うちのメイドは、只者ではありません。

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第一章

僭越ながら意見をさせて頂きます

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「よく来てくれた」
「この度は拝謁に預かり、光栄に存じます」

  陛下とお父様の挨拶に、合わせるように頭を下げる。

  陛下とお父様は、昔からの名残もあり、とても仲が良い。今の挨拶だって、形式上の挨拶だけなのは明白です。

  国王陛下と公爵の仲と言うのは、本人達にしか分かり得ない何かがあるのでしょうか。
  サーシャは兎も角、私にまで婚約のお話を頂ける程には特別なのでしょう。

「リディアは久しぶりだね」

  お父様と一通りの会話を終えた陛下は、その美しい顔に微笑みを乗せて私を見る。
  この方が国王陛下なのだと、一瞬見惚れてしまいました。

「お久しぶりでございます。本日は拝謁に預かり、光栄でございます」

  先ほどのお父様の言葉に習い、礼を言葉と態度で示す。
  陛下からの御言葉を頂くまで、こちらから話てはならない。そんな教えをお母様から厳しく言われたのは、社交界デビューの前だったでしょうか。

  社交界デビューをするとなった時、それはそれは大騒ぎでしたが、それはまた別のお話ですね。

「リディア、今回はリーアムとの婚約の為に足を運ばせてしまい、悪かったね」

  こんな風に自分よりも下の者に対しても、陛下は優しい言葉をかけて下さる。
  それなのに、私は・・・。

  ですがこれは仕方がないのですから、しっかりと陛下に伝えなくてはなりません。

「陛下、その婚約について、私の気持ちを伝えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだとも、ぜひ聞かせてもらおう」

  まさか破棄したいと言い出すなんて、この場にいる誰が思うだろうか。
  お父様とサーシャも、甘い言葉でも飛び出すのを期待するように、にこにこと私を見つめる。
  もちろんそれは陛下も同じである。

「私リディア・ハウスは、このお話を辞退させて頂きたく存じます」

  雰囲気が凍り付くと言うのは、まさにこの様な時を指すのでしょうか。

  一瞬前の和かで穏やかな雰囲気は、触れたら割れてしまいそうな、そんな張り詰めた空気に変わる。

「それは、別に決めた相手がいると言うことかな?」
「とんでもございません。殿下との婚約を辞退してまで一緒になりたい相手など、いるはずもありません」
「では何故その様に申すのか、理由を聞かせてほしい」

  陛下の表情が、少し厳しいものへと変わる。それだけ不躾な物言いであることは承知しているけれど、曲げるわけにはいかないのです。

  なんとか怯まぬ様に、一度目を閉じて呼吸を整える。
  しっかりと伝えて婚約破棄をすることが、私の使命なのですから。

「先程から失礼を申しておりますこと、謝罪申し上げます。どの様な罰も、受ける所存でございます。」

  謝罪の意を伝えれば、先を促す様に陛下が頷く。

「陛下もご覧の通り、私の髪は漆黒の黒い髪にございます。これは、ハウス家では初めての色であると共に、この国では魔女を彷彿とさせる色でございます。その為、陛下が私が生まれた時、魔女の噂をしてはならないと、禁止令を出して下さった事も存じております」
「そこまで分かっていると言うことは、誰かからその美しい髪を非難されたのかい?」

「とんでもございません。この国にその様な心無い方がいないことは、陛下もご存知の通りでございます」
「リディアは、この国を嫌ってもいないみたいだね」
「もちろんでございます。アルディオール王国に生まれたことは、私にとってこれ以上にない喜びでございます」

  本当に、アルディオール王国にハウス家の娘として生まれてこれたことは、私にとって最大の自慢です。
  だからこそ、リーナから婚約破棄しなくてはならいと言われた時、胸を撫で下ろしてしまったのも事実なのです。

「瞳を見れば嘘ではないことは分かるが、だとするなら尚更理解出来ない」

  陛下の言葉はごもっともに感じるけれど、私からすればなのですが。

「私が殿下と婚約するとなれば、誰もが喜び、同時に不安を抱えることとなります」
「不安?」
「左様でございます。公爵家の娘としてなら多少の好奇の目で終わることですが、殿下の婚約者となれば、王国内はもちろん隣国の方々からも魔女を迎え入れたと、そう思われ兼ねません」
「その様なことは言わせない様に、再度禁止令を出そう」

「陛下、私はアルディオール王国も、アルディオールに住む方々も大好きなのです。だからこそ、私ではなくサーシャとの婚約を望んでおります」
「サーシャが素敵な令嬢だと言うことは知っているよ。でもリディアの噂を聞かないほど、私は民の声を無視してるつもりもないのだが」
「ありがとうございます。サーシャは姉の私から見ましても、完璧でございます。社交界での振る舞いは、私よりも陛下や殿下がご存知の通りです。そして普段の振る舞いも、誰もが感嘆の声をあげるほどでございます。私自身は社交界に顔を出さず、普段の振る舞いも褒められたものではないと自負しております」
「だからサーシャを、と言うことか」

  陛下は自分に言い聞かせるように言うと、口を手で覆われてしまいました。
  何故最初からサーシャにと言わなかったのか、と考えてしまっているのでしょうか。
  でしたら気になさらず、私との婚約はなしだと、そう仰って下さって大丈夫なのですが。
  国王となれば、そんな簡単に言葉を取り下げるわけにはいかないことも分かっているつもりなので、後日言い渡されるのでしょうか。

「リディアは国のことも、民のことも考えてその様に申すことは分かった。だけど私はそれならば尚更、その様に国を、民を思ってくれる人にリーアムの相手となってほしい。国王として、父親としてそう思ってならない」
「陛下、サーシャも私とおなじ様にアルディオール王国と、その人々を思う心を持ち合わせております。殿下の隣に私を立たせ、人々の不安を煽ってしまうのなら、私は喜んで辞退させて頂きます。私がハウス家の長子として生まれたばかりに、婚約も最初に声をかけて頂いたこと光栄に思います。もしも私が長子であることが、殿下とサーシャの妨げになるのなら、私自身早期に婚約出来るよう振る舞う様に心がけます」

「リディアの意思は固そうだね。私が魔女の噂を禁じるよりも、君の心に寄り添えていれば、婚約の話も頷いてくれたのだろうか」

  陛下はまるでアティス伯爵さながらの言葉を言って、悲しそうに微笑まれた。
  その心情は私を思って下さっているのでしょうが、私も変えるわけにはならないのです。
  ですが、申し訳ございませんと、そう思わずにはいられません。

「ではこの話は、一度私とハウス公爵で話し合うとしよう」

  陛下はすぐには答えは出せないとばかりに、お父様と目を合わせて頷かれた。サーシャと殿下の妨げになる訳にはいかないし、実際に私の見目では人々に不安を抱かせてしまう。

  だからこそリーナから婚約破棄をしなくてはならないと言われた時、良かったと思ってしまったのです。
  私に殿下との婚約の話など来る訳がないと思う一方で、公爵家の娘となれば来るかもしれないと言う少しの期待と、私が隣に立てるはずがないという思いが交錯してました。
  だから、リーナの口からは申し訳ないとの言葉ばかりでしたが、本当にありがたかったのです。


「陛下、私からも宜しいでしょうか?」

  挨拶の後から沈黙を貫かれていた殿下が、静かにそれを破りました。
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