うちのメイドは、只者ではありません。

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第一章

婚約破棄はこの手の中です

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「リディア、聞いていたかい?」

  お父様からのお話はリーナから言われていた通り、殿下との婚約のお話でした。



  名案だとリーナに嬉々として話していたところに、お父様が呼んでいると呼ばれて、案の定な話にリーナが本当に転生者なのだと思い知る。

  リーナを疑っていたわけではないけれど、お父様からのお話がもしも違ったらと思っていたのも事実です。

  ですがお父様からそのお話があったということは、間違いなく私が悪役令嬢だということなのでしょう。
  それが少しだけ、これからの不安を掻き立てるのだけれど、それは仕方がないのでしょう。


「もちろんでございます」
「ではこのまま陛下と殿下に挨拶に行こう」
「今からですか?」
「うん、謁見の許可は頂いてるんだ」

  さすがアルディオールの宰相を任されるだけあって、仕事が早いお父様です。

「お父様、謁見の際にもしも無礼があったとしても、目を瞑って頂けますか?」
「リディアが陛下にかい?」
「はい」

  婚約を辞退したいと言おうものなら、お父様は私の説得にかかるだろう。
  だからこそ、陛下に直接辞退を申し入れる必要があるのです。

  陛下がこの婚約は無しだと言えば、お父様だって頷くしかない。

  本来ならお父様に説明してから陛下に言わなくてはならないのでしょうが、こればかりは仕方がありません。

「リディア、お前が無礼をはたらくなどありえないだろう?」
「ありがとうございます。ですが、私はあまり慣れておりませんので」
「でもお前が無礼だなんて、誰にも言われたことはないよ」

  お父様が誰よりも私の噂を気にしてくれていたことは、私が一番分かっているつもりです。
「リディアの髪は綺麗だね」と撫でてくれる手は温かく、全てを肯定してもらっていたように思う。

  だからこそ今回の策は心苦しくもあって、お父様に直接伝えることが出来なかった、というのが本当のところなのですが。


「殿下とご婚約の話を頂くなんて、さすがお姉様です」

  にこにこ可愛い笑顔で頬を染めて喜ぶサーシャは、本当に喜んでくれているのでしょう。

  こんなに可愛い妹を私は、リーナの知る物語の中とはいえいじめていたなんて。
  サーシャは知らないことだけど、罪悪感が拭えません。

  私の婚約が破棄出来たのなら、サーシャも幸せになれるのだから頑張らなくてはなりませんね。

「ありがとう。でもご婚約のお話を頂いたのは、サーシャもなのよ?」
「私はあくまでも、でございます!ですが何かなんて、ありえませんもの」

  そのは起こるのだけど、サーシャには思いもよらない事でしょう。

「サーシャは殿下と、社交界で挨拶をしているのでしょう?」
「はい!とても素敵な方なので、お姉様とお似合いです」
「私は十歳の社交界デビューで、エスコートして頂いて以来だから憶えていないわ」

  つい、眉を下げて困ったように笑ってしまいました。

  リーナが言う異なる事の一つ、それは殿下とサーシャがすでに挨拶を済ませているところなのです。
  物語の中では、私はやはり社交界デビューの時にエスコートをして頂いたみたいですが、サーシャは今日挨拶に伺うまで顔を合わせたこともなかったと言うのです。

  ですが社交界にハウス公爵の娘として参加する以上、殿下とサーシャに接点がないというのは難しいお話です。

  公爵家の娘をエスコートするとなれば、同等もしくはそれ以上の方が相応しいとされている。
  その為サーシャをエスコートしていたのは、アデル公爵の三男シリウス・アデル様であるのは有名なお話みたいですが。

  ただそこにロマンスはなく、幼馴染という間柄だからだと言っていました。

  と言うことは、サーシャと殿下は心を通わせている可能性もあるのです。

  リーナが言うにはこれがとても重要で、私が悪役にならなくても物語が進んでいることを意味するそうです。
  違うところがあっても、物語の主軸が変わらなければいいのでは?という一縷の望みをかけて。

  サーシャと殿下がすでにロマンスの中ならば、で必ずお守りしてみせましょう。

  この考えはさながらカイトね。
  ルーベルト伯爵が窮地に立たされた時、必ずお守りしてみせましょうと奮い立っていたわ。あのシーンは、間違いなく名シーンでした。

  いけません。こんな事を考えていては、リーナにまた怒られてしまうわ。

  あまりロマンス小説は読まなかったけれど、これからは二人の為にも読む必要がありそうです。
  どのような気持ちで心を通わせて、愛する人を思うのかを学ばなくてはなりません。

  悪役令嬢という響きは悲しいけれど、リーナの知る物語の中の私は、愛することを知っていたのでしょうか。
  やり方は間違っていたとしても、殿下を愛し妹を憎んでしまうほどに。

  殿下との婚約は破棄となるように頑張らなくてはいけませんが、いつか私もそのような方と出逢うのかしら。
  愛し、愛され、ずっと側にいれたらと願うのかしら。

  いずれにしてもこのままでは悪役令嬢になってしまうので、婚約破棄出来たら考えましょう。

「お嬢様、本日の装いはいつもより気合を入れましょう!」
「いつも通りとは言わないけれど、ほどほどで良いわよ?」

  何故か息巻くリーナに、ようやく意識が戻ってまいりました。

「いえ、本日は決戦の日と心得ております。ほどほどでは戦えません!」

  自分の戦いのように喋るリーナは、間違いなく優秀すぎるメイドです。そんなリーナに悲しい顔をさせないように、私も頑張らなくてはなりません。

  何せ殿下との婚約破棄は、私にかかっているのですから。

  いいえ、婚約破棄はもはや私の手の中にあるのですから!
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