?」
もしかして一番良い質問だったのでは、と思うほどリーナの瞳が揺れました。
「サーシャ様はブロンドヘアはそのままに、背丈格好も変わりありません。ですが、」
言葉を続けることを躊躇うほどに、私の見た目に変化があったのだろうか。
サーシャはハウス家の娘とすぐに分かる容姿で、我が妹ながらとても可愛らしい。お父様もお母様もブロンドヘアで、切れ長の二重の瞳はロイヤルブラウン。
この国では王家であるクライツ家を除いて、家族がみなそのような容姿であることは少ない。だからこそハウス家はその容姿からも、昔から憧れの的だったと聞く。
私が誕生する、その時までは。
「小説の中のお嬢様は、サーシャ様ととてもよく似ていたように記憶しております。瞳の色だけが、漆黒でした」
「瞳の色だけは、違ったのね」
少し残念のような、やっぱりと言うような。いいえ、やはり残念です。
物語の中でさへも、私は違ったのだから。
「お嬢様、私はお嬢様ほど美しい女性を知りません」
「ふふふ、気を遣わせてしまったわね」
リーナにまで気を遣わせてしまう自分の容姿が、少しだけ悲しい。それでも昔と違うのは、私自身が自分の容姿を受け入れていること。
「お嬢様、私は本当にそう思います。漆黒の髪も、薄いグレーの瞳も全て素敵です」
リーナの言葉が嘘ではないことは、瞳を見れば明らかで嬉しくなる。
この国では良しとされないこの髪は、もしかしたらリーナの言う悪役令嬢の証なのかもしれない。それも悪くないと思えるほどに、私自身も気に入っている。
この国では漆黒の髪は魔女を意味するとされ、忌み嫌われてきた。ハウス家の娘が漆黒の髪で生まれた時、国で魔女の話が禁じられたと聞くほどに。
それでも人の口を完全に塞ぐことなど出来るはずもなく、私が社交界に顔を出せば少なからず賑わしてしまう。
だからこそ私は社交界デビュー以来、親しい友人など限られた方からの招待にしか顔を出さない。自分で気にしなくても、ハウス家の名は気になるもの。
「そうだわ!リーナ!その手があるわ!」
リーナの驚いた顔を見るところ、私の声が大きかったのでしょう。
だけどこれは名案なのです、言わずにはいられません。
「婚約をどうしたら破棄できるか、その答えを見つけたのよ!」
リーナの眉間に皺が寄ったのは、気のせいではないと思います。
こんな表情の時は決まって、何を言い出すのかと思っている時です。あまり信用されていない、そんなところでしょうか。
せっかくリーナの言葉に感動したのに、まるで台無しだわなんて言えないけれど。
「お聞かせ願いますか」
表情と言葉が一致していないけれど、この際気にしないでおきましょう。なにせ名案なのですから。
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